「レストラン形式の牛肉試食コーナー」まである…爆発的な成長を遂げた神奈川「ロピア」のスーパーな現場戦略
プレジデントオンライン / 2024年9月6日 9時15分
■4年間で2倍以上の業績を叩き出す
「今、最も集客力があるスーパーマーケットはどこか」と聞かれたら、ロピアと答える人は多いと思います。神奈川県川崎市に本社を置くロピアでは、店頭での長蛇の列と車の渋滞が常態化していますが、それでも顧客が待つことができるのは、なぜなのでしょうか。
ロピアの由来となっている「ロープライスユートピア」が示す通り、ロピアの売りは、「値段の安さ」に加え「品揃え」であることは既知の通りですが、アマゾンやコストコ、ウォルマートに代表されるように、今やマーケットプレイスにとって低価格と豊富な品揃えは当たり前のことで、集客のための必要条件とは言えますが、十分条件にはなっていないというのが実態です。
ロピアの集客力は、売上高の推移を見れば一目瞭然です。1971年の創業以来、売上高は着実に増えてきましたが、2020年に2000億円を超えると、2024年2月期には4126億円に達し、この4年間で2倍以上の業績を達成するに至っています。
出店数で見ても創業以来右肩上がりで推移し、今年だけで見ても、8月にオープンした五所川原店(青森県)や泉ヶ丘店(大阪府)を加えると13店舗が新たに開店し、全国で100店舗を達成するに至っています。
■買い付けや商品開発もチーフが行う現場主義
経営手法の特徴をマーケティングの視座から見ると、スーパーマーケット(スーパー)のビジネスモデルは、一般的に、商品企画から開発までの工程を本部のマーチャンダイザーが担います。
つまり、買い付けやプライベートブランド(PB)商品の開発は本部主導で行い、それをもとに各店舗の店長が統括して指揮をとり販売していくことから、商品の裁量権は自ずとマーチャンダイザーに集約されることになります。
ロピアでは、このような従来型のモデルを採らず、売り場ごとの長であるチーフに多大な裁量権を持たせることで、売り場という現場主導のオリジナルなビジネスモデルを構築するに至っています。
買い付けやプライシング(販売価格の決定)などマーケティングミックスはすべて、チーフの裁量に委ねられ、PBの企画開発もチーフが担います。裁量権を現場の一番近いポジションで顧客に接しているチーフに集約することで、品揃えや価格設定など、その地域にあった事業展開が可能となるのです。
売り場は、どの店舗でも基本的に、「精肉」「鮮魚」「青果」「食品」「惣菜」の5つの部門に分けられていますが、各売り場に個人商店のような“屋号”が付いているのは、チーフに多大な裁量権を持たせ、現場主導で各売り場の専門性を向上させることで、より魅力ある商品を顧客に提供するためです。
■23歳で「現場の長」になれる
チーフの登用に制限を設けていないのも、優秀な人材を幅広く人選できる仕組みにするとの組織としての意向がうかがえます。チーフに昇進する最速の年数は、新卒では1年10カ月、中途採用では1カ月となっており、これまでの最年少チーフの年齢は23歳といったように、在籍年数や年齢にとらわれずに登用しています。
こうしたチーフ制度の導入は、社内において新たなる競争を生み出すことになります。各売り場のチーフは、その地域の顧客ニーズやウォンツを的確に把握し、そうした要望に合った商品設定やプライシングを行うことになるため、商品の配置や品揃えなどに加え、床や照明の装飾までもが売り場ごとに異なります。それゆえ、こうした顧客志向や現場力は、必然的に売り場同士の競争関係をもたらすことになるのです。
たとえば、ある店舗では、惣菜売り場で“ウナギの姿寿司”を販売していますが、その隣にある鮮魚売り場では、“ウナギの蒲焼き丼”が売られています。
■2週間スパンで新商品を投入できる理由
このように各売り場は競合関係にあるため、それぞれの売り場のチーフは、恒常的に新たなメニューの開発を行っていかなければ、競合他社はもとより目先に位置する他の売り場の後塵を拝することになります。こうしたスーパー内の競争による企業努力こそが、ロピアが生み出す高品質と低価格の源泉になっているのです。
PBの開発では、チーフが単独で企画開発にあたることもありますが、それぞれの売り場のチーフが他の店舗の同じ売り場のチーフと連携してアイディアを持ち寄り、試作会を開くことで新メニューが考案されています。
