これではA判定でも合格できない…入試直前のわが子にやってはいけない行動、言ってはいけないフレーズ
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 8時15分
(※個人の特定を避けるため、記事中で紹介する事例は一部を変えています)
■受験が終わっても親子関係は続く
塾講師として30年以上、教壇に立ち続けてきました。送り出した生徒・保護者の数は2万人以上となります。よく言われる話ではありますが、受験というのはそれが中学受験、高校受験、大学受験にかかわらず、ゴールでありつつも新しい生活へのスタートでもあります。
受験生と受験生の親という関係は合格発表が終わればいったんは終了しますが、親子である関係はそれからもずっと続くことを忘れてはなりません。たとえ、第一志望に子どもが合格しても、家族の間柄が壊れてしまうようでは、その受験は成功とは言えないと思います。
私が過去に見たり相談を受けたりしたケースの中には、受験本番直前の親のささいな行動や言動によってお子さんが受験どころではなくなってしまったり、親子関係が崩れかけたりしたケースもあります。
受験生を持つ親のみなさんに“同じ轍を踏まないでいただきたい”という思いから、この受験というドラマの最終章がハッピーエンドで終わり、あらたな生活がさわやかに始められるように、3つの事例をご紹介していきたいと思います。
■受験直前に“横やり”を入れるのは危ない
まずは、受験直前期になって父親が子供のことを思うあまり、口を出しすぎて家庭が混乱してしまったケースです。
1.中学受験生・実くん(仮名)のケース
実くんは、受験直前まで母親と受験対策をやってきたのですが、入試直前に突然、父親が協力を買って出てきました。しかし、父親の言動に問題がありました。
「こんな学校に行く意味はあるのか。公立にすすめばいいじゃないか」と母親と実くんで考えていた併願作戦の組み立てを全否定したり、「算数を教えてみたら、基本が全然詰まってない。今まで何を見ていたんだ」と母親や実くんの今までの頑張りに対して厳しい言葉を投げかけたりしたそうです。
母親からしてみれば、塾の送り迎えやお弁当を作ったり、健康管理をしたりと大変な毎日を過ごしてきたのに、「今まで何もしてくれなかったのに、今さら何を言い出すの」と不満を抱かざるを得ない状況でした。
さらに実くんのほうは、ただでさえ受験直前の合格・不合格のプレッシャーで大変な時期に家庭環境がぎくしゃくしてしまい、勉強に身が入らない状況が生まれてしまいました。
急な父親の協力の申し出は「ここまで頑張ってきた息子を自分もなんとかしたい」という愛情から出てきているのですが、このケースは、いったん落ち着いて受け止め、解決の糸口を見いだしたほうが良いでしょう。
■「家族間の揉めごと」は塾に相談するといい
実は、「親同士のボタンの掛け違い」で家族間がぎくしゃくするという、これと同じようなケースは少なくありません。ただし、家庭内だけで解決するのは難しかったり、時間がかかったりします。塾や家庭教師(とくにベテラン)は、このような事例をたくさん経験していますので、遠慮なく、そして速やかに相談をして家族内の空気を変えてもらうと良いでしょう。
家族全員の目標が「お子さんの合格」であることは間違いありませんので、「ボタンの掛け違い」はスムーズに解決することが多いものです。
中学受験を最後まで完走するのは、それだけでも大変なことです。家族それぞれの立場での頑張りがあったからこその受験直前期を迎えられていたはずです。それにもかかわらず、お互いに言いたいことも言えずに、誰かが我慢すればいい……という状況が続くのは、あまり良いことではありません。まったく不満もないという人間関係というのは存在しないと私は思います。家族だからこそぶつかることもあるのが自然です。
だからこそボタンの掛け違いがわかったら、しっかり話し合いをして、お互いの考え方を共有する機会をつくれさえすれば、かえって家族間の絆が深まり「雨降って地固まる」ことにもつながります。
その後、実くんのご家族は私との間で四者面談を行い、無事に事なきを得ました。後日、お母様からは、「父親は会社が大変な時期でした。しかし、仕事の愚痴を一切家庭には持ち込まずにいてくれたことを思い出しました。今回、先生との四者面談の機会をつくってもらって、家族が一致団結したように思います。ありがとうございました」という言葉をいただきました。
