「ダイエット食品で楽にやせる」は幻想にすぎない…ドラッグストアに売っている「健康食品」の不都合な真実
プレジデントオンライン / 2024年12月16日 17時15分
※本稿は、松永和紀『食品の「これ、買うべき?」がわかる本』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■マルチビタミンの健康効果ははっきりしない
マルチビタミンとは、多種類のビタミン類を組み合わせて、錠剤やカプセル型のサプリメントにしたものです。米国では、成人の3分の1はマルチビタミンを摂っているとされています。ところが、意外なことに健康効果ははっきりしません。
米国で約40万人を対象に20年間以上にわたってフォローした調査では、摂取していない人たちと比較して死亡率、寿命に違いがありませんでした。
ビタミンといっても多数あり、それぞれ体の中での役割が異なります。また、通常の食生活によるビタミン類の摂取量も人により大きく異なります。
特定のビタミンが不足している人がマルチビタミンを摂れば、不足分の補給にはなりますが、不足していないほかのビタミンについては過剰摂取になるかもしれません。また、食事で十分に摂っている人も、マルチビタミンで過剰摂取に陥るリスクがあります。
マルチビタミンによく含まれる水溶性のビタミンCやビタミンB群は、多くとっても尿に排出されるので、過剰摂取の害は出にくいのです。ビタミン剤を摂った後、尿が黄色になりますが、あれは、必要としなかったビタミン類が排出されるため。出ていってくれれば体への害はありません。
■多めに摂っておけば大丈夫ではない
一方、脂溶性のビタミン類は体に蓄積しやすく、過剰摂取の影響が起こりやすくなっています。ビタミンAは摂り過ぎによる肝障害や骨密度の低下、骨折などが報告されていますが、レバーに多く含まれるため、レバー好きの人は要注意です。
とくに鶏レバーや豚レバーはビタミンAが非常に多く、約20g食べただけで日本人の食事摂取基準2025年版の耐容上限量を超えてしまいます。
ちなみに、野菜に含まれる栄養成分のβ-カロテンは、体内でビタミンAが足りなければビタミンAに変わる栄養素。抗酸化作用によるがん予防効果も期待されて、米国でサプリメントを長期間摂取してもらう大規模試験が行われました。ところが、喫煙者では健康効果どころか、肺がんリスクが上昇することが報告され、急遽試験が中止されました。
また、ビタミンDの長期の過剰摂取も、カルシウムの過剰吸収や腎障害につながりやすいとされています。
こうしたことから、多くの国の機関や医療機関は、マルチビタミンを推奨していません。バランスのよい食生活が基本です。血液検査や症状などによりビタミン類の摂取不足が確認された場合には、補給目的で単一のビタミン剤を一定期間処方する、というのが一般的な対応。ビタミン類は、「多めに摂っておけば保険になる」という類いのものではないのです。
■風邪に効く食べ物はない
毎年、冬になると、「インフルエンザや風邪を予防したり、症状を和らげたりする食べ物はなんですか?」と問われるので、「科学的根拠、エビデンスの強いものなどありませんよ」と答えます。
ヨーグルトの企業などが盛んに、動物試験やヒトが食べる小規模の試験結果で「効果があった」とアピールして売っています。しかし、大規模な試験で確認しエビデンスが強まった、という話は聞こえてきません。機能性表示食品では、乳酸菌摂取などによる「免疫機能の維持」をうたう製品も販売されていますが、エビデンスとして強いとは言えません。
米国立補完統合衛生センターが、簡潔な情報発信をしています。インフルエンザに役立つ食品や民間療法など、補完的な対策は「ない」。
風邪については、亜鉛サプリメント、鼻の洗浄、子どもの夜間の咳を鎮めるためのはちみつ、重度の身体的ストレス下にある人のビタミンC摂取、ヨーグルトなどプロバイオティクス、瞑想については「見込みはある」。
しかし、ほとんどの人が摂るビタミンC、キク科のハーブのエキナセア、ニンニク、アメリカニンジンについては、「エビデンスが矛盾していたり不十分であったり、ほとんど否定的」というのが結論です。
同センターは、「インフルエンザと風邪のための天然物についての5つの助言」という記事でも同様の内容を解説していますが、1番目の助言は「インフルエンザに対抗する最高の予防策は、ワクチン」というものです。
■ダイエット食品の効果はわずか
健康食品でいちばんの売れ筋はなんといってもダイエット食品です。機能性表示食品としてこれまで届出された約7000件の製品のうち2500件は、脂肪に関する機能性をうたうもの。トクホでも2割強が脂肪をターゲットとしています。
さまざまな形態の健康食品の中でも、手軽にとれるサプリメントが人気です。しかし、栄養学者は「摂取するエネルギーよりも消費するエネルギーのほうが多ければ痩せるというだけ」と口を揃えます。
ダイエット食品の「体内での脂肪の燃焼を促す」などの売り文句も、根拠となった論文を読むと、効果があってもほんのわずか。食べ過ぎや運動不足などがすぐに帳消しにしてしまいます。
■「健康食品で楽にやせる」は幻想
たとえば2017年、消費者庁が葛の花由来イソフラボンを含む機能性表示食品の事業者16社に対し、景品表示法に基づく措置命令を出しました。機能性の根拠となる試験はBMI25~30の太めの人を対象に行われ、3カ月摂取して約1kg減、ウエスト1cm減という結果でした。
統計学的には有意に差あり、ですが、実際上は1日で変動するレベルの違いしかありません。ところが、広告ではスリムな女性が大きなジーンズをはいている写真を掲載したり、「たった3カ月で、体型も人生も変わった!」などとうたったりしていました。こうした誇大広告は多く、国や都道府県などの取り締まりが追いつきません。
効かないだけならお財布が痛むだけなのですが、過去には、非常に強い医薬品成分を含む無承認無許可医薬品が摘発され、死亡事故が起きた事例もありました。健康食品で楽にやせる、というのは幻想。私はダイエット食品を買う価値はない、考えます。
■ヒアルロン酸の効果は疑問
ヒアルロン酸は、皮膚や筋肉、軟骨などに含まれる物質で、加齢とともに減少するとされています。そのため、化粧品として外から塗ったり、皮膚に注入する美容整形が行われています。しかし、食べて効くか、というと、エビデンスは強くなさそう。
皮膚の水分保持効果などについての試験が多数行われていますが、効果があったとする論文となかったという論文の両方があり、確定的なことは言えません。
国内では、肌の水分保持に役立つなどとして多数の機能性表示食品が販売されています。表示の科学的根拠となった6つの研究のうち5つで、統計学的に有意な効果を示した、としています。
ただし、そのうち4つは、ヒアルロン酸の原料メーカーの研究員による成果。関係のない機関による「効果あり」の論文は1つしかありません。
国内の別の食品メーカーの試験では、肌の水分保持については「効果なし」という結果でした。自社の製品を研究して「効果あり」と判断した論文は、バイアスが大きくかかっている可能性があるため、学術的には尊重されません。
「エビデンスとしては弱い」ということは消費者として理解しておいたほうがよい、と思います。ただし、安全性に関しては、海外の研究機関やクリニックの解説などを見ても、問題視するものはありません。
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科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書、科学ジャーナリスト賞受賞)など。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。記事は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます。
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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)
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