同じ中学入試でもここまで違う…「詰め込み教育」をやめた慶應義塾湘南藤沢中等部が12歳に求める「国語力」とは
プレジデントオンライン / 2024年9月17日 8時15分
※本稿は、富永雄輔『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■知識偏重の子どもは歓迎されない
中学受験に批判的な人の多くは、「子どもの頃から詰め込み学習をするのは良くない」と考えているようです。しかし、それは今の中学受験の現実をまったく理解していない意見と言わざるを得ません。
中学受験に限ったことではありませんが、教育現場では「知識合戦はやめよう」という方向に舵を切っており、それぞれの学校が独自のカラーを打ち出しています。そこでは、詰め込み学習をしてきただけの知識偏重の子どもは歓迎されません。
それに、一口に私立中学校と言ってもさまざまで、お行儀のいい伝統的な教育に重きを置くところもある一方、枠を超えた新しい試みをどんどん取り入れているところもあります。子どもたちの個性に合わせ、受け皿はいろいろ用意されているのです。
■頭のいい親は「最も偏差値の高い学校を狙う」ことはしない
ただ、いずれにしても、AIに潰されない子どもを育てようとする意識は共通しています。あとは、親が我が子に最適な場を見つけられるかどうかです。
これからの時代に重要なのは、AI時代に生き抜ける子どもを育てる教育環境を選ぶことで、単純に高い学歴を持たせることではありません。
それがよくわかっている親は、これまでのように偏差値だけに注目し、「我が子の学力内で最も偏差値の高いところを狙わせる」という方法に絞ることはしなくなっています。新しく到来する社会における我が子の可能性を見極めた上で、考え得る最良かつ最大限の学びを与えているのが、今の中学受験の姿なのです。
中学校側の教師たちも、大学ですらゴールではあり得ず、通過点として捉えているようです。社会に出てからも転職するのがあたりまえの時代ですから、そうした前提に立った上で「この子たちが25歳になったとき、30歳になったときどうなっていてほしいか」を考えて教えているのが伝わってきます。
大学も同じです。少子化で存続が問われる中、どこの大学も「自分たちらしさとはなにか」を模索しています。そして、そこに合う学生を求めています。
当然、入試の問題についてもそれにかなう設定をしてきます。だから、東大に合格してもMARCHに落ちる人も出てきます。
それが、これからの時代。少なくとも、東大を出ただけで生き残れるという時代ではありません。
■こんな入試を突破した子どもが会社に入ってくる
ここでは、私立中学校の入学試験で出題された問題をいくつか紹介します。
どれも、各教科50分程度の制限時間内に解かねばならない複数の設問のうちの一部ですから、だいたい10分くらいで正解に行き着く必要があります。
一方で、各教科とも試験問題そのものが長文化する傾向にあり、問題文を読み解くだけでも大変です。
実際に挑戦してみれば、その難しさに舌を巻き、みなさんの時代との違いに驚かずにはいられないでしょう。
小学生の頃から、こういう問題に取り組んできた子どもたちが、遠からずみなさんの勤める会社にも入ってくるのです。ぜひ、知っておいてください。
出題例1 慶應義塾湘南藤沢中等部 【国語/2022年度】
問題
【四】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
2021年オリンピック・パラリンピック東京大会で、日本のソフトボールチームは金メダルを獲得しました。そこで興味深い一戦があったのを覚えている人はいるでしょうか。それは《勝っても負けても結果に影響のない試合》です。
ソフトボールの決勝・3位決定戦進出ルールは、《参加全6カ国で予選リーグをおこない、その上位2チームが決勝戦に進出し、3位と4位のチームが3位決定戦に進出する》というものでした。では、何が起きたのか説明するために、日本チームの結果を見てみましょう。
予選リーグ第1戦 日本 8対1 オーストラリア
予選リーグ第2戦 日本 3対2 メキシコ
予選リーグ第3戦 日本 5対0 イタリア
予選リーグ第4戦 日本 1対0 カナダ
予選リーグ第5戦 日本 1対2 アメリカ
決勝 日本 2対0 アメリカ
この通り、ソフトボールチームは全勝優勝したわけではありませんでした。実は、第4戦終了時点で決勝に進出するのは全勝同士の日本とアメリカだと決定していました。つまり、予選リーグの第5戦は、偶然決勝と同じ顔合わせでありながら、試合が始まる前から《どちらの国が勝っても負けてもその後の対戦相手に変化がない試合》となったのです。(3位決定戦はメキシコ対カナダでした。)
