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なぜ都会シニアはピンピンで地方シニアはヨボヨボなのか…整形外科医が勧める健康寿命を伸ばす意外な活動

プレジデントオンライン / 2024年12月18日 9時45分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

老後を楽しく過ごすためにはどんなことに気を付けたらいいか。整形外科医の杉本和隆さんは「ひざの老化を遅らせることが大切だ。そのために、日頃から、骨盤や脚の筋肉をきたえる運動をすべきだ」という――。(第1回)

※本稿は、杉本和隆『痛みがすーっと消える 魔法のひざ体操』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■ひざの痛みを我慢してはいけないワケ

ひざの痛みといっても、その度合いはさまざま。痛みは本人の感覚であるだけに、これは強い痛みなのか、弱い痛みなのか、一時的な痛みなのか、永久的な痛みなのか、自分ではなかなか判断がつきません。

多少の痛みなら「自然に治るかも」と思っているうちに、慣れてしまうこともあります。でもそれが怖いのです。どんなに軽い痛みだとしても「痛みは我慢しない」ことが大切です。我慢しているうちに、ひざはどんどん壊れていき、我慢の期間が長いほど、治療が難しくなってしまうからです。

ひざ痛が初期から中期の場合は、手術しないで治すことができます。これを「保存療法」といいます。保存療法のおもなものには「薬物療法」と「理学療法」があります。薬物療法はその名の通り、外用薬や内服薬で治療すること。外用薬には湿布薬や軟膏などが使われ、内服薬には消炎鎮痛剤が用いられます。

痛みの原因である関節の動きをよくするために、ヒアルロン酸を関節内に注射するのも薬物療法のひとつで、初期や中期の治療には効果があります。さらに最近では厚生労働省から認可された自由診療である「PRP(多血小板血漿)療法」や「幹細胞療法」などもあります。

■鍛えるべき筋肉

理学療法には「運動療法」と「装具療法」、そして「温熱療法」などがあります。装具療法ではひざにサポーターなどの装具をつけることで、グラグラするひざを安定させ、痛みが出ないようにします。温熱療法では、温湿布や電気を当てるなど、ひざを温めることで血行をよくして痛みを軽くします。そして理学療法で一番大事なのが「運動療法」です。

ひざ痛の運動療法には「大腿四頭筋強化トレーニング」「関節可動域改善運動」などがあります。大腿四頭筋は太ももの前面の大きな筋肉で、ひざ関節を保護する最も重要な筋肉です。ここを強化すればひざを安定させることができます。

またひざ痛の人は関節が大きく曲がらなくなっているので、これをできるようにするのが、関節可動域改善運動です。

この本で紹介している体操は、ひざ痛の改善に大きな効果がある大腿四頭筋を強化する運動が中心となっており、これらの運動を日常的に行うことで大腿四頭筋がきたえられ、ひざ痛が出ない体を作ることができます。さらにいえば、「ひざ痛は大腿四頭筋の強化で改善できる!」と私は強く思っています。

■地方で目立つ実年齢より老けて見える人

現代人にひざ痛が増えているのは、ひとえに便利になった世の中、つまり現代人が運動不足に陥りやすい環境が原因のひとつと考えられます。歳を重ねると誰もが若い頃より筋肉量が落ちます。その状態で運動不足になると、筋肉はますます少なくなり、それゆえに運動が億劫になる人も多いのです。

運動不足の最大の原因は車社会です。実は都会より地方のほうが圧倒的に車社会なので、地方在住の方ほど運動不足に陥る人が多いのです。都会より交通が不便だから仕方がないとはいえ、家族ひとりひとりが自家用車を持ち、徒歩10分のコンビニエンスストアにさえ、車で向かってしまう現実。

車を運転する老人
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

私の患者さんを見渡しても、都心在住の方は意外とよく歩いています。一見、運動とは縁遠いような高齢の女性が、実は買い物好きで、百貨店の中を3時間ぐらい平気で歩いているのです。

地方在住の高齢者は、車社会の中で歳を重ねてしまったせいか、なかなか長時間は歩けないようです。学会で全国各地に行くと、地方では実年齢より老けて見える人が目立ちます。何より姿勢が悪いのです。背中が曲がっていたり、O脚になるなど、骨格に問題があると、どうしても老けて見えます。これもおそらく車社会が背景にあるのでは、と考えています。

