就任8カ月で"全員開花"…箱根駅伝で63年ぶりシード狙う立教大監督「駒澤大×トヨタ式ハイブリッド人材育成」
プレジデントオンライン / 2025年1月2日 8時15分
■箱根駅伝の見どころは「首位争い」だけではない
箱根駅伝では総合順位が10位以内に入ると、次回大会へ自動的に出場できるシード権を得られる。今回(101回大会)出場する立教大は63年ぶりにこのシード権獲得を射程に入れ、さらに國學院大や青山学院大、駒澤大といった実力校を追いかけている存在だ。
今季の立大は、6月に開催された大学三大駅伝のひとつ全日本大学駅伝の予選会(関東学連推薦校選考会)を初めて突破し、11月上旬の本戦でも7位に食い込んで「初出場・初シード」の快挙を成し遂げた。
全日本大学駅伝のわずか2週間前には箱根駅伝予選会で43大学中トップ通過(100回大会は総合14位)していた。過密日程で予想以上に好成績をあげたのだ。
チームを躍進に導いているのが、4月に就任したばかりの髙林祐介駅伝監督だ。まだ37歳。青山学院大の原晋監督57歳、駒澤大の藤田敦史監督48歳、國學院大の前田康弘監督46歳などと比べるとかなり若い。
駒澤大時代は三大駅伝で計7度の区間賞を獲得して、全日本大学駅伝の3連覇に貢献(箱根も総合優勝1回)。実業団のトヨタ自動車ではニューイヤー駅伝で日本一にも輝いている、駅伝界の超エリートだ。
トヨタ自動車陸上長距離部を退部した後は一般業務をこなしながら、レースにも参加した。2022年からは母校の駒大コーチに就任。今年の4月に立大前監督の不祥事による退任を受けて、新指揮官に抜擢された。
以前、トヨタ自動車陸上長距離部出身の知り合いがこんなことを話していたのが強く印象に残っている。
「競技を上がった後は仕事で悩む元選手は少なくありません。そのなかで髙林は仕事もそつなくこなしますし、絶対に指導者に向いていると思いますよ」
立大は2023年1月の99回大会に実に55年ぶりに箱根駅伝本選出場を果たし(総合18位)、翌24年は監督不在の中、前述したように14位。ここ数年地力をつけていたものの、指導者が突然代わり新任就任のたった数カ月でいきなり結果を出したことになる。
髙林監督は学生たちにどんな魔法をかけたのだろうか。
■まずは選手たちの声を聞いた
通常、大学駅伝の新監督は自分のカラーに出して、チームをそれに染めようとするケースが多い。しかし、髙林監督はちょっと違った。まずは選手たちの声を聞き、チームの目標と、選手たちが困っていることを確認した。
「一般的に指導者が代わるときはチームが下火になったときです。でも今回は違います。彼らとしては何も不自由していないなかでの交代だったので、そのあたりは気を使いましたね。私が就任する前の半年間は、キャプテンとマネージャーを中心にチームを運営していました。私が気をつけたのは、こちらから必要以上に言うのではなく、基本的には学生が困っているところを手助けすることからアプローチを始めました」
選手としては結果を出してきたメソッドを当然持ち合わせているはずだが、それを強要せず選手たちをうまくナビゲートしていった。
「就任直後、選手たちに今季の目標を聞くと、『全日本大学駅伝初出場』と『箱根駅伝のシード権』という答えが返ってきました。目標に向かって後押しをするのが私の役割です。現在のトレーニングでは厳しいんじゃないの? と率直に話をして、練習内容を少しずつ変えていきました。私としても指導歴はさほどないですし、立大でまだ何も結果が出てないので、選手たちに『私を信じて、まずはやってみてほしい』と伝えてみたんです。その私のメニューを選手たちが見事なほどにやり遂げてくれたのが大きかったですね」
課題は明確だった。学生主体で練習メニューを組んでいたため、自分たちのやりたい練習、髙林監督の言葉を借りれば「気持ちいい練習」が多かったという。
「本来強化しないといけない部分じゃなくて、得意なことだけをやっていたんですね」
従来の立大はスピード練習が中心で月間走行距離は400kmほど。箱根駅伝を目指すチームとしては極端に少なかった。髙林監督は駒大のメニューを、チームに落とし込むようなかたちでやってきて、月間走行距離は600kmを超えるようになったという。
「駒大は伝統があったので、先輩に食らいついていけば強くなれた。そこに理屈は必要ありませんでした。立大の選手も『強くなりたい』『速くなりたい』という気持ちは素直ですが、頭ごなしに言うんじゃなくて、自分たちのなかで理解をしないと行動につながっていきません。そのあたりの言葉選びにはけっこう気をつけました。そのなかで5月の関東インカレでまずまずの結果を残すことができて、選手のほうが『オッ』となったんです」
