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「三菱UFJ貸金庫事件」は氷山の一角に過ぎない…元銀行マンが解説「顧客の預金に手をつける銀行員」の常套句

プレジデントオンライン / 2025年1月17日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Perawit Boonchu

■不祥事の大半が内々に処理される銀行の闇

三菱UFJ銀行の貸金庫盗難事件で、銀行員の犯罪がクローズアップされている。

真面目でお堅いイメージとは裏腹に、銀行員による不祥事や犯罪は多い。銀行員とて生身の人間で、金、ギャンブル、異性関係等で泥沼に嵌(はま)る。今般逮捕された今村由香理容疑者は競馬とFX取引で借金を膨らませたという。そして彼らの目の前には商品のお金が山ほどある。不祥事が起きないはずがない。しかし、その大半が内々に処理され、世間の目に触れることはない。

銀行員に騙されないよう、彼らの手口と防衛策を解説する。

1.顧客の金を着服

筆者は、大手都市銀行の日本橋支店で外回りをしていた頃、月に一度くらい新宿の地上げ屋の事務所に「こんちはー」と顔を出していた。すると若い社長から「おう、今日はこれだけ預かってくれ」と500万円くらいの現金をぽんと渡され、その場で数え、預かり証を作成していた。その後、「ラーメン食ってくか?」と言われ、「はい、頂きます」とご馳走になり、金を鞄にしまって電車で日本橋まで帰っていた(たぶん社長は地上げ用資金の融資を期待して、気前よく預金してくれていたのだと思うが、審査が通らなかった)。

■背景には“日本独特の商慣行”がある

日本の銀行では、銀行員が顧客の家を訪問し、お金を預かったり、さまざまな手続きをしたりする。海外ではほとんど見ない商慣行で、日本社会が今も相互信頼で成り立っていることを窺わせる。筆者が住む英国でこれをやったら、たちまちドロンである。

しかし日本でも、もし銀行員が金に困っていたりしたら、当然その金に手をつけたくなる。銀行員による犯罪で一番多いのはこのパターンだ。筆者が横浜支店に勤務していた頃、同じ地区の別の支店でかなり頑張っていた外回りの人がいたが、いつも後輩たちにおごってやったりして、金がなくなり、顧客から預かった金に手を付け、懲戒解雇になった。

被害を防ぐには、外回りの銀行員に金を預けないのが一番だ。今はインターネットバンキングという便利なものがあるので、それを使って自分で入金処理するか、銀行員に預けるとしても、即日インターネットバンキングやATMで処理状況を確認すべきだ。筆者が自分の口座の残高を確認していたおかげで、間一髪で難を免れた事件については後述する。

■銀行に預けた金が勝手に融資に使われる

2.浮き貸し

これは前述の預かり金着服の進化形で、顧客から預かった金または自己の金を勝手に他の顧客に融資し、金利を稼ぐ手口だ。古典的なやり口で、ここ数年だけでも、琉球銀行、おかやま信用金庫、いちい信用金庫(愛知県)、青和信用組合(東京都)などで発生している。

筆者が働いた都銀でも、都心の支店でこれが起き、やった行員は懲戒解雇、海外勤務や本店の花形部門も経験し出世街道を驀進していた上司の融資課長は左遷された。

平成10年(1998年)には、富士銀行春日部支店の行員が、顧客から預かった2500万円をある運送業者に浮き貸しし、発覚を防ぐため顧客の老夫婦を殺害するという事件まで起きた(犯人は無期懲役)。

これを防ぐには、預金・融資とも、金利計算書を確認したり、インターネットバンキングやATMで残高や取引内容を確認したりすることだ。

3.インターネット口座の乗っ取り

インターネットバンキングは便利なものだが、当然リスクもある。ハッキングやマルウェア(悪意あるソフトウェア)の被害に遭わないよう、アンチウイルスソフトやVPNを使うとか、パソコンを定期的にスキャンする等の用心が必要だ。

しかし、内部の行員が犯罪に加担すると、防ぐのはきわめて難しい。以下は筆者の経験である。

■英国に送金した390万円が忽然と消えた

以前、3週間の日本滞在中、2万ポンド(約390万円)を英国の自分の銀行口座に送金したことがあった。ロンドンに戻った翌朝、入金を確認するため、家の近所にある銀行のCD(現金自動支払い機)で残高をチェックした。

スクリーンに表示された残高は、2100ポンドあまり。

思わず数字を凝視した。日本から送金した分を含めて2万7000ポンドくらいなくてはおかしい。いろいろな可能性に思いを巡らしたが、まったく心当たりがない。

急いで自宅に戻り、何が起きたかを確認するため、銀行に電話した。

「ミスター・ベイグ(Beig)に8900ポンド、ミスター・アシュファク(Ashfaq)に8900ポンド、当行の別の口座に7000ポンド送金されています」

コールセンターの男性の答えに愕然となった。

「そんな名前は聞いたことがないし、自分はそんな送金もしていない。それは絶対にフロード(詐欺)だ!」

いつ送金されたのか訊くと、今日だという。そして、送金の指示はインターネットでなされていた。しかしわたしは、当時インターネットバンキングは利用していなかった。

「あなたに身に覚えがないのであれば取り消します」と相手は言う。

「ぜひ、そうしてください」
「取引店とも話しました。あなたの暗証番号を廃止し、インターネットバンキングもテレフォンバンキングも使えなくしました。暗証番号を復活し、詐欺に対処するには、身分証明書を持って取引店に行ってください」

■当座預金だけでなく、貯蓄口座にも手を付けられていた

わたしはすぐに金融街シティの一角にある取引店にぶっ飛んで行った。

背の高い黒人の女性行員に口座の入出金明細を見せてもらうと、驚いたことにコールセンターが3件の送金を取り消した直後に、再び送金が行われていた。今度は7850ポンドが2件と8000ポンドが1件である。今もどこかで犯人がネットで操作をしているかと思うと慄然とした。

英国ポンド
写真=iStock.com/MarioGuti
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarioGuti

ふと嫌な予感が脳裏をよぎった。家内の口座は大丈夫だろうか?

