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仕事のできる人は知っている…「~させていただきます」より効果的な"好印象を残す敬語"の最強フレーズ

プレジデントオンライン / 2024年10月18日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

世の中で使われている敬語のなかには、日本語として間違っているものも少なくない。コピーライターの前田めぐるさんは「『頂戴する』『させていただく』という表現には要注意だ。一見、丁寧な表現のように感じるが、日本語の使い方をひもといていくとおかしな敬語になっていることが分かる」という――。(第2回)

※本稿は、前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■内面に関する表現は敬語になりにくい

「ご希望に添えるよう頑張らせていただきます」

発注先から「見積りの額、もうちょっとだけ何とかなりませんか」と頼まれて、こう答えたことはありませんか。「させていただきます」は、許可を得て行うと見立てて使う謙譲表現。「頑張らせていただきます」と言おうものなら、相手は「弱ったな。こっちが無理強いしているみたいで。何もそこまでへりくだらなくても」と内心申し訳なく感じるでしょう。

何よりも「頑張る」という行為は、自身の強い意志によるもの。文法云々ではなく、こうした内面に関する言葉は直接の敬語にはなりにくいのです。さらに、他人の許可を得ることでもないため、「させていただく」という言葉とはなじみません。

その上で、発注先に対して丁寧に述べることで感謝の気持ちを表したいわけですね。

「ご希望に添えるよう、精一杯努力いたします」
「ご希望に添えるよう頑張ります」

こう答えれば、懸命で潔い印象を与えるでしょう。「頑張る」を言い換えたいときは、「努力する」の他にも「努める」「励む」「尽力する」「精進する」などがあります。

また、敬語とは別の話ですが、「頑張れ」という言葉は昨今なかなか他人に対して使いづらくなっていますよね。ただでさえ几帳面で頑張り屋の人が多く、過労死も問題化する日本。「そんなに頑張らなくてもいいよ」の言葉が救いになることもあるでしょう。

ただし、前半に書いたように「頑張る」は本人の意志に関わること。そうしたいから頑張っている人への「頑張らなくてもいい」は、「もっと頑張れ」と同じくらい余計なお世話にならないとも限りません。では、どう言えばいいのでしょう。「応援しています」「応援しております」「何かできることがあれば、いつでもおっしゃってください」。これなら、応援したい気持ちをさりげなく表せそうです。

■「いただきますと」はどう使えばいいか

「こちらの天気図を見ていただきますと、この3日間は晴天が続きそうです」

これは、ある気象予報士の言葉です。文書では稀(まれ)ですが、話し言葉になると「……いただきますと」は実によく聞かれます。天気予報だけでなく、講座や会議、営業など、何か資料を見せて話を進めるような場面でよく使われます。

そもそも「○○に……ていただく」は「○○に……てもらう」の謙譲語です。「○○」の部分は補語に当たります。例えば「本日は(皆様に)ご来場いただきありがとうございます」には、「皆様」という補語が隠れています。主語は話し手です。話し手が「いただく」とへりくだることで、話し手に恩恵を与える補語「皆様」を高めているわけですね。冒頭の言葉も、これに当てはめて考えてみましょう。

「こちらの天気図を(視聴者の皆様に)見ていただきますと、この3日間は晴天が続きそうです」。天気予報士が自分を低めて、視聴者を高めていることになります。画面の向こうの視聴者に配慮する気持ちは理解できないでもありませんが、へりくだりすぎです。

もっと言えば、2つの文の関連性も妙です。「いただきますと」の「と」は、二つの文をつなぐ接続助詞。「雪がとけると水になる」のように、前の文が次の文の前提条件を示します。

「天気図を視聴者に見てもらったから、3日間は晴天が続く」というのなら、いくらでも天気図を眺めます。しかし、そんなはずはありませんね。

長々と書きましたが、日頃から分かりやすい天気予報を頼りにしている一視聴者としては、見出しの言葉を次のように提案します。「こちらの天気図によれば、この3日間は晴天が続きそうです」「こちらの天気図をご覧ください。この3日間は晴天が続きそうです」どうでしょうか。「いただく」がないほうが、いかにも的中しそうです。

■分かっていてもやめられない「させていただく」

「『させていただく』を使いすぎだと言いたいんでしょ。盛りすぎなのは自分たちでも分かっているよ。でもダメだと分かっていても使わないと落ち着かないんだ。『CDを出せました』と言えばアンチから、自力で出せたような顔をするなって言われそうだし、第一応援してくれるファンに対しても失礼な気がするし。それ以外で、丁寧に言う方法なんてあるの?」

