だから通勤するだけでヘトヘトになる…専門医が指摘する「朝から疲れてしまう人」に共通する就寝前の悪習慣
プレジデントオンライン / 2024年9月3日 7時15分
■睡眠の質を左右する「深部体温」と「自律神経」
ちゃんと寝たはずなのに、朝からすっきりしない。仕事を始める頃にはもうヘトヘトになっている、という人も多いのではないでしょうか。
その原因は、睡眠の質が悪いこと。質のいい睡眠をとれるかどうかは、「深部体温」と「自律神経」という2つの体の仕組みが大きく関係しています。
人間の体温というのは、体の表面の温度である「皮膚温」と、体の内部の温度である「深部体温」の2種類があります。睡眠のリズムをつくってくれるのが、このうちの「深部体温」です。
日中は、脳や臓器の働きを守るために深部体温が高く保たれていますが、夜にかけて自然と下がっていきます。たとえば朝の7時に起きた場合、もっとも体温が高くなるのは18時ごろで、そこからは徐々に下降します。
人間の体は深部体温が下がると眠くなるようにできているので、疲れをとるのに有効な深睡眠(しんすいみん)をとるには、このリズムが整っていることが大切です。
つまり、深部体温をうまくコントロールできれば、自然な眠気がおとずれてくれるのです。
もう一つの鍵となる自律神経は、人間の心身の働きをコントロールしているシステムです。
自律神経には、心身を活動状態にする「交感神経」と、リラックス状態にする「副交感神経」の2つがあり、これらを上手に切り替えることが、深睡眠をとるためには大切です。
■なぜ中高年になると疲れがとれなくなるのか
しかし、副交感神経の働きは加齢によって低下することがわかっており、男性は30代ごろ、女性は40代ごろから低下が見られます。
休みの日、若いころはお昼すぎまで寝ていられたのに、いまは平日と同じ時間に目が覚めてしまう……そんな人も多いのではないでしょうか?
中高年になると、若いころに比べてぐっすり眠れなかったり、疲れがとれにくかったりというお悩みが出てくるのは、交感神経ばかりが強く働くようになってしまうためなのです。
そこで、これらを整えるために効果的な生活習慣が、入浴です。
深部体温の観点から「体の温めすぎ」はNGなのですが、クーラーの効いた部屋にずっと居つづけても、いざ眠るときにうまく深部体温が下がりきってくれません。
前述したとおり、深部体温とは、体の表面ではなく内側の温度のことです。
内臓が正常に働けるように、日中は高く保たれていますが、夜になると自然に下がってきます。人間の体は深部体温が下がると眠くなるようにできているので、就寝前や就寝中に体を温めすぎると、かえって寝つきにくくなってしまうわけです。
そこでまず注意したいのが、入浴のタイミングです。
入浴自体は、血行を促したり心身をリラックスさせたりと心身に良い作用があるのですが、就寝直前に入浴すると、深部体温が上がって寝つきにくくなってしまいます。
■入浴は「寝る1時間半~2時間前」に
スムーズに眠れるようにするには、入浴のタイミングを寝る1時間半~2時間前に調節しましょう。入浴によって上がった深部体温は、1時間半~2時間ほどたつと次第に下がり始めるので、そのタイミングでベッドに入ればスッと眠りやすくなります。
また、シャワーだけで済ませずきちんと湯船につかることで、自律神経を整え、副交感神経を働かせてリラックスさせる効果があります。副交感神経を優位にさせる効果のあるラベンダーの香りを入浴剤で取り入れるのもおすすめです。
人間の体は本来、眠りについてから4時間以内に、2回以上の深睡眠をとれるようにできています。しかし、深部体温のリズム、そして自律神経の切り替えがうまくいっていないと、深睡眠は充分にとれません。
「睡眠時間はしっかり確保したのに、なぜか眠気が取れない」、「ボーッとしていたら、会議の重要な決定事項を聞き漏らしてしまった」。こんなふうに昼間に感じている人は、次の3タイプのうち自分に当てはまるものを見て、原因を確認してみましょう。
■「眠れない原因」はを3つのタイプごとに解説
タイプ① 寝つきが悪い、布団に入ってもなかなか眠れない
寝つきが悪い人は、深部体温のリズムが乱れている可能性があります。布団に入る時間になっても深部体温が充分に下がっていないと、スムーズに入眠できません。
まずは入浴で深部体温を整えること、そして、睡眠ホルモンといわれる「メラトニン」の分泌をうながすよう注意してみてください。
メラトニンは食べ物を原料に作られますが、夜に人工的な光を浴びていると分泌がさまたげられてしまいます。深夜までテレビやネットを見ていたり、明るいコンビニへ買い物に行ったりしていないでしょうか?