彼女に頼んで家内の口座を調べてもらった。

「こちらの口座もやられています」

キーボードを叩いてスクリーンを見た彼女が、げんなりした表情でいった。

家内の口座も滅茶苦茶に荒らされていた。当座預金だけでなく貯蓄口座からも出金され、ミスター・ベイグやミスター・アシュファクに送金されていた。

口座の動きを調べると、家内のほうから侵入されたようだ。家内の口座は単独名義だが、わたしの口座は家内との共同名義になっていた。したがって家内の名義でインターネット取引ができれば、共同名義の口座にもアクセスできる。

その日、このような取引はしていないという銀行の所定の文書に記入・署名し、わたしの顧客情報を警察に提供する同意書にもサインし、すべての送金取引を取り消し、口座を凍結してもらい、警察署に行って被害届を出した。

■41人による組織犯罪の仕業だった

翌朝、銀行から家内あてに1通の手紙が届いた。インターネットバンキングの利用登録を受け付けたという、電子サービス部からのものだった。日付は事件の5日前。何者かが勝手にインターネットバンキングの利用登録をしたということだ。

それにしてもなぜそんなことができたのか? こちらの個人情報や暗証番号が分からないと、利用登録はできないはずだ。

真相は9カ月後に分かった。ある日突然英国中部レスターシャーの警察から電話がかかってきたのだ。日頃まったく縁のない地域なので、何事かと思って話を聞くと、ネットバンキング詐欺の犯人を捕まえ、裁判にかけるので陳述書を書いてほしいという。筆者の事件の半年くらい前から大規模な金融詐欺が発生しており、捜査を進めていたのだという。

捕まった犯人は総勢41人で、筆者の取引銀行のインドにあるオペレーションセンターの行員も含まれていたという。結局、41人のうち11人が懲役1年から4年半の実刑判決、残りは電子タグ等を付けられての執行猶予刑になった。

内部の人間の犯行は防ぎようがない。この事件では、多くの被害者は盗られた金の一部ないしは全部が返ってこなかったようだが、筆者は口座の残高をマメにチェックしていたおかげで、間一髪で助かった。

■書類の改竄に加担すれば刑務所行きも

4.融資を受けるために提出書類を改竄する
銀行員による犯罪を描いた著作『マネーモンスター』
銀行員による犯罪を描いた著作『マネーモンスター』(幻冬舎)

銀行員は顧客が融資を受けられるよう、決算書、収入証明書、預金通帳の残高、不動産売買契約書など、提出書類の改竄を勧めたり、銀行員自ら改竄したりすることがある。バブル期に個人の住宅ローンに関してさかんに行われた手口で、最近ではスルガ銀行の「かぼちゃの馬車事件」(シェアハウス建築案件への過剰融資)でも多用された。しかしバレると、融資の一括返済を求められるだけでなく、詐欺罪にまで問われる。

現に昨年12月、改竄した決算書にもとづいて銀行から融資を受けた大阪市西淀川区の会社社長が、指南役の元銀行員の経営コンサルタントとともに逮捕・起訴されている。

銀行員の口車に乗って軽い気持ちで書類を改竄すると、単に経済的な不利益を被るだけでなく、刑務所行きになるので、非常に怖い。

■怪しい銀行員を見抜く「セールストーク」とは

5.相手の知識不足や意思能力の低下に付け込む

金融知識が十分でない顧客や年寄りに、博打的なデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ預金や債券、手数料ばかり高くて上がる見込みのない投資信託などを売りつけたりするのは銀行員の悪癖だ。これについては、2年前に千葉銀行、ちばぎん証券、武蔵野銀行が金融庁から業務改善命令の厳罰を受けた事件に関し、〈年収5億円の外資金融マンが作る「仕組み債」を、年収600万円の地銀マンが日本の老人に必死で売る残念さ〉という記事をプレジデントオンラインに寄稿した。

この種の商品を売る際のセールストークは「お客さまにぴったりの商品があります!」とか「プロのファンドマネージャーが24時間値動きを見て運用していますから、何の心配もありません」という、歯の浮くようなセリフだ。

しかし、幸せの青い鳥などどこにもいない。「金融にマジックはない」(リターンが高ければ当然リスクも高い)は、プロの金融マンたちの合言葉だ。自分が分からないものには、手を出さないこと。そして銀行員を無条件に信用してはいけない。

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黒木 亮(くろき・りょう)
作家
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がける。2000年、『トップ・レフト』でデビュー。主な作品に『巨大投資銀行』、『法服の王国』、『国家とハイエナ』など。ロンドン在住。

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(作家 黒木 亮)

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