「ユニクロに+1000円」の絶妙さ…「グローバルワーク」がショッピングセンターの人気店に成長できたワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月2日 9時15分
■業界3位「アダストリア」の人気ブランドが好調
国内のアパレル小売店の売上高は1位がユニクロやジーユーを展開するファーストリテイリング、2位がしまむらで、他を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っていることは広く知られています。
それでは、3位をご存知でしょうか。
ジワジワと売上高を拡大し続けて3位に上り詰めたのがアダストリアです。社としての知名度はファーストリテイリング、しまむらに比べると一段階低いと感じられますが、最近ではイトーヨーカドーの衣料品売り場と提携して「ファウンドグッド」というブランド展開を開始したことから、一般層からの知名度も高まりつつあるのではないでしょうか。
また、一度撤退して2023年に再上陸した「フォーエバー21」の国内向け商品をライセンス生産し、店舗運営を開始したことも知名度アップに寄与しているでしょう。
ほかにも、「niko and ...」(ニコアンド)、「LOWRYS FARM」(ローリーズファーム)、「studio CLIP」(スタディオクリップ)というブランド名を聞いた人もいるでしょう。これらもすべてアダストリアのブランドです。
そんなアダストリアの最大のブランドが「GLOBAL WORK」(グローバルワーク)であり、同ブランドがアダストリア全体の好調を牽引しています。
今回はグローバルワークの好調の要因を見たいと思います。
■売り上げの2割を占める「グローバルワーク」
アダストリアの2024年2月期連結決算は売上高2755億9600万円(対前期比13.6%増)、営業利益180億1500万円(同56.4%増)、経常利益183億8900万円(同52.9%増)、当期利益135億1300万円(同79.2%増)と大幅増収増益で、2025年2月期連結決算の売上高は2900億円の見込みです。
中でもグローバルワークの24年2月期売上高は対前期比13.3%増の516億7300万円で、ついに500億円の大台を突破しました。数十ブランドを持つアダストリアにとって、売上の2割を占める巨大ブランドといえます。
現在では大型ショッピングセンター内のテナントとして、「グローバルワーク」はユニクロやジーユーなどとともにお馴染みのブランドだといえます。業界内でも「大型ショッピングセンターはユニクロ、ジーユーに次いで強いテナントがグローバルワークだ」と指摘する専門店社長もいるほどに堅調です。
多くの方にとってグローバルワークというのは10~15年くらい前からブランドとして認識し始めたというところではないかと思います。比較的に耳新しいブランドとして捉えられているのではないでしょうか。しかし、意外なことにブランドとしての歴史は長く、今年10月にはブランド設立30周年を迎えました。
■20年前といまでは商品テイストが異なっていた
ブランドが設立された1994年当時の記憶を思い返してみても、筆者にはグローバルワークというブランド名を耳にした覚えはありません。しかし、2000年代前半、もっと正確に言えば2003年頃までくると、イオンモール内にあったグローバルワークで買い物をした記憶があり、今でもその時に買った帽子は残っています。なので、20年以上前には大型ショッピングセンター内への出店が急速に広がっていたことになります。
この当時のグローバルワークは商品のテイストが大きく異なっていました。
当時のグローバルワークはファミリー向けブランドではあるものの、いわゆるビンテージテイストが強いアメカジブランドでした。天然素材重視で色あせたようなジーンズやワークパンツがメイン商材のブランドだったのです。当時は筆者もアメカジ好きだったので、手ごろな値段設定と相まって購入したことを今でも鮮明に覚えています。
そんなグローバルワークが都会的なファミリーカジュアルに商品テイストを変えたのは2000年代後半からのことです。
■アダストリアの前身はジーンズカジュアル店
