だから松本人志の最新インタビューに怒りの声が殺到した…記事が可視化した「芸能リポーター」という問題
プレジデントオンライン / 2025年1月14日 17時15分
■クリスマスに突然公開された松本人志の「裁判終結後第一声」
お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志氏が性加害疑惑問題をめぐり、文藝春秋などに対して約5億5000万円の賠償を求めた裁判は、松本氏側の「訴えの取り下げ」と文藝春秋社の合意により、11月8日に終結。そこから1カ月超を経て、松本氏が12月25日に芸能記者・中西正男氏のインタビュー(Yahoo!ニュース掲載)で現在の心境を語り、話題になった。
この記事に対しては、松本氏のファンからは歓迎、感謝の声が多数あがった一方、「一方的に松本氏に都合のいい事だけ垂れ流して」「ただの提灯記事」「いくらもらったら魂売れるんですか?」といった辛辣な批判も続出。
さらに、この記事が配信された同日には、中西氏と同じYahoo!ニュースエキスパートで吉本興業所属芸人の取材も多い田辺ユウキ記者が擁護ととれる記事を配信。
「いろんな意見はあるが、そもそもこの記事の趣旨は、松本人志さんの『第一声』を届けることだろう。松本人志さんの言葉を濁りなく、まっすぐ伝えてくれる人・メディアはどこなのか――。そういう意味で、中西正男記者はもっとも適任だという判断だったのではないか」と評価し、「この記者は普段から芸人サイドに偏った提灯記事専門記者だから」「同業者に忖度した生煮えの長文」といった批判を浴びていた。
■報道でもなく芸能人インタビューでもない不可思議な記事
実はこの記事、記者やライター、編集者など、文字に関する仕事を生業にする者たちの間でも大いに話題になった。なぜなら、一般的なインタビュー記事の「形式」「体裁」を逸脱した異様なものだったためだ。
この記事を受け、筆者はXで「あくまで松本人志のひとり語りの形式にまとめるこずるい記事」と投稿。これに対し、松本氏の復帰を切望するアカウントからは「文春記事のA子さんも一方的な言い分だったけど」「一人称ひとり語りはA子さんの記事と同じ」といった反論があったが、中西記者の記事と文春報道は本質的な部分が大きく異なっている。
その違いは後に詳述するとして、まずは中西記者の記事を説明する上で、一般的なインタビュー記事の形式について触れておきたい。
インタビューは一般的に①「地の文+コメント(カッコでの会話文と、会話以外の状況説明や叙述で構成されるもの)」か、②「Q&A(インタビュアー〔取材や執筆を行う側〕とインタビュイー〔質問をされる側〕の掛け合いで構成されるもの)」形式の二択が多い。
インタビュイーがひとりで語りおろす③「一人称ひとり語り」の形式は少数派で、多くは特集内の囲みインタビューなど文字数が少ないパターンか、語り手の「主張」を強調したいものや、語り手の回顧録的意味合いのもの、編集部は責任をとらず「勝手に喋らせる」パターンなどに限定される。
■松本氏のひとり語りなのに、写真はインタビュアーと対面式
中西記者は③「一人称ひとり語り」で記事を構成しており、その理由についてインタビュアーを「黒子(くろこ)」(影の存在)と考えているためと説明している。そこはあくまで中西記者のスタンスだが、当該記事が問題視される理由は何点かある。
中西記者は通常、芸人やタレントの単独もしくはグループ画像を主に正面アップで掲載、本人が読者に向けて語るような記事としているが、松本氏の記事のみ松本氏と中西記者が対等な大きさで向かい合う形の画像として登場している。インタビュイーと対等な形の顔出しの「黒子」など、ありえない。にもかかわらず、文章に登場するのは松本氏の一方的な主張のみで、中西記者の問いや考えは一切登場しないため、「本文中のどこにも中西記者は存在せず、松本氏にYahoo!ニュースエキスパートのスペース及び権利貸しのみしている」ように見える。
