"モンスター親"だと思うのも当然…「子どもがケガをしてる!」と激怒する母親(37)に教師が冷たく対応したワケ
プレジデントオンライン / 2024年12月18日 18時15分
※本稿は、橋本和明『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■難解な言葉で息子を2時間以上も説教
一般的なことを言えば、子育てというのは親が「子どもの身になって考えたかかわりを持つこと」だと言えるかもしれない。特に、年齢が幼く、自分ひとりでは何もできない子どもの場合はなおさらそうである。
親から子どもへの行動やコミュニケーションが、子どもに不快な思いを抱かせるだけでなく、時にはそれが大きなストレス要因となって、心に傷を与える事態にもなることがある。
【事例①:“難解な言葉”で長時間にわたって子どもを説教する父親】
Jさんは47歳のエンジニアの男性である。Jさんは妻と小学校4年生になる息子、幼稚園年長の娘の4人で暮らしていた。息子は活発で元気がよく、最近はしだいに母親の言うこともきかなくなり、「パパが帰ってきたら、叱ってもらうから」と母親から言われる場面がめっきり多くなっていた。
それを受けてJさんは仕事から帰宅後、息子をリビングに呼び寄せ、夜中遅くまで延々と説教をする。しかもその説教のあり方はJさん独特のもので、自分の専門である機械のことを比喩を用いて説明したり、小学校4年生の息子にとってはあまりにも難解な語句や四字熟語を多用したりし、2時間でも3時間でも一方的に話すのであった。
息子は当初おとなしく父親の話を聞いているものの、長時間になってきて、しかも父親の話す内容がちんぷんかんぷんであるため、あくびをし上の空で聞いてしまう。そうすると、Jさんはさらにテンションを上げ、ますます熱弁を振るうことになり、それが止まらず時間が過ぎていくという悪循環を生んでいた。
■「息子のため」という思いはあるのだが…
確かに、Jさんとしては妻から説教をしてほしいと頼まれ、父親としても息子のためにと思って時間を費やし、懸命に話をして諭そうとするのは理解できなくもない。しかし、それが目の前の息子にどう映っているか、また息子は自分の言わんとすることを理解しているかということを抜きにして自分勝手なコミュニケーションとなっている。
そこには相互にわかり合えるという感覚や相手の気持ちが伝わるといった感情は乏しく、結果的には子どもには苦痛以外の何ものでもない体験となってしまう。Jさんは四字熟語をよく知っており、この文脈でそれを使うと相手によく伝わると思っているかもしれないが、四字熟語を知らない者にとっては、外国語を話されているかのように思うに違いない。
このJさんの息子の立場になると、その場から逃げ出すこともできず、かといって聞いているふりをしないと延々に話が続き、より一層の苦痛を背負う窮地に追い込まれる。ここまでひどくはないものの、入学式や卒業式などの行事で、校長先生やPTA会長などが壇上で長々と挨拶をし、子ども心に嫌気がさした経験はないだろうか。
話される内容があまりにも堅くて馴染めず、いつ終わるのだろうかと思いながら退屈さに耐えたことを思い出してしまう。本当ならそんな式典からいっそのこと逃げ出したくも思うが、皆の手前そんなこともできずに辛さに耐えるのであるが、まさにJさんの息子はそれ以上であったはずである。
■担任教師に激怒した30代の母親
【事例②:学校からクレーマー扱いされていた母親】
子どもの身になって考えられないという事例の一つに、こんなものもあった。
Lさんは37歳の専業主婦をしている女性で、小学校4年生の息子がいる。ただ、このLさんはたびたび息子が高熱を出しているのに病院に連れて行くことも薬を与えることもしなかった。
そんなある日のこと、学校から帰宅した息子は膝に怪我をし、そこから少し出血をしていた。Lさんはそれをめざとく見つけ、「どうしたの?」と声をかけたところ、息子は学校で転んだと言った。その後、Lさんは怪我の処置をしてもらいにすぐに息子を病院に連れて行った。
