シジミやウコンはむしろ肝機能を低下させる…多くの人が誤解している「健康に見えて実は肝臓を傷つける行為」
プレジデントオンライン / 2024年12月20日 16時15分
※本稿は、尾形哲『甘い飲み物が肝臓を殺す』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■脂ものを控えても肝機能は改善しない
スマート外来などで日々診療をしていると、患者さんからしょっちゅう「反省の弁」を聞かされます。たとえば、次のような感じです。
「脂肪肝って、脂ものさえ控えていれば治ると思ってたんです。肉の脂身とか揚げ物とか天ぷらとかは気をつけてたんですけど、毎日ごはんやそば、うどんなんかはたくさん食べてましたし、甘い飲み物も飲んでたしお菓子もけっこう食べてました……。でも、いま思えば、それが肝臓によくなかったってことですよね」
「健康によかれと思って、水代わりにスポーツドリンクを飲んでましたし、毎日野菜ジュースも飲むようにしてたんです。それに乳酸菌飲料も……。まさか、その習慣によって脂肪肝が悪化するなんて思いもしませんでした」
「私、脂肪肝はダイエットしなきゃいけないと聞いたんで、ケーキとかプリンとかスナック菓子とかは半年間も食べるのを我慢してきたんです。でも、甘い飲み物をやめようなんていう考えは全然頭に浮かびませんでした。100%オレンジジュースや甘い缶コーヒーは毎日のように飲んでましたし、夜は甘いカクテル・サワーも飲んでました……。『ケーキ断ち』や『お菓子断ち』をがんばっても一向に肝機能が改善しなかったのは、そのせいだったということですよね」
■甘い飲み物が肝臓に大きな害をもたらす
こういう具合に、「肝臓をよくしよう」「脂肪肝を治そう」という意思はちゃんとあるにもかかわらず、「ピント外れの努力」や「無駄な努力」をして残念な結果を招いてしまっている人は非常に多いんですね。たぶん、みなさんの中にも心当たりのある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
なぜ、こういう人が後を絶たないのか。その原因には、まず、「甘い飲み物が肝臓に大きな害をもたらす」ということが、まだ一般の方々に浸透していないという点が挙げられます。それと、もうひとつ、「肝臓がどういう臓器なのか」「肝臓の健康を回復させるためにいったい何をしたらいいのか」という基本的な知識があまり知られていないという点も大きく影響しているのではないでしょうか。
そこで、肝臓を元気にするために、ぜひともみなさんに知っておいてほしい基礎知識を「9の心得」として紹介していくことにします。みなさん、これらの心得を頭に入れて、日々ご自身の肝臓と向き合っていくようにしてください。そのうえで、今後は「ピント外れの努力」「無駄な努力」ではなく、確実に肝臓の健康レベルアップに結びつくことに力を注いでいくようにしましょう。
肝臓はもともと驚異的な回復力を備えた臓器です。9の心得を実践してその回復力を後押ししていけば、肝臓はぐんぐん元気になっていくでしょう。元気になった肝臓がもたらす生命力のパワーは、きっと、みなさんの人生にびっくりするくらいの変化をもたらしてくれるはずです。
■シジミ、ウコンは肝臓にいいのか
〈心得〉肝臓のためになるのは「足し算」よりも「引き算」
世の中には「肝臓の数値が悪いのを気にしながら、毎日たくさんお酒を飲んでいる人」や「健診で脂肪肝を指摘されたのを気にしながら、毎日たくさんのごはんやお菓子を食べている人」がわりといらっしゃいます。
また、そういう方々の中には「せめて肝臓のために何かいいことをしよう」という思いからか、シジミの健康食品を摂ったり、ウコンのサプリメントを飲んだり、漢方薬を試したりしている人がけっこう少なくありません。みなさんの中にも思い当たる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、申し訳ないのですが、シジミやウコン、漢方薬などにすがろうとするのは、私の目からは「かなり見当違いの努力をしている」ようにしか映りません。それに、こういったサプリや健康食品に頼ることで、かえって肝機能を悪化させてしまっている人も大勢いるのです。
■逆に肝機能を疲弊させてしまう