グローバルワークに限らず、アダストリアにはジーニングカジュアル(ジーンズを基調としたカジュアル)からスタートしたブランドが少なからずあります。ローリーズファームしかり、レイジブルーしかりです。理由は、アダストリアの前身が「ポイント」という名のジーンズカジュアル専門店チェーンだったからです。
先ごろ買収が発表されたライトオンやマックハウスに代表されるように、ジーンズカジュアル専門店チェーンという分野は凋落が目立っています。その一方で、取扱い商材を変えて生き残った元ジーンズカジュアル専門店チェーンも存在します。その代表が都心型セレクトショップとなったアーバンリサーチであり、SPA型大手となったアダストリアなのです。SPAとは、アパレル商品の企画・開発から製造、販売までを一手に行うビジネスモデルを指します。
ポイントがSPAにシフトするきっかけとなったのは、97年頃にローリーズファームをSPA化したことです。SPA化を機にローリーズファームに一躍火が付いたことで自信を深めたと考えられます。
■「キレイ目」のアイテムが増えた
茨城県を拠点としたポイントは、筆者にとってあまり馴染みのあるブランドではありませんでした。個人的な思い出を語らせてもらうと、95年に大阪市内のターミナル駅の一つであるJR天王寺駅に天王寺MIOというファッションビルが開業した際、5階のメンズフロアに「ポイント」が出店していたのが、ポイントを知った最初になります。
当時のポイントは「リーバイス」のジーンズや「ディスカス」のTシャツなどを仕入れて販売する「普通にありふれた」ジーンズカジュアル店でした。
2000年頃のことだったと記憶していますが、一顧客にとっては突然それらのブランド物が廃止され、自社オリジナル製品だけになったのです。商品のテイスト自体は従来型のアメリカンカジュアルでしたが、慣れ親しんだブランド品ではなくなったので、当初戸惑いました。価格は高くはないのですが、それでも見知ったブランド品ではない商品なので買うのをためらいました。
これはMIO店に通っていた当時の筆者の肌感覚ですが、店頭を見ているだけでも、オリジナルに変えた当初は相当に売れ行きが悪かったのではないかと推測されます。いつ見ても客入りは悪く、商品は減っている様子がありませんでした。夏・冬のバーゲン時期には一気に値下げしていたので、相当に在庫を抱えていたのだと思います。
商品の出来栄えもブランド品に比べると荒さが目立っていました。使用生地も等級が低そうに見え、縫製も粗雑でした。しかし、徐々にその辺りは改善され、店名が「ポイント」から「レイジブルー」に変わってからはアメカジからも脱却し始めました。
その「レイジブルー」のアメカジ脱却から何年か後に「グローバルワーク」もアメカジブランドではなくなり、今のような商品群に変わりました。先に述べたような色落ちしたダメージ加工のジーンズなどから、仕事でも履いていけるような淡い色のスラックスなど、いわゆる「キレイ目」のアイテムに移ったわけです。
一顧客として見てきた変遷はこんな感じです。
■ユニクロに「+1000円」の絶妙な価格
グローバルワークは着実に売り上げ規模を拡大していきます。ついに500億円を突破し、2030年2月期の売上高目標に1000億円を掲げるまでに成長しました。直営型アパレルブランドにおいて、単独で売上高1000億円を国内で達成しているブランドはユニクロ、ジーユーなど数えるほどしかありません。値段的にも商品デザイン的にもこれといって大きな特徴のないグローバルワークが好調な理由はどこにあるのでしょうか。
まず、価格的には決して激安とは言えないながら、高すぎるわけでもありません。ユニクロに平均的に1000~2000円プラスするだけで買える価格帯なので、買いやすい価格帯だといえます。
対象顧客は20代後半~40代前半の子育て世代の家族だと思われますが、その世代には比較的に手の届きやすい価格帯でしょう。ただ、2020年以降世界的に原材料費・燃料費の高騰などで価格は上昇する傾向になったので、さらに値段を抑えた「グローバルワークスマイルシードストア」という新ラインも開始しました。
