"富裕層向け家庭教師"は見た…「将来の夢は?」と聞かれたセレブ小2生が返した"育ちの良すぎる回答"
プレジデントオンライン / 2024年12月30日 17時15分
■学力向上だけを求めない“セレブ向け個人塾”
良い大学へ進学すれば良い人生が保証されているわけではない。誰もが理解していながら、なにかに導かれるように学歴を求める。実績のある塾の、教え方の上手な講師のところへ――親としてごく自然な感情だろう。
世の中には、入塾する生徒の学校を選ぶ塾がある。有名なところでは、東大進学実績に定評のある「鉄緑会」の指定校制度。指定されている高校は、いずれも偏差値表の上澄みだ。
だが今回紹介するのは、そうした偏差値の高低には一切とらわれず、ごく一部の学校からの入塾のみで成り立つ“セレブ向け”個人塾。まったく目立たず、それでいて確実に対象のニーズを掴む知られざる塾の実態に迫る。
学生時代、筆者にも多少の塾講師・家庭教師経験がある。言うまでもないが、塾も家庭教師も学力を伸ばすことが前提にあり、保護者はより高みを目指して子どもを託す。やや断定的にすぎるとしても、保護者からの期待は学力向上の一点にあるといって過言ではない。
近年、問題視されている教育虐待などの場合も、成果を過剰に追い求めたゆえの悲劇であり、ある意味では典型的な保護者の願望を如実に表している。
だが、筆者が話を聞いた諸角正幹氏(仮名)は、塾・家庭教師にとっての「普通」がそうなっていることを認めつつ、一部の領域においては必ずしも学力だけを求めるものではないと言い切る。
■“お坊ちゃん学校”の生徒だけを相手にする
【事例① セレブ向け学習塾の講師】
諸角氏は現在、大手企業に勤務しているものの、大学・大学院生時代に一風変わった学習塾と家庭教師の派遣を行う会社に勤務していたという。そこは、彼の言葉を借りれば「セレブだけを相手にする寺子屋みたいなもの」。本稿ではその高級寺子屋を“X”と呼ぶ。
「Xが鉄緑会のような指定校制度を採用していたのかわかりませんが、少なくとも私の在職中は、いわゆる“お受験”でたどり着く都内のセレブ校に通う生徒以外は見たことがありませんでした。いずれも、有名人・著名人の子どもがたくさん通う学校です」
諸角氏が列挙した学校はいずれも、小学校から大学までを備えていて、たびたび週刊誌などでも取り上げられる「お坊ちゃん学校、お嬢さん学校」だ。Xの授業形態は少し変わっている。
「都内にあるマンションの一室がXの事務所でした。通常、Xの生徒はそれぞれ講師を家庭教師として自宅に呼んでいますが、授業のない日は事務所に来て自習をするもよし、事務所にいる講師に勉強を教えてもらうもよし、というような雰囲気でした。
極めて自由な雰囲気で、基本的にこの生徒にこの先生という割り当てはあるものの、どの先生に誰が習っていてもOKという方針でした。そのため、講師もさまざまな生徒と話をする機会があり、学校の雰囲気もよくわかりましたね」
■とにかく“目立たない子ども”が多い
生徒は全員、セレブ家庭に生まれたセレブジュニアたち。規格外の出来事も多かったのではないか。
「たとえば家庭教師として伺うために自宅の住所を聞いたら『○○駅を降りるとすぐ大きな桜の木があるのですが、そこが自宅です』とか『おじいちゃんにプライベートジェットで××に連れて行ってもらった』など、生徒が話すエピソードのスケールが大きすぎて驚くことは多々ありましたが、それも次第に慣れました。
むしろ驚くのは、彼らはおしなべて、自身の育ちの良さを鼻にかけることがなく、身なりも派手な子が皆無で、顔を知らない講師にも『こんにちは』と必ず挨拶をすることです。普通に印象の良い子たちだし、なんというか、目立たないんですよね。ひっそりしているという表現がしっくりきます」
決して悪目立ちすることなく、順応していくセレブジュニアたち。だが諸角氏は授業をしていくなかで、もうひとつの特徴を見つけたと話す。
「生徒同士の会話を聞いていると、男女問わず、基本的に褒め合う文化があります。『あいつはこんないいところがある』という共通認識が会話のベースにあって、けなす、貶める言葉を聞いた記憶がありません。もちろん、僻(ひが)みもなし。もっとも、僻む対象がいないのかもしれませんが」
■「将来何になりたいの?」と聞かれた小学2年生の回答
一方で、日頃接している人間が異次元である彼らの何気ない会話にぎょっとする場面もあったという。
「指定校の生徒たちの保護者はだいたい社会においての成功者ですが、有名人・著名人の子どもは必然的に目立ちますよね。テレビや雑誌で日常的にみていた人の子どもがたくさんいましたが、どの子たちも基本的には誰かに迷惑をかけたりすることはありません。
あるとき、一世を風靡したアイドル歌手の子どもが高校の途中で海外留学へ行ってしまいました。このように、1つの居住地だけに縛られない方も多く、いい意味でさっぱりしている人が多いですよね。
印象に残っているのは、当時小学校2年生だった男の子です。聡明で、特に作文能力が高い子でした。東証一部上場企業の創業家のご子息で、「勉強の習慣をつけたい」とのことで週に1回指導をお願いされていました。
