勤務時間を減らしたのに社員がどんどん辞めていく…優秀社員が愛想をつかす"ダメな会社"の残念な共通点
プレジデントオンライン / 2024年12月29日 18時15分
※本稿は、マイナビ健康経営のYouTube「Bring.」の動画「『働きがい改革』で20代の離職率は下げられる! 『達成』『承認』『自由』の3つのキーワードが意味するもの」を抜粋、再編集したものです。
■「働き方改革」と「働きがい改革」の違い
【澤円】越川さんは、一般的によくいわれる「働き方改革」ではなく、「働きがい改革」というものを提唱されています。そもそも「働きがい改革」とはどのようなものでしょうか。
【越川慎司】ビジネスパーソンの働き方を変えていく方法にはふたつのやり方があるというのが、わたしの考えです。ひとつは、雇用環境や雇用条件を改善して働きやすさを追求するというものであり、これが一般的にいわれる「働き方改革」です。もうひとつが、従業員が成果を出せて達成感を得られるようにし、従業員の満足度を高めるというものです。これが、わたしが提唱している「働きがい改革」となります。
■マイナスをゼロにしたところで効果はない
【澤円】越川さんが「働きがい改革」を提唱しているということは、「働き方改革」だけではうまくいかない企業が多いということを意味しているのでしょうか?
【越川慎司】働きやすさを追求するだけでは、会社の成長率や離職率が改善しないことがわかったのです。弊社がこれまでに支援してきた815社を対象に行った従業員満足度調査では、たとえ「働き方改革」を進めている企業であっても、例えば「リモートワークの回数を増やしてほしい」「最新のパソコンが欲しい」といった不平・不満・不快が従業員からたくさん挙がってきました。
すると、普通であればそれらの不平・不満・不快を埋めることを考えますよね? ところが、そうしても従業員の満足度は上がりません。要するに、マイナスをゼロにしてもほとんど効果がないわけです。マイナスをプラスにしなければならず、そうするために従業員が働くうえでの幸せ、つまり従業員の働きがいを追求することが有効だということが見えてきました。
■労働時間を減らすだけでは社員のモチベーションは上がらない
【澤円】「働き方改革」にもある程度評価できる面もあるわけですよね。それでも、やはり「働き方改革」だけでは問題があるということですか?
【越川慎司】「働き方改革」は、もともと長時間労働を抑制するためというのが起点でした。そのため、例えばITを導入するなどして残業をなくすことだけにフォーカスしてしまっている企業がとても多かったのです。
ただ、日本の企業の7割以上は労働集約モデルですから、単純に労働時間を減らすと売り上げも下がってしまいます。そうなると、成果が減ることになり、従業員のモチベーションも同時に低下していきます。つまり、限られた時間で成果を挙げていくことが求められるわけなので、そのために従業員が働きがいを持ち、モチベーションや意欲を高めることが有効なのです。
いま、離職率の高さは大きな社会問題となっています。20代の離職率は高く、厚労省の調査によると新卒入社後3年以内の離職率は約30%です。その解決法はさまざまかと思いますが、「働きがい改革」もそのひとつになり得ると考えます。
■「隠れ残業」で逆に業務効率が落ちる
【澤円】従業員のためを思って「働き方改革」を進めたのに、結果的には会社にも従業員にもマイナスに働いてしまったというケースがあるのですね。
【越川慎司】「働き方改革」を進める多くの企業は、従業員に「残業をするな」といいつつ「売り上げは上げろ」といいます。するとなにが起きるかというと、オフィス街のカフェが混むのです。会社員たちがオフィスを出てカフェで隠れ残業をするからです。
そうなればどうしても業務効率は落ちますし、「そもそもこんな働き方で自分は成長できるのだろうか?」といった疑問を持ってしまう若手社員が増えているというのが実情です。成長意欲を持っている若手社員には、そのような迷いや悩みではなく働きがいを持ってしっかり成長してもらいたいものです。
■働きがいを左右する3つのキーワード
【澤円】働きがいといっても、ちょっと抽象的な印象も受けます。越川さんは、働きがいをどのようなものだと分析していますか?
