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同じ能力の部下が2人いたら、どこを伸ばすか…ネットフリックスの人事担当者が定義する「優秀な上司」の特徴

プレジデントオンライン / 2024年12月19日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HSNPhotography

同じ業界にいても、生き残る企業と没落していく企業は、何が違うのか。医師でインフルエンサーのアリ・アブダールさんは「社員の能力そのものよりも重要なことがある。ネットフリックスの成功がこれを証明している」という――。

※本稿は、アリ・アブダール『Feel Good 快適な努力で最高の成果を上げる方法』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■時価総額3000億ドルの企業はこうして生まれた

2000年9月、リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフは創業間もないネットフリックス(Netflix)社をブロックバスター・ビデオ社のCEOに売却しようとしていた。だが、その試みは大失敗に終わった。

2人はそれまで、レンタルビデオ界に革命をもたらす画期的なビジネスモデルに賭けていた。

それは、「顧客がウェブサイトでレンタルしたいDVDを注文し、郵送で受け取りや返却ができる」というものだった。だが、2人が全身全霊をかけて取り組んでいたにもかかわらず、同社の経営状況は悲惨だった。100人以上の従業員を抱えていたが、有料顧客はわずか3000人。赤字は年末までに5700万ドルに達する見込みだった。

ネットフリックスを売却しようと思ったヘイスティングスとランドルフは、何カ月もかけて電話やメールをやり取りし、ようやくダラスの本社でブロックバスターのボス、ジョン・アンティオコとのミーティングにこぎ着けた。これは大きなチャンスだった。

ブロックバスターは全世界に9000以上の店舗を持つ時価総額60億ドルの上場企業で、アメリカのビデオ市場を支配していた。

■ブロックバスターのCEOに一笑に付された

しかし、このせっかくのチャンスも活かすことはできなかった。

当初、アンティオコとブロックバスターの顧問弁護士エド・ステッドは友好的で、礼儀正しかった。ヘイスティングスとランドルフが、ブロックバスターがネットフリックスを買収するメリット、つまりインターネット時代の新しいタイプのビデオレンタルの方法について熱っぽく説明しているあいだも、注意深く耳を傾けてくれた。しかしそのとき、アンティオコが重要な質問をした。

「いくらで売りたいんだ?」
「5000万ドルです」

しばしの沈黙。そして、アンティオコは大笑いし始めた。

■それから20年後、奇跡が起きた

時は流れ、その10年後。ブロックバスター・ビデオは破産を申請した。同社はオンラインビデオへの移行という時代の流れについていけず、店舗の大半を徐々に閉鎖し、最終的に破産した。

さらに時間を10年間早送りすると、ネットフリックスはオンライン・ストリーミングサービスを提供する企業に生まれ変わり、時価総額は3000億ドルに達し、世界でも屈指の革新的な企業として称賛されていた。

ブロックバスターのCEOに一笑に付されたネットフリックスは、世界トップクラスの大企業に変貌を遂げた。

この奇跡のような出来事は、いったいどのようにして起こったのか?

■成功した「最大」かつ「シンプル」な理由

答えはいくつかある。

ヘイスティングスら同社の幹部の優れたビジョンを評価する人もいる。インターネットが普及していくのと同じタイミングでそれに合ったビジネスを展開したというタイミングの良さを指摘する声もある。だが、ネットフリックスが成功した最大の理由はもっと単純である。

それは、企業文化(カルチャー)だ。

ネットフリックスの事業が軌道に乗り始めた頃、リード・ヘイスティングスはパティ・マッコードを同社のチーフ・タレント・オフィサーに任命した。

それまで数社のIT企業で人事を担当してきたマッコードは、従来の人事管理手法には満足しておらず、従業員が自分の仕事を自分でコントロールできると感じられるような企業文化をつくりたいと考えていた。

ヘイスティングスはマッコードと協力して、自由や責任の重視など、同社の企業文化の指針となるような価値観をつくり上げた。

■「自由と責任」がもたらした大きな変化

この小さなシフトは大きな変化をもたらした。ネットフリックスの従業員の働き方は、根本的に変わった。所定の休暇や勤務時間、業績評価といった従来型の方針は取り払われ、従業員には自主性が与えられた。目標さえ達成すれば、好きなように働くことが許されるようになった。

iPhone の画面上のNetflixアプリ
写真=iStock.com/stockcam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

当初、このアプローチには懐疑的な見方もあった。しかし会社が成長し、繁栄するにつれて、それが奏功しているのは明らかになった。

この企業文化は、優秀な人材を引きつけ、維持するのに役立っただけでなく、より良いアイデアを生み出すことにもつながった。

同社は市場調査やフォーカスグループといった従来の方法に頼らず、クリエイティブ・チームに新番組や新作映画の企画・制作の主導権を握らせた。その結果、世界中が注目するような斬新なテレビ番組や映画が生み出された。

マッコードは、自由と責任を重視するこのアプローチを、「パワー」というシンプルな言葉で要約した。

■「パワー」が持つ本当の意味

これは、取り扱いが難しい言葉でもある。

「全体主義の独裁者」や「横暴な上司」「他人を支配するために密室で下される容赦のない決定」といった、ネガティブな意味合いを持つ場合があるためだ。「自分とは無縁の言葉だ」と思う人もいるかもしれない。

だが、「パワー」の意味はそれだけではない。マッコードはこの言葉を、「人に自信や権限を与える」という意味で用いていた。

つまり、自分の仕事は自分でコントロールでき、人生は自分の手の中にあり、自分の将来は自らの手で変えられるという感覚だ。コントロール感と呼び換えてもいい。この感覚は、他人を相手に行使するものではない。それは自分自身が感じるものであり、屋上に立って「私ならできる!」と叫びたくなるようなエネルギーのことだ。