■旅行や買い物はどんどんした方がいい

人工関節手術を行った患者さんに対しては、スポーツが好きな方にはスポーツを、旅行が好きな方には旅行を、そして買い物が好きな方には買い物を、と積極的にお出かけを勧めています。スポーツは術後2カ月から許可しています。

旅行や買い物はその楽しさゆえに無意識にたくさん歩くので、結果的に筋肉の強化になるのです。これは人工関節手術を行った患者さんだけでなく、ひざ痛初期の患者さんにも勧めます。

手術や運動でひざ痛が治っても、それで運動をやめては元の木阿弥。痛みが消えても運動をやめて筋力が低下すると、再び痛みが出てくる可能性があるからです。再発を防ぐには筋肉を維持しなければなりません。

日頃から長時間歩く人は「この歩き方をすると楽」など、正しい歩き方が感覚的にわかってきます。逆に歩いていない人ほど「歩くより、手っ取り早く走る」など、いきなりランニングをして無理をしがち。長時間歩くより、短時間走るほうが精神的に楽だからです。でもそれこそひざに衝撃を与える原因になりかねません。ゆっくりウォーキングをして、骨盤や脚の筋肉をきたえることが、ひざにとってよい運動なのです。

■ランニングはおすすめできない

医師だった私の祖父が「健康のために歩くのはよいことだが、走るのはよくない」とよく話していました。空前のランニングブームを経て、今も街中で多くのランナーを見かけます。健康のために走り始め、マラソン大会に出場する方もいらっしゃいますが、私はあまり勧めません。

その理由は正しい走り方を知らない人が走ると、ひざに衝撃が加わり、ひざ関節を痛めてしまうことがあるからです。もちろんランニングの専門家について正しい走り方を学んだうえでの挑戦ならよいのですが、そこまでできる人はなかなかいないと思います。

以前、オリンピアンの有森裕子さんが走る映像を拝見したことがあります。有森さんの体の動きを観察しようと、テレビ画面の下半分を隠してみたところ、上半身の軸にまったくブレがなく、腕を振っていなければ静止しているように見えるほどでした。

「体の軸が動かないイコール骨盤が動いていない」なので、それだけひざへの衝撃が少ないといえます。また超一流のランナーの太ももにはしっかり筋肉がついているので、ひざを痛めることもありません。

しかし普通の人の走りは体の軸が安定していないので、足を踏み出すたびに骨盤が揺れてしまい、ひざへの衝撃が大きくなるのです。

■寿命を縮める可能性

そしてマラソンと心臓の関係にも不安要素があります。マラソンは心拍数を上げるので、心臓にもよくないのです。心拍数とは心臓が打つ回数のことですが、「心臓が一生の間に打つ回数」は、哺乳動物ではほぼ同じです。

杉本和隆『痛みがすーっと消える 魔法のひざ体操』(幻冬舎)
杉本和隆『痛みがすーっと消える 魔法のひざ体操』(幻冬舎)

しかし打つ速さは動物によって異なり、ハツカネズミが1分間に600回打つのに対し、象は1分間に30回と少ないのです。この差は寿命に反映され、ハツカネズミの寿命が2~3年なのに対して、象は80~100年も生きるので、それぞれの寿命と一生に打つ心拍数は見事な相関関係にあるといえます。

これが人間にも当てはまるとすれば、心拍数を上げるマラソンは寿命を縮めてしまう可能性があるのです。ひざや心臓に与える影響を考えると、少なくとも若い頃に走る訓練をしたことがない人が、50代、60代になって、いきなりフルマラソンを目指すのは、医師の立場からするとひざにも心臓にもあまり好ましくないといわざるを得ないのです。

フルマラソンをゴールした際に得られる達成感は何物にも代えがたいものでしょう。しかしひざ関節のことを考えたら、ウォーキングを楽しんでいただきたいと思うのです。

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杉本 和隆(すぎもと・かずたか)
整形外科医、苑田会人工関節センター病院病院長
人工関節移植手術において全国トップレベルの症例数を持ち、日本人に合わせた人工関節の開発にも携わる。従来の半分ほどの切開で人工関節を移植する手術法【MIS】を用い術後の回復を格段に早めることに成功。患者さんの夢に耳を傾けそれに応える人工関節手術を行うことを信念としている。東京都立大学客員教授、アジア整形外科学会理事、日本人工関節学会評議員など

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(整形外科医、苑田会人工関節センター病院病院長 杉本 和隆)

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