超成長企業・アマゾン減速の"兆候"は2022年にあった…世の中の潮流を読むために絶対外せない視点
プレジデントオンライン / 2025年1月14日 7時15分
■「本物の潮流」を見極める
新しい年が始まった。年明けには、これからの世の中がどうなるのか、さまざまな予測が出まわる。特に今は不確実性の高い時代だ。2024年のニュースを振り返っても、「ブラックスワン」といわれるような想定外の事態が頻発した。世界全体に影響を与えるような予測不能な出来事は、今年も起きるだろう。
こうしたなか、ビジネスを進めていく上で、変化を予測することが重要なのは言うまでもない。しかし、予測はあくまでも予測であり、未来を完全に言い当てることなど、実際には不可能だ。
一方、実は世の中には、確実にこの方向へ進んでいくであろうと予測できる変化も少なくない。たとえば今後、日本で「もっと人口が減る」ことは各種統計からも明らかである。「もっと少子高齢化が進む」ことも、「もっと過疎化が進む」ことも、確実だと言っていいだろう。ところが、こうした予測できる変化を前提とせずに仕事をしている人は、意外と多いのではないだろうか。
■「トレンド」と「トレンディ」の違い
持続可能なビジネス戦略の分野で、世界有数のリーダーとして知られるアンドリュー・ウィンストンは、著書『ビッグ・ピボット』のなかで、世界が直面する「重要な3つの潮流」を挙げている。ひとつは環境問題で、「もっと暑くなる」からクリーンなビジネスが支持される。2つ目に資源問題で、「もっと足りなくなる」からイノベーションが支持される。そして3つ目がガバナンス問題で、「もはや隠せない」から隠さない者が支持されるようになると指摘している。
また、世界的な未来学者であるエイミー・ウェブが創業したシンクタンク「Future Today Institute」は、変化の要因を見極めるには、「矛盾、変曲、慣行、工夫・創意、極端、例外・希少」に着目すべきと発表している。さらに同社は、従来の「インサイト(洞察)」に加えて、「フォーサイト(未来への洞察)」の必要性を説き、「トレンド」と「トレンディ」を見分けることが重要だと述べている。ここでいう「トレンド」とは本物の潮流のことであり、「トレンディ」とは一時的な流行に過ぎないものだ。
■予測するうえで「まず意識すべきこと」
では、本物の潮流である「トレンド」を、どのように見極めればいいのか。
予測をする際に、私がまず意識しているのは、「兆候」を見逃さないということだ。たとえば「もっと暑くなる」というトレンドを考えてみる。2024年には、『日経MJ』が毎年発表するヒット商品番付のひとつに「春『夏夏』秋冬」というワードがランクインした。長い夏の影響で、売り場に大きな変化があったとしている。
実際、長引く残暑で秋冬衣料が振るわず、10月の売上高では百貨店が32カ月ぶりの減収、衣料品・靴専門店も軒並み減収となった。一方で、熱中症リスクの測定端末などは大きく販売を伸ばした。
実は長期予報を見ると、2024年は年初から猛暑の予想がされていた。兆候を見逃さず、長い夏を予想して対応した者は勝ち、従来通りの対応しかできなかったところは苦戦することになった。
■「行動」→「感情」→「価値観」を見る
また、物事を予測するうえでは「行動→感情→価値観を見る」ことも重要なポイントだ。消費者の行動に変化があったときには、「行動(What)」の変化だけにとどまっている場合もあれば、「感情(Why)」の変化を伴っている場合もある。そこまでの変化であれば一時的なトレンディである可能性が高いが、人々の「価値観(Being)」まで変化していたとしたらトレンドだと考えてよいだろう。
AIツールの急速な普及を例にとると、「行動」レベルでは、多くの人々が日常的に生成AIを利用するようになり、仕事や学習、創作活動などのスタイルが変化した。「感情」レベルでは、生成AIの利便性に感動や驚きを感じる一方で、AIに仕事を奪われるのではないか、AIとどう共存するべきかといった不安も生じている。
これがさらに進めば、AIを「共存のパートナー」と捉える新しい価値観が形成され、人々の間でAI活用はスキルの一部として捉えられるようになってくる。「価値観」レベルでの変化が起これば、これはもう本物の潮流ととらえられる。
■もっと「自動化」が進む
改めて世の中を見渡すと、確実に予想できる本物のトレンドが身近にあることに気づく。
「もっと無人化になる」ことは確実だろう。日本でもコンビニなどでは無人店舗が登場しているし、無人レジも普及してきた。
