3位は安土城(滋賀県)、2位は岡城(大分県)、1位は…歴史評論家が選ぶ「あえて寒い冬に訪れるべきお城」ランキング
プレジデントオンライン / 2025年1月2日 16時15分
■冬らしい景色を味わえ、かつアクセスが悪くない城を選出
日本の城は四季折々に違った表情を見せてくれる。だから何度訪れても、あらたな味わいが楽しめて飽きることがない。そんな懐の深さがある。では、冬にはどの城を訪れたらいいだろうか。
これはほかの季節について答えるよりも難しい。なぜなら、美しさだけを優先できないからである。
雪景色が美しい城を選ぶのは難しくない。だが、豪雪地帯を冬場の旅先に選ぶのが、はたして現実的だろうか。交通手段の確保が難しい場合もあるし、現地にたどり着けたとしても、積雪のために歩くのが困難なようでは、城めぐりどころではない。
そう考えると、冬に訪れるべき城は、冬ならではの美しさが楽しめたり、冬にこそ美しさが際立ったりし、可能であれば、雪などの冬らしい景色を適度に味わうことができる城。豪雪地帯は避けつつも、雪が降る地域の場合は駅からのアクセスが悪くない城。そんなところになるだろうか。こうした視点で8つの城を選んでみた。
■駅からタクシーで5分の東北の名城
第8位は白石城(宮城県白石市)。宮城県最南端、西を蔵王連峰、東を阿武隈山系に囲まれた盆地の小高い丘上にある。仙台城(仙台市青葉区)の支城で、元和元年(1615)の一国一城令でも廃城にならず、伊達家の家臣、片倉家の居城として明治維新まで存続した。
明治になって建造物ばかりか石垣の石材までが転売されてしまったが、事実上の天守だった大櫓と本丸の大手門が、平成7年(1995)3月に木造の伝統工法で復元されている。
調和がとれたプロポーションの大櫓は、名称こそ「大櫓」だが、伊達家の分家の居城である宇和島城(愛媛県宇和島市)の天守よりも大きく、土佐藩24万2000石の高知城(高知県高知市)の天守に匹敵する。3階には廻縁がつき、窓が釣鐘型の華灯窓であるなど、古風な装飾が施されているのも魅力的だ。また、比較的単純な造形ながら、眺める角度によって表情が大きく変わる。
白石城周辺は雪が降るものの、それほど積もらない。また、東北新幹線の白石蔵王駅からタクシーで5分(東北本線白石駅から徒歩15分)ほどなので、訪れやすい。適度な雪景色を楽しむのにもってこいだといえる。
■冬は国宝の城との相性◎
第7位は姫路城(兵庫県姫路市)。いわずと知れた国宝であり、ユネスコの世界文化遺産である。この城を訪れるのに季節は問われないが、姫路城ならではの白亜の建造物群は、冬の澄んだ空気の下で、いっそう冴えて見える。
しかも、姫路城には白い櫓や門、塀が複雑に折り重なるように残っている。姫路城は慶長5年(1600)の関ケ原合戦後に、52万石で入封した池田輝政が築いたが、いまも多くの建造物が残る城の中核部分は、羽柴秀吉が城を築いた当時の、ひな壇状に並んだ小さな曲輪を踏襲している。つまり古い構造を利用しているため、通路は迷路のようになり、建造物も複雑に交錯し、独特の景観をつくり出している。
この白い複雑な建造物群がもっとも冴えて見えるのが、冬であるのはまちがいない。
第6位にも国宝の天守を挙げる。松江城(島根県松江市)である。現存する12の天守のなかでは床面積が姫路城に次いで大きく、高さは姫路城、松本城に次ぐ3番目。壁面に下見板が張られ、軒裏なども白漆喰を塗らずに白木のままの、古武士のような風貌である。堀や石垣のほか、城下町もよく残る。
松江市は日本海側気候に属するので、雪が降る日は太平洋側よりも多いが、さほど積もることはない。標高29メートルの亀田山の最高所に築かれた天守は、うっすらと雪化粧をすると、復元された二の丸の櫓や塀越しに臨む姿が、壁面の黒色と白との対比が強調されて幻想的に美しい。
また、雪がなくても丘の下から望む天守は、木々の葉に隠れることなく、冬ならではの凛とした姿をのぞかせる。
■木々が枯れたことでよく見えるのは…
第5位も天守が現存する12城のひとつ、丸亀城(香川県丸亀市)を挙げる。ただし、選んだ理由は天守よりむしろ石垣を観たいからである。
この城は慶長20年(1615)の大坂夏の陣後に出された一国一城令で、いったん廃城になったが、寛永20年(1643)から山崎家治が、いわば幕命によって築き直した。瀬戸内海の交通を監視するという任務を課せられたのである。
往時は三重櫓と呼ばれた天守こそ小さいが、標高66メートルの亀山は、山麓から3段、4段と重ねた石垣で取り囲まれており、5万3000石の大名の城には到底見えない。木が繁っていると、ところどころ隠されてしまうこの壮大な石垣が、木の葉が落ちた冬場にはよく見える。頂上に建つのが小さな天守であるだけに、石垣の途方もないスケールがなおさら強調される。
■北の大地に浮かぶ「星」の光
第4位は五稜郭(北海道函館市)。幕末の元治元年(1864)に完成したこの城郭は、稜堡型と呼ばれる、15世紀にイタリア半島で誕生したスタイルで築かれている。
