1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

ヤシノミ洗剤を作るな…"製造工程で動物虐待"と糾弾された洗剤メーカーが実践した"名誉挽回のシナリオ"

プレジデントオンライン / 2024年10月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Victoria Popova

多くの人に愛される商品はどう作られるか。リブランディングコンサルタントの深井賢一さんは「大阪の洗剤メーカー・サラヤは、エコ洗剤の製造工程で環境破壊や動物虐待と糾弾を受けて存亡の危機に直面したが、その後商品の売上の1%をNGOに寄付するなどの取り組みを行うことで、新たに発売された洗剤が他に類をみないヒット商品になった。背景には、商品を買うことで『ちょっといいコト』をした気分になれる特別な価値が付加されたことがある」という――。

※本稿は、深井賢一『売れる「値上げ」』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■象と洗剤の意外な相関関係

大阪の洗剤メーカーが日本中で愛される理由
サラヤ『Happy Elephant』

グリーンの容器に、『Happy Elephant(ハッピーエレファント)』という商品ブランド名と、「森林を歩く象」のロゴが描かれている、そんなパッケージの商品がエコ(ブランド)市場でヒット商品となっています。

製造・販売しているのはSARAYA(サラヤ)という大阪の会社です。同社は洗剤類を中心に、手洗い用品や消毒・除菌用品、台所用品、洗濯用品、掃除用品、スキンケアやヘアケア用品などの日用品全般を提供しているメーカーです。

それにしても洗剤に「Elephant=象」とは、ちょっと不思議な組み合わせです。ロゴの「森林を歩く象」やブランド名の『Happy Elephant』(幸せな象)に表される「象」と商品の「洗剤」には、いったいどんなつながりがあるのか謎めいています。

実は、その謎の裏に潜む「ストーリー」が、この商品に特別な「価値」を与え、他に類を見ないヒットへのきっかけとなりました。

■洗剤の製造工程でボルネオ島の熱帯雨林を破壊

サラヤでは、「『ひとと地球にやさしい製品づくり』によって、人びとの『笑顔・環境・健康』に貢献する製品とサービス」をコンセプトに、1952年の創業当初から天然素材を使用し続けています。

天然素材として採用されているのは、1980年代まではココヤシからとれるヤシ油がメインでした。現在では、アブラヤシからとれるパーム油、パーム核油が主流となっています。

しかし、サラヤでは、それがアダとなって、「ひとと地球にやさしい」どころか、環境破壊や動物虐待と言ってもいいようなことをしている企業との糾弾を受け、存亡の危機に直面したことがありました。

それは『Happy Elephant』を企画した代島裕世(だいしまひろつぐ)取締役が広報担当だった当時、あるテレビ局から、「貴社が製造販売しているエコ洗剤の原料であるパーム油の原産地・ボルネオ島のドキュメンタリー番組に出演して、コメントをもらえませんか?」と誘われたときに始まりました。

植物油の中でパーム油は世界で最も需要が高く、生産量も世界ナンバーワン。その生産量の約8割をインドネシアとマレーシアの2国で占めています。

特に、インドネシアとマレーシアとブルネイで領土を分け合うボルネオ島がその主要産地で、ボルネオ島の熱帯雨林は多種多様の野生動物が生息することでも知られています。

アブラヤシのプランテーション
写真=iStock.com/yusnizam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yusnizam

しかし、大量のパーム油を生産するために、その熱帯雨林の樹木が根こそぎ伐採され、広大な面積のアブラヤシ農園がつくられていました。

この番組取材は、日本の消費者がボルネオの熱帯雨林を破壊しているアブラヤシ農園の実態を知らなすぎることに警鐘を鳴らすために企画されたもので、決して「ヤシノミ洗剤」を悪者にしようという意図はありませんでした。

■ヤシノミ洗剤を作り続けるための変革ストーリー

取材チームが足を踏み入れたのは、東マレーシア領・サバ州のキナバタンガン川流域。ここには巨大なアブラヤシ農園が広がる一方で、地元住民が小さな野生動物を捕獲するためのワイヤートラップがあちこちに仕掛けられています。

その一画で、トラップのワイヤーに前足や鼻が引っ掛かり、苦しんでいる仔象の姿が放送されました。そして、番組内容を事前に見たサラヤ2代目社長・更家悠介(さらやゆうすけ)氏の「こんな現実は知らなかった。知ったからには行動を起こしていく」というコメントも流れました。するとたちまち、視聴者からサラヤに、クレームの電話が次から次へとかかってきました。

