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やっぱり豊田章男会長の「全方位戦略」が正しかった…自動車大国中国で「売れないEV」が山積みになっているワケ【2024下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2025年1月6日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LewisTsePuiLung

2024年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお届けします。ビジネス(自動車)部門の第1位は――。

▼第1位 豊田章男氏の警告"に世界がようやく気付いた…EVメーカーの「ハイブリッド車投入」が相次いでいる理由"
▼第2位 トヨタ・豊田章男会長はやっている…あいさつに付け足すだけで不思議と交渉がうまくいくようになる「ひと言」
▼第3位 やっぱり豊田章男会長の「全方位戦略」が正しかった…自動車大国中国で「売れないEV」が山積みになっているワケ
▼第4位 豊田章男会長の戦略は正しかった…「パリ市内を走るタクシーの大半が日本のハイブリッド車」という衝撃事実
▼第5位 豊田章男氏の「EVへの懸念」が現実のものに…世界中で「EVシフト」を見直す大手メーカーが相次いでいる理由

■熾烈な値下げ競争に巻き込まれている

11月下旬、中国のEV・PHV大手の比亜迪(BYD)は、取引企業に対して部品価格の引き下げを要請したと報じられた。中国の自動車市場は、ここへきて価格競争が激烈化しており、多くの企業が利益を上げにくい状況=レッドオーシャン化している。わが国をはじめ欧米の主要メーカーもレッドオーシャンに巻き込まれており、世界最大の自動車市場の中国は、今後、いかに業務を展開するか重要な岐路に立たされている。

1978年の中国の改革開放路線から、わが国の自動車メーカーは中国市場を重視してきた。欧米の大手自動車メーカーは、国有企業などと合弁事業を運営し需要を取り込んだ。中国企業は経済の工業化も追い風に、中国企業もわが国のすり合わせ製造技術などを吸収した。

近年、中国政府は一部の地場の自動車メーカーへの産業補助金政策を拡充したことに加えて、中国経済の低迷で需要が伸び悩んだこともあり、自動車産業全体で供給が需要を上回る過剰生産の状況になった。

■日本車メーカーは中国で生き残れるか

足許、不動産バブル崩壊などで、中国の消費者の節約志向は高まった。少しでも安いEVやPHVを購入する需要者は増えた。デフレ懸念の高まりも値下げ競争に拍車をかける。それに伴い、わが国のメーカーは中国事業のリストラを優先することになるだろう。

米国の関税政策も国内自動車メーカーの業績懸念を高める。それでも、わが国の自動車関連企業が競争力を高める方策はあるはずだ。全固体電池など次世代の製造技術に磨きをかけ全方位型の戦略を拡充できれば、わが国の自動車メーカーが世界の消費者のニーズに対応し、これからも成長を実現することができる方法は存在するだろう。

■産業補助金でEVメーカーが多数乱立

近年、中国の自動車市場では値下げ競争が激化している。特に、EV、PHVなど新エネルギー車(新エネ車)の価格を引き下げて、シェアの拡大を目指す企業は増加傾向だ。その背景には中国政府の産業政策がある。

リーマンショック後、中国政府は4兆元(当時の為替レートで7兆円程度)の経済対策を実施した。EVの振興策もその中に含まれた。BYDなどの有力メーカーは、政府の産業補助金などを受けEVの生産能力を高めていった。

2015年、中国政府は、産業育成政策である“中国製造2025”を開始した。大気汚染対策や電動車関連企業の集積をめざし、補助金政策や工場用地の供与を進めた。政府の支援で、BYD、理想汽車、上汽通用五菱汽車(ウーリン)、上海蔚来汽車(NIO)、浙江吉利控股集団(ジーリー)などで設備投資は加速した。

産業補助金などを目当てに、EV分野に新規参入する企業は急速に増えた。2024年から政府は、第一汽車、東風汽車、長安汽車の国有大手自動車3社の新エネ車事業も支援し始めた。車載用バッテリー関連分野では、CATLなどが短期間で世界トップシェアを獲得した。関連素材の分野でも、中国企業の国際競争力は急上昇した。

■「需要と供給のバランス」の概念がない?

鉄鋼や太陽光パネルなどでは、明らかに過剰生産問題が鮮明化している。基本的に中国の企業には、需要に合わせて生産を調整するという概念がないように見える。EVの生産も過剰になり、野ざらしに放置されるEV在庫は増えた(EVの墓場として報道されている)。供給が需要を上回ると、価格は下落する。2017年をピークに需要が減少したエンジン車も含め、過剰になった安価な中国製自動車はロシアなど新興国に流入した。

まるで墓場と化した、地面を埋めつくすほど大量に放置された自動車
写真=iStock.com/shisheng ling
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shisheng ling

足許、中国では、不動産バブル崩壊の後始末の遅れなどでデフレ圧力が高まっている。消費者は、先々の値下がりを予想し支出を先送りする。企業はシェアを維持、拡大するために追加的な値下げを実施する。現在の市場環境で利益を確保できる中国EV企業は、BYDと理想汽車の2社との見方もある。