いずれにせよ、日米両国にとって肝心なのは決勝を全力で勝つことだけなのです。「第5戦」を取ったアメリカにも優勝のチャンスはもちろんありました。しかし勝ち続けるのは難しいことです。実際アメリカは6連勝できませんでした。
こう考えると、事後あまり顧みられることの多くなかった「第5戦」ほど、どう心がけたらよいか絞りにくく、複雑な試合もありませんでした。
このコントロールしにくい「第5戦」はどう戦うのが正解なのでしょうか。
問 あなたがもしもこの「第5戦」日本チームの監督と同じ立場に置かれたら、この試合にどのような方針で臨みますか。また、その方針を試合前の選手に何と伝えますか。140字以内で述べなさい。
※原稿用紙の使い方に従って書くこと。ただし、1マス目から書き始め、改段落はしないこと。
■「勝ち負けの関係ない試合をどう戦うか」を12歳に問う
この慶應義塾湘南藤沢中等部の国語の問題には大きな設問が4つあり、漢字や長文読解に関しての問題は、いくつもの小設問を含んでいます。
ここに紹介したのは最後の大設問で、一つの正解はなく、明確なポリシーを示し、かつその理由をロジカルに説明する能力を問うものです。
勝ち負けがメダルの色に影響しない試合について、「負けてもいいから強い選手は決勝に備えて休ませる」というのでも、「オリンピックという場においてはどの試合も全力で臨む」というのでも、あるいはほかの方向性でもいいけれど、それがしっかり理由づけられており、周囲が納得できる説明が可能かどうかが見られています。
そんな能力を、わずか12歳の子どもに求めているわけです。
出題例2 明治大学付属中野中学校 【国語/2023年度】
(※第一問は長文読解問題)
問題
二 次の①~⑤の熟語の対義語を後の語群からそれぞれ選び、漢字に直して答えなさい。
① 困難 ② 支配 ③ 単調 ④ 目的 ⑤ 分裂
語群
しゅだん ゆうこう しゅうちゅう とういつ そんぞく ようい へんか じゅうぞく
三 次の①~⑤の三字熟語の意味を後のア~クの中からそれぞれ選び、記号で答えなさい。
① 高飛車 ② 二枚舌 ③ 門外漢 ④ 正念場 ⑤ 色眼鏡
ア かたよった見方。
イ よくしゃべること。
ウ 相手を押さえつけるような態度。
エ 注意深い観察。
オ うそを言うこと。
カ そのことに関わりのない人。
キ 大事な局面。
ク うぬぼれること。
四 次の①~⑦の――線部を漢字に改め、⑧~⑩の――線部の読みをひらがなで答えなさい。
① ヨキョウに手品をする。
② 秋はくだものがホウフだ。
③ 子どもが電池をゴインした。
④ ドウソウカイに出席する。
⑤ 売り切れヒッシの商品だ。
⑥ レンメンと続く歴史。
⑦ キケンをおかして人を助ける。
⑧ 平生から健康に気を付ける。
⑨ 小鳥がひなを育む。
⑩ めったにない代物だ。
出題例3 國學院大學久我山中学校 【国語/2023年度】
(※第一問、第二問は長文読解問題)
問題
三 次の問いに答えなさい。〈問題は問一から問六まであります。〉
問一 次の①~⑥について――線部のカタカナを漢字に直しなさい。
① 地球オンダン化対策を話し合う。
② 目立つカンバンをかかげた店。
③ 生まれ育ったキョウドの歴史を学ぶ。
④ テンボウ台から海をながめる。
⑤ この道路は市街地をジュウダンしている。
⑥ 以前の担当者は別のブショに移りました。
問二 「提灯に釣鐘」と同じような意味のことわざを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア 鬼に金棒 イ 団栗の背比べ ウ 糠に釘 エ 月とすっぽん
問三 次の熟語の中で、成り立ちが違うものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア 登頂 イ 閉館 ウ 在宅 エ 城内
問四 次の①②の――線部は慣用表現になっています。□に入る適当な漢字1字をそれぞれ答えなさい。
① ライバルの□をあかしてやろうと、猛練習した。
② 猫の□ほどのせまい庭を掃除する。
問五 次の文の〔 〕に当てはまる四字熟語を後の中から一つ選び、記号で答えなさい。
彼のホームランはまさに〔 〕の逆転打となった。
ア 起死回生 イ 一刻千金 ウ 起承転結 エ 一進一退
問六 次のア~エのうち、敬語の使い方に誤りがあるものを一つ選び、記号で答えなさい。
ア お客様のご注文は、田中がうけたまわりました。
