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月給11万円、貯金ゼロ、「体を売る」という選択肢はない…台湾の貧困女性が生きるために始めた「副業」の正体

プレジデントオンライン / 2024年12月19日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bernie_photo

台湾で若者の貧困が問題になっている。フリーライターの神田桂一さんは「物価高騰の影響で若年層のホームレスをよく見るようになった。台湾は売春が原則違法なので、女性は代わりに日本ではなじみのない『ある副業』に手を出し始めた」という――。

■台北駅周辺に急増する「若いホームレス」

「近年、台北で若いホームレスが急増しています」

そう語るのは、映画化もされた小説『做工的人』(ブルーカラー)など、労働問題を中心とした著作のある台湾人ジャーナリスト・林立青氏だ。自ら「友洗社創」という企業を設立し、ホームレス、更生者、非行少年らに清掃の仕事を提供する活動も行っている。

林氏によると、若年化の傾向はコロナ禍から始まり、収束したいまもなお続いているという。

「コロナで感染拡大を防ぐために外出が制限され、その影響で日雇いや不安定な仕事で生計を立てていた低技術層の若者が多く街頭に出ざるを得なくなったのです。コロナ禍の後も、偽ショッピングサイトで買い物をしてオンライン詐欺に巻き込まれるなどして、経済的に困窮した結果、路上生活に追い込まれる人も増えました」

筆者も実際に台北駅周辺などを歩いてみた。確かにこれまでは50~70代が中心だったのが、明らかに若者と思えるホームレスを見るようになった。

台北でホームレスが集まる場所は主に台北駅の南二門外広場と万華区にある龍山寺前の艋舺公園だ。それぞれ100人程度が屋根のある高架橋下などに寝泊まりし、日中は仕事を探しに出かけるという。彼らは夜になるとシートが敷いてある自分の居場所に戻り、思い思いに静かに眠る。若者と思しきホームレスは、無精髭に疲れた表情をして段ボールに横たわっていた。

■「半導体バブル」は一部だけ

しかし、台北の若者の困窮の原因はそれだけではない。コロナ禍で弱った若者の懐に、昨今の物価の上昇や家賃の高さが追い打ちをかけているという。

台北から地下鉄で40分ほど離れた淡水区に2人とルームシェアをして暮らす20代エンジニアの呉さんは語る。

「台北の一人暮らしのワンルームは、約1万7500~2万2000台湾元(8万〜10万円)くらいします。台湾の大卒初任給の平均は3万3000元(約15万円)ほどですから、台湾の若者の給料では手が出ません。ほとんどの若者が親からの支援や、カップル同士での同棲、ときには友達3人でルームシェアをしたりしてなんとかしています」

確かに、台湾の大卒初任給の平均は10年前の約2万7000元から比べると2割ほど上昇している。だが、それは半導体大手のTSMCなど一部の大企業や高給な業界が平均を押し上げている結果だとも言われており、大多数の若者は本業の給料だけでは生活していけない。

「私のように台北ではなく、郊外の新北市や淡水に住むという手もあります。それだと家賃が1万元ほどに抑えられますから」(呉さん)

■台湾版「タイミー」で副業をする若者たち

また、台湾の若者の間では副業が一般的だ。企業でも副業を認めているところがほとんどだ。呉さんにも、本業のかたわらコンビニで副業したりしている知り合いがいるという。

「台湾では、日本でいう『タイミー』のような『小雞上工』という日雇い労働アプリが普及しており、日払いの臨時仕事や低技術の仕事を簡単に探せます。このアプリはホームレスや経済的に困窮している人々にも利用されています。ただし、専門職に適した仕事はほとんど見つかりません」(林氏)

女性はサービス業や受付の仕事が多く、レストラン、映画館、サービスカウンターが週末に臨時スタッフを募集するケースが増えているそうだ。男性の場合は、重労働系の仕事が多く、荷物の運搬、工事現場や工場での作業、洗車店やバイク修理店などの募集が多い。

台湾社会では、こうした複数の職業を経験していることをポジティブに捉える向きもある。そういう働き方は、「スラッシュキャリア(複数の職業を掛け持つ)」と呼ばれているが、実際には正社員の仕事に成長性や安定性がないため、不足分を補うためにアルバイトをせざるを得ない、というのが現状のようだ。

