豊田章男会長の"未来予測"がついに現実のものに…トヨタが「世界一の半導体企業」と提携する重要な意味
プレジデントオンライン / 2025年1月14日 9時15分
■2025年、自動車業界は大きく変わる
ここへきて、世界の自動車産業は、目に見えないところでも大きく変化している。表面上は米欧でEV(電気自動車)の需要が減速し、トヨタなどのハイブリッド車(HV)の販売が好調だった。米テスラの販売台数は前年の実績を下回った。その一方、中国では政府の支援にも助けられ、大きく販売台数を伸ばした。EV部門でテスラとトップを争う中国のBYDは、EV、プラグインハイブリッド車(PHV)の販売を大きく伸ばした。
そうした状況下、テスラ最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏の動きに注目が集まっている。マスク氏は米国の次期大統領のドナルド・トランプ氏との関係を築くと同時に、“自動車のソフトウェア化”へと突き進んでいるようだ。トランプ氏との関係で、主に規制緩和などを取りつける狙いがあるとの見方もある。
少し長い時間軸で見ると、今後、主要先進国ではエンジン車からEVなど自動車の電動化は加速するだろう。それと同時に、自動車同士をネットで結んでデータを使ったり、車内でSNSを自由に使えたりするような、自動車のソフトウェア化が進むことは間違いないだろう。
マスク氏は、そうした変化のビジネスチャンスを狙って、米国政府との関係強化で規制緩和や支援を取りつけているのかもしれない。わが国の自動車メーカーも欧米メーカーに遅れずに、その変化を的確につかんで対応する必要がある。
■ファーウェイなどIT企業が自動車に参入
世界の自動車市場を眺めると、販売台数世界トップの中国では政府の支援に支えられて、EV、PHVなど“新エネルギー車”の販売が増えた。華為技術(ファーウェイ)や小米科技(シャオミ)などのIT先端企業も自動車分野に参入し、EVとネットワーク空間の接続に関する技術を結合したモデルを投入した。
中国メーカーは、アジアやアフリカや南米などの新興国地域でもEVなどの生産体制整備に取り組んでいる。かつて、“アジアのデトロイト”と呼ばれたタイでは、電動車の生産で産業育成を狙う政府の意向と中国企業の戦略がマッチし、わが国の自動車企業のシェアの低下は鮮明化している。
米国と欧州市場ではEVシフトが鈍化した。EVシフト鈍化に影響した要因はいくつかある。主なものは航続距離の短さ、バッテリー製造コストの高さ、充電インフラ未整備、補助金の削減などだ。
■テスラの危機、日産とホンダの経営統合…
中国と米欧でのEV需要の趨勢は、テスラとBYDの販売実績に表れた。中国と米国に大規模な生産拠点を構えるEV世界大手テスラの2024年のEV販売台数は、178万9226台(前年比1%減)だった。13年ぶりの前年割れだ。
一方、BYDのEV販売は176万4992台(同12%増)、テスラを追い上げた。主たる要因は、中国政府の支援拡充により、中国のEV生産コスト(車載用のバッテリーなどを含む)は、日米欧の企業が競争にならないほど低いことがある。
そうしたEVのデメリットもあり、米欧で航続距離が長く環境性能も相対的に高いHVを買い求める消費者は増えた。HVなどの選択肢を持つトヨタ、ホンダなどわが国の自動車メーカーは主に米国の需要を取り込んだ。一方、脱エンジン・EVシフトの戦略をとった米独の主要自動車メーカーは苦戦した。全方位型の戦略をとったトヨタなどと、米欧勢の差が明確になった。フォルクスワーゲンは、2030年までにドイツ国内で3万5000人以上の人員を削減する。
業界再編に向けた変化も起きた。わが国ではホンダと日産が経営統合の協議を開始した。日産は中国のEVシフトに対応が難しく、米国などで需要が増えたHVも投入できなかった。日産の苦戦はかなり深刻で、一部ではホンダによる日産の救済との見方もある。
■「無人タクシー」の導入を急ぐテスラ
今後、注目の一つは、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏の動きだろう。2024年10月、マスク氏はロボタクシー(無人タクシー)である“サイバーキャブ”のプロトタイプを発表した。同氏はロボタクシーの大量生産を確約し、2025年にドライバーの監視を必要としない完全な自動運転技術を実用化すると表明した。さらに、サイバーキャブの価格は3万ドル以下、2027年までに生産開始の予定であるという。