しかも、一番の問題は、一般的なタレントや著名人などの告知込みの記事や、数多ある「提灯記事」と異なり、松本氏の記事の場合、性加害疑惑で裁判沙汰にまでなり、自ら訴えを取り下げ、公になんの説明もしないままに活動を再開しようとしているタイミングで、「実際は女性に性加害をしたのかどうか」という事実確認も追及も一切なく、一方的に語らせていること。インタビューの冒頭で、松本氏が「なんでも聞いてください」と言っているにもかかわらず、だ。
これに対して、中西記者が所属する「KOZOクリエイターズ」(芸能リポーターの井上公造氏が設立)に「なぜインタビュアーを“黒子”とする通常の中西氏の記事と異なり、松本氏と中西氏が向かいあう写真を使用したのか」「記事の反響をどう受け止めているか」の質問2点を送ったところ、同社代表の高田志保氏が中西記者の意向として以下の回答をくれた。
「松本人志さんの原稿について書いたものでご判断いただければと考えており、新たな取材はお断りしております」
■東京新聞・望月衣塑子記者「批判の意味がわかっていないのでは」
ジャニー喜多川氏の性加害問題をはじめ、被害者への取材を多数行ってきた東京新聞・望月衣塑子記者はこの記事への違和感について次のように語る。
「松本人志さんの復帰のための足場づくりをしましたという持ち上げ原稿のようで、かつそれを吉本興業からの許諾を得た上で、というように見えました。松本人志は、なぜこれほど批判されたのか、ああいう告発の声が飲み会をしたり、接点を持った相手の女性たちから出てきたことをどう深刻に受け止めたのか。『みんなが楽しんでくれると思っていた』と言っているのは、なんの反省も結局まだないということかと愕然としました」(望月氏)
■芸能界復帰に向けたお膳立てのインタビューでは?
さらに、新たに、松本氏と組み「まつもtoなかい」という番組を持っていた中居正広氏の性加害疑惑も出てきている中での記事公開というタイミングにも疑問を呈する。
「松本氏は春先に新たな動画チャンネルを浜田さんと立ち上げるようですが、結局、休業していた1年の中で、何ひとつ反省や学びがなかったのか。その点をきちんとインタビュアーは問いただし、報じるべきだったのではないでしょうか。あの記事では、中西氏が松本氏の復活に向けたお膳立てのためにだけ出てきたインタビュアーのように見えてしまっていると思います」(望月氏)
中西記者の記事に憤りを覚えた記者・ライター・編集者は多く、Xで記事を批判した筆者のもとにはメールやDMで賛同や応援のメッセージが何件も寄せられた。しかも、いわゆる友人知人ではなく、全く面識のない人や、過去に1~2度仕事でご一緒したことがある程度の方々からである。その一部、週刊誌の女性編集者X子さん(43)は言う。
■マスコミの同業者からは「ゲス」「バカなの?」と批判殺到
「この記事が出た瞬間、これまでも何度も議題にしてきた新聞や出版社の女性たちのグループLINEなどで回しあいましたが、第一声はみな『ほんとクズ』『ゲス』『バカなの?』など、とても活字にできないようなものでした。この一連の問題については、怒っては裏切られるような報道や世間の一部の反応を1年近くにわたってくらってきたので、正直、松本氏サイド同様に幼稚な言葉でしか反応できなくなっていました。
(報道メディアではなく)中西氏個人の発信記事という時点で、興味を失う反応も多かったものです。つまりはその体裁を見ただけで、この業界の人間なら結局のところ松本人志氏の意向に沿った、何ら新しい説明もなされない、“お山の大将”の記事でしかない、と読む前から察せられる、という反応です」
ちなみに、X子さんの分析では中西記者は「関西のテレビ番組に出演したときの様子や、彼のYahoo!コメントを見ると、芸人が警察沙汰レベルの問題を起こしても、正面から批判するようなコメントをしたり書いたりしていない印象」。そのため、今回の記事も「松本人志は自分の言葉で説明すべき」という世論に対する単なるアリバイ作りと見ている。
■「松本人志が記者の取材を受けた」ということを強調する狙いか
