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「夕食で使った汚れた食器」を使えば一発でわかる…わが子の「脳の発達レベル」をこっそり確かめる効果的な手法

プレジデントオンライン / 2024年9月8日 10時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mixetto

子供の成長のために、親にできることは何か。『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)を書いた小児科医の成田奈緒子さんは「長時間勉強させても子供には逆効果だ。子供の脳をしっかり育てることを最優先に考えてほしい」という。成田さんへのインタビュー(後編)をお送りする――。(構成=文筆家・佐々木ののか)

■「早寝早起き」と「睡眠時間」が脳を育てる

(前編からつづく)

――子どもの脳を育てるためには、どんなことに気をつければいいでしょうか。

もっとも重要なのは、規則正しい生活を心がけて睡眠時間を確保することです。睡眠時間にこだわる理由は、人間の脳が発達する順序にあります。人間の脳は、生後約18年かけ、大きく3段階に分かれて発達します。

私はこの3つのパートを、発達する順番に「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」と呼んでいます。「からだの脳」は生命維持にかかわる部分、「おりこうさんの脳」は受験やスポーツにかかわる部分、「こころの脳」は想像力や社会性にかかわる部分で、これらの発達の順番が変わることは決してありません。

読み書きや計算などの能力や、社会性を最も重視する親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、「からだの脳」が育たないことには、後に続く「おりこうさんの脳」も「こころの脳」もうまく育ちません。そして、脳の土台部分となる「からだの脳」を育てるために必要なのが、規則正しい生活と十分な睡眠時間なのです。

――子どもは何時に寝て、何時に起きるべきなのでしょうか。

未就学幼児であれば、本当は11時間の睡眠が理想ですが、現代の家庭ではなかなか難しいので、20時に寝て、6時に起きる10時間睡眠は守ってほしいと思います。小学生は、最低でも21時に寝て朝6時に起きる9時間睡眠。中高生は22時に寝て、朝6時に起きる8時間睡眠を厳守していただきたいと思います。

これは私自身が臨床現場で経験したことですが、22時に熟睡状態にあると、ない子どもに比べて成長ホルモンが多量に分泌されます。小学生はとくに成長ホルモンがたくさん出る年齢層なので、体を成長させるためにも睡眠時間だけではなく、就寝時刻もしっかり守っていただきたいですね。

■ご飯を食べるだけで賢くなる「朝バイキング」

――子どもの脳を成長させるためには、家庭内でどんなことを心がけるべきでしょうか。

やれることはさまざまありますが、おすすめなのが朝食を工夫することです。我が家では、家族それぞれが好きな主食とおかずを必要な分だけ自由に取り分けられる「バイキング」のスタイルで朝食をとっています。そうすることで、「今朝は何を食べたいか」「どれくらいの量なら食べられるか」といった自分の食欲や体の状態をモニタリングする能力が身につきます。これは「おりこうさんの脳」にあたる前頭葉の一部による働きです。

昔から「いろいろな色の野菜をバランスよくお皿に盛ると、栄養バランスがとれるんだよ」と娘に伝えていました。幼い頃から知識を脳にインプットしていると、脳が発達したタイミングで栄養バランスの必要性を理解できるようになります。数えきれないほどの好き嫌いをしていた娘も、大人になった今では何でも食べられるようになりました。

■お弁当を作ってみて気づいた母親のすごさ

――「子どものために完璧な料理を提供しなければ」と気負ってしまう親御さんも多そうです。

子どもと真剣に向き合う親御さんほど、手の込んだ料理を用意する傾向にありますが、思い切って子どもに料理を任せることも視野に入れてほしいと思います。私が運営する子育て支援事業「子育て科学アクシス」でも、脳育ての観点から、子どもに自分のご飯を作らせることを推奨しています。

先日、塾に行くときのお弁当を自分で作り始めた中学生の女の子がいました。お盆明けからはお母さんが作ってくれることになったそうで「自分で作ったときは好きなものばかり入れちゃって、茶色っぽかった。でも、お母さんの作るお弁当は色とりどりで、栄養バランスが整っているってこういうことなんだと初めてわかった。お母さんって本当にすごい」と話していました。お母さんも、娘さんからこのことを聞いてとても感動されていましたね。

日本の木の弁当箱
写真=iStock.com/yumehana
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yumehana

子どもたちもいずれ自立しなければいけません。大人になったときに自分自身で栄養バランスを考えた食事を摂れるようになるためにも、食事において子どもに主体性をもたせることが本当の意味での食育につながります。

■子どもの脳の発達は生活のなかで確認できる

――家庭内において、子どもの脳の発達を確かめるにはどうしたらいいでしょうか。

確かめ方のひとつとして、「夕食を食べ終わった後の食器を片づけずに放置しておく」というものがあります。夕食後の食器の片づけをお母さんが担当しているご家庭があったとして、お母さんがなかなか片づけようとしない日があったときに、「あれ? お母さん、何かあったのかな?」と異変に気づけるようであれば、前頭葉の働きである「こころの脳」は十分に育っています。

「汚れた食器がこのまま食卓に置いてあると、次のご飯のときに困る」などと、未来を予測できれば、前頭葉が発達していると言えるからです。ただ、多くの子どもは、皿洗いや洗濯といった家事のタスクは誰かがやらなければ終わらないということ自体に気づけないので、それらに気づかせる工夫が必要になります。

――まずは家事の流れを意識させることが大切なんですね。

親御さんがあえて先回りせずにいると、子どもに「予測を立てる機会」を与えることができます。

不登校になったお子さんがいるご家庭で、親御さんが「学校を休むのは構わないけど、あなたは家にいて時間もあるだろうから、食器洗いはやっておいてね」と言ったそうです。しかし、お子さんは当初、食器を全く洗いませんでした。

シンクには汚れた食器が溜まっていきましたが、親御さんはグッと我慢して洗わずにいたといいます。そして最後の一枚の食器も使い終えた後に、お子さんはようやく食器を洗い出したそうです。それ以降は、毎食後必ず食器を洗うようになったと聞いています。

息子に皿洗い方を教える
写真=iStock.com/ake1150sb
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ake1150sb

脳がきちんと育っていれば、子どもは必要性を感じたことを自主的に行います。親御さん自身が世話を焼きたくなる気持ちもわかりますが、子どもの成長を見守るつもりで、待つことを意識していただきたいですね。

■ぼうっとしている時間こそ創造力の源

――本書では、子どもがぼうっとできる時間をあえて与えたほうがいいというお話も紹介されていました。なぜ、子どもにとってぼうっとできる時間が必要なのでしょうか?

脳を効率的に働かせるには、脳を使わない時間にしっかりと休ませることが大切なんです。妄想中の脳の働きは、脳科学の専門用語で「DMN(Default Mode Network)」と呼ばれます。

このDMNの働きにより、「ひらめき」ともいえる人間特有の創造力が育つと考えられています。とくに9歳から11歳頃までの子どもにはぼうっとする機会をできるだけ多く与えることでDMNが発達しやすくなると言われています。

■重要さが分かっていても、勉強させようとしてしまう

――子どもがぼうっとしていると、不安になってしまう親御さんも多そうです。

子どもが一人で何もせずにいると、親御さんはなかには「ぼうっとしてるのはもったいないから、勉強をさせないと」などと思ってしまう人もいるでしょう。しかし、一人でぼんやりと妄想にふけっている時間にこそ、脳はよく育ちます。

私のところに相談に来た親御さんたちに「ぼうっとしているときにひらめきが生まれる」という話をすると、ほとんどの方が「たしかに、ぼうっとしているとアイデアが浮かぶことがあります!」などと共感してくれます。ところが、「お子さんにはぼうっとできる時間を与えましょう」という話をすると「いえ! もったいないので勉強させます!」と答える人がほとんどなのです。実感として、ぼうっとする時間の大切さを理解しているはずなのですが、子どもに対しては受験などの不安から「とにかく勉強させなくては」と考えてしまうようです。

ですから「そんなにぼうっとしていないで、宿題をやりなさい」なんて言うのはもってのほかです。ぼうっとする時間を持つことを「推奨」とまでは言いませんが、大切にしてあげてほしいですね。

■スマホではなく、1冊の絵本に繰り返し触れさせる

――スマホやテレビなど、子どもの目に触れるメディアはたくさんありますが、脳の発達の観点から言えばどのようなものに触れさせたほうがいいのでしょうか。

最近のお子さんはスマホやタブレットなどで多くの動画を視聴していますが、私がオススメしたいのは「同じ絵本を繰り返し読み聞かせる」ことです。子どもの脳が発達する際、同じ刺激を繰り返し与えることにより、脳の神経回路が作られ、神経細胞をつなぐシナプスが強化されます。絵本に関しても、子どもが興味を示した1~2冊を繰り返し読むことで記憶が固着しやすくなります。

自宅で小さい息子と本を読むお母さん
写真=iStock.com/Fly View Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fly View Productions

読み聞かせる親のほうが飽きてしまい、ほかの本を買い与えたくなってしまうかもしれませんが、子どもの脳の発達の観点で考えるなら、家に置く絵本の数を絞っていただきたいです。

――子どもが気に入った動画をタブレットで繰り返し見せても、絵本と同じ効果は得られないのでしょうか。

脳の発達においては、多種多様な刺激を入れることも重要です。ただ、動画は次から次へと情報が流れていく一過性の媒体なので、記憶を固着させるという意味においては、絵本と同じ効果は期待できません。