2024年に入って、EVに加えPHVを重視する中国企業も増えた。EVの走行距離の短さ、充電インフラの不足などへの対応があるとみられる。特に、BYDは、PHV分野でも生産能力を引き上げシェアを拡大するため、さらなる値下げを企図しているようだ。

■三菱は撤退、日産は大規模なリストラを断行か

値下げ競争の激化や中国のEVシフトの加速、PHV分野での新モデル投入、エンジン車の需要減少などで、中国市場でわが国など先進国の自動車メーカーが十分な収益を獲得することは難しくなった。それは、今年に入ってのわが国メーカーの中国事業戦略からも確認できる。

三菱自動車は、販売台数の伸び悩みを理由に中国から撤退した。2024年3月期決算、同社は撤退に伴う特別損失として約230億円を計上した。2024年1~6月期、トヨタ、日産、ホンダの中国での販売台数は、合計で前年同期比13%減だった。かつて、トヨタやホンダは、中国の低燃費車優遇策でHVの販売拡大を実現した。ところが、EV投入の遅れなどもあり、収益の下振れリスクは高まっている。

北京の路地に駐車された三菱パジェロ
写真=iStock.com/yocamon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yocamon

日産自動車は、大がかりなリストラを余儀なくされつつある。6月、中国の国有企業と協働で運営した、江蘇省の乗用車工場(常州工場)を閉鎖した。年13万台、同社の中国生産能力の1割をカットした。

■トヨタだけがふんばっているが…

常州工場の規模は小さかったが、2020年11月に稼働したばかりの新鋭工場だった。ゴーン事件で企業イメージが棄損した同社は、最重要市場の中国で生産体制を立て直し、電動車需要などを取り込もうとした。常州工場は重要な役割を発揮するはずだった。しかし、結果的に期待されたほどの効果は上がらなかった。経営陣の予想以上に、中国事業の収益率低下は深刻ということだろう。

7月以降も、わが国の自動車関連企業の中国事業リストラ発表は増えた。10月、ホンダは広汽本田汽車の第4工場(生産能力は年5万台)を閉鎖した。11月、同社は、湖北省武漢市の東風本田汽車第2工場(同24万台)の生産ラインの休止も決めた。

一方、トヨタは中国企業との合弁を起点に研究開発を進め、中長期的な視点で需要を取り込もうとしている。ただ、そうした前向きな取り組みはあるものの、わが国メーカー全体では、投資の増加よりもリストラを優先する企業は増加傾向だ。

■トランプ氏の政策に振り回される恐れも

中国のBYDやCATLなどの海外進出によって、わが国自動車企業が高シェアを維持したアジアの市場でも価格競争が起き始めた。わが国の多くの自動車関連企業が進出し、“アジアのデトロイト”と呼ばれたタイでも中国企業が値下げ攻勢をかけている。

また、米国の次期政権の政策も懸念材料だ。トランプ氏は、関税など対中引き締め策を重視する。米国が対中関税率を追加的に引き上げると、中国の輸出には下押し圧力がかかり、中国の景況感の悪化は避けられないだろう。米国が、わが国の自動車に対する関税を引き上げることも想定される。

今すぐではないだろうが、いずれかの段階で、米国の個人消費の鈍化懸念もある。米国では、すでに低所得者層などの消費が減少しつつある。それらが現実のものになると、わが国の自動車関連企業の収益が減少し、景気持ち直しペースは鈍化するだろう。

■全固体電池、FCV、ソフトウェアの実用化が急がれる

欧州では、ドイツのフォルクスワーゲンなどが中国での収益減少に直面している。ドイツでは、自動車メーカーにとどまらず、石油化学、鉄鋼、自動車部品など幅広い産業でリストラが発表された。米GM、フォードはEVシフト戦略を修正し、エンジン車やPHV開発の遅れを取り戻そうとしている。米欧自動車勢の業況はわが国以上に厳しいとみられる。

そうした環境下でも、わが国の自動車関連企業が収益獲得を目指す方策はどこかにあるはずだ。長い目で見ると、世界全体で自動車の電動化は進むだろう。また、自動車自体のシステムにも変革が起きるだろう。車のハードと同時に、車を快適に利用するソフトウェアが自動車の社会的役割を決めることになるだろう。

新しい需要を創出するため、わが国のメーカーは新しい製造やソフトウェア技術の実用化が必要になるはずだ。電動化の切り札といわれる全固体電池、究極のエコカーと呼ばれる水素を動力源にしたハード面、それに付随するソフトウェアを独自の技術力で開発することが重要だ。

米・中、インドなどで業務展開を整備し、EVや最新の電動車まで全方位型の事業戦略を推進する。わが国の自動車関連企業が、そうした取り組みを着実に進めることが求められる。自動車産業がわが国経済の屋台骨を支えるため、これからも自動車メーカーが活気をもって前に進んでほしいものだ。

(初公開日:2024年12月9日)

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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