実際のところはかすり傷程度の怪我であったため、消毒をするだけの処置であったが、Lさんは病院から戻るとすぐに学校に出向いていった。そして、担任の先生に対して、「怪我をしているのに、どうして病院に連れて行くとか、処置をするとかしてくれなかったのですか?」とえらい剣幕で怒りをぶつけるのであった。
学校としては、この程度の怪我はよくあることで、本人も「大丈夫」と言っていたので処置はせずに帰したと述べたが、Lさんはそれに納得しなかった。対応に当たった先生としては、「高熱を出しているのに病院にも連れて行かず、学校でちょっと怪我をしたぐらいで大袈裟に騒ぎ立てる母親。いわゆるモンスターペアレントやクレーマーだ」と考えた。
■「無関心」と「わからない」はまったく別のこと
確かに、この部分だけを抜き取れば、先生の思いもわからなくもない。しかし、このエピソードをもっと注意深く見ていくと、こんなことがわかってきた。
Lさんは自閉スペクトラム症の疑いがあり、物事を自分勝手に受け取ってしまう傾向がこれまでも多かった。相手の気持ちが理解しにくいこともあり、オブラートに包んだ言い方をせず、はっきりものを言ってしまうため、対人関係が円滑にいかずトラブルになってしまいやすい。
しかも、Lさんは他者の顔が覚えられず、何度会っても名前と顔が一致しない。それが余計に人と親密になりにくい理由にもなっていたし、人の表情が読み取れないという特徴も、そこに一因があったのである。
ここまでわかってくると、Lさんがどうして高熱の息子を病院に連れて行かなかったのかが理解できる。つまり、わが子が熱を出していることに気づかなかったのである。確かに、息子の額を触ったり、体温計で熱を測ったりすれば、高熱を出していることがLさんにもわかったはずである。しかし、そうでもしない限りLさんにはわからなかった。
多くの親なら、わが子の表情がいつもと違う、なんか顔が火照っている感じがするということを察して、熱があるのではないかとわかるかもしれない。しかしLさんの場合はそうならない。しかし、出血をしている場合はこのLさんにもすぐに気がつく。なぜなら、視覚的に明らかであるからである。
そんなことを考えると、Lさんは決して子どもに無関心でもネグレクトで放置しているわけでもない。ましてや、担任の先生が言うように、モンスターペアレントやクレーマーとは違う。逆に、息子のことを大切に思い、愛情深いところが随所に見られるのであった。
■子どもが喉を怪我してしまった驚きの理由
このLさんの事例のように、発達障害の特性があるゆえに、子どものことへの配慮が足りなかったり、意思疎通というコミュニケーションができなかったりした結果、自分本位な養育となってしまうことが少なくない。
子育ては、親が子どもをコントロールして自律を促進させたりしつけをしたりしつつも、その中で子どもの自主性を尊重することが大切なのである。すなわち“子どもファースト”となったかかわりが子どもをのびのび育てていくこととなる。
しかし、それが発達障害の特性ゆえにできない親がある。次の事例もまさにそんな事例である。
【事例③:離乳食をスプーンごと喉の奥につっこんだ母親】
Mさんは24歳の女性で、8カ月前に初めて女児を出産した。もちろん育児にも慣れておらず、子育ての様子を見ていると不慣れでたどたどしい感じが家庭を訪問した保健師にもよくわかった。
その保健師は「最初の子は誰しもそうなのよ」とあたたかい言葉をかけ、Mさんを見守っていた。そんなある日、子どもが喉を怪我して救急車で運ばれたとの連絡が保健師に入った。保健師はすぐにMさんと面接したところ、離乳食を与えていたが子どもが嫌がって食べなかったので、スプーンごと無理矢理に娘の口に入れ込み、そのときに怪我をしたのだという。
保健師はどうしてそこまで強引に離乳食を食べさせようとしたのかと不思議に感じたが、話を聞いていくとこんなことがわかってきた。
■子どもを無理やり起こし、無理やり母乳を飲ませる
