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「プライドの王様」にどう立ち向かうか…成績優秀だが部下がどんどん辞める"熱血営業部長"を変えた社長の一言

プレジデントオンライン / 2025年1月17日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/guvendemir

本人は成績優秀なのに、部下をどんどん辞めさせてしまうタイプの上司がいる。部下への対応を改め、離職を止めることはできるのか。経営心理士の藤田耕司さんは「こういった社員への対応では、プライドへの配慮を心がけてほしい。プライドを傷つけないように行動を改めてもらうことが重要になる」という――。

■離職率を上げる2つのタイプの上司

今、日本では多くの会社が人手不足の状況にあります。

その中で次のような悩みを抱える会社が増えています。

採用競争は激化しており、募集をかけてもなかなか応募が来ない。そのため、社員に辞められると辞められた穴を埋められないため、会社にとって大きな痛手となる。

そんな状況で何人もの部下を辞めさせる社員は会社にとって悩みの種です。

その典型的なタイプが、①感情的になりやすい人、②部下に無愛想な人です。このタイプの人の下に繊細な部下がつくと、離職率はぐっと上がります。

最近の若い世代は教師や親から感情的に叱られることが減っており、また兄弟が少ないため兄弟喧嘩の経験もほとんどないなど、他者から感情をぶつけられることに対する耐性が弱い人が多い傾向にあります。そういった人が上司に感情的に叱られると心が折れるのです。

■プレイヤーとして高い能力を発揮している場合も

また、上司が無愛想だと分からないことがあってもなかなか質問に行けず、一人で抱え込んで時間が過ぎ、「まだできないの?」と上司から聞かれた際に「分からないところがありまして……」と質問をする。そして「分からないところがあるなら何で早く聞かないの?」と上司に詰められ、ストレスを溜める。これが続くと離職に至ります。

しかし、人手不足の昨今では、繊細な社員であっても丁寧に関わって一人前に育て上げることが尚一層求められます。そのため、部下を辞めさせる社員は会社にとって大きな悪影響をもたらすものであり、会社としても然るべき対応をとる必要があります。

ただ、こういった社員が、営業成績が抜群に良い、ずば抜けて業務処理能力が高いなど、プレイヤーとして高い能力を発揮している場合があります。その場合、その社員を叱って辞められたりしたら、それはそれで大きな痛手となります。

なので、なかなか強くものが言えず、どうしたものかと頭を抱える会社も少なくありません。

■重要なのは「プライドへの配慮」

私は経営心理士、公認会計士として、心理と数字の両面から経営のコンサルティングを行っています。その中で上記の相談はよく寄せられるものの一つです。もしかすると皆さんの会社でも同様の悩みが存在するかもしれません。

これまでこの問題を幾度も相談され、解決してきました。その解決の方法は会社の状況によって異なるため一概にお伝えすることはできませんが、本記事ではその骨子となるアプローチをお伝えしたいと思います。

こういった社員への対処で心がけていただきたいのが、「プライドへの配慮」です。

優れた実績を残しており、会社に対して十分な貢献をしているという自負から、高いプライドを持っていることが多く、そのプライドを傷つけてしまうと、反発されたり、辞められたり、ひどい場合は抵抗勢力を作られたりすることもあります。

そのため、プライドを傷つけないように行動を改めてもらうことが重要であり、面と向かって「当たりのきつさを改めなさい」と強く叱ることは極力避けた方がよいでしょう。

オフィスの窓際に立つ二人の男性
写真=iStock.com/imtmphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imtmphoto

■個別ではなく複数人に向けてメッセージを発信

そこでまず、全社員あるいは管理職以上の人に対して、採用が難しく、離職者が出るとその穴を埋められず、現場が回らなくなるという現状を理解してもらい、その上で、「離職者が出ないようにするための職場づくりに今まで以上に力を入れていきたい」と会社の方針を伝えます。

個別に伝えると、「遠回しに叱られている」と感じられることがあるため、複数人に向けてメッセージを発信するという方法をとります。

このメッセージは人事から発信するよりも社長から発信した方が効果が高いです。

さらに、具体的にどういったコミュニケーションや行動が離職につながりやすいのかを理解してもらうための研修を行います。多くの部下を辞めさせる社員は自分がやっていることが部下の離職に繋がっていると認識していないことが少なくありません。そのため、その点を認識してもらいます。

