「血圧が高いと脳卒中になる」は大間違い…和田秀樹「薬を飲んでも飲まなくても9割以上が脳卒中にならない」
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『仕事も対人関係も落ち着けば、うまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■がん検診で「がんの不安を払拭する」は大間違い
気持ちが落ち着かない人には、不安が強いわりにソリューション(解決策)を用意していないという傾向が見られます。
心配事があるならば、その心配を払拭する方法を事前に考えることが大切ですが、そこに目を向けていないため、余計に心配が大きくなってしまうのです。
その顕著な例といえるのが、がん検診との向き合い方です。
がん検診というのは、がんを「早期発見」するためにあります。
進行する前にがんを見つけて、素早く治療を始めることで、命を守ることが一番の目的ですから、「がんが見つかるかもしれない」ことを前提にする必要があります。
この前提を考えずに、不安になっている人が多いのです。
「がんで死にたくない」と思うならば、最悪のケースを想定して、「どこの病院で、どんな治療を受けるか?」というソリューションを用意しておけば、本来の目的を果たすことができますが、それを想定しないまま、検診の結果に一喜一憂している人が意外に多いように思います。
こうした人に共通するのは、がん検診を「がんの不安を払拭するためのもの」と思い込んでいることです。
「がんではないことを確かめたい」という思いだけで検診を受けている人は、がんが見つかるとパニックになりがちです。
何の準備もしていない状態のため、目についた病院に駆け込んで、意に沿わない治療方針に直面して心身ともに疲弊する……というのが典型的なパターンといえます。
万が一の事態を想定して、自分のできる範囲でソリューションを用意しておけば、少なくとも、極端なパニックに陥るリスクは回避することができます。
結果ばかりを心配して、その先のことに目を向けていないと、不安と焦りに悩まされることになるのです。
■元々は口下手だった「演説の達人」
プレゼンやスピーチなど、人前で話すことが苦手な人も多いと思います。
「人前で話す」と考えただけで緊張したり、一度でも頭が真っ白になった経験があると、苦手を通り越して、恐怖を感じる人もいます。
人前で話すことは、誰にとっても緊張する行為です。
緊張を和らげるためには、人前で話す機会を増やして「場慣れ」することが大切ですが、多くの人が見逃している大事なポイントがあります。
人前で話すことが苦手な人に限って、準備やリハーサルを怠っているのです。
43歳の若さでアメリカ大統領になったジョン・F・ケネディは、「演説の達人」と呼ばれていましたが、実際は学者肌の口下手な人だったといいます。
口下手なケネディが、全米を熱狂させるような演説ができた理由は、入念な準備とリハーサルにあります。
ケネディ大統領には、弁護士で作家のセオドア・C・ソレンセンという優秀なスピーチライターがいたことは有名な話ですが、ケネディは一言一句を慎重に吟味するだけでなく、服装や髪型、表情や身振り、口調や姿勢にいたるまで、考えられるすべての準備を整えて演説に臨んでいたといいます。
ここまで厳密な準備はできなくても、プレゼンやスピーチの前に、職場の同僚や友人の前で、簡単なリハーサルをするくらいは、誰にでもできることです。
人前で話すことに苦手意識を持っているわりには、何の準備もせずに、「ぶっつけ本場」とか「出たとこ勝負」の人が多いのではないでしょうか?
プレゼンやスピーチに不安があるならば、事前に原稿を準備して、何度もリハーサルを繰り返せば、自然と自信が湧いてくるものです。
少なくとも、頭が真っ白になる事態は避けることができます。
■血圧と脳卒中に相関関係はない
テレビやSNSには、不安を煽るような情報ばかりが氾濫しており、安心材料を与えてくれる情報というのは、意外に少ない傾向にあります。
情報過多の現代社会では、何が正確な情報なのかを見抜く「情報リテラシー」を高めることが、心の安心につながります。
情報リテラシーとは、情報を正しく読み取って、その信頼性を判断し、正確な情報に基づいて意思決定を行う能力を指します。
世の中には、扇情的な情報があふれていますから、「何が正しい情報なのか?」を冷静に見極める目を養っていかないと、不安や焦りに悩まされることになります。
例えば、世の中には「血圧が高いと脳卒中になる」と信じている人がたくさんいますが、これは必ずしも正確な情報ではありません。
日本の医師は、少しでも血圧が高いと、すぐに血圧を下げようと考えて降圧剤を処方する傾向がありますが、そこに明確なエビデンスは存在していないのです。
アメリカで実施された有名な追跡調査のデータを紹介します。
最高血圧170の人が、薬を飲んだ場合と飲まなかった場合で、6年後にどのくらい脳卒中になるか……を調べたものですが、薬を飲まずに脳卒中になった人が「8.2%」で、薬を飲んでいても脳卒中になった人は「5.2%」という結果でした。
つまりは、薬を飲まなくても、9割以上の人が脳卒中になっていないわけです。