また、絵本は絵と文章が合体した媒体なので、言語発達を促すツールとしても有効です。うさぎが穴に入ったという描写があった場合は「うさぎさんは穴に入って何をしていたんだろうね」などと語りかけることで、子どもの想像力を養うこともできます。

いまのお子さんは、インターネットやデジタル機器がある環境で生まれ育つ「デジタルネイティブ」ですから、ある程度の年齢になれば、タブレットを使って自分から興味のあることを探索するようになります。そういった意味でも、スマホやタブレットで動画を見させるのではなく、親御さんは限られた絵本を繰り返し読み聞かせたほうがいいかもしれませんね。

■子どもが集中できる時間は「学年×5分」

――子どもが受験勉強に取り組む際に、親はどのようなことに注意したほうがいいでしょうか。

特に家庭内で子どもが勉強するときは、連続して長時間にわたって勉強させないほうがいいです。私はお子さんの受験勉強のことで悩む親御さんに対して「子供の集中力は『学年×5分』しか持ちません」と伝えています。これは科学的な実験結果に基づいて導き出された時間というわけではないのですが、大人が想像している以上に子どもが集中できる時間は短いという意味で必ず伝えるようにしています。

リビングで宿題をしている子供
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

大人でも「今日はどうしてもこれを終わらせなければいけない」といった差し迫った状況になれば別ですが、1時間も2時間も集中していられることはそうそうありませんよね。ですから「小学1年生なら5分集中できれば十分」と考えたほうがいいのです。

子どもは「学年×5分」しか集中できないと思っておけば、親御さんにも心のゆとりができます。たとえば、小学1年生の子が「5分間で漢字を3つ書く」と決めたとして、3分間で漢字を3個書けたとしたら「3分しか経っていないのに3つも書けたんだね」と言ってあげられて、子どものやる気や肯定感も高まります。

そうすると、うれしくなった子どもは「まだ時間があるから、漢字をあと2つ書こうかな」などと、勉強に自主的に取り組むかもしれません。逆に、5分で2つしか書けなかった場合でも「あと1分増やしてもう一つ書きたい」と言ってくる場合もあります。このように、時間内で調整してやるべきことを進める、あるいは間に合わなかった場合にはどの程度の時間が必要なのか、ということを考える能力も育てることができます。

■短時間で集中力を高める訓練をすべき

――子どもが自ら勉強に興味を持ち、熱中することは問題ないんですね。

そうなんです。大事なのは、子どもの意思を尊重することです。勉強計画を立てることも「こころの脳」の発達を促しますから、限られた時間をどのような勉強に使うかも子どもに決めさせるようにします。

むしろ、最初から「あと2時間勉強しなさい」などと言われてしまったら、集中力が途中で切れてしまい、「早く2時間経たないかな」というように課された時間を消化するような勉強の仕方になってしまうおそれがあります。

一方で、「学年×5分」の考え方では、脳の処理速度は、限られた時間内で頭をフル回転させ情報を処理していくことで鍛えられるため、短い時間であっても集中する習慣をつけることができます。こうして脳の処理速度を上げておけば、時間制限がある入試においても力を発揮しやすくなります。

■子どもの幸せは親の幸せのうえに成り立っている

――本書のあとがきでは、成田さんの母親が不機嫌な日のほうが多い人だったという話を書かれていました。

私が子どもの頃の母は、本当にいつもイライラしていました。母の「地雷」をうっかり踏んでしまうと爆発的に怒らせてしまい、その後は1~2週間口をきいてもらえなかったり、服やレコードを取り上げられたりすることも日常茶飯事でした。私の成績不振にも敏感に反応するので、恐怖を感じながら生活していました。

――母親が常に不機嫌な理由は、なんだったのでしょうか。

成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略』(朝日新書)
成田奈緒子『子どもの隠れた力を引き出す 最高の受験戦略』(朝日新書)

いろいろと悪条件が重なっていたのでしょうが、不機嫌の理由は、深刻な睡眠不足にあったと思います。父の医院の膨大な事務作業を一人で担っていた母は、毎晩午前2時、3時まで持ち帰り仕事を自宅で行っていました。その後次々に大病を患ったことを思うと、体調不良も慢性的に続いていたのでしょう。

「いつキレるかわからない寝不足の母」と暮らして「気を遣う子ども」にならざるを得なかった私から親御さんに伝えたいことは、「まずは親御さん自身が心身を労わってください」ということです。子育てに熱心な親御さんほど、自分のことを後回しにしてしまいがちですが、親御さん自身が幸せでいれば、子どもの脳はおのずと育ちます。

自分の幸せのうえに子どもの幸せがあるのだと認識し、ぜひリラックスして子育てを楽しんでいただきたいですね。

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。

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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子 構成=文筆家・佐々木ののか)

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