もはやライバルはトヨタのシエンタではなくノアヴォク…ホンダの新型フリードに乗ってわかった驚くべき変化
プレジデントオンライン / 2024年10月5日 17時15分
■なぜホンダのフリードは売れ続けるのか
「最高にちょうどいいホンダ!」のキャッチで有名な国産コンパクトミニバンがやっと登場しました。それは今年6月末頃に発売された3代目ホンダ フリード。
最初の1カ月受注は、約3万8000台と好調で、月販目標の約6倍。
直近7月、8月販売も8442台(月販6位)、6990台(月販5位)とまずます。着実に売れています。(※数字は一般社団法人 日本自動車販売協会連合会より)
それもそのはず、このカテゴリーには競合が1台しかいないのですから。基本5ナンバーサイズで全長4メートルちょいと短く、両側電動スライドドアを持つ3列ミニバンは、現在フリードとトヨタ シエンタの2車種だけ。他に日産やスズキから競合モデルが出てもおかしくないですがその気配すらありません。
なにしろ先代フリード(2代目/2016年~)は「もうすぐフルモデルチェンジ」と言われ続け、セールス期間は8年目を迎えながら、末期の2023年3月は月販でシエンタに肉薄するほど。いまどきこれだけ人気が長持ちするカテゴリーも珍しいのです。
実際、小沢も今年5月にららぽーと横浜で行われた先行展示会に行き、あまりの人気の高さに頭がクラクラしてきました。平日にもかかわらず、多いと10組ぐらい見学者が並んでいるのです。しかも現場では「見学1回4分」の制限付き。
こう言ってはなんですが、たかが250万円スタートのファミリーカーであり、憧れのスーパーカーではありません。通りがかりの主婦はなんでこんなに並んでいるの? と驚いておりました。
フリードがなぜこれほど人気なのか。それはコンスタントに月販ベスト10に入り、2代目で既に販売累計100万台を突破し、2022年に国内ミニバンセールス1位に輝いた実績もありますが、なによりも非常に明確な構造的理由があります。
■そもそもコンパクトミニバンの種類がない
まず、需要に対し、絶対的に選択肢が足りないこと。
今や日本は少子高齢化まっしぐらですが、それでも3列シートミニバン需要は間違いなくあります。家族に子供が生まれると4~5人乗車はもちろん、両親を入れて時に6~7人は乗せたいときがあるのです。
またクルマをプライベートだけでなく仕事用に使う人にとっても、送迎用に6~7人あるいは荷物をそれなりに乗せたい時があります。それなのにコンパクトミニバンの選択肢は先述したように、フリードとシエンタしかない。
第2の理由は両側スライドドア付きであること。
今や「スライドドア付きじゃない車はファミリーカーじゃない」と言われるほど日本はこの水平方向に開くドアに慣れ親しんでいます。軽ナンバーワンのN-BOXはもちろん、登録車販売の事実上トップであるノア&ヴォクシーもスライドドア付きミニバン。今の子どもは既にコチラの方が普通になっているのでは? と言われるほどです。
■ミドルミニバンでは大きすぎる
第3の理由は大きな箱型ミニバンを避ける人が一定数いることです。
運転が苦手な人にとって、大きな箱型ミニバンは積極的には乗りたくない車種になります。日本にはホンダ ステップワゴン、トヨタ ノア&ヴォクシー、日産セレナと人気の全長4.7メートル級ミニバンがあります。かつてはみな、5ナンバーサイズでした。
ただし、今はセレナ標準ボディを除き、横幅は1.7メートルを超えており、例え5ナンバーであっても高さで1.8メートルを超える箱型ボディには圧迫感があります。
比べると全長4.3メートル前後のフリードやシエンタは圧倒的に乗っていて気がラクなのです。
かつて90年代以降のミニバンブームの時には他にもトヨタカローラスパシオや日産キューブキュービック、スタイリッシュ系ではホンダストリームやトヨタウィッシュなど3列シートのコンパクトミニバンが多発しましたが、今残っているのはこの2台のみ。当然需要も集中してしまっているわけです。
■フリードとシエンタの違い
ただし、新型フリードでは、いざ発売されて乗ってみると予想外の点がいくつかありました。