■仕事に求める水準が高い営業課長への「伝え方」

それでも当たりのきつさが改まらないときは、部下への関わり方を改めてほしいと個別に伝える必要があります。

ここで大事なのが、相手のプライドを傷つけない伝え方をすることです。

そのため、私は「こういう言い方をしてください」と具体的な伝え方までお客様に指導します。

仕事ができる人が感情的になりやすくなる原因の1つが「仕事に求める水準が高い」ことです。

あるIT企業の営業部で多くの離職者が出ていました。その原因は、営業課長のE氏にありました。E氏の営業成績はトップであり、仕事に求める水準が高く、部下の仕事がその水準に達していないと感情的になって、当たりがきつくなっていました。

ある部下は翌日のプレゼン資料を22時までかけて作成し、E氏にチェックを依頼したところ、「全然ダメ! やり直せ」と大量の修正を指示され、徹夜で対応させられました。そのことがきっかけとなり、その部下は退職しました。

机に突っ伏している女性
写真=iStock.com/doidam10
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/doidam10

そこでこの会社からご相談を受けた際、社長からE氏に対してこのように伝えていただきました。

「君は営業に対する熱意が高く、ずいぶん優秀だから、仕事に求める水準が非常に高い。ただ、その水準をそのまま部下に求めると部下は潰れてしまう。今は人が採れないから、部下の離職はそのまま会社の衰退につながる。君は他の人と比べて優秀だからこそ、その点は留意してくれよ」

E氏はこの指導を受け入れ、部下への対応を調整するようになりました。

このように相手の優れた点を伝え、その点を強調しながら改めるべき点を指摘することで、相手のプライドに配慮した指導ができます。

■部下への当たりがきつい営業部長が変わった理由

また、あるコンサルティング会社の営業部長であるT氏は断トツでTOPの営業成績をあげており、熱血な性格から営業成績が悪い部下に対してきつく当たってしまっていました。

それにより毎年のように離職者が出る状況でした。

そこで社長からT氏にこのように伝えてもらいました。

「君は仕事に対する熱意が高い。その熱意の高さは本当に素晴らしい。ただ、その熱意は部下に対する当たりのきつさになっているところもある。今は人が採れないから、部下の離職はそのまま会社の衰退につながる。そこで相談なんだけど、部下への当たりのきつさを和らげるために、どういう工夫ができるかな?」

「この点を改めなさい」と頭ごなしに伝えると相手のプライドは傷つきやすくなります。

そのため、「どういう工夫ができるかな?」と質問をし、相手が答えた内容を肯定し、その意見を採用するというアプローチをとることで、プライドを傷つけることなく、こちらの意図した方向に導きやすくなります。

この場合もT氏から「叱るべき点は叱らないといけないと思う。その点は譲れない。ただ、もっと冷静に叱ることはできると思うので、まずはその点を意識していきたい」との答えがあり、その答えを社長は「なるほど。それでいいと思う。では、まずはその点を意識して部下と関わるようにしてほしい」と伝えました。

その結果、T氏の当たりのきつさはずいぶん緩和され、T氏の態度の変化に伴って離職者も出なくなりました。

■「部下と関わらせないポジション」につけるのも手

ただ、そうやって指導しても改まらない人もいます。

その場合は、部下と関わらせないポジションにつけるのも1つの手です。

例えば、上司や同期のみと取り組む仕事に従事させる、1人で取り組む仕事に従事させるなどです。

ある機械メーカーでは、社内でも一番の技術を持ったベテラン社員A氏の部下への当たりがきつく、過去に複数人の部下が辞めていました。A氏の頑固さを考えると、その当たりのきつさを直すことは無理だろうと会社は判断しました。

そこでA氏に「あなたの技術力は社内で一番なので、その技術力を生かした仕事に専念してもらいたい」と伝え、製造ラインから外れてもらい、「特別技術職」という役職を与えました。そして、少し昇給し、難しい修理を専門的に担当してもらいました。

製造ラインから外れ、1人で黙々と修理を担当することになったため、A氏の部下はいなくなり、離職者が出ることもなくなりました。

藤田耕司『離職防止の教科書 いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』(東洋経済新報社)
藤田耕司『離職防止の教科書 いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』(東洋経済新報社)

また、A氏も技術の高さが評価されて特別な肩書が与えられ、昇給もし、難しい仕事を優先的に担当できているため、意欲的に業務に取り組んでくれています。

こういった取り組みを通じて、会社として当たりのきつい上司から部下を守ることも必要です。その際にはこの事例のように、当たりがきつい上司にも気持ちよく働いてもらうための配慮を忘れないようにしてください。

人手不足の時代においては、いくら仕事ができる人でも部下を辞めさせる人は組織を衰退させる人となります。

そういった人にどう対応するかは、組織の成長のためには極めて重要なポイントになります。

その対応をとるうえで本記事を参考にしていただければと思います。

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藤田 耕司(ふじた・こうじ)
経営心理士、公認会計士
1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(経営心理士、公認会計士 藤田 耕司)

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