「さっき食べたでしょ?」は逆効果…認知症の親の再三のご飯要求を穏やかに鎮めるプロの"神"対処法
プレジデントオンライン / 2024年12月30日 10時15分
※本稿は、上大岡トメ『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社・監修:杉山孝博、黒田尚子)の一部を再編集したものです。
■認知症・理解ワード① 記憶にないことは事実じゃない
CASE1 「夕飯を食べていない」と言い張る義父
A子さんと同居している義父は、年々もの忘れがひどくなり、最近では1分前に話したことも忘れてしまいます。同じことを何回も質問するので、「さっき教えたじゃない」と言うと「聞いてない」と言います。あまりに何度も聞くので壁に書いて貼っておいても見てはくれません。A子さんが特に困っているのは、「夕飯を食べていない」と言われることです。
「さっき食べたでしょ?」と言っても「そんなことはない。おなかがすいた」と言い張ります。残り物があるとそれを出すのですが、「これしかないのか」としょんぼりされると腹が立ちます。結局、それも全部食べてしまう義父を見て、食べすぎではないかとA子さんは心配になっていると言います。
「正解」を伝えるより、本人にとっての“事実”に寄り添う
記憶障害は認知症のもっとも基本的な症状です。見たり聞いたりやったりしたことを思い出す力(記銘力)が低下するので、「さっきも言った」と言われても記憶を引き出せないのです。だから同じことを平然と何度も聞き、「わかった」と言ってもすぐ忘れてしまいます。腹が立つのも当然ですが、何度も質問するのは「忘れている」ことへの不安があるからだということをわかってください。時間が許す限り教えてあげたほうが不安感もしずまり、質問せずにすむかもしれません。
過食も認知症の人にありがちな行動です。認知症の進行によって、脳の満腹を感じる部分に障害が起きている可能性もあります。本人にしてみれば、食べた記憶もないし空腹感もあるわけですから「食べていない」のはゆるぎない事実。それなのに「食べたでしょ」と言われると不安や失望につながります。「今作っているよ」と伝えたり、「まずこれを食べて待っててね」と少しだけ食べさせて様子を見ましょう。わかってもらえた安心があれば、空腹だったことも忘れられるかもしれません。
■認知症・理解ワード② 本人が思ったことは絶対的な真実
CASE2 「こんなおじさん、夫じゃない」と言う妻
B夫さんの妻はアルツハイマー型認知症と診断されています。介護サービスなどを利用しながら二人暮らしを続けていますが、たまにB夫さんを忘れてしまうことがあるそうです。デイサービスから帰ってきた妻に不審な顔をされ「お父さん、まだうちにいるの?」と言われたことも。「お父さん」とは妻の父のことなので、「オレはお前の夫だ」と言うと「こんなおじさんが?」と言われ、B夫さんはショックを受けました。
妻は疑り深くもなり、「誰かが私の通帳を盗んだ」と騒ぐこともあります。わかってほしいと思い、B夫さんはやさしく丁寧に説得するのですが、言えば言うほど怒りだします。自分が否定されたようで傷ついてしまうB夫さんなのです。
身近な人ほど誤認しやすい。話を合わせて安心させてあげよう
認知症の人の記憶は、現在に近いところから過去に向かって忘れていく傾向があります。古い記憶が薄れるのではなく、新しい記憶から消えるのです。それも「まだら」に起こるので、あるとき突然少女時代の記憶がよみがえって、夫を父親だと認識したり、娘を姉だと勘違いしたりします。また、見当識障害のせいで人の顔をとり違えることも多く、これは「人物誤認」といわれる典型的な症状です。夫と父親は血縁関係もない別人なのですが、「自分にとって親しい男性」という枠組みの中でとり違えられてしまうのです。「お金が盗まれた」というのも、典型的な認知症の症状です。
「なくなった」という事実を前にして、自分の失敗を認めたくないという気持ちも働くのでしょう。いずれにしても否定すればするほど不安になり、さらに混乱します。認知症の人の言葉をまるごと受け止め、それが真実であるという行動をするのが一番です。父親とまちがわれたら、「じゃあ、お父さんはもう帰るよ」と家を出て、時間をおいて戻るのもいいでしょう。それでリセットされるケースも多いものです。
■認知症・理解ワード③ 認知症の症状は身近な人に強く出る
CASE3 兄の言うことは素直に聞くのに!
C美さんの家の近くに住む母は、もともとは活発で意欲的な人。C美さんの父が亡くなってから元気がなくなり、あまり外出もしなくなりました。しだいにもの忘れが増え、同じ話を何度もくり返すようになりました。認知症の検査をさせようとしても「絶対に行かない」と言い張り、地域包括支援センターの人が様子を見に来ても「けっこうです」とドアを閉めてしまいます。ところが、隣県に住む兄が会いに来ると笑顔になり、兄が受診をすすめると「わかった」と素直に受け入れたのです。でもそれはその場だけで、C美さんが受診に誘うと嫌がります。兄に相談すると「受診しなくても、お母さんは大丈夫だと思うよ」と言うので、C美さんはモヤモヤしてしまうのです。
症状の出方には波がある。反発するのは信頼されている証拠
認知症の症状は、身近な人に対してより強くあらわれるものです。普段はトンチンカンな話をしたり、強い言葉で拒絶したりしている人が、たまにしか会わない人にはしっかりした姿を見せ、素直に意見に従うのはよくある姿です。「私が大事にしている○○を盗まれた」という場合にも、犯人扱いされるのはたいてい身近な人です。残念ですが、「そういうものだ」と納得するしかありません。
家族にとってはつらい話ですが、そこには深い信頼があるからだと私は思います。幼い子どもと同じです。内弁慶という言葉がありますよね。ママやパパに対してはワガママ放題な子でも、幼稚園に行くと素直でおとなしくなってしまう子のことです。
認知症の人も、親に甘えるように身近な介護者に甘えているのでしょう。私たちだって家族の前では遠慮なく思ったことを言うし、だらしない姿も見せるものです。認知症の人は認知機能が低下しているせいで、「こんなことを言ったら傷つくのではないか」という想像力も働かなくなっているのだと思います。
杉山孝博
川崎幸クリニック院長
社会医療法人財団石心会理事長。1947年、愛知県生まれ。1973年東京大学医学部卒業。患者さんとその家族とともに50年近く地域医療にとり組む。1981年からは公益社団法人 認知症の人と家族の会の活動に参加。認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護の制度化や、グループホームなどの質を評価する委員会などの委員や委員長を歴任。『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、『認知症の人の心がわかる本 介護とケアに役立つ実例集』(主婦の友社)など著書、監修書多数。また監修・出演した映画『認知症と向き合う』(東映教育映像)も、わかりやすいと大好評。
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イラストレーター
東京生まれ、横浜(上大岡周辺)育ち。現在は山口県在住。1級建築士、ヨガインストラクターでもある。世の中の難しいことを、わかりやすくマンガとイラストで描くことがなりわい。著書『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』は、130万部超のミリオンセラー。『老いる自分をゆるしてあげる。』『遺伝子が私の才能も病気も決めているの?』(ともに幻冬舎)など著書多数。『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(主婦の友社)も好評大増刷中。
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(イラストレーター 上大岡 トメ)
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