ボタンの掛け違いで一時は危うく中学受験どころではないという状況になりかけましたが、しっかり話し合い、家族の絆を再確認したことによって、合格への扉が開いたケースでした。
■親が語る「思い出話」にも危険がある
次は、つい親が言ってしまいがちな言動についてです。
2.高校受験生・拓哉くん(仮名)のケース
中学生の拓哉くんは、小学校時代に中学受験塾に入って受験と野球の両立を目指していましたが、ピッチャーとしての才能が開花。6年生にしてリトルリーグのチームのエースとして活躍していたため、高校受験からの挑戦を選びました。
しかし、中学時代も野球にどっぷりの生活をしていたために、なかなか勉強はできていない状況でした。野球を引退してからも、「これから頑張る」と口では言うものの、受験直前になってもなかなか身が入らず、ご家族で、ご縁のあった私の元にご相談に来られました。志望校は私立の進学校ではありますが、野球も強い伝統校でした。
3年ぶりに会った拓哉くんは、体格も大きくなりさらに逞しくなっていました。話を聞くと中学時代はピッチャーではレギュラーを取れず、外野手として最後まで頑張ったということです。相談が始まると、冒頭に母親から、「あのまま中学受験をしてい“たら”……」という話が出てきました。母親は私との「思い出話」のつもりで深い意味は無かったのかもと思いますが、私は拓哉くんの顔が曇ったのに気づきました。そして、母親にはこのような助言をしました。
■受験生への「たられば」は禁句
「私は、勝負の前には、『たられば』は禁句だと思います。野球の件だけでなく、○○塾に行っていれば、○○特訓を受講していたら、など考え始めたらキリがありません。受験がうまくいかなかったときには○○高校を選んでいたらというふうになるかも知れません。
たとえ志望校に合格したとしても3年間のすべてが順風満帆ということはありません。その時にも、△△高校を選んでいたらという「たられば」思考が出てきたら、一生幸せにはなれないんじゃないでしょうか?」
拓哉くんが直々に、しかも久々に私に会いにきたということは、「合格したいから、背中を押してください」という気持ちからだということは、当初から伝わっていました。だからこそ私からは短い応援の言葉で「信じているからな。応援してるぞ」とだけ伝え、相談を終えました。
これまで頑張ってきた子供に対して、「~していたら」「~していれば」という言葉は、これから頑張ろうとする子供にとって「応援」とは捉えられません。ささいな言動ですが、大人が思う以上に子どもを傷つけてしまうこともあります。
■入試の直前ほど“前向きな言葉”を
今回のケースでお母様にまったく否はありませんが、子供なりに苦労しながらやりぬいたことに関しては、賞賛以外の言葉の選択肢は無くて良いと思います。
人生の選択には正解がありません。結局は、その過去の選択を正解だと言えるように、いま前を向くことが大切であると思います。
特に小学生や中学生は親に褒められたい、認められたいという気持ちで頑張っているものです。何かをやり抜いた生徒は勝負強いものです。拓哉くんには、野球経験で培った根性と体力がありましたので、その後、見事に合格を勝ち取りました。
受験生を持つ親の皆さんの中には、つい過去を振り返り、「たら」「れば」と口にしてしまうこともあるかもしれませんが、全く悪意がなくとも、それは子供にとって気にしたり傷ついたりする内容かもしれません。特に受験直前期は、普段より不安やプレッシャーが強まっていることもあります。親が発する言葉を子供が聞いたらどう感じるのかという視点を持って、むしろ「大丈夫!」とか「頑張ってきた自慢の子だよ!」などと前向きな気持ちにしてあげられる声かけが大事です。
■「親の心配性」は「子供のメンタル」に悪影響
最後は、親のメンタルが子供に影響を及ぼす事例についてです。
3.中学受験生・葵さん(仮名)のケース
こちらは、中学受験生の葵さんのお母様から、本命の学校を受ける前に受験する「前受け受験」の頃に届いた、相談のメールです。