イ さきほど先生がくださった、お菓子をいただく。
ウ この品物は、お客様がご自身でお持ちしますか。
エ それではここで、記念写真をお撮りいたします。
■「知識を問うことを重視する」ことも一つのポリシー
明治大学付属中野中学校や國學院大學久我山中学校の国語の問題では、親の世代にもあったような古典的なパターンを踏襲した出題がされています。
明治大学付属中野中学校では、長文を読んで21個の小設問に答えるという問題がまずあり、その後に、ここに紹介したような、熟語の意味を問うたり、漢字の書き取りや読み取り問題が出題されています。解答用紙も、従来のパターンそのものです。
國學院大學久我山中学校でも、長文の読解問題(二つあり)の後で、知識を問うパターンの問題が出題されています。ここにあるような漢字の問題、慣用句などの意味を問う問題、敬語の問題など、日本語の正しい知識を問う問題が入ってきています。
このように、以前と変わらず知識を問うことを重要視している学校もあり、それは一つの明確なポリシーです。そして、そのポリシーに適合する子どもたちはたくさんいます。
私自身、知識が子どもたちの学力の背中を押すことを、日々の現場で感じておりますので、知識を試す問題がこうして残っていくことの大切さも認めています。
■答えが一つではない問題が増えている
さて、12歳の子どもたちが挑戦している中学校の入試問題を、みなさんはどれくらい解けたでしょうか。もしかしたら、そのレベルの高さに、軽くショックを受けたかもしれませんね。
最近の傾向として顕著なのは、答えが一つではない問題、思考プロセスを問われる問題が増えていることです。
私が塾経営に乗り出した当初は、まだまだ知識偏重の試験がほとんどで、知識が多い子から順番に偏差値の高い中学校に入っていくのが普通でした。言ってみれば、徹底的に知識さえつければ、どこの入試にも対応できました。
しかし、今はそんなやり方は通用しません。
もちろん出題例2、3のように知識を問うことを大切にしている学校もまだたくさんありますし、知識は学力の基礎になるので、その学習は必要です。しかし、親は子どもに知識をつけさせるだけではダメで、そこに存在し得る問題を掘り出し、一緒に考えていくことをしなければなりません。
■「知識型」か「知恵型」か、道は二つある
たとえば、日本企業が開発しているロケットについて取り上げるとしましょう。
これまでだったら、中学受験で問われるのは、ロケットや開発者、打ち上げられた土地の名前など知識が中心でした。
でも、これからは、「なぜ種子島や串本町から打ち上げるのか」「ロケットを開発することの問題と将来性について述べよ」「あなたが開発者なら、なにをロケットに乗せるか」「どういう実験を最優先するか」「失敗したときに、あなたならどう説明するか」などという問題が出るかもしれません。
こうした現状にあって、中学受験をするか否かは別にして、これからの子どもには(もちろん、みなさん自身にも)ロジカルに物事を説明できる能力が必須となります。
普段からニュース番組を見ているときなどに、単純に「おお、ロケットすごいね」と感激しているだけでなく、「なぜ種子島と串本町なのか」を疑問に思い、親子で調べ、「一刻も早く赤道の軌道に乗せないといけないからだね」ということを共有していくような環境を構築していきましょう。
「知識型」の問題を得意とする子と、「知恵型」の問題を得意とする子と、受験において生きる道は常に二つあるのです。
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進学塾VAMOS(バモス)代表
幼少期の10年間、スペインのマドリッドで過ごす。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺、四谷に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年約8割の塾生を難関校に合格させている。受験コンサルティングとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性にあった難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についても研究を続けている。
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(進学塾VAMOS(バモス)代表 富永 雄輔)
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