「ヤシノミ洗剤をつくるのをやめるのが一番の解決方法では?」

という意見が多数でした。代島氏は番組制作会社から情報収集して、これからやるべきシナリオをつくりました。これに更家社長も理解を示してくれました。

更家社長は、代島氏の話を聞いて本気で問題意識をもって、何らかの変革、アクションを起こさなければと行動に出ます。ボルネオ島に直接出向き、現地の州政府と対話し、ボルネオ島の生態系を守るための新しい取り組みを共同で行わないかとオファーしたのです。

ところが相手の州政府の対応は、「プロジェクトを提案するなら、それを実行する資金も提供してください」というものでした。あまりのことに愕然とするのですが、パーム油は現地の貴重な財政源。

熱帯雨林を切り開いてアブラヤシ農園をつくってパーム油を生産・輸出することで財政を確保していくうえで、象やオランウータンを守る活動を始めなければ消費者や環境保護団体の理解を得られないことはわかってもらえました。

■商品の売上の1%をNGOに寄付

1990年代から、ヨーロッパ諸国では、環境NGOが中心となり、ウェブやマスメディアを通して、傷つく仔象や親を殺されて保護されるオランウータンの子どもの映像などが配信・報道されるようになります。

このような運動の高まりの中で、WWF(世界自然保護基金)などの団体が中心となり、2001年に国際NPO「RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil:持続可能なパーム油のための円卓会議)」が設立されました。

サラヤは2005年のRSPOに第3回の円卓会議からメンバーとして参加。2010年には持続可能な生産が行われていると認められたパーム油を使用する製品を認証するRSPO認証も取得しています。

ちなみにRSPO認証は、いまや日本国内250社を超える多数の企業が取得しています。国内企業でその先陣を切ったサラヤはさらに、自社独自の環境保護への取り組みを展開します。

実行したのは、ボルネオ島熱帯雨林の回復と生物多様性保全を目的とした新たなNGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」の設立です。

そして、民間企業に求められるのは活動資金の提供だと心得たサラヤは、パーム油を使ったヤシノミ洗剤等の商品の売上の1%をBCTに寄付することにしました。

BCTに積み立てられた基金を原資に、ケガをしたり孤児になったりしたボルネオ象を保護・飼育する施設をつくりました。こうして、ボルネオの環境保全と地元の貴重な財源であるパーム油生産の両立をはかる取り組みを行ったのです。

■象が幸せなら、きっと人も幸せ

このような経緯から2012年にサラヤが発売したのが、『Happy Elephant』シリーズです。

象が幸せなら、きっと人も幸せ。ボルネオの生態系の頂点にいる象が幸せなら、きれいな水と環境が保たれ、いろいろな生き物と人間が共生する。

そんないのち輝く地球でありたいとの思いを具現したのが、『Happy Elephant』シリーズです。そのシンボルとして「森を歩く象」をかたどったロゴが生まれたのでした。

深井賢一『売れる「値上げ」』(青春出版社)
深井賢一『売れる「値上げ」』(青春出版社)

このような取り組みを積み重ねた先の、『Happy Elephant』のヒット。顧客にとっては、商品を買うことで、支払った代金の一部がボルネオ島の自然環境や動物たちの命の未来につながっていくという、「ちょっといいコト」をした気分になれる価値が付加されます。

しかし、何より『Happy Elephant』が人を引きつけているのは、その誕生までのエピソード、ストーリーです。

代島氏がシンポジウムなどで講演をするたび、『Happy Elephant』シリーズを誕生させるきっかけとなった、ボルネオ島で見た傷ついた仔象のエピソードを、じっと聞き入っている人もいるそうです。

----------

深井 賢一(ふかい・けんいち)
リブランディングコンサルタント、ソーシャルプロダクツ事業コンサルタント
1989年4月 ヤラカス舘(現YRK and)入社。リブランディングコンサルタントとして、ヘルスケアメーカーのカテゴリーマネジメントやストアマーケティング、スーパー・ドラッグストアの売場開発などを得意とする。2017年より、ソーシャルプロダクツのマーケットプレイスを運営するSoooooS.カンパニー取締役。2019年より一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会事務局長として、ソーシャルプロダクツの適正な市場普及や、企業によるSDGsの本業化・ブランディング・コミュニケーション活用に取り組んでいる。

----------

(リブランディングコンサルタント、ソーシャルプロダクツ事業コンサルタント 深井 賢一)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください