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「席を倒しますね」の声かけは正解だった…世界各地でトラブル多発「リクライニングシート問題」を避ける方法

プレジデントオンライン / 2024年12月29日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kool99

■リクライニングはマナー違反なのか

旅行に帰省にと、移動の機会が増える年末年始。楽しい旅路のうえでも気に掛けておきたいのが、座席のマナーだ。飛行機や新幹線などで座席を倒すべきか否かの論争は、いつの世も絶えることがない。

事情は日本だけでなく、欧米でも同じようだ。調査によるとイギリス人の半数弱、アメリカ人の4人に1人が、前席の人による座席のリクライニングを迷惑に感じるという。一方で、寛容派も存在する。米航空会社の現役フライトアテンダントは、座席を倒すことに何ら問題はないと断言する。

お互いの思いを尊重しつつ、それでも狭い座席を少しでも快適に過ごすには、どのような対応が好ましいか。インバウンドの増える昨今、国際線だけでなく国内の新幹線などでも、海外客と座席を前後する機会はありそうだ。決して身構える必要はないが、スマートなマナーを知っておくことで、お互いにより気兼ねなく過ごせるだろう。

また、海外のアンケート調査により、座席のリクライニング以上に周囲の乗客の反感を買いやすい行動があることも明らかになっている。要注意の行動を併せて覚えておきたい。

■座席トラブルで搭乗禁止になるケースも

米全国紙のUSAトゥデイは、航空機の座席リクライニングをめぐる論争が激化していると伝えている。航空各社は利益率を上げようと、座席スペースを縮小している。ただでさえ限られたスペースが、前席のリクライニングによってより圧迫されることで、諍いは絶えない。

たかがリクライニングと侮ることなかれ、口論が原因で搭乗禁止を言い渡された乗客もいる。サウスチャイナ・モーニングポストは、香港の航空会社キャセイパシフィックが広東語を話す乗客2名の搭乗を禁止処分にしたと報じている。

事件は今年9月17日の香港発ロンドン行き253便で発生した。中国本土からの女性乗客が座席を倒したことをきっかけに、後方の広東語を話す夫婦と口論になった。夫婦は女性の座席を後ろから揺らし、腕を蹴るなどの暴力行為を行った上、女性の広東語が流暢でないことに気付くと「本土の女」などと差別的な発言を行ったという。

機内では他の乗客たちが、広東語と標準中国語で夫婦の行為を非難。「香港人として恥ずかしい」「自分を香港人と呼ぶな」などの声が上がった。被害に遭った女性は客室乗務員に助けを求めたが、座席のリクライニング角度をある程度戻すように言われただけだったという。これに対しこの女性は、「食事の時間でもないのに、なぜ私が妥協しなければならないのか」と不満を示している。

キャセイパシフィックは、問題発言を行った後席の夫婦に対し2回にわたり、厳重な警告を発した。態度が改善しなかったことを受け、今後の同社の全便での搭乗を禁止する処分を下した。

■米高齢者と若者に目立つ“リクライニング禁止派”

リクライニングを不快に思う乗客は、決して少なくないようだ。米家具大手のラザボーイ社は、世論調査会社のハリスポールに委託し、今年10月にリクライニングに関する意識調査を実施した。回答した2051人のアメリカ人成人のうち、国内線でのリクライニング禁止に賛成だと答えた人の割合は、実に41%に上ったという。とりわけ、65歳以上の高齢層と、18~34歳の若年層でこうした意見が目立った。

イギリスでの反応はどうか。英BBCは、航空チケット検索大手のスカイスキャナーが2023年に実施した調査を取り上げている。イギリス人の40%が、座席の背もたれを倒されることを迷惑に感じているとの結果になった。

旅行専門家のブライアン・マーフィー氏は、USAトゥデイの取材に対し、「国内線でのリクライニング禁止は理にかなっている」と私見を述べる。マーフィー氏は「上空3万フィートを飛ぶただでさえ狭い機内で、これ以上の緊張を生む要因が必要でしょうか」と指摘。「リクライニング禁止の方針が明示されていれば、すべての乗客が快適に過ごすことができ、機内の平和を保つ明確な方針となるでしょう」と主張する。