Mさんはこれまでも日課の変更が嫌いで、毎日の決まり切ったルーティーンをしっかりしなくては気が済まないところがあった。
今日の予定表を分単位までカレンダーに書き込み、しかも1週間あるいは1カ月先の予定までびっしり記入していた。予定していたことが円滑にいかない場合は不安になって、時にはパニックのようになったり、気分が落ち込んだりする。
心療内科では医師から自閉スペクトラム症の疑いと指摘され、投薬こそなかったものの、Mさん自身もそんな特徴が自分にあるという認識は持っていた。Mさんは離乳食を開始する前の授乳する場面でも似たようなエピソードが見られた。
Mさんは出生まもない乳児はおっぱいを飲む量も少ないため、3時間ごとの授乳をすることが必要とどこからかで学び、その知識を入れていた。それはそれで悪くはないが、Mさんの場合は子どもがスヤスヤと寝ていても、時間を正確に計り、3時間が経ったら無理矢理に子どもを起こしてまできっちりおっぱいを与える。
当然、子ども側からすると、気持ちよく寝ていたのに急に起こされ、口に乳首をくわえさせられるので、どんな気持ちになるか想像できる。しかし、Mさんはそんなことはお構いなしに、子どもの気持ちよりも時間を優先した子育てをしていた。
■「無茶苦茶な子育て」には特別な事情がある場合も
今回の娘への離乳食時も、決まった量の食事を食べさせなければMさんは不安で不安で仕方ない。少しでも残そうとするものならその不安が極限に達して、無理矢理に口に入れ込む行動となってしまったのであった。
確かに、初めての子育ての親は何もかも不安だらけで、育児書あるいはインターネットで書かれているやり方通りにいかないと心配でならないと訴える人も多い。ただ、仮にそうだとしても、目の前の子どもの様子を見ながら、嫌がっているんだとしたらこちらの行動にブレーキを利かせることも必要となってくる。
このMさんの場合は、発達障害の特性もあったゆえ、決まり切ったことをしないと不安が増大し、しかも目の前の子どもの気持ちへの共感も働きにくかったために今回の出来事となってしまった。いずれの事例においても、親に発達障害の特性があるために、子どもの立場に立てずに自分本位な子育てになってしまったり、子どもとのコミュニケーションができずに子どもがストレスを感じ、時には傷つき体験にまで至ってしまったケースである。
そんな養育のあり方を外から見ていると、「なんと無茶苦茶な子育て」「あまりにもひどい親」と思われるかもしれないが、特性がそうさせている面も大きいのである。われわれ支援者、そして周囲の人間はそこをしっかり見据えながら、その対処の方法を考えていくことこそが大事だと言える。
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国際医療福祉大学教授
1959年、大阪府生まれ。名古屋大学教育学部卒。武庫川女子大学大学院臨床教育研究科修士課程修了。専門は非行臨床や犯罪心理学、児童虐待。大学を卒業後、家庭裁判所調査官として勤務。花園大学社会福祉学部教授を経て現職。児童虐待に関する事件の犯罪心理鑑定や児童相談所のスーパーバイザーを行う。現在、内閣府こども家庭庁審議会児童虐待防止対策部会委員。公認心理師試験研修センター実務基礎研修検討委員。日本子ども虐待防止学会理事。日本犯罪心理学会常任理事。主な著書に、『虐待と非行臨床』(単著、創元社)、『非行臨床の技術-実践としての面接、ケース理解、報告』(単著、金剛出版)、『子育て支援ガイドブック-「逆境を乗り越える」子育て技術』(編著、金剛出版)、『犯罪心理鑑定の技術』(編著、金剛出版)、『子どもをうまく愛せない親たち 発達障害のある親の子育て支援の現場から』(朝日新書)などがある。
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(国際医療福祉大学教授 橋本 和明)
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