■「売春禁止」の台湾で女性に人気の副業

台湾では売春の取り締まりが非常に厳しい。売春目的のSNSも存在はするが、摘発のリスクが高く、日本のように「立ちんぼ」となるケースは多くない。

現地の若者に人気の副業を聞いてみるとライバー(中国語で「直播主」)という答えが返ってきた。日本ではまだあまり定着していないが、台湾では近年、人気なのだそうだ。ここでいうライバーとは、日本で思われているような雑談やゲームをする配信者ではなく、ライブコマースの売り主のことを指す。企業から依頼を受けた商品の良さなどを生放送で語り、視聴者からの質問などにも答えて購買につなげる仕事だ。

普段飲食業界で働きながらライバーをしている20歳の女性周さん(仮名)に話を聞くことができた。周さんは台北市内で友人とルームシェアしながら暮らしている。本業の月給は2万5000元(約11万2500円)だ。貯金はほぼないという。

「1回のライブ配信は1〜3時間程度で、時給で計算されます。最低保証の時給は300元(約1450円)で、商品が売れると売り上げの5〜10%ほどのコミッション料が入ります。ただ、私はまだ始めたばかりなので一番最低のものです。時給やコミッション料はフォロワー数や貢献度によって違ってきます。中には1時間で8000元(約3万7000円)から1万2000元(約5万5000円)稼ぐ人もいると聞きますが、私は、週末に2時間程度で、売り上げも全然。稼いで月に3000元(約1万3500円)程度です。なかなか厳しい仕事だと感じます」

他のライバーの女性が「104人力銀行」というサイトを教えてくれた。そこには、副業ライバー募集の求人が整然と並んでおり、競争力の高さがうかがえる。募集はほとんどが出来高制で、本人のやる気と実力次第といったところのようだ。

ライバーの募集がずらりと並ぶウェブサイト『104人力銀行』
ライバーの募集がずらりと並ぶウェブサイト「104人力銀行」

先の周さんは語る。

「ネット上に顔を晒すリスクと天秤にかけると割に合わないので、もうやめようかと思っています」

■「副業」で月収27万円を稼ぐ女性も

逆に、すでに副業の域を超えて稼いでいるのが、普段EC業界で働きながらライバーをしている30歳の女性、eleyさん(仮名)だ。

「月に5万〜6万元(約22万5000円〜27万円)ほど稼ぎます。ライバーの醍醐味は、商品のセールスポイントを理解し、リアルタイムで活発な雰囲気で商品を販売することです。お客さんが『おすすめされた商品が気に入った』と言ってくれたり、売り上げ目標を達成できたときは、お金では買えない喜びを感じます。逆に、大変なのは、体力を消耗することで、売り上げ目標を達成できないとプレッシャーが大きく、ある程度のストレス耐性がないと辛い仕事かもしれません」

だが、eleyさんのように大きく売り上げを伸ばすことができるのはほんの一握りだ。副業での一獲千金を夢見てたくさんの台湾の若者がライバーに手を出すが、思ったように稼げず、周さんのように脱落していく人は多い。

スマートフォンを使って化粧品を紹介する女性
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■政府の対応は後手後手に回っている

台湾政府は、若者の貧困問題に対して、何か対策を打ち出しているのだろうか。林氏は、こうため息をつく。

「台湾文化では、貧困は『怠惰』や『努力不足』の結果と見なされがちです。このため、貧困問題に対する政策は問題が見つかってからそれを補塡するような後手後手の性質が強く、根本的な解決を目指したものではありません。

最近は救済法が整備されつつありますが、需要には追いついていません。政府は基本的に「計画型」のアプローチを取っており、民間団体に事業計画を提出させ、一部資金を補助する形で支援を行っています。しかし、必要な予算の一部しか支援されず、社会福祉団体が取り組んでいる内容も限定的です」

台湾にもある若者の貧困問題。表面的には日本よりも、よりリベラルな社会に見えなくもないが、我々日本と同じ問題を抱えているようだ。現在、日本人観光客で賑わう台湾だが、こういう社会問題も頭の片隅にいれてもらえれば、両国の相互理解もより進むのではないだろうか。

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神田 桂一(かんだ・けいいち)
フリーライター
1978年、大阪生まれ。写真週刊誌『FLASH』記者、『マンスリーよしもとプラス』編集を経て、海外放浪の旅へ。帰国後『ニコニコニュース』編集記者として活動し、のちにフリーランスとなる。。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(菊池良との共著、宝島社)、『おーい、丼』(ちくま文庫編集部編、ちくま文庫)、『台湾対抗文化紀行』(晶文社)。マンガ原作に『めぞん文豪』(菊池良との共著、河尻みつる作画、少年画報社。『ヤングキング』連載中)

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(フリーライター 神田 桂一)

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