不動産バブルの次は「国債バブル」発生か…海外投資家の「中国売り」を止められない習近平政権の断末魔
プレジデントオンライン / 2024年9月2日 9時15分
中国の習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委主席は2024年8月20日午後、北京の人民大会堂で第33回夏季オリンピック大会(パリ五輪)中国体育代表団全員と会見した。 - 写真=新華社/中国通信/時事通信フォト
■中国政府は「買うな」と指導するが…
このところ、中国内の投資資金が一斉に国債購入に向かい、国債の価格が急上昇している。それに伴い、流通利回り(金利)が大きく低下している。2024年の年初から8月23日までの間、10年の金利(長期金利)は0.4ポイント(2.56%から2.15%へ)の大幅低下となった。30年の金利も、0.48ポイント(2.83%から2.35%へ)と大きく低下した。
一部専門家から、不動産バブルが崩壊した後、国債以外に主な投資対象が見当たらないとの指摘もある。国債バブルが発生すると、長い目で見て金融システムが不安定化する懸念もある。
今年5月から、中国政府と中国人民銀行(中央銀行)は国債バブルの発生を抑えるため、金融機関に国債を買わないよう指導を重ねた。過度な金利の低下を抑え、金融システムの安定を保つための方策だろう。その後も、国債の流通市場で、“買うから上がる、上がるから買う”という連鎖が続いた。中国の国債バブルが起きているとの警戒感は高まった。
■金利が反転上昇すれば金融不安のリスク
今後、永久に金利が一本調子で低下し続けることは考えづらい。短期的に、どこかで利食いなど売りが増えて、金利が反転上昇するリスクはある。国債の価格下落により中小の銀行経営不安が表面化すると、中国の金融システムの不安定感が高まることもある。そのリスクは過小評価できない。
8月21日、中国の国債流通市場で10年物国債の流通利回りは2.125%に低下する場面があった(価格は上昇)した。8月5日につけた2000年以降の最低水準(2.099%)に迫った。
主要国の長期金利の推移と比較しても、中国の金利低下は鮮明だ。年初から8月23日まで、米国の長期金利は0.08ポイント低下の3.80%だった。利下げが始まったカナダの長期金利も、米国と同じ程度の低下幅だった。ユーロ加盟国では、財政の悪化懸念からフランスなどの長期金利は上昇した。利上げなど異次元緩和の修正が進み、わが国の長期金利は上昇した。
■株、不動産の次は「国債が買い」と殺到
中国の国債を買い進めている、主な主体の一つは個人の投資家だ。それに加えて、わが国の農業協同組合に似た形態の“農村商業銀行”による国債投資も進んでいるようだ。
今回、国債バブル膨張のプロセスは、中国の株式や不動産などリスク資産の価格下落があった。不動産価格の下落で、個人投資家などは国債を購入し始めた。年初来、中国政府は30年など超長期の国債の新規発行を増やした。政府の国債発行増加は、今後の資金調達コストの低下を見込んだ行動とも解釈できる。国債価格の上昇は間違いないと思い込む個人は増え、価格上昇に勢いがついた。
過去、中国の金融市場では、株式や不動産、ビットコインなどの仮想通貨の価格が短期間のうちに高騰したことがある。その経験を頼りに、“今度は国債に利得のチャンスがある”と思い込む個人・機関投資家は増えただろう。群集心理(一人で行動するよりも大勢と同じことをすることに安心する心理)は高まり、個人や中小の銀行などが相場に参戦した。こうして国債バブルが膨張しているといった見方が増えた。
■過熱した不動産バブルが思い出される
投資資金が国債に集中する問題点は、これまでの中国の経済メカニズムの行き詰まりだ。リーマンショック後、中国政府は投資を増やして高い経済成長を実現しようとした。重要な役割を果たしたのは、地方政府の土地譲渡益だった。