タレントやアーティストから直接聞いたわけではありませんが、才能ある賢明な彼らの中にはこう感じている人も多いのではないでしょうか。誹謗中傷が飛び交う現代、ファンや周囲に気配りしすぎて、敬語を盛りすぎてしまうのも無理からぬことかもしれません。

会議中のビジネスマンとクライアント
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■「CDを出せさせていただきます」は盛りすぎ

とはいえ、視聴者にとって耳に付く言い方であるのも確か。「今年はCDを出(だ)させていただき、歌合戦にも出(だ)させていただきました」

いくらファンに感謝しているからといって、やはり過剰な敬語です。また厳密に言えば「歌合戦にも出(だ)させて」は「歌合戦にも出(で)させて」が適切です。CDを買うほどのファンは、どんな言い方でも快く受け入れてくれるのかもしれません。ただ、ファンならなおさら、憧れているアーティストやタレントには、堂々とかっこよく振る舞っていてほしい気持ちもありはしないでしょうか。

そこで、「『させていただく』盛りすぎ防止対策」を施した表現を提案します。

「今年はファンの皆さんのおかげでCDを出すことができました。歌合戦にも出場の夢がかないました」

これならファンへの感謝も盛り込めます。「出すことができた」「夢がかなった」というポジティブな言葉で、応援してよかったと喜んでもらうことができます。ファン自身も夢を叶えようと思うかもしれません。

「おかげ(さま)で……しました(いたしました/できました)」を使うことで、感謝を述べつつも媚びない印象になります。「させていただきます」の二度使いで敬意を盛るよりも、かえって距離が縮まるのではないでしょうか。

■「名前を頂戴する」はよく考えると変な表現

「お名前様を頂戴できますか」

名前の聞き方にこんな誤用があると知ってはいましたが、実際に聞くと、やはり「まさか」と思うものです。指摘するのも大人気ないかと「えーっと。名前を書けばいいですね」と素直に名前を書きました。

受付で署名するセミナー参加者
写真=iStock.com/piranka
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piranka

もしも、ここで「お名前様、って誰ですか」とでも聞いたとしたら、「あっ、『様』がいけなかったですよね。では、お名前を頂戴できますか」と返ってきたかもしれません。ダメです、嫌です、「お名前」もさしあげられません。

第一「前田」って、どこにでもあるような名前ですよ。ペンネームでも芸名でも自由に名乗ればいいじゃありませんか。ん? 名前? はい。前田ですけれど。「承知しました。もう頂戴しましたので、大丈夫です」。あれっ、いつさしあげましたか……少々長い前置きになってしまいました。「様」が盛りすぎというだけでは済まず、長大な妄想までついてきたようです。

混乱したら、元の言葉に戻すのが基本。「お名前様を頂戴できますか/お名前を頂戴できますか」を敬語なしで言うとすれば「名前をもらえるか」です。名前はあげられませんよね。襲名したかったり、名付け親になってほしかったり、相手の名前を我が子に付けたかったり……そんな特殊な状況なら分かります。

そうではなく、何かを買ったときや宿泊するときに「名前をもらえるか」は不適切です。

■違和感があったら「敬語抜きの表現」に言い直して考える

単純に相手の名前を知りたいのなら、「名前を教えてほしい」「名前を聞いてもいいか」と尋ねるべきでしょう。いくらでもまともな表現があります。

「お名前をお教えください」
「お名前をお教え願えますか」
「お名前を教えていただけますか」
「お名前を伺えますか」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

これなら、相手によほど後ろめたい事情がない限り、素直に教えてもらえるはず。

「いただく」「頂戴する」は、盛りすぎ言葉の代表格です。

「お電話番号を頂戴できますか」
「ご住所をいただけますか」

しかし、これらも名前と同じく、電話番号や住所も人にあげられるものではありません。花やケーキとは違うのですから。「お名前様をいただけますか」とマニュアルで使うように定められているのかもしれませんが、そんなものを他人にあげたら、なりすましを許すことになってしまいます。

ホテルの宿泊やスポーツクラブの会員登録で相手に名前を書いてほしい。そんなときは、記入先を指して、こう言えばよいでしょう。「こちらにお名前とご住所・お電話番号をお書き願えますか」「こちらにお名前と必要事項をご記入いただけますか」敬語の用法で混乱したり、疑問に感じたりしたら、今回のように敬語を省いた元の言い方に直してみること。迷路をぐんぐん進むより、最初に戻るのが近道です。