ドラマや映画が好きというだけあって、相当な作品数を観ていました。雑談のときに『将来何になりたいの?』と聞いたら『漫画原作者』と即答。『俳優じゃないの?』と聞いたら、『絶対に表には出たくない。有名になればいろいろ煩わしいの知ってるから』とのこと。その点、漫画原作者ならば、大好きなドラマや映画の世界とも裏方としてかかわれるという彼なりの判断だったようです」
承認欲求に駆られ、有名になることを望む人が多い一方で、有名になるかならないか自分で決められる立場にいて「ならない選択」をする小学生がいる。
■わざわざ努力して偏差値を上げる必要がない
いまだに諸角氏が「不思議だった」と首を傾げるのは、講師の選抜試験のことだ。早稲田大学法学部を卒業している諸角氏は、一般的にみれば高偏差値になろう。
「ただ、学歴で選んでいないのは明らかでした。面接は会長がすべて担当するのですが、履歴書はほとんど見ておらず、雑談だけ。話の途中で『あなたは採用します』とだけ言われました。会長はとても社交的で目力のある方でした。
自分のときがそんな調子だったので、形式だけの面接なのだろうと思っていたのですが、そうでもなかったようです。旧帝大の理系学部に通う友人は落とされていました。あとから考えると、学力よりも生徒と空気感が合うかどうかを見ていたように思います」
生徒との相性という概念は、曖昧にも思える。この点、諸角氏はXが求める生徒との付き合い方について、こう考察する。
「Xに通っている生徒たちのなかに、受験を成功させて立身出世を目指す人はいません。たいていの場合、上についている大学に進学します。そうでない場合も、過度な詰め込みをして自分の偏差値を限界まで引き上げようという人は見たことがありません。
その理由は、偏差値を上げる必要がないからです。それよりも彼らに必要なことは、和を乱さないことであるように私には感じました。幼い頃から縁があって同じ場所で学ぶ仲間たちを尊重して、ゆくゆくは一緒に成功していくこと。おそらくそれが何より大切なので、名門大学卒業の肩書きも高偏差値という成果も、彼らには不要なのではないでしょうか」
■講師を選ぶのは保護者ではなく子ども
では、講師たちにはどのような能力が求められるのだろうか。
「講師に求められているのは、少し年上の立場から彼らを対等に扱ってコミュニケーションができることだと思います。正直、授業のほとんどを雑談に使ったこともあります。
生徒たちはいろいろな体験をしているので、『夏休みに△△へ行った』『ママの友人でこんな芸術家がいて、この前食事をした』というような豊富な引き出しがあるんです。それを聞いて、講師はどんな返しをするか。勉強だけではないものを彼らに提供できるかどうかを、講師の選抜試験では見られていたのかもしれません」
保護者との付き合い方はどうだったのか。
「基本的に普通の家庭教師と同様だと思います。ただ、Xは通塾して相性のいい先生を生徒が選べるので、保護者からするといきなり先生が家庭にきた感じになります。通常であれば、先生を決めるのはまず第一に保護者で、そのあとに子どもが体験授業を受けてみて決めると思いますが、Xの場合はほとんどの裁量を子どもが持っています。
ですから、『母さん、この先生がいいと思ったから契約して』と子どもが要望を伝えて『あぁそうなの、先生お世話になります』みたいな会話が最初にあります。家も広くてハウスキーパーさんがいるご家庭がほとんどなので、いつ来客があっても構わないのだと思いますが、講師からすると『事前に伝えておいてくれよ』と思うことはありました」
■「両親が離婚しそう」と泣いていた“意外な理由”
事務所での一対多での授業を通じて、子どもが先生を指名する方式は珍しい。生徒からの“スカウト”はこんな感じで決まるという。
「ある生徒は私の授業中にウトウト寝ていて、『おいおい、頼むよ』みたいに起こしたら『ごめん、先生の声好きだから眠くなっちゃった』と言っていました。後日家に行くようにいわれて、そこでお目にかかった保護者が国民的な歌手で(笑)。声に注目したのは家庭環境によるものだったのか、なんて妙に腑に落ちましたね」
他にも、家庭教師という仕事柄、関係性が深まればいやでも家庭の内情を知る場面がある。
「小学5年生の別の生徒はあるとき、『両親が離婚するかもしれないんだ』と涙ぐんでいました。政府を相手に機器を販売する超優良企業の社長の息子です。どうしていいかわからず、『それは辛いよな』と言ったあとにポジティブな言葉をひねり出そうとした矢先、『つらい、生活水準が保てなくなるのは困る』と生徒が泣いていて、やけにドライだなと思いましたが(笑)。ちなみに離婚はせずに済みました」
■高校入学組は「まっとうな人たち」
【事例② セレブ向け家庭教師の利用者】
現在30代に差し掛かったという野間涼介氏(仮名)は高校時代、定期試験対策のためにセレブ家庭教師会社Xに通っていたという。
野間氏の父親は経営者。野間氏自身はエンターテイメント・芸能関係のプロモーションをトータルに担う仕事をしているのだという。さっぱりとしたなかに高級感の光るファッションセンスを褒めると、「ユニクロみたいなもんすよ」と照れた。
