「次期首相として100点の人物」はだれか…キングメーカーも手を出せない自民総裁選の「勝敗を分ける条件」
プレジデントオンライン / 2024年8月29日 8時15分
■10人以上の名前が挙がる「異例の総裁選」
自民党総裁選が熱を帯びている。8月14日に岸田文雄首相が総裁選への不出馬を表明して以降、立候補に向けた各候補者の動きが一気に加速した。
岸田政権は、派閥の政治資金規正法違反事件など、一連の問題を受けて支持率の低迷が続いていた。政治とカネをめぐる問題へのけじめとして党内の派閥が相次いで解散を決めたが、国民の不信は払拭できなかった。
岸田首相は、「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、「われこそはと思う方は積極的に手を挙げて、真剣勝負の議論を戦わせてほしい」と新しい党の顔の登場を歓迎する姿勢を示した。
党改革への期待に加えて、派閥のしがらみがなくなったことで、今回の総裁選は、かつてないほど候補者が乱立している。出馬を取りざたされる候補として、早くから10人以上もの名前があがった。正式な立候補には20人の推薦人を確保する必要があるため、最終的に8人前後に落ち着くのだろうが、いずれにしても乱戦になることは間違いないだろう。
そこで今回は、乱戦模様の自民党総裁選について着目すべきポイントを整理するとともに、政治マーケティング(※1)の視点から勝利の条件を考えてみたい。
※1:大統領選の行方を握る政治マーケティング(田中道昭「側近激白! トランプを語る3大ポイント」2ページ目、プレジデントオンライン、2017年1月16日)
■「自民党が本当に変わった」というメッセージは必須
自民党総裁を選ぶということは、実質的に日本の首相を選ぶということだ。自民党内では、新首相が決まった直後に、衆院解散に踏み切るとの見方が広がっている。地に落ちた党のイメージを刷新し、一気に衆院選での勝利を狙う目論見だ。つまり、衆院選で勝てる総裁を選ぶことが必須条件となる。
そのために必要なのは、「総裁が変わった」というだけではなく、「自民党が変わった」と判断されることだ。その判断を下すのは、議員や党員ではなく、広く一般の国民である。総裁選出のプロセスについても、以前のように派閥の論理やキングメーカーの意向がまかり通るようでは、国民からの信頼は得られない。
そして、最大の焦点となる政治とカネの問題に、どこまで真剣に取り組むかを厳しく見られるだろう。政務活動費の使途公開など、透明性を高めるための改革を進め、一定の目途がついたと国民の納得を得られることが必要になる。政治改革大綱にある「信頼を回復するためには、今こそ自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示す時である」という点が大きな拠り所になるだろう。
そのうえで、デフレ脱却に向けた経済政策や、安全保障の問題など、重要施策において岸田政権よりも良くなるという期待を集められなければ、「自民党は変わった」という国民の判断を得ることは難しいだろう。
■小林氏出馬で「本格的な政策論争」に
その意味でも、今回の総裁選は、これまで以上に本格的な政策論争が繰り広げられるのではないかと期待している。真っ先に立候補を表明した小林鷹之氏が、すでに具体的な政策を発表していることから、続く候補者も自身の考えを明確に打ち出してくるものと考えられる。多くの候補者が出馬するなかで、保守とリベラルといった立場の違いも明確になり、見どころの多い総裁選といえるだろう。
8月28日現在、正式に立候補を表明したのは若手の小林鷹之氏と石破茂元幹事長、河野太郎デジタル大臣の3人だが、近日中に複数の議員が名乗りをあげることになりそうだ。
改めて総裁選の仕組みを確認すると、選挙は国家議員票と全国の党員・党友会票によって行われる。ただし、過半数の候補者が出なかった場合、上位2人の決選投票となる。これだけ候補者がひしめく戦いでは、1回の投票で決着するとは考えにくく、決選投票に持ち込まれる可能性が高い。
1回目の投票は、国会議員票(367票)と党員票(367票)が同数と、全国の党員票の比重が高いのに対して、決選投票では、国会議員票(367票)と都道府県連票(47票)となり、国会議員の支持が重要になる。勝ち方が異なるため、戦略が必要になるだろう。
■決戦投票やその先を見据えた「長期的な戦略」が求められる