サイバーキャブの発表は、自動車のソフトウェア化の時代到来の一つのイベントだったといえる。自動車のソフトウェア化とは、ソフトウェア・ディファインド・ヴィークル(SDV)、あるいは、ソフトウェア・ディファインド・カー(SVC)などと呼ばれる。重要なポイントは、ソフトウェアが自動車の性能、役割などを規定するということだ。
これまで、自動車は購入した直後からその価値が減少した。燃費性能の高いモデルを手に入れるために消費者は、新しいモデルを購入しなければならない。ナビゲーションシステムなども、新モデルのほうが優れている。
■トヨタがエヌビディアと提携した背景
自動車のソフトウェア化に伴い、こうした自動車の常識は大きく変わるかもしれない。スマホのアップデートのように、ネットワーク空間で配信された新しいソフトウェアが、自動車の性能を向上させる。ハードウェア(車体)よりもソフトウェアの重要性が高まる時代が迫っている。
それに伴い、自動車企業のビジネスモデルも変わる。これまで、日米欧の主要自動車メーカーは、内燃機関などのすり合わせ製造技術を磨き、燃費効率の良い自動車を製造して販売した。それに対して、自動車のソフトウェア化の時代、自動車関連企業の収益源は販売後のソフトウェアのアップデートなどが中心になるだろう。
トヨタとエヌビディアは次世代車両の開発で提携することが明らかになった。米ラスベガスで7日から開かれた世界最大のテクノロジー見本市「CES」の基調講演で、エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは先端半導体をトヨタの次世代車で採用すると発表した。
かつての成長を支えた要素技術に固執すると、企業がソフトウェア主導の時代の到来という変化に乗り遅れる可能性は高まる。
■政権入りするマスク氏の本当の狙いとは
自動車のソフトウェア化は中国でも加速している。小馬智行(ポニー・エーアイ)、百度(バイドゥ)傘下のアポロ・ゴーなどが、完全自動運転を可能にするAI(人工知能)を開発している。自動車メーカーの動きは実に早い。それに対応できないと、最終的に生き残りが難しくなることも考えられる。
トランプ次期政権下、マスク氏は“政府効率化省(DOGE=ドージ)”の共同トップに就任する。歳出のカットや連邦職員の在宅勤務廃止などに取り組むとみられる。それに加え、同氏はテスラの成長加速のため規制緩和などを政権に求める野心もありそうだ。
米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は、年間2500台を上限に安全基準を適用しない車両の運行を認めている。ただ、適用除外を申請すれば確実かつ迅速に許可が下りるとは限らない。マスク氏が自動車のソフトウェア化戦略を実現するため、米政府は完全な自動運転車両の走行に関する規制の緩和や撤廃は避けて通れないだろう。
■日本の“お家芸”にも変革が求められている
テスラは、自社の技術を国際標準規格に育てようとするかもしれない。米国政府にとっても、EVシフトで先手を打った欧州委員会を巻き返すため、テスラの充電や“ワイヤレスアップグレード(OTA、オーバー・ジ・エア)”技術は重要だ。電動化に加え自動車のソフトウェア化の分野で、米国政府とテスラが連携し国際ルールの策定を目指す可能性はあるだろう。
マスク氏はトランプ政権から連邦政府所管の土地の利用に関する規制緩和を取りつけ、テスラの充電ステーション増設を目指すことが考えられる。トランプ政権から“スペースX”の衛星打ち上げ場所拡大などの許可を得て、衛星経由での自動車の運行管理、相互通信などソフトウェア事業の成長加速に取り組むこともあるだろう。
今後、テスラが競合する自動車関連企業、車載用ソフトウェア関連のIT新興企業を買収する展開も想定される。それをきっかけに、世界の自動車産業の再編が加速することもあるだろう。バッテリーなどのサプライチェーン整備をめざして、トランプ政権に関連資材の国内生産増加を求めて関税政策を重視するあまり、主要国との通商摩擦が激化する恐れもある。
いずれにしても、これまでハード面のすり合わせ製造技術を磨いて成長してきたわが国などの自動車産業は、これから、より急速な変化に直面する可能性は高い。特に、ソフトウェア面での準備は重要だ。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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