中央政府は、経済対策の一環で不動産開発を促進した。その実行役だった地方政府は、不動産デベロッパーに土地の利用権を譲渡し歳入を増やした。政府がマンション建設を奨励していることは、「住宅価格の上昇は間違いない」との過度な価格上昇期待を国民に植え付けた。それによって不動産市場でバブルが発生した。
投機熱が高まって、一時、需要を上回るマンションなどの建設が進んだ。重機から鉄鋼など幅広い分野の生産、雇用・所得機会は増えた。過去のピーク時、中国の不動産関連需要はGDPの29%程度に達したとの試算もある。
地方政府は土地の譲渡益を用いて産業補助金を国有・国営・有力民間企業に支給し経済成長目標を達成した。産業補助金を支えにEV、太陽光パネル、スマホなどの分野で中国企業の競争力は高まった。
■人民元安の中、国債に振り向けざるを得ない
不動産バブルの膨張により、住宅は最も安全、かつ高い利得を得る資金運用手段と妄信する中国の投資家は増えた。2019年の時点で、中国の家計金融資産に占める不動産の割合は約59%に達した。高い利得を目指して“影の銀行(シャドーバンク)”が設定した“理財商品(地方政府関連プロジェクトなど高利回りのローン債権を組み入れた投資信託)”に資金を振り向け、積極的にリスクをとる個人も増えた。
しかし、永久に不動産価格が上昇し続けることはない。中国政府の不動産向け融資規制である、3つのレッドラインをきっかけに不動産バブルは崩壊した。投資に依存した経済運営は難しくなった。金融緩和や不動産関連の規制緩和をしても、中国の景況感は悪化に歯止めがかからなかった。
7月、主要70都市のうち66都市で新築住宅価格は前月比で下落した。不動産市況が下げ止まる兆候は見出しづらい。本土株を売りに回る海外投資家は増え人民元の売り圧力も高まった。中国国内の個人や中小の金融機関は、国債に資金を振り向けざるを得ない状況に陥っている。
■農村商業銀行が「想定外の損失」に直面する恐れ
当局の警告にもかかわらず、個人や農村商業銀行による国債購入意欲は強い。8月26日時点で国債の利回り低下にブレーキはかからなかった。当面、金利低下圧力は高まるだろう。
世界の金利の歴史を振り返ると、ある程度金利が低下して過去最低水準を更新した後、利益確定の売りが出て金利が反発したことは多い。短期的に、中国でもそうした変化が起きる懸念はある。
問題は、農村商業銀行が想定外の損失に直面することだ。年初来、多くの農村商業銀行は、1カ月~5年の預金を集め、10年や30年の国債購入に資金を投じたとみられる。国内の需要停滞から銀行の貸出金利は低下基調だ。中国全体で商業銀行の利ざやは縮小傾向にある。もし、金利が上昇すると銀行の貸借対照表(バランスシート)の資産価額は減少するはずだ。
■金融不安のリスク上昇が懸念される
銀行の財務悪化の懸念は、SNSなどを経由して瞬く間に人口に膾炙(かいしゃ)する可能性が高い。その場合、預金を引き出そうとする人が銀行の窓口に殺到するかもしれない。それは、2023年3月、米シリコンバレーバンクなどの一連の地銀破綻の引き金になったケースと同じだ。
2022年以降、中国では村鎮銀行(農村商業銀行よりも小規模の金融機関)の取り付け騒ぎが起きた。規模は小さかったが、不動産関連融資などずさんなリスク管理が顕在化した。その後の本土株や不動産価格の下落、理財商品の債務不履行やシャドーバンクの破綻などで預金者の警戒感は高まっているだろう。
今後、中国の金利が上昇すると一部の農村商業銀行が損失に直面し、さざ波がたつように他の銀行の資金繰り不安が高まる恐れがある。農村商業銀行と取引のあった都市部の商業銀行から預金を引き出す個人や企業が増える可能性もある。
今すぐそうした展開が起きるとは考えづらいが、不良債権処理が進まない中で国債価格が調整すると、中小の銀行を中心に中国金融システムの不安定感は高まることも懸念される。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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