一方、座席にはリクライニング機能が備わっていることから、その禁止は権利の一部を抑制されていると感じる人々もいる。出張で頻繁に航空機を利用するという、米ミネアポリス在住のマリア・オパッツ氏は、同紙の取材に対し、「乗客は座席料金を支払う際、リクライニング機能も含めたあらゆる機能を使う権利を買っているのです。使用を躊躇する必要はないでしょう」と反論している。

離陸する飛行機
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■現役フライトアテンダント「許可なく倒してよいのです」

航空会社の現場では、リクライニングの是非をどう判断しているのか。米主要航空会社に現役フライトアテンダントとして務め、著書に『Cruising Attitude: Tales of Crashpads, Crew Drama and Crazy Passengers at 35,000 Feet(抄訳:クルージングの心得:上空3万5000フィートでの仮眠、クルーたちの非日常、そしてクレイジーな乗客たちの物語。クルージング姿勢は巡航高度Cruising Altitudeに掛けている。)』があるヘザー・プール氏は、米CNNへの寄稿で、機内でのリクライニングシートを巡るトラブルについて見解を述べている。

プール氏によると、機内でのリクライニングシートに関する苦情は、Wi-Fiの不具合や機内エンターテインメントシステムの故障に次いで頻繁に寄せられているという。

実際の便で起きた出来事として、彼女は次のようなケースを例示する。ある年配の女性客が、前の座席に座っていた10代の少女に対し、「もう一度シートを倒したら、顔面を殴るわよ」と脅したという。この際プール氏は問題の女性に対し、「殴る権利など誰にもありません。もう一言でも言ったり何かしたりすれば、当局に通報します」と警告し、事態の収拾を図った。

リクライニングされて激昂する乗客はめずらしくないが、プール氏は、リクライニングは乗客の正当な権利だと強調する。「乗客はシートを倒す際、(後席に)許可を求める必要などありません。アメリカの航空会社では、たとえ機内食のサービス中であっても、シートを起こす必要はないのです」と説明。

さらに、「シートを倒したい人にはその権利がありますし、それについて誰も異議を唱えることはできません」と強調。「もしもシートを蹴ったり、殴ると脅したりすれば、機から降ろされるのはシートを倒した人ではなく、そのような行為をした人なのです」とも注意を促している。

飛行中の飛行機の客室
写真=iStock.com/mbbirdy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mbbirdy

■「倒せるからといって倒すのはマナー違反」という異論も

プール氏の説明を正面から受け止めるなら、いつ何時であっても周囲を気遣わずリクライニングしてよい、となる。だが、これには異論もあるようだ。

エチケットに関するコンサルティング・サービスを提供するマナースミス・エチケット・コンサルティング社のスミス社長は、米ハフポストの取材に対し、「近年の航空機では座席スペースが縮小しています。他の乗客に迷惑をかけることなく、自身の快適さを確保することは、大きな課題となっています」と指摘。他の乗客に迷惑をかけないことは大前提だと受け取れる。

別のエチケット講師であるクレイター氏は、同記事の中で、「エチケットは単にフォークの使い方などの話ではなく、その本質は他者への配慮にあるのです。ですから、座席を倒して他者の快適さを損なうとなれば、エチケットの基本原則に反します」との見解を述べる。「座席を倒す機能が付いているからといって、それを使うべきだということにはならないでしょう」というのがクレイター氏の意見だ。

エチケットの専門家らからは、気兼ねなく座席を倒せるのは特定の場合に限られるとの声も上がる。後ろの座席が空いている場合や、後ろの乗客が小さな子供であり、倒してもさほど邪魔にならない場合などだという。

加えて、ファーストクラスやビジネスクラスでは比較的広いスペースが確保されているため、他の乗客のパーソナルスペースを狭めることなく座席を倒すことができる。さらに、倒したい側の乗客自身の背が高かったり、腰痛を患っていたりなど特段の事情がある場合、そして膝に幼児を載せている場合などについても、離陸後は座席を倒して問題ないとエチケットの専門家らは述べる。