野間氏は幼稚園時代から有名私立に入園。その後、大学時代までを同じ場所で過ごした。現在でも仲の良い仲間は小・中学校時代までの同期なのだという。
「昔から一緒にいる仲間なので、心を許せる人が多いですよね。住んでいる場所も学力も考え方も結構バラバラなのに、集まると安心感があるというか。幼い頃から私立だったので、保護者が関わる場面が多く、自然と友人の保護者の顔も見える環境だったからか、みんな顔なじみで信用できるんですよね」
同校には高校入学組もいるが、その温度差をこんな言葉で野間氏は表現する。
「高校受験で入学してくるご家庭は、学力に重きを置いている側面がありますよね。学力教育をある程度やって、社会に出る計画性があったみたいですから、まっとうな人たちだと思います(笑)」
■“コネ”がありすぎて転職サイトも不要
当時の自分たちは先を見通していなかった、と謙遜(けんそん)しているようにも聞こえる。計画性の有無はともかく、幼稚園組の横のつながりは固い。実社会に出た現在においてもなお、脈々と関係性が維持されていることに驚く。
「同窓生にいない職業はないのではないかと思うほどバリエーションに富んでいるので、『こんな仕事をやってみたいな』と思ったときに繋がるのが比較的容易なのは助かります。持ちつ持たれつですよね。
たとえば同級生に政治家の親戚がいれば、僕らが戦略のプランニングにおいて一部支援したり手伝ったりすることもあります。それぞれが力を発揮できる領域があってそれが可視化されているので、転職サイトも不要なんです(笑)」
そんな野間氏がXへ通うきっかけは何だったのか。
「今回の取材を受けるにあたって改めて両親に聞いてみたのですが、学校の保護者の間で広まっていた口コミでXを知ったようです。仲の良い保護者仲間の子どもはみんな幼馴染みなので、僕も通いやすかったですね。
名門大学へ進学を希望していたわけでもないし、学校の成績も留年するほど悪いわけではなかったけど、学習のモチベーションが保てることと苦手科目が少しでも理解できるようにお世話になっていた感じです。
Xは学内の事情に詳しくて、たとえば選択科目は何をチョイスすべきかなどの学校生活における戦略面での相談も親身に乗ってくれました。特にそれぞれの教科担当の出題傾向を熟知しているのには驚きました。月謝も5万〜10万くらいだったらしく、手頃ですよね」
文部科学省が発表した「子供の学習費調査(令和3年度)」によれば、私立の教育機関に通う子供にかかる学習塾費の年間平均額は小学校が年間約27万円、中学校と高等学校が約17万円となっている。差し迫っていない状況で支払う5万〜10万が「手頃」かは議論が分かれるところだが、当人たちの納得度は高いようだ。
■“気分”で行動できる範囲が広い
野間氏のような同級生の視点からみれば、セレブジュニアたちの奔放な別の一面がみえてくる。これについて、野間氏はこんな分析をする。
「驚くような経歴を辿る子もいますが、社会の規範を破ったり、誰かに迷惑をかけ続けるような生き方をする人は確かに少ない印象です。学力についての考え方はまちまちですが、どの家庭も総じて、社会と協調して生きていくことを重んじているためかもしれません。今、自分が社会人になってからもそれは感じます。
人間はそれぞれ、そのときの“気分”みたいなもので行動できる範囲が決まっていると思いますが、幼稚園から有名私立に通う家庭に生まれると、それが人よりも少し広いのかもしれないとは最近感じます。
たとえばちょっとした思いつきで行ける範囲が海外だったり、人によっては宇宙だったり。誰しも思いつきでふらっと外に出ることはあるけど、限度ってものがありますからね。良くも悪くも恵まれている環境にいるので、それに気づかずに行動した人もいたのかなとは思います。
ただ、いま僕の周囲にいる仲間は、昔から同じ釜の飯を食ってきた大切な存在で、やっぱり彼らとともに人生を歩めて良かったなと思います」
■「夢見る子供」ではいられない
セレブの家庭で育ったセレブジュニアたち。彼らは幼い頃から手を取り合い、互いをリスペクトすることで絆を深めていく。
一般的な学生は、学力と偏差値によって道をこじ開ける。淘汰されずに残った一握りが立つ高みの“はるかその先”を根城にする彼らは、常に「何をやりたいか」ベースで人生が進む。
潤沢な資金があることはもちろん、周囲の誰に対しても悪い印象を与えず、育ちの良さと性格の良さという最強のカードで人生をわたっていく。一方でセレブの子が判を押したように「素晴らしい子」になることには寂しさも感じる。
人生は何者にもなっていない時期に見る途方もない夢が楽しい。夢見る子どもでいられない者たちの宿命に、お節介ながら一抹の切なさを覚えずにはいられない。
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ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(ライター、エッセイスト 黒島 暁生)
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