まずはサイズです。競合の新型シエンタ(2022年~)は全グレード、キッチリ全長4.26メートルと全幅1.7メートル以下を死守。
一方、新型フリードは、全長が4.3メートルを超えてシエンタを約5センチ上回りました。そして、歴代フリードにはなかった、横幅1.7メートル超えの3ナンバーサイズの「フリードクロスター」が発売されました。
そしてフォルムは先代と比べると、よりミニバンっぽい箱型になりました。確かに運転し易いのですが、フリードとシエンタのキャラクターは微妙に分離し始めているのです。
■「兄貴分」からの乗り換え
シエンタはあくまでも軽自動車やコンパクトカーの感覚で乗れるコンパクトミニバン。それらから乗り換えても違和感はありません。なので、お孫さんを載せるためにミニバンを選ぶシニア層や、運転が苦手な女性にウケています。
かたや微妙に迫力が増したフリードは、昨今の価格高騰をうけ、ノアヴォクやステップワゴンなどサイズの大きい「兄貴分」を少し食い始めています。
新型フリードは1.5リッターガソリン車の車両価格は250万円を超えますし、ハイブリッド車になると280万円を超えます。
ただし兄貴分のステップワゴンも度重なる値上げでガソリン車でも今や316万円スタート。こうなると同じ6人~7人乗りなら、より安くて扱い易いフリードでもいいか……というお客が出てきます。
オマケにフリードはこのモデルチェンジで内装から走りの品質を結構上げてきました。シートやインパネトリムの質感は、例えるならシエンタがニトリのイスだとしたら、フリードは無印良品のソファ。
わからない人はわからないでしょうが、ステップワゴンから乗り換えても質的な不満はあまりありません。ナビもオプション価格は嵩みますが、ステップワゴンと同サイズの大型11.4インチのホンダコネクトナビが付けられます。
■すれ違うライバル2車
走りに関しても、フリードは今世代から1.5リッターのe:HEVと呼ぶ新世代ハイブリッドを搭載。コイツは燃費が前より良いだけでなく、電動感と静粛性に優れ、非常に高品質。
ハイブリッド用エンジンもシエンタが1.5リッター直3エンジンなのに対し、フリードは1.5リッター直4エンジンと静かで滑らか。走りの「高品質感」でも上のクラスを食い始めているのです。
一方、シエンタはシエンタで良さがあって前述の視界の良さ、取り回しの易さと3列目を畳んだ時のラゲッジの広さはフリードを上回りますし、モード燃費もアドバンテージあり。
なによりフリードが250万円スタートなのに対し、シエンタは199万円スタート。装備差を考えるとその差は25万円前後に縮まりますが、やはりシエンタの方が買いやすい。
両車は住む領域が着実に離れ始めているのです。
■だから旧型フリードは8年も販売していた
それでいて、便利なスライドドア付きコンパクトミニバンの手堅い需要は知りつつ、競合他社、つまり日産やスズキ、ダイハツなどの参入は当分なさそうです。
出たら面白いとは思うのですが、最大の障壁はこのクラスが売れるのはほぼ日本限定であること。一部ASEAN諸国でも売れるかもしれませんが、ASEANには専用モデルが存在します。
つまり売れても年間20万台強。となると今やグローバルで商品を売る自動車メーカーとしては新規開発するには数が少なすぎるのです。だから旧型フリードも8年近く売るハメになったのです。
まさに成功が約束されたクルマともいえるコンパクトミニバン、フリード。個性や価格帯がわかれ始めた点はあっても、両車共に今後も根強く長く売れていきそうです。
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自動車ライター
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。
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(自動車ライター 小沢 コージ)
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