契約書に署名するビジネスマン
写真=iStock.com/simarik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simarik

■「こちらにご記入ください」でも十分丁寧な表現

「こちらにご記入いただいてもよろしいでしょうか」

前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)
前田めぐる『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)

「いいえ、ダメです。記入できません」。契約書に記入せずには話も進まないけれど、もしこう答えたらどうなるのかな……そんなイケズなことはしませんが、そう思わせるくらいへりくだりすぎの表現です。

本来なら「こちらにご記入ください」でいいはずです。物足りなければ「どうぞ」を頭に付けて「どうぞ、こちらにご記入ください」とすれば、丁寧な印象になります。それでも「ください」で終わると命令されているように感じる人がいるため、このような言い方になったのでしょう。

それにしても、いくら空気を読む時代とはいえ、ここまでへりくだる必要があるでしょうか。人に何かを頼むとき、さまざまな疑問形の依頼文を使うことは、これまでにもありました。

「こちらにご記入くださいますか」
「こちらにご記入くださいませんか」
「こちらにご記入いただけますか」
「こちらにご記入いただけませんか」
「こちらにご記入いただきたいのですが」

こうした単なる依頼の表現なら何の問題もありません。それをわざわざ「(あなたに)ここに記入してもらってもいいか」と許可を求めているところに違和感があるのです。

■「お」には謙譲語としての側面もある

聞き手から「いやです。勘弁してください」と言われるような事態は全く想定していないのでしょうね。この用法はこれからも、広まり続けていくのかもしれません。

「危ないので、白線よりこちら側まで下がっていただいてもよろしいですか」「この先行き止まりです。引き返していただいてもよろしいですか」

へりくだりすぎなので「×はっきり言っていただいてもよろしいですか」。

■自分の書いた手紙に「お」を付けるのは失礼か?

「お手紙をさしあげます」というのは間違っていませんか。自分の書いた手紙に「お」を付けてもいいのですか。相手に失礼になりませんか――こんな質問をよく見かけます。結論から言うと、間違っていません。「敬語の指針」(文化庁)にもこうあります。

「先生へのお手紙」「先生への御説明」のように、名詞についても、〈向かう先〉を立てる謙譲語Iがある。(注)ただし、「先生からのお手紙」「先生からの御説明」の場合は、〈行為者〉を立てる尊敬語である。このように、同じ形で、尊敬語としても謙譲語Iとしても使われるものがある

つまり、「お手紙」では尊敬語と謙譲語両方の役割が成立するわけですね。自分の書いた手紙に「お」を付けては相手に失礼――こう考えるのは、へりくだりすぎです。

■「お電話」「お手紙」は文脈によって意味が変わる

「お/ご」が付いていると何でも美化語だと考えがちですが、使う場面によって役割が変わります。「お手紙」同様、尊敬語・謙譲語両方に使える語としては、他にも「お祝い・お答え・おことわり・お知らせ・お電話・お土産・お礼・おわび・ご挨拶・ご案内・ご説明・ご招待・ご返事」などがあります。

例えば、取引先に対して使うとしたら、どんな場面があるでしょうか。例文を挙げます。

「お電話をいただき、ありがとうございます」(尊敬語)
「後ほどお電話をさしあげます」(謙譲語)
「新作発表会のご案内が届きました」(尊敬語)
「今後もご案内をお送りしてよろしいでしょうか」(謙譲語)

そんな話をしていたら、カバンの中の携帯がマナーモードで震えました。誰からだと思いますか? 私はこう答えます。「予約していたお店からの電話です」。電話をかけてきた〈行為者〉を立てない場合には、こんなふうに「電話」でOKです。

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前田 めぐる(まえだ・めぐる)
コピーライター、文章術講師
長年コピーライターとして生活者と企業のコミュニケーションにおける言葉を発想し続ける。近年は自治体・学校・団体向けのSNS活用・文章術講師として活動。危機管理士としても、言葉のリスクコミュニケーションについて伝える。敬語マニアでもあり、敬語の違和感についてまとめたブログ『ほどよい敬語』が好評。マイナビ系の情報サイトで執筆。京都在住。著書に『前田さん、主婦の私もフリーランスになれますか?』(日経BP)、『この一冊で面白いほど人が集まるSNS文章術』(青春出版社)、『その敬語、盛りすぎです!』(青春新書インテリジェンス)などがある。

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(コピーライター、文章術講師 前田 めぐる)

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