数値が「26以上」の人は即やるべき…「体重÷身長の2乗」の計算式でわかる"ピンピン長生き"のための習慣
プレジデントオンライン / 2025年1月24日 17時15分
※本稿は、『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
■笑うことよりも大事なこと
前回の記事では、「笑うこと」の免疫効果についてお話ししました。
免疫力の維持には笑うことも大事かもしれませんが、運動をすることはもっともっと大事です。
実際、これまでに多くの論文が免疫力維持における運動の意義について報告しています。
特に、定期的に運動をすることによってすべての病気の死亡率が下がり、慢性疾患の発症やさまざまな病気の発症率もかなり低下することがわかっています。免疫力を落とさないようにするためにはとても確実な方法です。
ただし、運動をする場合、激しい運動である必要はありません。ともかくからだを動かすことが大事で、それを定期的に行うことによって、次第に病気になって死亡する率が下がっていきます。※
※ Warburton DER & Bredin SSD, Curr Opin Cardiol, 32(5):541, 2017.
■「やりすぎ」は逆効果
どのぐらい運動をしないといけないかは、個人の活動状況、健康状態などに依存します。
からだが元気で動ける人は、無理のない範囲でどんどん動くのがいいでしょう。
一方、からだの自由度が下がっている人は、自分なりにできる範囲で無理せずに動くことが大事です。どちらの場合にも、運動のやりすぎはかえって逆効果になります。
スポーツのやりすぎがからだに良くないのは、過剰な運動によって筋肉などの組織が傷つき、それによってからだの自然免疫が過剰に刺激を受け、組織に炎症反応が起きるからです。※
※ Nieman DC & Wentz LM, J Sport Health Sci, 8(3):201, 2019.
さらに心血管系に余計な負担をかけることにもなります。そのために免疫機能がかえって一時的に低下することになります。
■スポーツ選手は短命なのか
それを反映していることなのかどうか、よく「スポーツ選手は短命である」と、いろいろなところに書かれています。確かに競技スポーツでは、激しいトレーニングや食事制限などが続くことがあり、肉体的に大きなストレスになることがしばしばあります。
しかし、1998年に書かれた『スポーツと寿命』(大澤清二著、朝倉書店)という本では、男女を区別せずにスポーツ種目ごとに平均寿命を見ています。当時の平均寿命は男性77.2歳、女性84歳だったのですが、この本によると、陸上中長距離選手では80.3歳、剣道77.1歳、ボート76.2歳とのことです。
これだけを見るとスポーツ選手の寿命が特に短いようには見えません。しかし、同じ本の中では、レスリングでは65.6歳、ボクシング61.5歳、相撲(プロ)56.7歳と書かれていて、からだに直接ダメージを与えるようなスポーツでは短命の傾向にあることが指摘されています。
ただし、これが選手生活の時のダメージによるものなのか、その後、競技スポーツを急にやめてしまったことが影響しているのか、それとも選手生活をやめてからの食生活を含む生活様式の問題だったのかなどについてははっきりしません。
■虚血性疾患、脳卒中による死亡リスクも低い
一方、海外からもさまざまなデータが報告されています。たとえば、フィンランド代表として国際大会に出た、いわばエリート選手の平均寿命は、持久系スポーツ75.6歳、混合系スポーツ73.9歳、パワー系スポーツ71.5歳で、対照群は69.9歳だったことから、※この場合もやはりスポーツ選手の寿命が短くはありませんでした。
※ Sarna S et al, Med Sci Sports Excerc, 25:237, 1993.
また、同じフィンランドの別の研究グループが同国の男性エリート選手と一般人を比べたところ、虚血性心疾患を起こすリスクは、持久系スポーツ、混合系スポーツで約3割減、脳卒中による死亡リスクは持久系スポーツで約5割減、混合系スポーツで約4割減と、いずれの場合もエリート選手のほうが一般人よりもリスクが低くなっていました。
ここでも「スポーツ選手だから短命」とか、「スポーツをやりすぎると病気にかかりやすい」とか、一概に言うことはできません。
■「運動」がもたらす免疫効果
一般の人たちでは、むしろ一定量の運動を定期的にすることによって健康増進に役立つと考えられます。
効果➀ストレスに強くなる
その一例として、運動を続けることによって血液中のさまざまな炎症マーカーが低下してくることがわかっています。
たとえば、CRPというタンパク質は、体内で炎症が起きたり細胞が傷ついたりすると値が高くなる、いわゆる炎症マーカーですが、ふだんから運動をしている人たちはよほど※激しい運動をしてもCRPが上がりにくいことがわかっています。
※ Kasapis C & Thompson PD, J Amer Coll Cardiol, 45(10):1563, 2005.