次に商品デザイン面ですが、いわゆるベーシックなデザインの商品が多くあります。またブランドロゴが入っている商品もほとんどありません。ベーシック寄りデザインで胸にブランドロゴも付いていないので、ユニクロやジーユーといった他社のブランドともコーディネートしやすくなっています。
■アメカジからの脱却で「新しいマス層」を開拓
そして3つ目には、ビンテージテイストの従来型アメリカンカジュアルからうまく脱却できたことを挙げたいと思います。これはあくまでも個人的な意見で業界の総意とは言えませんが、グローバルワークを含め、アダストリアの全ブランドに当てはまるのではないかと思っています。
色落ちしたジーパンにトレーナーを合わせてその上からワークジャケットを着るといった代表的なアメリカンカジュアルテイスト一辺倒のブランドは、2000年代半ば以降、苦戦している傾向が多く見られます。
そのテイストをどうにかこうにか守り抜いて来た全国規模のジーンズカジュアルチェーン店のトップ2だったライトオンとマックハウスが減収減益を続けて、ついに買収されるようになったことがそれを象徴しているといえます。
それ以外でも、アメリカンイーグルやオールドネイビーが早々に撤退に追い込まれたこと、アバクロンビー&フィッチが鳴り物入りで上陸したものの鳴かず飛ばずを続けていることも、国内マス層の従来型アメリカンカジュアル離れの一端だと見ています。
アメリカンカジュアルの需要は決してゼロにはなっていませんが、もうかつてのようなマストレンドではなくなっているようにみえます。グローバルワークを含めてアダストリアの全ブランドは一早くそこから脱却して都心型カジュアルブランドへと変貌しました。
もちろん、旧来のファンはいたでしょうが、それよりも成長性を考慮して新しいマス層を掴みに行ったと考えられます。当時は懸念する声も多くありましたし、実際に離れた顧客もいたと思いますが、結果的には新しいマス層を取り込むことに成功したといえます。
■わかりやすい商品名で売り上げ増
わかりやすい商品名も新規顧客の獲得に一役買ったといえるでしょう。アダストリアの木村治社長は他のインタビュー記事で「わかりやすい商品名に変えたこと」を好調の要因のひとつとして挙げています。「ウツクシルエットパンツ」「さらさらリラックスブラウス」「メルティニット」などです。
「ウツクシルエットパンツ」はもともとは「TRテーパードパンツ」という名前でした。アダストリアによると、名前を変えた2020年は前年比で売上高が20%もアップし、これまでに累計455万本を売り上げたといいます。
ともすると正統派のファッション業界人からは「ベタ」と言って嫌われるネーミングですが、マス層にアピールするには「わかりやすさ」は不可欠です。ユニクロも「感動ジャケット」「感動パンツ」「ドライ」「ヒートテック」などのわかりやすいネーミングの商品でヒットを連発しています。
他にも岡本の「まるでこたつソックス」や無印良品の「綿であったかニット」など一目でその機能や特徴が頭に入ってくるがゆえにマス層に売れている衣料品は数多くあります。マス層には、一見オシャレだが意味の理解できないフランス語の商品名よりも、ベタでもわかりやすい商品名のほうがはるかに強く購買を後押しします。
同業界にはいまだに「外国語を使ったカッコイイ名前の商品こそがイケている」という考えを持った人が少なからずいて、ベタな名前の商品は失笑される危険性があるのも事実です。それを恐れずにわかりやすい商品名を採用したこともグローバルワークの成長には大きな要因となったといえるでしょう。
すでに台湾や香港に出店しているグローバルワークは、25年はフィリピンやタイといった東南アジアへの出店を強化するといいます。同社は「日本と同じくミドル層の顧客獲得を目指す」と言っています。決して派手さはないグローバルワークが今後もジワジワと拡大し続け、30年2月期に売上高1000億円に到達できるかどうかを注視したいと思っています。
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ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)
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