また、「もっと自動運転になる」ことも予想できる。アメリカでは、テスラが2026年から自動運転タクシー「サイバーキャブ」を生産する計画を掲げている。日本でも、2023年4月から、ドライバーがいない状態で走行する自動運転「レベル4」の運行許可制度がスタートしている。昨年11月には、NTTグループが名古屋で自動運転シャトル便の定期運行を始めた。ドライバーが運転する「レベル2」での運行だが、「レベル4」の実現を見据えた取り組みだ。
自動運転が拡大していけば、移動手段の確保に悩む過疎地の交通が変化する。さらに運転手不足に直面している物流も変わるだろう。そうなると、私たちの生活そのものが一変する。事故や渋滞が減り、必要なときに車を呼ぶことができるので、駐車スペースも不要になる。将来的には、都市デザインそのものが人中心に変化すると言われている。
■「2025年のビジネス」を漢字1文字で表すとしたら…
世の中が便利になって、価値観が多様化し、自由な生き方、働き方が広がってくると、「もっと1人でいるのが当たり前になる」ことが予想される。クリスマスシーズンには1人でクリスマスを過ごす「クリぼっち」という言葉をよく見かけるが、最近ではあえて1人を楽しむ人が増えている。「自分ファースト」で満喫したいという人に向けて、1人でも安心して楽しむことができる商品やサービスはさらに広がっていくだろう。
こうしたトレンドを踏まえて、2025年のビジネスを漢字1文字で表すとしたら、私は「安」という漢字を挙げたい。安心、安全、安定、安泰、安堵、安息、安穏など「安」を含む言葉は多いが、安心や安全は人間にとって基本的な欲求である。激変の中、リスクを取りたがらない時代に入り、「安」を満たす商品・サービスがますます求められるのではないかと思う。
■「変わらないもの」に着目する
ここまで、本質的な変化の潮流をどう見極めるかという話をしてきた。しかし、それ以上に大切なのは、変わるものではなく、「変わらないもの」は何かを見極めることだと私は考えている。変化の激しい世界で、変わらないものを守っていくことは、なかなか難しいものだ。
GAFAMの一角を占めるアマゾンだが、時価総額を見るとアップルやマイクロソフトから大きく引き離されている。2024年12月17日時点で、アップル3.8兆ドル、マイクロソフト3.4兆ドルに対して、アマゾンは2.4兆ドルにとどまっており、3.2兆ドルのエヌビディアの後塵を拝している。
振り返れば、前兆はあった。2022年3月に、アマゾンは株式分割と100億ドルの自社株買いを行った。いわゆる「株主対策」だ。一般的には、株式分割をすると投資家にとって株が買いやすくなり、自社株買いを行うと株主にとっては1株当たりの利益配分が増えることになる。いずれも株価を押し上げる要因になる。
創業者のジェフ・ベゾス氏は、2021年7月にCEOを退任していたが、ベゾスCEOの時代には、このような株主対策は考えられなかった。彼は長年、「アマゾンに対しては、営業利益や営業利益率ではなく、中長期の成長やキャッシュフローを見てほしい」と言い続けてきたからだ。つまり、マーケットや投資家に対して、成長への投資を優先することに理解を求めてきたということだ。
■アマゾンの「根源的分岐点」とは
ベゾス氏は、CEO時代のインタビューで、こんなことを言っている。
「アマゾンが10年後どうなるかという質問をよく受けるが、僕にもアマゾンが10年後どうなるかわからない。でも昔も今も10年後も、消費者がアマゾンに対して、低価格を求めること、豊富な品揃えを求めること、迅速な配達を求めることは変わらない」
その言葉どおり、アマゾンは創業以来、「低価格×豊富な品揃え×迅速な配達」の3つを変わらずに突き詰めてきた。それがアマゾンを「超成長企業」へと押し上げたのだが、ベゾス退任後、「成長企業」にダウングレードしてしまった。2022年の株主対策は、まさにその根源的分岐点だったと思う。それは、上記の株主対策は、ベゾス氏がCEO時代であれば、忌み嫌って実行していないはずのものだからだ。
さまざまなものが変わっていくなかで、変わらないものはなにか。あなたの会社の顧客が、昔も今も10年後も変わらずに求め続けるニーズをしっかりと見極めて、それに応えるサービスの精度を高めていくことが成長への道筋ではないだろうか。
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立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=瀬戸友子)
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