まず、1回目の投票については、党員票と国会議員票をバランスよく集める必要がある。今回のような混戦状態では国会議員票が分散するため、党員票の重みはさらに増す。明確な政策とビジョンを提示し、幅広い支持を得ることが重要だ。圧倒的な党員票を獲得して勝ち抜くという戦略もあり得るだろう。全国の党員票の動向は、一般的な民意に近いものになることから、国民的人気の高い小泉進次郎氏や石破茂氏などが上位に来る可能性が高い。
一方、決戦投票では、国会議員票が極めて重要になる。特にカギになるのは、1回目の投票で脱落した敗者の票をいかに取り込むかだ。敗者の支持者も共感できる政策を掲げ、共通の目的を強調することが必要だろう。
派閥が解体されたとはいえ、人と人の関係性やつながりの影響力が消えるわけではない。旧派閥やグループ間の結束力が勝敗を大きく影響することは必至だ。いまも水面下では、候補者間の合従連衡や協力関係の形成など、決戦投票に向けた戦略的な交渉が進んでいる。
なお、今回の総裁選で長期的な戦略が求められるのは、早いタイミングでの解散・選挙が予想されているからだ。内向き・決戦投票目的の国会議員中心主義では、衆院選で苦戦するか、新政権発足後に問題が顕在化することになると予想される。
■最重要ポイントは「刷新感×安定感」
以上のように考えていくと、総裁選を勝ち抜く最重要ポイントは「刷新感」×「安定感」と整理できるだろう。マーケティングでいえば、「安定感」は、必要条件ともいえる「類似化ポイント」にあたり、「刷新感」は、独自の強みともいうべき「差別化ポイント」に該当する。ここで重要なのは、刷新感と安定感は二律背反的な特性であり、両者を同時に充足するのは簡単ではないということだ。
具体的には、刷新感とは、その候補に対して、「新しい」「期待できる」「変えてくれる」と思えるかどうかだ。安定感は、「実績」「誠実」「協調できる」といった言葉で表現できるだろう。
刷新感でいえば、今回目につくのが若手の台頭だ。49歳の小林鷹之氏をはじめ、43歳の小泉進次郎氏も出馬の意向を固めたと報じられており、40代議員の対決にも注目が集まる。もっとも、刷新感において最重要なのは、政治とカネにおいて自民党が本当に変わると判断されることであることを強調しておきたい。
こうした中でキャスティングボートを握るのは、自民党の若手議員たちだ。現在、衆議院で当選4回以下が55%、参議院で当選2回以下が59%と、自民党の国会議員の6割近くが若手で占められており、彼らのあいだでは世代交代を求める声が日増しに高まっている。人数的にもその影響力は無視できない。
安定感では、やはりベテラン議員に一日の長がある。閣僚経験もあり、実績は十分。党内の人脈基盤も固めている候補が多い。
■トランプ氏のような猛者に対峙できる「強さ」も必要
一方、刷新感のある若手は実績には乏しいが、誠実さなど人柄も含めて、いかに安定感を見せられるかが勝負になってくるだろう。リーダーシップの発揮の仕方はさまざまだ。周囲の人をうまく使って政権運営をしていくことができれば問題はない。仮に今回敗れても、新内閣で閣僚に登用される可能性も高く、次世代リーダーとして党内での存在感を増していくはずだ。
安定感のあるベテラン議員は、政治改革などの重要課題にいかに大胆に切り込めるかが重要になる。豊富な実績を持ちながら、党内不人気がささやかれる石破茂氏のような例もあり、年齢や経験にかかわらず、自分の理想を実行するために同志を増やしていく努力は欠かせないだろう。
もうひとつ付け加えると、絶対に欠かせないのは、リーダーとしての「強さ」だ。ウクライナ情勢をはじめ、イスラエルとパレスチナをめぐる中東情勢など、国際関係は一段と不安定化している。主要国のトップリーダーを見てもアメリカ大統領候補のトランプ氏、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席など一筋縄ではいかない猛者ばかりだ。
「刷新感」×「安定感」に、リーダーとしての「強さ」。そのバランスのなかで、自分なりのポジショニングを見つけ、明確なメッセージを発信できる候補者は誰なのか。次なる日本のリーダーにふさわしい人物なのか、しっかりと見極めていくことが求められている。
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立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=瀬戸友子)
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