試作会で新たに考案されたメニューの材料やレシピといった詳細情報は、その場で上司にメールで送られることになり、上司は概(おおむ)ねその日のうちに判断を下してくれるので、早ければ2週間で新商品が店頭に並ぶことになります。こうした商品開発のスピード感もまた、ロピアの成長を促す糧になっているのです。
顧客志向を貫くことで顧客満足度を上げることも、ロピアが組織的に注力している点です。ロピアが貫く顧客志向とは、商品を購入する際に顧客にとって何が最善なのかを考えて付加価値を高めることです。
■顧客満足度を高める急速冷凍技術
惣菜売り場で最も人気が高い商品のひとつにピザがあります。多いときには、1日で1000枚売れる店舗もあります。店舗内の窯で作った焼き立てピザをあえて冷凍機で保存して、「オリジナル冷凍ピザ」(430円)として販売することで付加価値を高めています。
焼き立てを急速冷凍すると旨みを閉じ込めることができるため、週末にまとめ買いをする家族が、翌週に買いだめしたピザを解凍して食べても、できたてと同じクオリティで食することが可能となります。
そのうえ、この冷凍ピザは、冷凍庫に保存しやすいように、あえて長方形にカットされているのも特徴的です。冷凍庫から取り出してオーブントースターやグリルで10分程度温め直すだけで、いつでも本格ピザを愉しむことができるのです。
■「オリジナルの味+できたて」を提供できる
自家製冷凍惣菜の中で最も人気の高い商品である冷凍カレーでも付加価値を高める工夫がなされています。この冷凍カレーは、元インド日本大使館の料理長がレシピを考案して作っているため、既存のフレークやルーを使用していない正真正銘のオリジナルカレーになります。
作り方は、600kgの巨大釜を使い、まず、ニンニクと生姜を炒め、それに10種類以上の特製スパイスを混ぜ、バターやチキンブイヨン、トマトなどを加えます。その後、香りが飛ばないぎりぎりの温度で煮込み続けて完成に至ります。
完成したカレーはおいしさを保つために、一人前ずつにパッケージングして、巨大なトンネルフリーザー(全長約9メートル)の中をコンベアで送りながら冷気で凍結させます。美味しさをそのままに完全冷凍する手間をかけていることから、家庭では湯煎せずにレンジで解凍するだけで食することができます。
このように、ロピアでは、スパイス自体を一から調合し、十分に加熱して香りを立たせてから作るといった複雑な調理法でオリジナルな味を生み出しているだけでなく、手間をかけずに顧客が簡単にできたてと同じクオリティで食することができるという創発的な価値を生み出しているのです。
■料理の“めんどくさい手間”を解決してくれる
精肉売り場では、仕事で忙しい若者ファミリー向けに、「味付け肉シリーズ」を販売しています。
たとえば、「豚バラカルビ」は肉の旨ダレを染み込ませており、「豚肩ローススティック」はアヒージョ風ステーキとして味付けされており、「牛ハラミステーキ」はガーリック味で仕上げています。そのため、どの商品もそのままフライパンで焼くだけで食することができるようになっています。
鶏肉も、黒コショウ、旨辛ダレ、塩レモン、バジルソテーなど味付けのバリエーションが豊富で、冷凍してストックしておけるようになっています。
主婦にしてみれば、「そもそも何も味付けしなくて済む」「味付けのレシピをいちいちネットで調べなくても済む」ことになり、時間がなくても手軽に夕食の用意ができるので、顧客価値は高まることになります。
他方、ロピアでは、顧客の消費行動を捉えた導線づくりをすることでも、顧客価値を高めています。印西BIGHOP店(千葉県)では、顧客の消費行動を捉えた独自の売り方を確立しています。
■「試食をレストラン形式で行う」という斬新さ
この店舗では、店内にステーキ専門のレストラン「THE BIFTEKI」を併設しています。店頭には、冷蔵のショーケースが設置されており、そこには大量の牛肉パックが陳列されています。顧客が、そのショーケースから気に入った部位の肉を選んで店員に渡すと、焼かれた肉が皿に盛りつけられて提供される仕組みになっています。