その理由のひとつに、運動によって、体内で炎症を抑える働きのある抗炎症性タンパク質が複数作られるようになることがあるようです。
■炎症はあくまでも一時的なもの
運動自体は、やりすぎると確かに筋肉などに炎症を起こすことがあるのですが、からだにはそれを元に戻そうとする恒常性維持反応が存在していて、運動をすると体内で複数の抗炎症性タンパク質が作られるようになっています。
このために、ふだんから運動をしている人では、あらかじめ複数の抗炎症性タンパク質が体内でできていて、炎症が起こりにくくなっているのです。つまり、筋肉のストレスに対する予備能力が高くなっているのです。
効果②血管機能がアップする
運動は血管にも働いて、血管の機能をアップさせます。
運動をすると、血流が増加し、これによって血管の内側を覆う内皮細胞が刺激されて、血管を拡張させる物質である一酸化窒素(NO)が作られて放出されるようになるのです。すると、NOは血管壁に存在する平滑筋に働いて、平滑筋の緊張を緩め、このために血管が広がり、血液が流れやすくなります。
■一酸化窒素をつくる能力が高くなる
一方、運動によって交感神経が刺激されるために、前回の記事で述べたカテコラミンが放出されて血管壁が収縮するようになるのですが、上記のごとく、NOを介する血管拡張が同時に起きているので、血圧が上がりすぎることなく、うまく調節され、血管がよく機能するようになります。
ふだんから運動している人の血管の内皮細胞はNOを作る能力が高く、血管をやわらかい状態に保つのに役立っています。
効果③リンパ液の流れも良くなる
また、NOは血管だけでなくリンパ管を包む平滑筋細胞にも働いて緊張を緩めてくれるので、リンパ液の流れも良くなります。
拙著『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル)でも述べていますが、免疫細胞は血管とリンパ管の両方を用いてからだ中をパトロールしていることから、運動は血管とリンパ管の流れを良くして免疫細胞のパトロール機能を亢進させ、これによってもからだにいい効果をもたらします。
■最近の研究でわかってきたこと
効果④血糖値が下がる
これに加えて、運動によって骨や筋肉からからだにいい物質が放出されることが最近わかってきました。たとえば、筋肉運動によって骨の中にある骨芽細胞から「オステオカルシン」という物質が放出されます。※
※ Karsenty G, Annu Rev Nutr, 43:55, 2023.
オステオカルシンはすい臓に働いてインスリンを作らせます。インスリンは細胞のグルコースの取り込みを促進して血糖値を下げる役割があるので、運動による血糖値の低下に一役買います。
効果⑤脳が活性化する
オステオカルシンはまた、男性では睾丸に働いて筋肉量や筋力増強をもたらす男性ホルモン(テストステロン)を作らせます。脳の活性化にも役立ちます。
効果⑥全身の臓器の機能がアップする
また、運動によって筋肉から「マイオカイン」とよばれる種々の生理活性物質(サイトカイン)が放出され、全身の臓器に働いてその機能調節をします。
このように、なぜからだを動かすことが健康にいいのかが、分子レベルで次第にわかってきています。
■「運動しないこと」のリスク
一方、運動をせずにぶらぶらしていると、消費するカロリーが減り、摂取するカロリーのほうが相対的に多くなるので、次第にからだが太ってきます。
肥満の度合いが進むと、脂肪組織で慢性的な炎症が起きるようになり、そのために血液中の炎症マーカーが次第に上がってきます。それを示すのが図表2です。
BMI(body mass index:ボディマス指数)が26を超える肥満の人では血液中のCRP(炎症時に肝臓で作られるタンパク質で、炎症時のマーカーとされる)がやや高い値を示す人が増えています。
また、これは別の炎症マーカーであるIL-6(インターロイキン-6)でも同様です。IL-6は炎症性サイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質で、炎症時にたくさん作られる)のひとつで、感染症、外傷、慢性炎症などで血液中の値が上昇します。BMIが26を超える肥満者では、IL-6でも高い値を示す人が多くなっています。
これに対して、BMIが標準値であるスポーツ選手ではいずれの炎症マーカーも低くなっていました。
つまり、スポーツ選手では肥満者に比べてからだの中の炎症の程度がずっと軽くなっています。
からだを動かすと肥満になるのが抑えられ、脂肪組織での慢性炎症が起こりにくくなるのです。
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大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授
1947年、長野県生まれ。京都大学医学部卒業、オーストラリア国立大学大学院博士課程修了。金沢医科大学血液免疫内科、スイス・バーゼル免疫学研究所、東京都臨床医学総合研究所を経て、大阪大学医学部教授、同大学大学院医学系研究科教授を歴任。著書に『ウイルスはそこにいる』(共著・講談社現代新書)などがある。
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(大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授、大阪大学名誉教授 宮坂 昌之)
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