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裏表があることは、人生のリスク…経済アナリスト馬渕磨理子さんが「この人、好きだな」と思える相手とは

プレジデントオンライン / 2025年1月17日 13時20分

共に仕事をする中で、その人の才能に惚れ込んでしまうことがあります。その人が書いた文章を読み、人としての深みを感じた時に、胸がキュンとします。※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

周囲の信頼が厚い人は何が違うのか。経済アナリスト馬渕磨理子さんは「生きることや言動そのものが評価の対象になる。だから自分の一挙手一投足が投資。どんな振る舞いをしてきたか、言っていることが一貫しているかが大事だ。表裏が激しい人はいずれバレる」という――。

※本稿は、馬渕磨理子『一歩踏み出せない人のための株式原論』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■「この人、好きだな」と思える人

自分の一挙手一投足が「投資」です。だからこそ、背伸びしないことです。

私たちは一人で生きることはできません。どこかの組織に所属しながら生きざるを得ません。なので、誰かから評価されることも最後までつきまといます。面倒くさいかもしれませんが、それが人間として生きることなのだとも思います。

生きることや言動そのものが評価の対象になっています。だからこそ、自分の振る舞いは「投資」です。どんな振る舞いをしてきたかも大事ですし、言っていることが一貫していることも大事です。

これだけ、SNSなどによって、コミュニティなどあらゆるものがどこかでつながる時代になっていますので、「裏表が激しい人」はいずれ、バレるでしょう。裏表がない、あるいは、ほとんどない人が信頼されます。だから、裏表などを気にせずに、自分の素で生きるほうが評価される時代です。かっこつけたり、いい子ぶる発言はいずれどこかで化けの皮が剥がれます。最初から「かっこつけずに」自分の思うままに生きている方がいいのです。

投資という視点を持つと「裏表があることは」むしろ、人生において「リスク」です。ありのままの発言をすることでレバレッジがかかり、自分を大きく成長させてくれるでしょう。

私自身が、その基準に苦しめられ続けた時間を過ごしてきました。女性のあるべき幸せにどうしても馴染めない苦しみ。

心の赴(おもむ)くままに生きたい。

それを可能にしてくれたのが、間違いなく株式投資であり、その先にある、社会で自立して生きる場所を手にすることでした。共に仕事をする中で、その人の才能に惚れ込んでしまうことがあります。その人が書いた文章を読み、人としての深みを感じた時に、胸がキュンとします。

仕事の事前準備の丁寧さや、仕事の進め方に緻密な計画性を知った時に計り知れない信頼を感じ、ときめきます。

恋愛感情ではないですが、「この人、好きだな」と正直に思います。

私が仕事を通じて「好きだ」と思える相手は、結局、私以外の周りの人たちも「大好き」なのです。だから、マーケット・労働市場でとても価値が高い報酬になります。

ビジネスなので、クオリティの高い仕事をして当たり前なのですが「この人、好きだな」と思ってもらえるところまでの仕事ができる人に魅力を感じます。

「この人、好きだな」と思う根底には何があるのでしょうか。私なりに紐解くと、そこには「知を重ねた・美学」が感じられるのだと思います。ビジネスシーンで収入をアップさせる方法は、テクニックや方程式があるわけではなく、エモーショナル・感情的な部分が大半を占めていると思います。

文明がどれだけ発展しても、むしろ発展すればするほど、人々は、人間が努力してしか得られない学びの姿や、年月をかけてもたらす信頼貯金に価値を見出すのではないでしょうか。

■金融業界からものごとを見ることで自分自身が変わった

金融業界で働いて11年目になりますが、私は「鈍感」と「センシティブ」という矛盾する2つが自己の中で同じように成長し、大きくなりました。

まず、鈍感さを身につけたこと。投資を始めた時に、多くの人が感じる感覚があります。初めて株を購入してポジションを持つと、いきなり大きな海の中で自分が小さないかだで浮いているかのような心細い気持ちになったことを今でも覚えています。

そして、自分がどれだけがむしゃらにいかだを漕いだところで、大勢に影響なしという自分の無力さを思い知ります。投資の世界には、大きなお金を動かすプロの投資家が存在します。機関投資家の動きで、相場の流れが決まります。

プロの投資家と戦うことや、自分の意志で相場をどうこうしようなどということが、いかにバカげたことかと思い知らされます。教科書で学んだことだけでは、歯が立たない。

だからこそ、プロの投資家と戦うのではない、自分のフィールドで活動すればいいという心境になります。プロの投資家やAIのアルゴリズムで値動きが荒い短期のトレードで戦っていた私は、中長期のトレードにスタンスを変えていきました。

さらに、日経平均などの上値や下値を数字をベースに分析できるようになったことで、例えば、1日で日経平均が800円安となっても動じなくなりました。自分の根拠とシナリオを持っているからです。こうした経験から、鈍感力を身につけました。

【図表1】これを持っていれば冷静になれる日経平均3つのシナリオ
「強気シナリオ」の範囲内にとどまっていれば、金融関係者は冷静に市況を見ている。相場が壊れた時に、下値の基準にしているのが、「弱気シナリオ」のPBR0.8倍。リーマンショックでは、ここで下げ止まった。(出所=日本金融経済研究所作成)