■原因は航空会社にあるのだが…

こうした見解は、短距離便の場合だ。米企業研修講師のゴッツマン氏は、フライトの長さによってリクライニングの可否は分かれると説明している。特に長距離フライトについては、「乗客は快適さを求めていますので、これを制限するのは現実的といえません」と指摘。「特に夜間便では睡眠が重要になってきますので、多くの乗客がほぼ同時に座席を倒します。このため、リクライニングは許容されます」としている。

そもそもリクライニング論争が起きる根本原因は、座席の狭さだ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジム・サルツマン教授は、BBCに、「航空会社は以前より座席を詰めて配置しています。その結果生じる(乗客の)不満や怒りを、乗客同士の非難合戦に転嫁しているのです」と、問題の本質は近年の座席配置にあると指摘する。

それでも乗客としては、与えられたスペースでやり繰りするほかない。トラブルを避けるためには、座席を倒す際に注意するとよいポイントがあるという。

エチケットコーチのウィリアム・ハンソン氏は、BBCの取材に対し、「(後席がテーブルを広く使いたい)食事の時間帯は避けましょう」とアドバイスする。前述のフライトアテンダントの説明に反するようだが、機内食サービスの前に、座席を元の位置に戻すようアナウンスしているエアラインは多い。

ハンソン氏はまた、食事時間以外で席を倒す際は、「後ろの乗客がテーブルに寄りかかっていないか、ノートパソコンを使用していないか確認してから、ゆっくりと倒すとよいでしょう」とアドバイスしている。

「判断に迷う場合は、後ろの乗客と言葉を交わすことです」と続けるハンソン氏は、「相手が心を読めると思うのはよくありません」と説く。もし相手が海外客などで言葉が通じない場合は、目配せをするか、軽く振り返るそぶりをしてからゆっくり倒すなどの対応が考えられるだろう。

キャリーケースを持って空港内を歩く人の足元
写真=iStock.com/Kwanchai_Khammuean
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kwanchai_Khammuean

■一言の声かけでいい

慎重すぎるようにも思えるが、リクライニングしたばかりに後席のノートパソコンを壊してしまうケースは、実際にままあるのだという。米科学解説誌のポピュラー・メカニクスは2020年2月、米デルタ航空で前席の客がリクライニングした際、挟まれて画面が破損したというMacBook Proの画像を掲載した。テーブルに載せて画面を直角に近い角度で立てていたところ、急に倒れてきた前席に押しつぶされた形だ。

CNNに記事を寄せるフライトアテンダントのプール氏も、「飲み物がこぼれたり、ノートパソコンが壊れたりするのを目にすることがあります」と述べる。

オーストラリアのエチケット専門家であるジョー・ヘイズ氏は、USAトゥデイ紙に対し、「リクライニングは私たちの権利です」としたうえで、「後ろの乗客にとっては迷惑にもなり得ます」と双方の立場を認める。具体的な対処法としてやはり、コーヒーをこぼしたりノートパソコンに衝撃を与えたりしないよう、「できるだけゆっくりと」座席を倒すことを勧める。

可能ならば「後ろを振り向いて、『すみません』と一言添える」となおよいという。気後れしてなかなか言葉は掛けづらい場合、せめてテーブルが空であることを確認して、軽く会釈するくらいが現実的だろうか。「こうした小さな気遣いは、(双方の)不快感を和らげる上で大きな効果を発揮します」とヘイズ氏は述べ、トラブルを未然に防止する効果を強調する。

飛行機の機内食を食べる人
写真=iStock.com/BraunS
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BraunS

■隣席の客を通すとき、シートに縮こまってはいけない

ここまで座席のリクライニングを中心に議論してきたが、機内や列車内において、ちょっとした工夫で避けられるトラブルはほかにもいくつかある。

BBCは、スカイスキャナーが2023年に実施した調査をもとに、イギリス人航空旅客のおよそ3人に1人が、「アームレストを独占する行為」に不快感を覚えていると伝えている。エチケット専門家のハンソン氏は、「アームレストという考え方から肘置きという発想に切り替え、隣席の乗客と共有すべきです」と提言する。腕全体を載せるのではなく、控えめに部分的に肘を置くべきとの意見だ。