【越川慎司】働きがいについては、「働くうえで幸せを感じるとき」というシンプルな言葉で定義づけました。そして、815社、約17万3000人のビジネスパーソンを対象に調査したところ、働きがいに大きな影響を与える3つのキーワードがあることがわかりました。それは、「承認」「達成」「自由」の3つです。
承認はわかりやすいですよね。「お客様に『ありがとう』といってもらえる」「上司に褒められる」「昇進・昇格する」といったことで満たされます。
ふたつ目の達成は、「営業目標を達成する」「プロジェクトを達成する」など目標を達成することで満たされます。しかし、先の調査では56%の人が行動目標を持っていないことも同時にわかりました。どうすれば評価されるかがわからなければ、達成を感じることはできません。
だからこそ、リーダーの立場にある人には、たとえば経理部の部下との対話のなかで「経理処理の時間を10%減らして新たなプロジェクトに参画しよう」といった具体的な行動目標をつくっていくことが求められます。
最後の自由は、与えられる自由ではなく「自ら勝ち取る自由」を意味します。たとえば、いまはリモートワークを希望する人が大きく増えていますよね? 成果を上げて周囲から承認され、自分が希望していたリモートワークを勝ち取るといったことにより、働きがいというものを感じられるようになるのです。
■どの要素を重視するかは人それぞれ
【澤円】承認されたからこそ自由を勝ち取れるという、いまの例などまさにそうですが、これら3つの要素は密接に関連しているものだと感じます。
【越川慎司】まさしくその通りです。目標があるから達成する、達成する人は承認される、承認される人は自由を勝ち取れる――そういった流れがあることがわかってきました。もちろん、なかには3つの要素のうち達成をより重視する人もいれば承認を重視する人、自由を重視する人もいます。ですから、リーダーの立場にある人には、メンバーそれぞれがどれをもっとも重視しているのかを理解したうえでサポートすることが求められます。
■社内会議をダイエットする
【澤円】では、そのサポートについて伺います。チームリーダーなどマネージャー層がメンバーの働きがいを高めていくためには、どのようなアプローチが有効でしょうか。
【越川慎司】再現性が高いアクションとしては、1on1ミーティングがおすすめです。これは、先に触れた、メンバーとの対話のなかで具体的な行動目標をつくるためのものです。ただ、リーダーは多忙のため、対話の時間を取るのは簡単ではありません。でも、睡眠時間を削って対話の時間をつくろうとすると、健康状態を損ねて逆に業務効率低下を招いてしまいます。
ですから、睡眠時間とは別のものを減らしてほしいのです。それは、ズバリ社内会議です。わたしたちの調査では、労働時間の実に39%が社内会議にあてられていることが見えてきました。社内会議をダイエットしてメンバーとの対話の時間をつくり、一緒に行動目標をつくってほしいのです。
■承認を得るための「仮説」を立てる
【澤円】なにをすれば承認されるのか、そして自由の獲得につながっていくのかということが明白になるわけですね。一方、自分の働きがいを高めるために、メンバー自身ができることはありますか?
【越川慎司】自分の行動を「見せる化」することです。例えばセールスパーソンなら、ただ営業目標を達成するだけではなく、「マーケティングのプロジェクトにも参画して一緒に成功させたい」といった自分がやりたいことについての意志をリーダーに見せていくのです。その結果、「それいいね」とリーダーがいった瞬間、それはリーダーとメンバーの共同目標になりますから、達成すれば承認にも確実につながります。
達成したい目標が上から降ってくるのを待つのではなく、「こうすれば承認されるだろう」という仮説を基に自分から目標を見せていくというのが、優秀な若手社員の多くに共通して見られる成功パターンです。
■パワハラにならない「承認サンドイッチ」
【澤円】話をリーダー起点に戻すと、いまは一歩間違えたらすぐにパワハラといわれるといった不安を抱えているために、「チームメンバーをうまく叱れない」と悩んでいるリーダーもたくさんいます。対話のなかでチームメンバーにネガティブな話をしなければならない場面ではどのような工夫をすればいいでしょう。
【越川慎司】わたしが「承認サンドイッチ」と呼んでいる指導方法がおすすめです。いきなりダメ出しをしてしまうと、相手も身構えてしまい受け入れてくれません。ですから、その前にまずは承認をするのです。
ミーティングに遅れてきた若手の部下がいい発言をしたのなら、まず「あれはいい発言だったね」と褒めてあげて承認します。次に遅刻について指摘するわけですが、「遅刻してこなければ『もっといいよ』」といういい方にしたうえで、「次からは気をつけられるよね。いつも頑張ってくれて『ありがとう』」とさらに承認をするのです。
この承認サンドイッチなら、ネガティブな指摘も若手社員が受け入れやすいことがわたしたちの調査でもわかっています。
■リーダーから進んで「自己開示」をする
【澤円】マネージャー層としては、チームメンバーのご機嫌を取っておけばいいというわけでもないし、もちろん「とにかくいうことを聞け」という昭和のスタイルで厳しくすればいいというわけでもありません。バランス感覚が重要ですよね。
【越川慎司】人手不足が大きな問題になっていることもあり、離職率を下げるために、従業員の働きがいを高めることが重要であることは間違いありません。ですから、リーダーとしては、働く人にとっての働きがいとはなにかを理解することからはじめましょう。そのためにもまず、自らの働きがいはなにかと考えてみてほしいのです。
そのうえで、「ボーナスが出たあとに家族と食事に行くのがわたしの働きがいなのだけど、みんなはどう?」というようにメンバーに聞いてみましょう。そのように自己開示をすると、89%のメンバーが自らの働きがいについて考え、そのことを明かしてくれるというデータもあります。チームメンバーの働きがいについて知ることができるのですから、それらを高めてあげる方法を考えやすくなっていくことでしょう。
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株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=清家茂樹)
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