五稜郭タワーから見下ろすと、5つの稜堡が突き出て、全体が星形をしている。その外周は約1.8メートルで、幅30メートルほどの堀で囲まれている。稜堡は守るときにも攻めるときにも、死角を作らないためのものだった。現実には、幕末の時点では時代遅れで、役に立たなかったのだが。
冬場は2月いっぱいまで、日没から19時まで毎日、堀が電球で装飾され、五稜郭タワーから見下ろすと光の星が浮かび上がるように見える。それを観るだけでも価値がある。
第3位には、織田信長が自身の権力の象徴として、5重6階の絢爛豪華な天守を建てた安土城(滋賀県近江八幡市)を挙げたい。日本の城のあり方を変えたこの城の中枢部は、天正10年(1582)に本能寺の変ののちに焼失してしまった。
この城が豪奢かつきわめて独創的だったことは、宣教師ルイス・フロイスの『日本史』や太田牛一の『信長公記』などの記録から伝わっている。また、発掘調査が重ねられ、解明された点も多い。整備も進み、幅6メートル、長さ80メートルにわたって山上へとまっすぐ進む大手道など、復元整備されて壮観である。
ところが残念なことに、大手道から先の、本丸や天守台をふくむ城の中枢部は、かなりの木々が生え、繁っているために、存分に観察できるとはいいがたい。本丸跡にせよ天守台とその周囲にせよ、木々を伐採して整備すれば、史跡の価値も高まると思うのだが、現状ではそうなっていない。
しかし、冬場は少なくとも落葉樹の葉は落ち、石垣を覆う草木も枯れるので、夏よりはだいぶ観察しやすい。冬に訪れたほうがいい城である。
■日本一の石垣を見るなら寒い時期
一方、2位に挙げる標高325メートルの段丘上に築かれた岡城(大分県竹田市)は、安土城同様に建造物はないが、整備が行き届いている。むろん、安土城と違って天下人の城ではない。文禄3年(1594)に播磨(兵庫県南西部)から移った中川秀成が、総石垣の近世城郭として整備したもので、明治維新を迎えるまで270年以上、中川氏が城主を務めた。
切り立った断崖絶壁上に、峻厳な地形を生かした縄張りが、そびえ立つ石垣で固められた城で、絶壁上に累々と連なる高石垣はこの上なく壮観。周囲の自然のなかで強烈な存在感を放っている。しかも、発掘調査や石垣の修復工事がこまめに重ねられ、少年時代を竹田で過ごした作曲家の滝廉太郎は、この城に「荒城の月」をイメージしたとされるが、「荒城」のイメージはない。
だから夏場に訪れても観察しやすいが、断崖絶壁とのマッチングも考慮に入れると美しさが日本一かもしれないこの石垣は、石積みのあいだを埋める草木などが枯れた冬に眺めるのが、圧倒的に美しい。
■雪のなかで眺める寒冷地仕様の城の美しさ
いよいよ第1位だが、加賀前田家100万石の居城、金沢城(石川県金沢市)としたい。石川門をはじめ現存建造物もある金沢城は戦後、中枢部が国立金沢大学のキャンパスになっていた。だが、大学が平成7年(1995)に移転すると、都市公園として復元整備事業が急ピッチで進められた。
同13年(2001)に菱櫓、五十間長屋、橋爪門続櫓、橋爪門一の門が復元され、同22年(2010)には実質的な正門だった河北門が復元され、令和2年(2020)には鼠多門も蘇るなど、城のイメージが一新されたといっていい。いずれも発掘調査および絵図や史料をもとに、往時と同じ工法による木造で復元されたことに価値がある。
そして、金沢城にはこの城だけの意匠が多い。現存する石川門を例に説明すれば、白銀色に輝く屋根には、瓦型の下地に鉛の板を巻きつけた鉛瓦が葺かれている。積雪や氷結を考え、耐久性が高く軽量な屋根材を選んだと思われるが、おそらく美観も意識されている。壁面の下部が平瓦を張りつけた海鼠壁になっているのも、寒冷地ならではの耐久性と同時に、美しさを考慮したものだろう。
また、櫓の各隅は筋鉄を打って柱に見せかけており、これも耐久性をねらいながら、壁面の白さを際立たせたものと思われる。
こうした意匠はまだまだあり、積雪が多い寒冷地ならではの種々の耐久仕様が、美観を意識しながら施されている。いうまでもないが、その美しさは寒い時期、とりわけ雪が積もったときにこそ、実用性を兼ねて映える。
ここに取り上げた8つの城のなかで、いちばん積雪量が多いのは金沢城だが、北陸新幹線で気軽に訪れることができ、冬場の利便性も高い。まさに1位にふさわしい城だと考える。
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歴史評論家、音楽評論家
神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。
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(歴史評論家、音楽評論家 香原 斗志)
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