このほか、トイレに立つ際のマナーについても一悶着あるようだ。世論調査会社のユーゴブの調査結果によると、アメリカ人の過半数が「他の乗客の上を跨いで通路に出ることは好ましくない」との見方を示している。隣席の相手が通路側に出たい場合、日本の感覚では、座席に身を縮めるようにして膝前を通ってもらうことも少なくない。しかし欧米の感覚では、スペースを嫌々譲っているように受け取られかねない。そこで、一度立ち上がって通路に出るとスマートだ。

■事前のコミュニケーションが効果的

もっともハンソン氏は、自身が搭乗する際には、柔軟に対応しているという。「私が通路側の席になった場合は、就寝前にあらかじめ隣席の乗客に声を掛け、用事があれば起こすか、跨いで通ってもらって構わないと伝えるようにしています」と明かしている。

着陸時の行動も議論を呼んでいるようだ。スカイスキャナーの調査では、機が着陸してゲートに着いた直後に立ち上がる乗客たちに対し、イギリス人の約3分の1が不快感を示しているという。

元フライトアテンダントのシャーメイン・デービス氏は、BBCに、「立ち上がってもあまり意味がないですから、着席したまま待つのがおすすめです」と述べる。降機のためPBB(搭乗橋)が架けられるまでには、思いのほか時間を要する。そのため、機内で立ち上がってもドアが空いておらず、通路で渋滞するだけとなる。自席に座って待った方が本人も楽だ。さらに、預け入れ荷物がある場合、「いくら早く降機しても、手荷物受け取り所でその分、長く待つだけです」とデービス氏は語る。

荷物を持って空港内を歩く人たち
写真=iStock.com/izusek
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/izusek

■「靴だけは脱がないで」リクライニング以上の“不快行為”も

細かなところでは、座席ポケットの使用も前席に不快感を与えることがある。米経済メディアのストリートの記者は、3時間のフライト中に起きた不快な出来事を取り上げている。後席に座る若い男性客が、ほぼ10分おきに前方座席のポケットを探り続け、その度に記者の背中に不快な動きが伝わったという。

座席ポケットと前席の背中との間隔は思いのほか狭く、手や指の動きは背中にダイレクトに伝わる。問題の乗客はヘッドフォンの出し入れを繰り返し、機内メニューを何度も確認し、スマートフォンを座席ポケットに収納しては取り出す動作を繰り返した、と記事は説明している。

米ヒル紙は、スカイスキャナーの調査で、航空機内で最も不快感を与える7つの行為が明らかになったと報じている。

1位は爪切りや髭剃りなど機内の自席で身だしなみを整える行為で、全回答者の42%が「最も不快な行為」として挙げた(複数回答)。2位にはヘッドフォンを使わないで音楽・動画を再生する行為が入り、40%以上の回答者が不快感を示した。3位は見知らぬ人との会話や過度なおしゃべりで、39%が不快な行為として挙げている。

4位は靴や靴下を脱ぐ行為となり、35%が不快だと回答した。5位から7位はいずれも31%の回答率で、座席のリクライニング、両方のアームレストを使用すること、座席の交換を持ちかけられること、という結果となった。髭剃りや靴を脱ぐことは、座席のリクライニングよりもさらに不快な行為と受け止められているようだ。

気を張りすぎても旅行を楽しめなくなってしまうため、過剰に気遣うのも考え物だ。ただし、自分が気にも留めないことでも、他人の快適な旅路を意図せず妨げてしまうことはあるかもしれない。今回取り上げたもののように、一般に否定的な反応を招きがちな行為を知っておくだけでも、お互いに小さな気遣いを重ねるポジティブな関係につなげられる。この年末年始、多忙ななかにもひとときの快適な旅路を楽しみたい。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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