きれい好きで几帳面だった母が汚れた下着を丸めて「隠した場所」…認知症の親が誰にも言えない切ない心の内
プレジデントオンライン / 2024年12月31日 10時15分
※本稿は、上大岡トメ『マンガで解決 親の認知症とお金が不安です』(主婦の友社・監修:杉山孝博、黒田尚子)の一部を再編集したものです。
■認知症・理解ワード④ 認知症になってもプライドは残る
CASE4 絶対にお風呂に入ろうとしない母
D太さんの母はもう何カ月もお風呂に入っていません。何度お風呂に誘っても「昨日入ったから大丈夫」と拒絶されてしまいます。デイサービスで入れてもらおうとしても、「絶対に嫌だ」と言って入ろうとしないようです。せめて着替えだけでもさせようとするのですが、下着を脱ごうとしません。母は昔から病院に行く前には新しい下着をつける人だったので、D太さんが「今日は病院に行くから下着を替えよう」と言うと渋々従いましたが、案の定下着はかなり汚れていました。別の日、タンスの引き出しの中に汚れた下着が丸めて入れてあるのを見つけたD太さん。きれい好きで几帳面だった母を思い出すと涙が出てしまいます。
「恥ずかしい」「情けない」と感じる気持ちを理解してあげて
お風呂や着替えを嫌がる認知症の人は珍しくありません。もともと自分が認知症である自覚はないし、前回いつ入浴したかという記憶もありません。これまで毎日入浴していた人なら、「お風呂は昨日入ったはず」と思い込んでいることでしょう。しかもデイサービスのスタッフや、お子さんの前で裸になるのを恥ずかしいと感じる人も多いものです。息子や娘の前で下着を替えるのも、普通に考えれば恥ずかしいものです。認知症だからといって、恥じらいの気持ちが消えるわけではないのです。
汚れた下着を隠す人も多いですね。「自分がこんな失敗をするとは!」とショックを受けて、とっさに隠してしまったのかも。隠したところで何の解決にもならないのですが、認知症で判断力が落ちているためごまかしきれるような気持ちになるのでしょう。「なんでここにしまったの?」と聞くと「誰かがやった」とごまかすかもしれません。人は誰でも自分に不利なことは認めたくないものですが、認知症の人にとってはギリギリのプライドを死守しているのです。理解してあげたいものです。
■認知症・理解ワード⑤ こだわりは、否定するほど強くなる
CASE5 スーツに着替えてから出かける夫
E子さんの夫は認知症になっても体は元気。「散歩に行ってくる」と家を出て、2〜3時間歩いて帰ってきます。それはいいのですが、出かけるときになぜか会社員時代のスーツを着ていくのです。夫はやせてしまいサイズも合わないうえ、下には普段着のポロシャツを着ているので不格好です。E子さんはそのスーツを隠し、普段使いにできそうなジャケットを買ってきましたが、夫は「ない、ない」と大騒ぎ。深夜になっても探し続け、根負けして古いスーツを出しました。真夏になっても気にせずスーツを着続けているので、熱中症にならないか心配です。でも本人は汗をかきながらもコンビニで買った缶コーヒーを飲みつつ元気に歩いています。
スーツを着ると安心するのです。命にかかわらなければOK!と考えて
認知症になるとこだわりが強くなる人は多いものです。そのこだわりには必ず理由があります。E子さんのご主人は「家を出るときはスーツ」という習慣があったはず。見た目はチグハグでも、本人にとっては安心できるスタイルなのです。命にかかわることでなければ、見て見ぬふりでいいでしょう。高齢になると暑さ寒さを感じにくくなるので、水分補給をしているかを気にしつつ見守るのがいいと思います。
原因をとり除くことで、解消できるこだわりもあります。私の患者さんに妻へのこだわりが異常に強い人がいました。外出先から帰ると「どこへ行っていた」「浮気したのではないか」と言うのです。奥さんはほとほと困り果てていたのですが、よく聞くと「1年前に、夫が財布や通帳をなくすことが増えたので、お金にからむものを全部隠した」と言うのです。妻を疑うようになった時期も、ちょうどそのころだったそうです。妻が夫に通帳などを返したところ、パタリと妄想はなくなったといいます。通帳は大事なものですが、心の安定はそれ以上に大切なものだと思うのです。
■認知症・理解ワード⑥ 全部忘れてしまっても、感情だけは残る
CASE6 ヘルパーさんの来る日は質問攻めがない
F彦さんの母はおだやかでやさしい人だったのですが、認知症になってから見たこともないような表情で怒ることが増えました。F彦さんは仕事で日中不在なので、デイサービスやショートステイ、ヘルパーさんなどの力を借りながら介護をしていますが、家に帰るとイライラした母に何度も同じことを聞かれるのが苦痛でした。ただ、ヘルパーさんが来る火曜日と木曜日だけは質問攻めにされることは少なく、激しく怒ったりすることもありません。とても感じのいいヘルパーさんなので、母と相性がいいのかな、とF彦さんは感じています。
「うれしい」「楽しい」と思える時間が認知症の“問題行動”を減らしていく
認知症の人は記憶障害によって、ついさっき起きたことも忘れてしまいますが、そのときに抱いた感情だけは心の奥に残るものなのです。たとえば家族や介護スタッフにいつも「違うでしょ」「もっとこうしてください」などと言われていると、「嫌なことを言われた」「この人はこわい人だ」という印象だけが強く残ってしまいます。その人の顔は覚えていないはずなのに、同じような場面になると「こわい」「嫌だ」という感情がよみがえってくることがあるのです。また、マイナスの感情が心の内側に残ると不安や緊張が強くなってしまうため、同じことを何度も確認したり、「○○しましょう」と声をかけられても「嫌だ」「行きたくない」と拒むようになったりすることもあり、介護がしにくくなってしまうのです。
逆に、普段から「ありがとう」や「助かりました」と言われている人はおだやかで、介護しやすくなるといわれます。それは私たちだって同じ。感じのいい対応をされれば、こちらも協力したくなるもの。それは認知症の有無とは関係ないのです。
■認知症の人の見える世界を知ろう…その行動には必ず「理由」がある
■「徘徊」という言葉は使わないほうがいい
■「家にいていいんだ」と思ってもらえるように
杉山孝博
川崎幸クリニック院長
社会医療法人財団石心会理事長。1947年、愛知県生まれ。1973年東京大学医学部卒業。患者さんとその家族とともに50年近く地域医療にとり組む。1981年からは公益社団法人 認知症の人と家族の会の活動に参加。認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護の制度化や、グループホームなどの質を評価する委員会などの委員や委員長を歴任。『認知症の9大法則 50症状と対応策』(法研)、『認知症の人の心がわかる本 介護とケアに役立つ実例集』(主婦の友社)など著書、監修書多数。また監修・出演した映画『認知症と向き合う』(東映教育映像)も、わかりやすいと大好評。
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イラストレーター
東京生まれ、横浜(上大岡周辺)育ち。現在は山口県在住。1級建築士、ヨガインストラクターでもある。世の中の難しいことを、わかりやすくマンガとイラストで描くことがなりわい。著書『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』は、130万部超のミリオンセラー。『老いる自分をゆるしてあげる。』『遺伝子が私の才能も病気も決めているの?』(ともに幻冬舎)など著書多数。『マンガで解決 親の介護とお金が不安です』(主婦の友社)も好評大増刷中。
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(イラストレーター 上大岡 トメ)
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