たとえば、シジミのオルニチンには解毒作用を上げて、機能低下した肝臓をサポートする効果が報告されています。ただ、その一方、シジミには鉄分が多く、その鉄分が弱った肝臓をさらに弱らせてしまう恐れもあります。
肝臓には鉄などのミネラルを貯蔵する働きがあって、普段から鉄を摂り過ぎていると、多くの活性酸素が発生して肝臓の炎症を加速させてしまうことになりかねないんですね。
ウコンも、肝臓の疲れを取るとされ、数多くのサプリが市販されています。ただ、こちらもシジミと同様に鉄分が多く含まれているのです。なかには、鉄分を含まない商品もあるようですが、私は、スマート外来にやってきた患者さんがウコンを飲んでいた場合は、まずそれをやめてもらうようにしています。
ウコン以外の「肝臓によいとされる漢方薬」にも言えることですが、「薬効が高い」とされているものは、必ずと言っていいほど肝臓に負担をかけることになります。その薬効成分を代謝したり解毒したりするために、弱った肝細胞にさらなるハードワークを強いることになり、逆に肝機能を疲弊させてしまうことにつながってしまうのです。
肝臓によいと信じて長年飲んできた薬やサプリが、じつは肝機能を障害する原因になっていたというケースも少なくありません。脂肪肝や脂肪肝炎を抱えている方は、こうしたものに対しては安易に手を出さないほうがいいでしょう。
■「足し算」ではなく「引き算」で考える
そもそも私は、肝臓の健康を長くキープしていくには、「肝臓にいいものを多く摂る」のではなく、「肝臓に悪いものをできるだけ減らす」というスタンスをとることが大事だと考えています。
つまり、「あれを摂りましょう、これを摂りましょう」ではなく、「あれとこれをやめてみましょう」という姿勢を基本にするべき。「足し算」ではなく、「引き算」の発想で肝臓をよくしていこうと考えることが重要なんですね。
いまの食生活から真っ先に引き算をするべき対象は、もちろん「甘い飲み物」です。比較するのもヘンだとは思いますが、肝臓の疲れを回復させるという点では、たぶん甘い飲み物をやめるだけで、「シジミ」や「ウコン」の何百倍、何千倍もの効果が得られるのではないでしょうか。
■ダメージがなければ肝臓が勝手に回復する
また、引き算するべき対象は、甘い飲み物以外にもいろいろあります。アルコールを減らしたり、いつも食べているごはんやお菓子の量を減らしたり、いつも何気なく買っていた超加工食品を買い物カゴに入れないようにしたりするのもいいでしょう。それに、毎日いろんな種類の薬をたくさん服用している人は、その薬を必要最低限の数量に絞ることも肝臓の負担を減らすことにつながります。
とにかく、「肝臓のために何か始めなきゃ」と思い立ったなら、足し算ではなく引き算の発想で「その何か」をスタートするようにしてください。
先にも述べましたが、肝臓にたまったダメージは、「肝臓に悪いもの」を減らすと自動的に軽減します。肝臓には驚異的な再生回復力が備わっているので、自分の中から悪いものが引かれてダメージが薄れると、どんどん勝手に回復への道を進んでいくようになるのです。
ですから、みなさんも、こうした「引き算ナビゲート」で肝臓の自己回復力を引き出すようにしてください。ぜひ、悪いものを減らすことで、肝臓を回復のレールに乗せてしまうようにしましょう。
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肝臓外科医
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、 2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす食事術』、『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『肝臓から脂肪を落とす お酒と甘いものを一生楽しめる飲み方、食べ方』(いずれもKADOKAWA)などがある。
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(肝臓外科医 尾形 哲)
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