こうしたデータがあるにも関わらず、日本の医師は血圧が高いというだけで、条件反射的に降圧剤を処方する傾向があります。
それを素直に受け入れて薬を飲んでも「5.2%」の人は脳卒中になるだけでなく、血圧が下がったことで、頭痛や耳鳴り、不整脈や不眠に悩まされる人もいます。
薬を飲むことによって、「8.2%」を「5.2%」に下げることには、確かにメリットがありますが、薬には副作用というデメリットもありますから、いかに医師のアドバイスとはいえ、鵜呑みにするのは早計な判断といえます。
ネット全盛の時代ですから、賢くそれを利用して正確な情報をキャッチする工夫を続けることが、自分の身を守ることになり、それが不安の解消にもつながります。
■「0.005%」の事故の再発に不安になる人々
人が不安になる要素の一つに「予期不安」があります。
予期不安とは、何かよくない出来事があると、「また同じことが起こるのではないか?」と考えて、不安や恐怖に悩まされる感情のことです。
日本には、「二度あることは三度ある」という言い伝えがありますから、一度でもトラブルに見舞われると、警戒心が募って、不安になる人が多いようです。
ここ数年の例でいえば、高齢者が運転するクルマが事故を起こしたら、危ないから高齢者に運転免許証を返納させろ……という動きなどが象徴的です。
交通事故を起こしているのは高齢者に限ったことではありませんが、テレビやネットのニュースで大々的に取り上げられるため、過剰反応している人が多いのです。
こうした反応を示す人の共通点は、確率で物ごとを考えていないことです。
高齢者で交通死亡事故を起こす人は、2万人に1人といわれています。
確率にすると「0.005%」のことですが、一人の高齢者が事故を起こしたからといって、残りの「1万9999人」に免許返納を迫るというのは、少し行き過ぎた考え方といえます。
予期不安が強い人というのは、起こる確率が極端に低いことを、深刻な気持ちになって心配している人が多いのです。
墜落事故が心配だから飛行機に乗れないという人にも、同じことがいえます。
文部科学省による1983~2002年の国内事故統計に基づく推計によれば、一人の人が今後30年以内に航空機事故で死亡する確率は「0.002%」だそうです。
交通事故で死亡する確率は「0.2%」ですから、飛行機事故で亡くなるリスクは、自動車事故の100分の1以下となります。
精神科医としては、あまりにも起こる確率が低いことを心配しすぎる人は、何らかの病気を疑ってしまいます。
人には「無視できる確率」というものがあります。
無視しなければ生活が成り立たなくなるような確率のことは、心配したところで、どうにもならない……と考える必要があるのです。
■目先の問題だけでなくソリューションに目を向ける
私が精神科の治療で用いている治療法に「認知療法」があります。
認知療法とは、本人が自分の思考の偏りを「認知」することによって、うつ病やパニック障害などの症状を改善する……という精神療法です。
認知療法では、「別の視点を持つ」ことが基本的なアプローチ法の一つですが、別の視点を持つことは、不安や焦りの軽減にも効果があります。
別の視点を持つというのは、別の可能性を考えてみることですから、それだけソリューションを見つけやすくなり、懸念材料の解消に役立ちます。
逆の見方をすれば、別の視点が持てないと、ソリューションを見つけられず、不安や焦りを抱え込んだままの状態が続いてしまうのです。
現在、文部科学省を中心として、全国の小中学校で取り組んでいる「いじめ自殺問題」を例にあげて、別の視点を持つことの大切さをお伝えします。
日本の学校関係者は、いじめをなくすことばかりに目を向けて、「学校では悪口はダメ」とか、「ニックネーム禁止」といった対策を講じていますが、こうした対策にどこまでの効果が期待できるのか、私は疑いの目で見ています。
いじめをする子は、悪口やニックネームを禁止したところで、いじめをやめるとは思えません。
いじめをなくすことが重要な課題であるのはもちろんですが、もっと大事なのは、いじめによる自殺者を出さないことです。
いじめにばかり目を向けるのではなく、別の視点に立って、問題解決の糸口を掴む必要があります。
具体的には、「いじめられたらどうするか?」というソリューションを子どもたちにきちんと伝えることです。
「スクールカウンセラーに相談してみるといいよ」とか、「我慢してまで学校に来なくてもいい」、「転校するという選択肢もある」と教えてあげれば、問題解決の糸口が見つかって、いじめ自殺という最悪のケースを防げる可能性があります。
そこを徹底せずに、表面的な対策ばかりを繰り返しているから、残念な事故が後を絶たないのだと思います。
目先の問題だけに目を向けたのでは、不安や心配を解消するのは難しくなります。
広い視野を持って、あらゆる角度から問題の本質を考えることが重要です。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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