「誰かに話したら勉強を教えない」と脅迫し…小学校教師がビデオカメラに収めていた女子生徒への「鬼畜の所業」
プレジデントオンライン / 2024年12月20日 16時15分
■懲役30年の元小学校教諭が生徒に行ったおぞましい行為
2009年9月に広島地裁で行われた判決公判に出廷したのは、広島県の元公立小学校教諭・M被告(当時43)である。灰色の半そでシャツに灰色のズボンという姿の彼は、緊張しているのか、硬い表情を浮かべていた。
彼が罪に問われたのは、01年から06年にかけて、教え子である9歳から12歳までの小学生女児10人に対して行った、強姦46件、強姦未遂11件、強制わいせつ25件、児童福祉法違反13件について(後述するが控訴審で一部変更)。
判決言い渡しに際し、証言台へと呼ばれた同被告に向かって、裁判長は彼の犯行内容に触れ、「鬼畜にも劣る浅ましい蛮行」であると断罪して、主文を読み上げた。
「主文、被告人を懲役30年に処す」
その言葉を直立の姿勢で聞いていたMは、緊張した表情を変えぬまま、胸を小刻みに揺らしている。
結果として、この元教諭に下されたのは、有期刑としては上限の判決だった。
事件が発覚したのは04年のこと。
公立小学校を卒業した女子生徒が、在学中にMから体を触られていたことを、周囲に相談したことがきっかけとなる。関係者から通報を受けた広島県警は、08年5月にMを強制わいせつ容疑で逮捕。その後の捜査で、余罪が次から次へと出てきたのだ。
■女児をひざの上に載せ…
Mは89年から08年にかけて、広島県内の6校の小学校に勤務しているが、教師になって2年目から、上記の犯行に及んでいたことがわかっている。
「被告本人の上申書によれば、これまでに延べ27人の生徒が被害に遭っています。罪に問われたのは、01年から06年にかけての犯行。この時期に勤務していた小学校での、生徒10人に対するものでした。そのようにしたのは、これ以上に審理件数を増やしても、量刑は増えないということと、いたずらに公判期日が延びることを避けるための判断だとみられています」(司法記者)
こうして始まった公判のなかで明らかになった犯行内容は、教育者にはあるまじき卑劣なものだった。
「教え子で気に入った女児がいると、Mはまず膝に乗せて反応を見ながら、徐々に胸などを触り、拒否や抵抗を示さない生徒を選りすぐっていました。そして、空き教室や自家用車内などの人目につかない場所で女児を性的暴行。その際にはあらかじめ、ビデオカメラや女児の履き替え用のパンツ、さらにマット、潤滑用のジェルやローターなどの玩具まで用意していました」(捜査関係者)
■「もし誰かに話したら写真をバラまく」
たとえ暴行の恐怖で女児が泣き叫んでも、行為は続行されたという。
Mは公判中に「嫌がる児童に(性行為を)続けることはなかった」と否定していたが、判決公判で裁判長は「被告の証言は信用できない」と断言。家宅捜索で押収された、犯行を録画したDVDの中で、嫌がる女児に対する性行為の際に、「今日は入りにくいワ」などと、Mが口にしていたものがあることが明らかになった。
なお、これまでにMが撮り貯めてきた動画のなかには、暴行の様子とともに、周囲の教室での授業の音声や、外で遊ぶ生徒の声なども入っていたことがわかっている。前出の捜査関係者は憤る。
「Mの犯行が悪辣(あくらつ)なのは、嫌がる幼い児童に対して『それなら勉強を教えない』と脅したり、無視と称して口をきかなくなったりの嫌がらせを繰り返し、要求を受け入れさせていたことです。
また彼は、特定の女子に対してだけ、他の児童がいる前でジュースをあげるなどの『えこひいき』をしており、気に入られている子とそうでない子の差別化を煽っていました。
そんなMですが、女児への性的暴行が露呈することへの恐れはあったようで、犯行を終えてからは、口止めを企図して、『もし誰かに話したら勉強もスポーツも教えない』や、『(撮影した)写真をバラまく』と脅したりもしています」
■被害者たちは今も悪夢にうなされる
元教諭の悪辣な犯行内容はそれだけにとどまらない。Mは校内で女児への性的暴行を加えた約10分後に、別の女児に対して性的暴行を加えることもあったことが、押収された映像の解析から明らかにされている。
さらに、複数の女児を同時に呼び出し、Mとのわいせつ行為を順番に撮影させることで、相互の羞恥心を軽減させるとともに、同じ秘密を持たせることによって、被害を口外しにくくさせたと、公判のなかでは指摘された。前出の司法記者は言う。
「被害に遭った女児の中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、卒業後も通院を続ける者がいます。そうした被害女児の母親の一人は、公判での意見陳述において、『娘は今まで(親に被害を)言えなかったのは、嫌われると思った。捨てられると思ったからだと言っています。いまだに怖い夢を見てうなされたり、生きる意味がないとリストカットもした。娘の笑顔、これまでの生活を返してください』と訴えていました」
教師の父親を持つMは、広島県出身。岡山県の中高一貫校に進学してバレーボール部に入部した際に、同部の顧問に憧れて教育者を目指すようになり、国立大学の教育学部に入学していた。
■家庭を持っても集め続けたもの
「Mは大学時代にはすでに少女を性の対象としており、当時から児童ポルノの写真集を収集していました。また、実生活でもデートを口実に誘い出した複数の小学生と性行為を繰り返しており、もし誰かに話したら、ビデオ撮影をした映像が表に出てしまうことを脅しの材料にして、口止めしていたことを供述しています」(広島県警担当記者)
そうした自身の歪んだ欲望を叶えるために、小学校教師という職を選んだとすれば、まさに確信犯的犯行とみるべきだろう。Mは中学校教師の妻(裁判中に離婚届が送付されている)との間で一児をもうけてからもなお、児童ポルノの収集を続け、勤務先で犯行を重ねていたのである。
「学校では情報系の授業でパソコンとかを教え、体育部の顧問をやっていましたけど、よく女子に触ったりするから、キモイとか言われて、嫌われていました。事件のことはテレビで知りましたが、同級生の誰かが被害に遭っていたかもと考えると、ショックです」(Mが勤務していた小学校の卒業生)
■裁判長の忸怩たる思い
被害に遭った女児のみならず、その家族、さらには同級生などの心にも、深い傷を負わせたMに対し、有期懲役しか下せないことの無念があったのだろう。裁判長も以下の言葉を口にしている。
「有期懲役刑を超える刑を選択する余地のない現行法の枠内では、被告人に対しては、その最高刑をもって臨むほかない」
だが、そうした忸怩たる思いはまったく通じなかったようだ。
懲役30年の判決を受けたMは、「教え子を強姦したというのは事実誤認である」として、同月のうちに控訴したのである。
10年3月、広島高裁で開かれた控訴審の判決公判において、裁判長は「無軌道極まりない」として、量刑を不服としたMの控訴を棄却。一審での懲役30年の判決を追認した。
ただしその際には、一審で「強姦46件、同未遂11件」としていた事実認定について、「(Mが)挿入を試みている状況は確認できるものの、(中略)姦淫にまで至ったことは、これを十分に確認することができない」として、「強姦45件、同未遂12件」であるとの変更がされたのだった。
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ノンフィクションライター
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てノンフィクションライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。著作に『完全犯罪捜査マニュアル』『東京二重生活』『風俗ライター、戦場へ行く』などがある。
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(ノンフィクションライター 小野 一光)
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