9月17、18日の"決定"で優勢が決定的に…米国中央銀の利下げで景気浮揚→無党派層がハリス候補に投じるワケ
プレジデントオンライン / 2024年9月13日 11時15分
米国では11月5日に大統領選挙、日本では9月27日に実質的に次期首相を決める自民党総裁選が行われますが、政府からの独立性を標榜する中央銀行の金融政策、とくに金利の上げ下げには選挙の日程や選挙への思惑がある程度考慮されると私は考えています。
本稿では、現状の米国や日本経済の状況を考察しながら、中央銀行の思惑と選挙との関係を考えてみます。
■米国は利下げへ
先日行われた米ワイオミング州ジャクソンホールでの世界中の金融関係者が集まった会合で、米国の中央銀行であるFRBのパウエル議長は利下げについて言及しました。そのため、9月17日、18日に開かれるFOMC(公開市場委員会:日銀の政策決定会合に当たるもの)で利下げを行うことはほぼ確実です。そのため為替市場は円高方向に進んでいます。この原稿を書いている時点では143円台です。
9月6日には、市場が注目していた8月の米雇用統計が発表されました。失業率は先月の4.3%からわずかに改善して4.2%。また世界中のエコノミストが注目する非農業部門雇用者数は14万2000人の増加で比較的低い数字だった上に、前月分も8万9000人に下方修正されました。
米国では失業率が3%台だとほぼ完全雇用と考えられます。失業者には転職待ちをしている人も含まれ、米国では比較的雇用の流動性が高いためです(ちなみに日本では2%台の失業率だと完全雇用と考えられています)。4.2%は少し景気が落ちていると考えていいでしょう。
また、非農業部門の雇用の増減数では、毎月20万人くらいの増加が、経済が安定して拡大しているとみなされることが多いのですが、こちらの数字も少し陰りが出ています。ただ少し見方を変えれば、大方が予想する程度の景気のスローダウンとも言えます。
一方、消費者物価の上昇率も2%台後半と、FRBが目標としている2%程度よりは幾分高めであるものの、比較的安定していることから、9月のFOMCでの利下げは確実とみてよく、注目は、下げ幅が0.25%なのか0.5%なのかということです。
予想に近い形の景気のスローダウンなので、0.25%の利下げ予想が多いですが、インフレ再燃の懸念が遠のき、景気を刺激するなら0.5%が妥当でしょう。そして大統領選挙への影響も考えなければなりません。
■大統領選挙と利下げ
米国では11月5日に大統領選挙が行われます。共和党のドナルド・トランプ候補はFRBのパウエル議長にかなり批判的です。そうした点を考えると、パウエル議長は心情的にも、民主党のカマラ・ハリス候補や現政権を「応援」したくなるものです。
「FOMCは9月の次は11月6、7日に実施予定で、これは大統領選直後にあたります。9月のFOMCでの利下げ、それもできるだけ大幅な利下げを予想することもできます。
というのは、私の米国の友人の中には、「共和党や民主党の熱烈な支持者でなければ、大統領選当日の懐具合で現職を選ぶかライバルを選ぶかを決める」という人もいるくらいだからです。消費が美徳の米国では、今の経済情勢が大統領を選ぶとても大きなポイントなるのです。
現状の米国の経済状況を概観しておくと、減速感は否めないものの、ある程度の順調さは維持しており、物価を考慮した上での実質GDPも8四半期連続で拡大しています。四半期のGDPは前四半期に対する年率での伸びを表します。
ということは、米国では8四半期連続でその前の四半期を上回って経済が拡大しているということです。また直近の4~6月の四半期では、成長率も3%とまずまずの数字です。また、4~6月の企業業績も前四半期よりも拡大し、税込みで年換算3兆4247億ドルとなっています。
全体的には減速気味ではあるものの、それほど悪い状況ではなく、景気はソフトランディングに向かっていると私は考えています。この状況で、FRBが利下げ、それも比較的大きな利下げを行えば、景気刺激効果は小さくないでしょう。それを先取りして、NYダウは、このところ4万ドル程度の水準で推移しています。
■日本は総選挙をにらんでの利上げ
一方、日本では9月19、20日に日銀の政策決定会合が開かれます。こちらは、次期首相を実質的に決める自民党総裁選の27日より前です。日銀としては2%台のインフレが続いていることや、何よりも金利ひいては金融を正常化することを考えれば、現状0.25%を上限としている政策金利を上げたいと思っているはずです。
しかし、日銀としては自民党総裁選前に政策金利を上昇させることで市場を混乱させたくないことや、現状も株価や円相場が比較的大きく動く日があり、先日日銀の内田眞一副総裁が「大きく相場が動く間は利上げをしない」と発言したことを考えれば、9月の利上げは難しいと考えられます。
また、日本の経済を概観すればそれほど悪くはないものの、不安材料も垣間見えるというところです。米国ほどの好調さはありません。
具体的には、実質GDPの伸び率は米国と違い、上がったり下がったりの状況で、また、経済の最前線にいて景気に敏感な人たち、たとえばタクシーの運転手、ホテルのフロントマン、中小企業経営者などを対象に内閣府が毎月調査をしている「街角景気(景気ウォッチャー調査)」では、良いか悪いかの基準となる50を切った状態がこのところ続いています。
一方、財務省調査の「法人企業統計」では、企業の営業利益は比較的順調に伸びていると言えます。こういう状況ですから、8月5日の暴落後の株価も、やや戻ったものの、神経質な動きをしています。
こうしたことを考えても日銀としては利上げのタイミングを慎重に見極めていると考えられます。
9月の後の日銀の政策決定会合は、10月30、31日ですが、次期首相は、総裁選後それほど長くない時期に衆議院を解散し、総選挙に持ち込むと考えられます。なぜなら現在の衆議院議員の任期が来年10月までで、そこまでには必ず選挙が必要なことと、そこまで待つとまたスキャンダルが出る恐れがあるからです。
そうすると、総選挙期間やあるいはその直前となる可能性が強く、日銀が10月末の政策決定会合での利上げに動くことは難しく、結局12月18、19日の今年最後の政策決定会合での利上げの可能性が高いと考えますが、これも総選挙の日程次第です。
そして大きな経済的変動がなければ、日銀は将来的には1%程度まで金利を上げたいと考えていると思われます。「中立金利」という考え方があり、これは、景気を過熱も冷やしもしない金利を指すのですが、日銀内部では1%程度が中立金利という考え方があり、それに短期金利をもっていくべきだと考えているのです。
いずれにしても、米国は利下げ、日本は利上げのトレンドがしばらく続きます。
そうすると、日米金利差が縮小するので、さらに円高に振れる可能性はあります。しかし、ここまで話したように、日本の経済は米国ほど強くないため、一本調子で金利を1%程度まで上昇させられるかは不明ですし、できたとしても、日銀はここで見たように選挙日程などを考慮しながらかなりの時間をかけて慎重に利上げを行っていくと考えられます。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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