中年未婚男性の幸福度は非常に低い…大学教授が日本人90万人データを分析してわかった"幸せの方程式"
プレジデントオンライン / 2024年9月9日 9時15分
■幸福度は年齢と個人属性で大きく違う
ネットで検索すると、幸せになるさまざま方法がすぐに見つかる。
なかには、たった1つの方法で幸せになれるというものもあり、年齢や個人属性を考慮せずに数個の要因で幸せになれると説くひともいる。
しかし、きちんとした幸福度に関する研究成果を見ると、幸福度には年齢、所得や家族状況といった個人属性を含む複数の要因が複雑に関係していることがわかっている。
図表1は、筆者が企画、設計、分析を担当している「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の2019年から2024年の6年分の回答者(92万3456名)の個票データ(以下、「住みここちランキングデータ」という)から、男女の年齢別の主観的幸福度(最低1、最大10)を集計したものである。
グラフを見ると、年齢にかかわらず、結婚しているほうが、結婚していないほうよりも幸福度が高く、男女では常に女性のほうの幸福度が高いことがわかる。
結婚している場合は、30歳前後にかけて幸福度が上昇し、その後緩やかに幸福度が低下し、55歳前後で最低となり、その後は再び上昇していく。
結婚していない場合も同じような傾向だが、20歳以降一貫して幸福度が低下しており、結婚している場合のような30歳前後の山がない。さらに、50歳前後にかけての幸福度の低下が大きい。そして、この傾向は男性のほうが強く、中年の未婚男性の幸福度が非常に低いことがわかる。
■幸福度を統計的に分析した
ネットには、「前向き」「感謝」「つながり」「自分らしさ」などがあれば幸せになれるといった言説もあるが、結婚することや子どもがいること、年収や資産などは幸福と関係がないのだろうか。
本稿では、筆者の過去の幸福度に関する論文「住まいが主観的幸福度に与える影響(2018年)」とレポート「いい部屋ネット街の住みここちランキング2023〈総評レポート②〉(2024年)」をもとに、住みここちランキングデータを使った新たな分析結果を考察してみたい。
■結婚していることは幸福度を0.54上げる
図表2は、幸福度を目的変数として各種個人属性等を説明変数として本稿のために回帰分析を行った結果の一部を抜粋したものである。
表の各項目の数値は、着目する項目以外が全て同じ条件の場合、着目する項目に対してyesの場合に(地域・建物に対する満足の場合は満足度が1段階上がった場合に)、そうでない場合に比べて幸福度がどのくらい変動するかを示している。
例えば以下のような解釈となる。
・40歳代であることは、比較の基準とした20歳代に比べて幸福度が0.28低い
・結婚していることは、結婚していないことに比べて幸福度が0.54高い
・子どもがいることは、子どもがいないことに比べて幸福度が0.16高い
・金融資産が5000万円以上あることは、比較の基準とした金融資産がない場合に比べて幸福度が0.15高い
幸福度に対してプラスの影響が大きな項目には以下のようなものがある。
・家族関係に大変満足していることは、幸福度を0.76押し上げる
・未来は明るいと思うことは、幸福度を0.66押し上げる
・ストレスをあまり感じないことは、幸福度を0.31押し上げる
・仕事に大変満足していることは幸福度を0.31押し上げる
・健康には自信があることは幸福度を0.22押し上げる
一方で、幸福度に対してマイナスの影響がある項目には以下のようなものがある。
・自分は世の中では下流だと思うことは、幸福度を0.62押し下げる
・日本は格差社会だと思うことは、幸福度を0.23押し下げる
・私生活よりも仕事を優先することは、幸福度を0.12押し下げる
■クレジットカード派はプラスだが影響は小さい
幸福度の平均は、10点満点で全体では6.52、未婚男性が5.45、未婚女性が6.03、既婚男性が6.86、既婚女性が7.05だから、例えば「ストレスをあまり感じないこと」のプラス0.31は小さな影響ではない。例えば、「未来は明るいと思うこと」のプラス0.66と合わせれば、男性の既婚者と未婚者の差を埋めることができるほどの影響がある。