パック詰めにされた肉は、リブロースやザブトン、イチボなど、国産牛の希少部位が揃っており、どの部位の肉を選んでもスモール(約200g)の場合は一律800円で提供されているため、パックには価格が表示されていません。
国産牛の提供を基本としていますが、米国産の牛肉をラージサイズで提供することもあり、たとえば、米国産の最高級と呼ばれるブラックアンガス肩ロースを600g、2000円で「ビフテキラージ」として提供しています。
このレストランはロピア精肉部が運営しており、その日に売り場に並んだ牛肉とまったく同じ牛肉が食べられるようになっています。店内では、顧客の回転率を速くするために、立食形式を採用しています。
「試食をレストラン形式で行う」というこの発想が功を奏し、試食で美味しさを実感した顧客は、レストランの隣にある売り場で同じ部位の肉を購入して帰るという消費行動をとることになります。この導線に導かれて店頭では顧客の長い行列が常態化しているのがその証左でもあります。
■顧客満足度を高めるスパイラルの仕組み
顧客価値の源泉として、PBの開発力もまた、ロピアの重要なケイパビリティになります。食品売り場では、ロピアの歴代チーフが開発したPB商品も少なくありません。中でも、チルド麺の「渾身の一杯特濃味噌ラーメン」(2食入り・247円)は、6万食の大ヒットを記録しています。
この商品を開発したチーフは、全国の味噌ラーメンを食べ歩いて研究し、野菜の旨みエキスに脂、ニンニク、合わせ味噌を加えることで、インパクトのあるオリジナル味噌ラーメンの味を作り出すに至りました。
このように見てくると、ロピアは、「顧客志向の組織づくり」⇒「現場力の向上」⇒「顧客価値の創出」という一連のスパイラルを構築することで、顧客満足度を恒常的に高いレベルで維持する戦略を採っていることがわかります。
つまり、チーフ制の導入などで“顧客志向の組織”を作り、内部に競争環境を作ることで“現場力の向上”を図り、商品にひと手間や工夫を施すことで“顧客価値”を創出するというスパイラルを組織的に構築し、社員一人ひとりの“暗黙知”を引き出すことでその完成度を高めているのです。
■過当競争で「部分最適」に陥るリスクも
このスパイラルは、ロピアのコア・コンピタンスとして十分に機能していることから、現状では、顧客満足度を競合他社よりも高いポジションで獲得できており、結果として、リピーターを増やすことにつながっていると言えます。
今後、ロピアがこのスパイラルの完成度を高めるうえで懸念されるのは、5つの売り場の競争関係が過剰となりサイロ化する可能性が生じることです。そうなると、各売り場は、短期の利益を優先することになり、部門内の部分最適に傾注しがちになることが予想されます。
ロピアでは、2031年に、グループ全体で売上高2兆円達成を主要な成果目標として掲げていますが、この目標を達成するために、今後いかなる成長戦略を打ち出して、部分最適を高いレベルで維持しつつも全体最適を図るのか、本部の経営手腕が問われることになります。
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淑徳大学経営学部教授
淑徳大学経営学部教授。ハーバード大学留学時代に情報通信の技術革新に刺激を受けたことから、長年、イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、企業のイノベーション研修や講演、記事連載、TVコメンテーターなどを務める。日本電信電話株式会社に入社後、中曽根康弘世界平和研究所などを経て現職。単著に『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮社)、『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』『サブスクリプション』(いずれもKADOKAWA)など多数。新著に『経営戦略論 戦略マネジメントの要諦』(勁草書房)がある。
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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)
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