髙林監督が起こした、この“新たな波”は次第に大きなものになっていく。
6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会では東海大や早稲田大、専修大、順天堂大など実力校が並ぶ中、5位に入った。今季の2大目標のひとつ「全日本大学駅伝初出場」をすんなり決めたのだ。そうして結果を残すたびに選手たちからの信頼度も上昇。チームは次なるターゲットに向けて動き出した。
■箱根予選会と全日本大学駅伝で好結果
その後の10月19日に箱根駅伝予選会、11月3日に全日本大学駅伝は過密スケジュールになり、どんな大学でも全日本で結果を残すのは難しい。例えば、厚い選手層を誇る中央大は箱根予選会で主力数人を温存して全日本大学駅伝で上位を目指したが、箱根予選会は6位通過したものの、全日本は12位に終わっている。
そのなかで離れ業を見せたのが立大だ。箱根予選会は堂々の1位通過。初出場という目標を果たした全日本大学駅伝は7位で、シード権を獲得したのだ。
なぜこれだけの結果を残せたのか。
「全日本大学駅伝の出場を決めた時点で、箱根予選会の2週間後に全日本大学駅伝があるのはわかっていました。まずは『タフなスケジュールになるよ』ということを選手たちにはしっかり認識をさせました。箱根予選会が終わって、『良かった』ではなく、『2週間後に全日本だぞ』というメンタル的な部分です。そこはしつこく言っていたと思います。それ以外の準備や対応は正直そんなに大それたことはやっていません」
髙林監督はメンタル面を強調したが、今季の立大はスピード型のチームにスタミナがつき、それが結果に表れているのは間違いないだろう。就任1年目でこれだけうまくチームを強くできた理由はどこにあるのか。その答えが秀逸だった。
「私としては本当にでき過ぎなぐらいですよ。とにかく必死でやってきましたが、まだまだうまくいっていないところもたくさんあります。特に痛感したのは『人を育てる』のは簡単なことではないということです。陸上の世界に戻るまで、私はトヨタで人事の仕事をしていました。人材育成をしても、その効果が出るのは3年後とか5年後なんですよ。だから最初は良くても、悪くても、結果的に3年後、5年後を見るのがマネジメントする側の考え方だと教わってきました。だから、まだ本当に強くなっているのかどうかもわかりません」
監督自身の手ごたえはまだそれほどないのに、結果がついてくる。しかも、本格的な効果が出るのは3~5年後ということは、立大は、今後はずっと伸びしろということかもしれない。
■63年ぶりのシード権獲得へ
全日本大学駅伝本選と、箱根予選会で波に乗った立大は今回の箱根駅伝に3年連続30回目の出場を果たした。
「目指すはズバリ、63年ぶりとなるシード権獲得です」と髙林監督。前回は選手たちが出走オーダーを考えていたが、今回は監督がレースプランを描きながら決めていく。
「調子、適性や走りの特徴、希望区間も聞きながらフラットに決めていきたいと思います。シード権が目標なので、往路の流れがポイントになるんじゃないでしょうか。全日本大学駅伝の戦いが面白かったなと思っていて、2区で14位まで順位を落としたんですけど、そこからじわじわ上げていき、最後は7位でフィニッシュしました。こういう駅伝を箱根でもしたいですね。とにかく地力が上がっています。春の段階では、『これではな……』という感覚だったんですけど、今は胸を張って『シード権を目指します!』といえるようになりました」
立大の指揮官に就任してまだ8カ月。チームを劇的に変えつつある中、こう語った。
「(駒大の)先輩の前田康弘さんも國學院大を強くしていますし、私としては母校・駒大に『ライバルです』と言ってもらえるのが将来的な目標ですね。恩師の大八木弘明総監督のように、人を育てて、夢を与えられるようなことをやっていきたいです」
駒大式、トヨタ式でもまれた37歳の監督が、長い歴史を誇る箱根駅伝で古豪・立大に“華麗なる復活劇”をさせることができるか。大いに期待したい。
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スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)
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(スポーツライター 酒井 政人)
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