一方で、ものすごく「センシティブ」な面も育ちました。言葉の扱いです。金融業界ではニュアンスを少し間違えるだけで、意味が全く異なります。いろいろなメディアで発言しているため、異なるニュアンスで伝えたことで市場が混乱を招きかねません。言葉の扱いには、かなり慎重になりました。

そして、企業に対する想いも「センシティブ」になりました。第8章で言及しましたが、人間が時間をかけた努力、それを織りなす組織体こそ、芸術的だと感じます。企業経営こそ、人類の最高の芸術であり、美しさと感動を覚えます。

「鈍感」と「センシティブ」は相反しますが、実は、人の心根の優しさに通じるものがどちらにもあります。

■投資家の言論力とは

時の政権や日銀が、株式市場や為替などのマーケットと向き合う動向が見られます。日本が利上げに踏み切ると発表した後に、2024年の8月は大幅に株価が下落しました。それに対して日銀は、利上げは急がないとコメントを修正しました。

政権のトップになった人物は、それまでアベノミクスを否定し、利上げをするべきだという発言をしていても、トップになった時点でマーケットが混乱すれば、従前の自分の思想に関わるコメントを修正しています。

ここから読める、社会の風の変化は2つです。

1 投資家の言論力=政治は、個人投資家の声を受け止めるようになった
2 サイレント・マジョリティー=投票行動に変化
自民党が、それに手を打っている

具体的には、どういうことでしょうか。

これまで、特定の業界団体が選挙票をベースに政治に影響を与えてきました。しかし、投資が中間層、低所得者層に解放されたことで、現代における個人投資家の影響力は、団体の形ではないものの、ネット上で強力な発言権を持つようになったと理解しています。私は、これを、個人投資家たちの「言論力」と表現します。

オフィスでノートパソコンで作業する物思いにふける男性
写真=iStock.com/kokouu
金融庁が進めてきたNISAの普及は、単に個人の投資だけでなく政治にも関心を持たせ、もの言う個人投資家を増やした。※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

個人投資家たちは、豪遊するために、NISAなどの投資をはじめたわけではない。所得が増えないなかで、老後の生活資金確保に強い不安を抱え、少額の投資を通じて資産を増やしたいという切実な願いを持っています。この層が選挙権をもち、政府も無視できない存在となっているのです。我々は、投資を通じて、政治に関心を持ったことになりました。

日本の大人たちは、若い層が選挙に関心を持たないと嘆いてきました。しかし、金融庁が進めてきたNISAの普及は、単に個人の投資だけでなく政治にも関心を持たせ、もの言う個人投資家を増やしたのです。実際に、国民から政府に対するガバナンスが効いたことで、様々なコメントを修正したことに至ったのならば、これは、民主主義を活性化させたと言えるのではないでしょうか。

「投資は富裕層が行う」という時代は終わりました。圧倒的な中間層、低所得者が切実な思いの末に投資をする時代になったのです。

■金融を虚像だと言い切る人は、世界の本質をつかめない

一方で、ネット上で活発に意見を述べない「サイレント・マジョリティー」の存在も政権は気にしています。静かな、大多数。彼らは表立った行動を取らないものの、政治や経済に関して深い理解を持ち、彼らの投票行動が政局に大きな影響を与える可能性がある。

この層は、これまで大半が自民党の支持層であったがゆえに、政権を取れていたと言えるでしょう。しかし、政治とカネの問題で、日本の大多数を占める賢い層の心が、揺らいでいます。圧倒的な大多数のサイレント・マジョリティーの心変わり、心離れを、チャンスと取る側もいれば、引き留める対応を迫られている側もいるのです。

正しい情報を得たうえで、どう正しい方向に行動し続けるか。この積み重ねが年月を重ねると格差につながります。

馬渕磨理子『一歩踏み出せない人のための株式原論』(プレジデント社)
馬渕磨理子『一歩踏み出せない人のための株式原論』(プレジデント社)

金融を虚像だと言い切り、金融に近づかない選択をしている人ほど、結局、世の全体像や意志決定プロセスの本質を得ることは難しいと思います。情緒的に目先の情報に囚われて人生を過ごしているようにも感じます。

金融に触れると、自分のことなど小さな存在であると思い知ります。ちっぽけであることを知ると、そこから謙虚さが生まれ、世の中の大きな流れを見るようになります。

実体経済の美徳を知りながらも、金融の仕組みを生活の中に内包する。そうすることによって「人生における静けさ(平穏)」を手に入れることができるのではないでしょうか。何事も、謙虚が自らを守るように感じます。

痛みを知ったからこそ「鈍感」になれる。

人の努力に敬意を持てるから「センシティブ」になれる。

投資を通じて心根の優しさを手に入れることができると、今は確信しています。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
日本金融経済研究所 代表理事、大阪公立大学 客員准教授
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。イー・ギャランティ社外取締役。楽待 社外取締役。国会 衆議院 財務金融委員会で参考人として意見陳述し、事業性融資の法案可決に寄与。フジテレビ「LiveNewsα」、読売テレビ「ウェークアップ」レギュラー出演中。

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(日本金融経済研究所 代表理事、大阪公立大学 客員准教授 馬渕 磨理子 構成=力武亜矢)

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