本書で紹介する2番目のエネルギー源は、コントロール感(パワー)だ。それは、気分を良くし、生産性を高めるための重要な要素だ。何より、これは他人から奪うものではなく、自分自身でつくり出すものなのだ。

■仮説「自信は能力に影響を与える」を検証した

コントロール感の科学を紐解く旅を、数十人の運動嫌いな被験者でいっぱいの実験室から始めてみよう。

この28人の女子学生が被験者として選ばれた唯一の理由は、彼女たちに日常的な運動の習慣がなかったからである。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者たちは、彼女たちの運動不足の事例が研究の契機になると考えていた。彼らは、後に国際行動医学会誌(International Journal of Behavioral Medicine)に掲載されたこの研究で、「運動能力に対する自信は、実際の運動能力に大きな影響を与えている」という単純な仮説を検証しようとした。

実験ではまず、28人の学生全員に固定式自転車で一定時間漕こいでもらい、その間の心拍数とVO2 max(運動中に身体が吸収・使用できる酸素の量)を測定した。

運動が終了すると、そのパフォーマンスに基づいて、被験者の学生はA群とB群の2グループに分けられた。短時間の休息の後、A群(「自信がある」グループ)の学生には、「先ほどの運動の結果、年齢や運動経験が同じ女性たちと比較して、体力が最も優れていた」と伝えた。

一方、B群(「自信がない」グループ)の学生には、「先ほどの運動の結果、年齢や運動経験が同じ女性たちと比較して、体力が最も劣っていた」と伝えた。

■3日後、実験室で起こった「驚くべき結果」

実は、これは実験のための嘘だった。つまり、「自信がある」グループは実際には体力が優れているわけではないし、「自信がない」グループも体力が劣っているわけではない。被験者は運動テストの成績とは無関係に、ランダムに2群のどちらかに割り当てられただけだった。

研究者たちの真の関心は、次の段階にあった。3日後、被験者は再び実験室で約30分間の運動を行い、その後で「今回の運動がどれくらい楽しかったか」を評価するよう求められた。

結果は驚くべきものだった。

初回の運動後に「体力が優れている」と告げられた「自信がある」グループは、「体力が劣っている」と告げられた「自信がない」グループよりも、2回目の運動をはるかに楽しんでいた。

■自信がパフォーマンスに与える影響

これは、運動の強度や難易度が高い場合にも当てはまった。被験者に、前回よりも激しく、長く自転車を漕ぐように指示すると、2つのグループの差はさらに顕著になった。きつい状況に陥ったとき、「自分はできる」と信じていた被験者は、体力に関係なく、最後までやり遂げたのだ。何より重要なのは、自信を高めるように仕向けられていた被験者は、運動そのものを楽しんでいたことだ。

この研究は、「自信の程度は、パフォーマンスにどう影響するか?」という素朴な疑問を探求するものだった。その答えは、この前後に実施された多くの類似研究と同様、実にシンプルだった。つまり、「極めて大きく影響する」だ。あるタスクを成し遂げる自信があると、その作業中に気分が良くなり、作業の質も高まる。

この考えの起源は、カナダ系アメリカ人の心理学者アルバート・バンデューラにさかのぼることができる。

1925年にカナダ・アルバータ州のマンデアに生まれ、2021年に亡くなったバンデューラは、極めて大きな影響力を持つ心理学者だった。その主な理由は、彼が1977年に発表し、その名を一躍有名にした「自己効力感」という概念にある。

■「能力そのもの」よりも重要なこと

バンデューラは自らの過去10年間の研究をもとに、「人間のパフォーマンスや幸福にとって重要なのは能力そのものだけではなく、自らの能力についてどう感じるかだ」と主張した。自己効力感とは、そのような感情を表現するために彼がつくった用語であり、目標を達成できるという信念をどれだけ持っているかを意味している。

アリ・アブダール『Feel Good 快適な努力で最高の成果を上げる方法』(東洋館出版)
アリ・アブダール『Feel Good 快適な努力で最高の成果を上げる方法』(東洋館出版社)

大まかに言えば、自己効力感とは「自信」を表す心理学の専門用語である。コントロール感を築くための1番目の方法は、自信を高めることだ。

バンデューラが初めて自己効力感という概念を提唱してから半世紀のあいだに、非常に多くの研究が、自らの能力に対する自信があればあるほど(すなわち、自己効力感が高ければ高いほど)、実際に能力が高くなることを示してきた。心理学者のアレクサンダー・スタイコビッチとフレッド・ルーサンスは1998年、被験者延べ約2万2000人を対象にした114件の研究を分析し、バンデューラの主張の正しさを裏付けた。

そう、「できる」と信じることは、「自分はできる」と確認するための第一歩なのだ。

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アリ・アブダール 医師、インフルエンサー
ビジネスとの両立で忙しい日々を過ごしていたケンブリッジ大学での医学生時代に「生産性の科学」に目覚める。イギリス国民保健サービス(NHS)で医師として働きながら、健康的で、幸福で、生産的な生活を送るための方法についてYouTubeで情報発信を開始。数年後、エビデンスに基づいた彼の動画やポッドキャスト、記事は、世界中の数億の人々から支持されるようになった。2021年、医師の仕事から離れ、人生を豊かにするための科学的な方法を世に広めるという仕事に専念。著書に『Feel Good 快適な努力で最高の成果を上げる方法』(東洋館出版社)がある。

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(医師、インフルエンサー アリ・アブダール)

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