「痛くない親知らず」をそのまま放置するとどうなるか…「今すぐ抜いたほうがいい親知らず」の判断基準
プレジデントオンライン / 2024年12月22日 9時15分
■親知らずを甘く見てはいけない
一般的に、親知らずは10代後半から20代前半の間に生え始めますが、大人になってから悩まされている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
30代や40代になって生えてくる方や、顎や歯の変化により埋まっていた親知らずが現れてくることもありますので、若い方だけの悩みではありません。
親知らずは、痛みがないからといって放置しておいていいというわけではありません。むしろ、無症状のまま静かに進行し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
最悪のケースでは、親知らずの炎症が周囲の組織に影響を及ぼして手術が必要になる場合や、死に至ってしまうようなケースもあるため、軽く考えないほうがいいでしょう。
■周りの健康な歯を道連れに…
まず、親知らずが位置する場所は歯ブラシが届きにくいため、磨き残しが増え、口臭の原因となったり、気づかないうちに虫歯が進行したりするリスクがあります。その影響で周りの健康な歯も虫歯になる危険性が高まります。
次に、前回解説した歯周病の進行にも注意が必要です。歯肉の腫れや出血に気づかない場合でも、徐々に歯と歯肉の境目から菌が入り込み、顎の骨を溶かしてしまうことがあります。これが進むと健康な歯も抜けやすくなってしまいます。
さらに、親知らずの生え方によっては顎骨に圧力がかかり、変形したり歯並びが悪化する事もあります。顎関節症の可能性も高まるため注意が必要です。
■口腔内から心臓や脳の病気に発展する
親知らずを放置することには、時として命に関わる重大な健康リスクがあります。
親知らずが斜めや埋まった状態であると、周囲の歯茎に圧力をかけ、細菌感染が生じることがあります。この状態を「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼び、親知らずの周りの歯茎が炎症を起こし、痛みや腫れが生じることがあります。
智歯周囲炎を放置すると、感染が深い部分に広がり、顎の骨や他の組織にも影響を及ぼす(頬部蜂窩織炎や縦隔炎)可能性があります。
私がいた救急の現場では、菌による炎症と口腔内から菌が入り込むことにより、気づかないうちに心臓内に菌の塊ができて入院し、心臓外科で手術となった例もありました。菌の塊が脳の血管に流れ込み脳梗塞などを引き起こす可能性が高い症例でした。
■生命を脅かす「敗血症」を引き起こすリスク
また感染が全身に広がると、生命を脅かす「敗血症」といった重篤な状況を引き起こすことがあります。敗血症は、体が感染に対抗しようとする過程で、全身の臓器に深刻なダメージを与え、臓器機能不全を引き起こし命に関わる危険が生じることになります。
極端な例と思われるかもしれませんが、これくらいの感染ならと思っていても、あっという間に重症になり、命の危険に繋がる場合を見てきました。
われわれが提供しているマウスピース歯科矯正「hanaravi(ハナラビ)」の患者の中にも、歯を移動するスペースを確保するためや奥歯を押すことで歯並びに影響を与えている場合には、歯科矯正を実施するまえに、親知らずを抜かないと治療が始められないケースも度々あります。
それ以外にも、いろいろな場面で抜歯をするのか? それとも抜歯しないのか? の判断を迫られる場面があります。それらはどうやって決めるべきでしょうか。
■「痛みがある」以外の抜歯理由
親知らずの抜歯は、レントゲンやCTなどの精密検査を経て、角度や露出状況などの難易度によって近くのクリニックで行うか、大学病院などで抜歯するかを判断します。
麻酔をして、歯槽骨から歯を脱臼させます。難しい場合には歯を分割などして取り出します。その後、傷をきれいにして縫って終了です。傷が治った頃に抜糸を行い、歯が抜けた後は新しい骨が形成されて埋まっていきます。
抜くかどうかは、メリットが大きいのかデメリットが大きいのかのバランスで決められます。
抜くほうが良いと判断される理由としては、すでに悪影響を及ぼしているような場合が挙げられます。例えば、のどやあごの痛みがある、親知らずが感染や歯周病の原因になっている、親知らずが虫歯になっている、噛み合わせに悪影響を及ぼしているケースなどです。
■残した親知らずが将来、活躍することも
また、将来的に悪影響を及ぼしそうなことが想像できる場合にも抜くメリットになり得ます。例えば、親知らずが原因で歯が非常に磨きづらいケースなどです。先ほども説明したように、周りの歯が虫歯になったり、口臭の原因になってしまいます。
歯科矯正を始める前に、奥歯を後ろに動かすにあたってスペースが作れそうかなども考慮に入れる場合があります。
一方で、上下の噛み合わせがしっかりできている、または完全に骨に埋まって出てこない親知らずは、特にデメリットがないため抜く必要はないでしょう。
そういった親知らずは、将来的に他の歯が悪くなった場合の移植するための歯や、入れ歯やブリッジを支える歯として利用できる可能性もあります。
とはいえ、そういった判断は素人には難しいので、必ずかかりつけの歯科医に相談するようにしましょう。
■若者より高齢者のほうが抜歯のダメージ大
抜歯は年齢が上がるにつれ骨の密度が低下し、骨が硬くなるため、抜歯自体が難しくなり、治療の負担が増します。このため、若い世代よりも抜歯後の腫れや痛みが長引きやすく、回復にも時間がかかることが一般的です。
また、持病を抱えている方も多くなるため、手術に伴う麻酔や出血のリスクが増す点も注意が必要です。特に高血圧、糖尿病、心疾患などがあると、血圧の変動や感染症のリスクが高まり、麻酔の使用にも慎重さが求められます。術後に出血が止まりにくかったり、傷の治癒が遅れる可能性も高くなります。
さらに、親知らずが周囲の歯や歯茎に問題を起こしていない場合、無理に抜くことで健康な組織や歯に悪影響を及ぼすリスクもあります。例えば、抜歯時に周囲の骨や歯茎が損傷し、後遺症として痛みやしびれが残るケースもあるため、抜歯が必要か慎重に判断することが重要です。
■自分で判断せず、専門家に相談を
加えて、免疫力が若年層に比べ低下しているため、術後の感染症リスクが高まることもあります。こうした身体的な変化を考慮し、医師と十分に相談してから判断することが必要です。
親知らずの存在は、見えないところであなたの健康を脅かす可能性があります。放置してしまうことで、将来的に大きな問題を引き起こすことも考えられます。親知らずの管理を怠らず、定期的な歯科検診を受けることで、自分の口腔内の健康を維持しましょう。
最後に、疑問や不安がある場合は、早めに歯科医に相談し、適切な治療を受けることが重要です。親知らずのリスクを理解し、健やかな口腔環境を保つための意識を持ち続けることが、より良い生活につながります。
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医師
大分大学医学部を卒業し、医師として救急医療や在宅医療に携わる。医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感し、予防を予防として実践してもらうのではなく、切り口をずらして結果予防につながっているという世界観を目指す。マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。歯科と医科を繋げるリリモアクリニック内科歯科の院長を務めながら、新聞やテレビ、WEBメディアなどで予防医療について情報を発信している。
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(医師 各務 康貴)
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