入浴に工夫し、メラトニンの分泌をさまたげないことで、深部体温が下がるタイミングで訪れる眠気のピークをつかまえることができます。
ちなみに冷え性の人は、血行がよくないために深部体温の上下動が小さく、眠気が訪れにくいという傾向があります。靴下などで外側から温めるよりも、血行を促して体を内側から温めることを意識しましょう。
タイプ② 途中で起きてしまう、ひと晩中うとうとしている
寝ている途中で何度も起きてしまうことを「中途覚醒」といいます。うとうとするばかりで深く眠れないというのも、中途覚醒の一種です。
中途覚醒の原因には、自律神経の乱れが考えられます。仕事や家庭でのストレスがたまると、交感神経が優位になりやすく、眠りが浅くなってしまいがちです。
ほかに、日中の運動量が少なかったり、就寝前の水分の摂りすぎが影響していたりすることもあります。
タイプ③ 朝すっきり起きられない、朝からどんよりした気分
目が覚めてもなかなか眠気が取れず、ぼんやりした状態が続くことを「睡眠惰性」といいます。これは、最初の4時間でしっかり深睡眠がとれなかったことが原因です。
寝る直前までスマホやパソコンの光を浴びて交感神経を刺激していると、すぐ深い眠りに入れません。すると全体的に眠りが浅くなり、脳は朝になっても深い眠りを求めるので、すっきり起きられなくなってしまうのです。
■熟睡するための理想的な入浴
深睡眠は、体と脳の回復タイムです。とくに、脳の疲労物質は深睡眠でしか取り除くことができません。
筋肉の疲労物質は体を休ませれば取り除けますが、睡眠不足で疲労物質が脳にたまったままになると、集中力、判断力、論理的思考力、アイデア、そして意欲までもが減退してしまいます。こうなると、仕事や家事に支障が出るだけでなく、うつ病の発症にもつながりかねないので注意が必要です。
眠りやすくなる入浴のタイミングについては前述しましたが、ここではさらに熟睡につながる入浴のコツをお教えしましょう。
・温度……ぬるめのお湯にゆっくり浸かる
眠りやすい状態になるのは、深部体温が下がるとき。そのためには、入浴でいったん深部体温を上げるのが効果的です。ただし、熱いお湯に浸かると、交感神経を優位にして興奮状態を作ってしまいます。
交感神経を刺激せずに深部体温を上げるには、39~40度ほどのぬるめのお湯にゆっくり浸かるようにしましょう。すると、じわじわと体の芯まで温まり、約1時間半~2時間後には深部体温が下がるようになります。
・長さ……最低10分、難しい場合は入浴剤を活用
湯船に浸かる時間は、10~15分ほど確保できると理想的です。
難しい場合は、発泡する炭酸ガス系の入浴剤を入れてみましょう。炭酸ガスが血管を広げ、短時間で効率よく深部体温を上げるのを助けてくれます。
■湯船につかるのがオススメだが…
深部体温を上げるには湯船に浸かるのがおすすめですが、「けがをしてギプスをつけている」「シャワーしかない」といった事情がある場合は、シャワーでも深部体温を上げる方法があります。
それは、首の後ろへ、少し熱めのお湯を10分ほど当てる方法。
首の後ろにはたくさんの血管が集まっているので、血行がよくなって深部体温の上昇を促すことができます。このとき、シャワーヘッドは固定しておき、空いた両手で首の横のくぼみをマッサージするとより効果的です。
ちなみに、近年ではサウナが流行していますが、じつはサウナも睡眠に対してよい効果があるといわれています。
医学的なメカニズムはまだ解明されていませんが、サウナを利用すると深睡眠を得られやすくなるうえ、日中の眠気も防げるという研究発表があるのです。サウナを利用した人の約75%に睡眠改善効果が見られたというデータも出ています。
入浴で深部体温と自律神経を整えることで、睡眠の質はぐっと高まります。そこに睡眠ホルモンをつくる食事の習慣を作れば、効果は抜群。ちょっとしたコツ睡眠の質を高めることはできます。ぜひ今晩から、快眠習慣を手に入れてください。
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睡眠専門医
筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。公立総合病院睡眠センター長を経て、「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を設立。これまで約2万人の睡眠の悩みと向き合ってきた。さらに、マイクロソフトやPHILIPSなど世界的企業での講演、日本オリンピック協会(JOC)強化スタッフなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い。慶応義塾大学特任准教授、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)、「モーニングショー」(テレビ朝日)などメディア出演多数。著書に『ぐっすり眠る習慣』、『朝までぐっすり眠れる深睡眠スープ』(ともにアスコム)など。
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(睡眠専門医 白濱 龍太郎)
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