ちなみに、表に記載していない項目については以下のようになっている。
・学歴は幸福度に対して(以下同じ)プラスだが影響は小さく、既婚男性では有意ではない
・タワマンに住んでいることはプラスだが影響は小さく、未婚女性では有意ではない。
・テレワークはプラスだが影響は小さく、既婚女性、未婚女性では有意ではない。
・リベラルな考え方はマイナスだが影響は小さく、既婚女性、未婚女性では有意ではない。
・現金利用派はマイナスだが影響は小さく、未婚男性、未婚女性では有意ではない。
・クレジットカード派はプラスだが影響は小さい。
・飲酒習慣はほとんど影響がない。
・外食習慣はプラスだが影響は小さい。
■未婚男性では、お金や仕事が幸福度に与える影響が比較的大きい
表には、全体、未婚男性、未婚女性、既婚男性、既婚女性の5つの属性についての数値を記載しているが、以下のように属性によって数値が異なるものがある。
・50歳代であることのマイナス影響は、未婚女性で比較的小さい。
・年収が1200万円以上1500万未満であることのプラス影響は、未婚男性で比較的大きい。
・年収が1500万円以上あることのプラス影響は、未婚男性、未婚女性で比較的大きい。
・金融資産が1000万円以上あることのプラス影響は、未婚男性で比較的大きい。
・通勤時間が90分以上であることのマイナス影響は、既婚女性で比較的大きい。
・家族関係に大変満足していることのプラス影響は、既婚女性で比較的大きく、未婚男性、未婚女性で相対的に小さい。
・仕事には大変満足していることのプラス影響は、未婚男性、未婚女性で比較的大きい。
・社会的地位に大変満足していることのプラス影響は、未婚男性で比較的大きい。
こうしてみると、未婚男性では、収入や資産、仕事や社会的地位が幸福度に与える影響が比較的大きいという傾向があることがわかる。
また、同時に性別や結婚しているかどうかで、各項目の影響がかなり違うことは、世の中の全員に対して、こうすれば幸せになれる、といった単純化が難しいことを示している。
■幸せの方程式は意外と昭和から変わっていない
ここまでの結果を見ると、結婚しなくても、十分な収入や資産を確保し、仕事にいそしみ社会的地位を高め、親や兄弟との関係を保ち、未来を明るいと思い、ストレスをためずに生活すれば幸福度を高めることができるように見える。
また、十分な収入と資産を持ちタワーマンションに住んでいるような社会的地位のある人が、「結婚する必要はない」と主張していたりすることもあるようだ。
確かにそれは、間違いとは言えないし、実際、その人にとってはその通りなのかもしれないが、社会的地位があり、十分な収入と資産を持っている人も、結婚すれば、子どもがいれば、さらに幸福度が高まる可能性が高いことを統計分析の結果は示している。
ただし、平均でみれば、結婚して、子どもがいて、家族仲良く、住んでいる地域や建物に満足して、未来を明るいと思い、ストレスをためずに生活することが幸福度を高めることが示されている。
さらに、所得水準が(同時に正規雇用であることが)婚姻率に大きく影響していることを考えれば、勉強して良い学校を出て、きちんとした仕事に就くことがその前提にあることは明らかだ。
もちろん、これは全体の平均の話であり、個別にみればいろんな幸せがあることは確かだが、幸せの方程式は、意外と昭和から変わっていない、ということなのだ。
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麗澤大学工学部教授
博士(社会工学・筑波大学)・ITストラテジスト。1965年北九州市生まれ。九州工業大学機械工学科卒業後、リクルート入社。通信事業のエンジニア・マネジャ、ISIZE住宅情報・FoRent.jp編集長等を経て、リクルートフォレントインシュアを設立し代表取締役社長に就任。リクルート住まい研究所長、大東建託賃貸未来研究所長・AI-DXラボ所長を経て、23年4月より麗澤大学教授、AI・ビジネス研究センター長。専門分野は都市計画・組織マネジメント・システム開発。
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(麗澤大学工学部教授 宗 健)
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