「さらに中西氏は自身を『黒子』としつつ、性加害疑惑をはらんだままの、少なくとも女性から被害を訴えられていた人物への取材にもかかわらず、柔らかな自然光の中でテーブルをセットして向かい合う2人を真横から撮ったシチュエーション(おそらく取材場所は新宿の小学校跡地を改築した吉本興業社内でしょう)。カルチャー誌のカットのような写真は、ことの深刻さ、置かれた状況を本当にわかっているのかと怒りが込み上げてきたものです。
本来ならインタビュアーまで写り込んだ写真なぞトップ画面に掲載することはなく、これは明らかに松本側が『記者の取材を松本人志が受けた』ということを強調したかった、ということが手に取るようにわかります」(X子さん)
■告発女性からのお礼メールでは、性被害はなかったことにならない
また、出版社勤務の40代女性Y子さんは言う。
「個人的には、この松本人志問題の焦点は『週刊女性』が、松本氏に女性たちを献上していたスピードワゴン小沢一敬氏と被害女性とのLINEの中身を報じて、それに呼応するように口を閉じていた松本氏がXで『とうとう出たね…』と卑怯極まりない幼稚な呟きをしたところだと思っています。
実はこの『週刊女性』が出る前から、その飲み会が終わった後の女性から小沢氏への、いわゆる『お礼メール』の存在があることは、我々のごく一部では出回っていました。ただ、弊誌が記事にしなかったのは、たとえ女性が飲み会の後にお礼のメールをしたからといって、性被害はなかったという証拠にはならないことは昨今の性被害、性加害トラブルの裁判で常識になりつつあったからです。
とはいえ、ジャニーズ問題と同じ構造で、各媒体が本気で吉本とは喧嘩できないという弱さがありました。吉本側の望む方向性の記事もよく出たものです。裁判の取り下げコメントを双方が発した際も、吉本側は各スポーツ紙の担当に(松本氏が勝手にぶち上げて勝手に形勢が悪くなると取り下げたわけでなく)『終結、和解に近い雰囲気だ』と補足説明していた。つまり強要はしないが、そう書いてくれるとうれしいなというニュアンスで連絡していたのも知られた話です」
メディアの報じ方をはじめ、松本人志性加害疑惑とジャニー喜多川氏の性加害問題はよく似ているとしばしば指摘されるが、その背景に、とある事務所との関わりも見える。
■ジャニーズ事務所の会見でも芸能リポーターが謎の行動を
思い出されるのは、2023年10月2日、ジャニーズ事務所の会見でジャニーズアイランド代表取締役社長・井ノ原快彦氏が抗議する記者らをなだめるように「落ち着いて行きましょ。じっくりいきましょ」「小さな子どもたち、ジャニーズJr.の子どもたち、被害者の皆さん、自分たちのことでこんなにモメているのかと見せたくない」「ルールを守っていく大人たちの姿を見せていきたい」と発言し、直後に会場から拍手が起こるという異常事態が起こったとき。テレビの視聴者らから拍手をしていたと名指しされていたのは、駒井千佳子氏や長谷川まさ子氏らKOZOクリエイターズの女性芸能リポーター複数名だったのだ(両者ともテレビ番組等で拍手した事実を認めている)。
その際、ふたりにコメントをもらうべく、KOZOクリエイターズに取材依頼したが、先述の代表・高田氏に芸能リポーターの苦労を1時間くらい電話で語られ、取材を断念した経緯があった(つまり、筆者は丸め込まれたわけだ)。
芸能人が不祥事について週刊誌や新聞などのメディアからの追及を避けるとき、壁となり、ときに擁護し、ときに本人の言い分のみをそのまま伝える役割を与えられる芸能リポーター。その仕組みや構造が中西記者による今回の松本人志氏インタビューで再び可視化されたということなのだろう。
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ライター
1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など
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(ライター 田幸 和歌子)
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