「うちの子は、メンタルが弱くて本番に力を出せるのかが心配です。初日に不合格になったら立て直しが利かなくなるのではないかと思い始めました。また、最近は不安で夜も眠れていないようです。このままで大丈夫でしょうか? 中学受験には向いていなかったのでは……」
私は保護者向けの講演会を行っていますが、そこでは、「子供さんの性格は、周りの大人の影響を大きく受けます。保護者が心配性の場合、子供もそうなりがちなのです。私は20以上の教室を管理する仕事もしていましたが、生徒は教室長の性格にも似ていくことが多いと、長年の経験で感じています」という話をします。
葵さんのお母様のメールの文面を見ると、主語を「うちの子」ではなく「母親である私は」もしくは「母親である私も」に置き換えても読めます。お母様の心配性が葵さんのメンタル面に良くない影響を及ぼしている可能性がありました。
中学受験では、前受け受験をして成功体験を積んでもらうという取り組みをされるご家庭もあります。「うちの子はメンタルが弱いので、一度成功体験を持たせて自信をもって本番に向かわせる」というねらいです。
■「子供がせっかくつけた自信」を親が壊してしまう
私は、前受け受験については否定も賛成もしない立場ではありますが、「うちの子はメンタルが弱いので」という前提が気になりました。
仮に、本命ではない学校に合格したことで子供が自信を持てたとしても、親が「でも点数は良くなかったし」「特待合格ではなかったよね」と言ってしまったり、ひいては「前受けと本番は違うから」というマイナス思考の考え方が消えていない限りは、その合格で自信をつけた意味が薄くなるのではないかと思います。
入試直前は、親の不安をいかに子供に伝えないように意識できるかがとても大切です。できるだけポジティブな感情を持って、子供を信じてあげることも受験生を持つ親の重要な役目です。そうは言っても、子供と一緒に取り組んできたという経緯や、SNS上などで親の不安をあおるような玉石混交な情報もあふれていることから、「では、どうすれば親の不安はなくなりますか?」という疑問を抱かれるでしょう。最後にいくつかのヒントをお伝えしたいと思います。
■「誰かと比べない」「親こそ体調管理」
①他人と比べない
家庭での様子や実際に面識のない塾の友達のAくんとは比べない。また、塾などの合格体験記に書いてある理想像であるBさんとも比べない。これは盛ってある可能性も高いのです。
さらに、兄弟姉妹とも比べない。これは子供が一番嫌がります。比べるなら、まずはご自身の受験生時代(ただし、受験で大成功していないのが前提)を話すといいでしょう。もし自分が子どもと同じ立場だとしたら、同じように頑張れていたのだろうかという目線を持つことになるので、子供に対するやさしさにつながります。
②親こそ体調管理を心がける
大人はマルチタスクであるのが普通です。仕事、子育て、介護、近所付き合い……などさまざまなタスクに追われ、そのどれもが心身を疲弊させます。
子供が受験をするとなるとさらに忙しくなると思いますが、いったいご自身が「何をすると元気になるのか?」「どうすれば疲労が回復するのか?」を知り、そのための時間やお金をある程度、惜しまずに使うことは大事なことだと思います。親が元気で、笑顔が多ければ、子供はメンタルが安定し、いろんな困難があってもソコソコ何とかなっていくからです。
■入試当日は「元気に」「勢いよく」送り出すといい
③開き直る
私は「開き直る」という姿勢も持っていて損はない大事な戦略の一つだと思います。受験には、合格と不合格という結果がつきものです。さらに、合格した学校も第一志望なのかどうなのか? ということもあるでしょう。私は、うまくいかなかった結果であっても「失敗の体験」と言い切れるものではないと考えます。
2025年の箱根駅伝は青山学院大学が優勝をしましたが、優勝チーム以外は敗者なのでしょうか? 実際に出場した選手だけが勝者なのでしょうか? 私は、そんなことは絶対にないと思います。
また私は現役の国語の講師でもあります。文章読解の指導の際には、対比を使って考えるという指導もしています。「自分だけが責任をとればいい失敗vs.他人に迷惑をかけてしまう失敗」「取返しのつかない失敗vs.その後の頑張りでなんとでもなる失敗」のように、失敗についてもいくつかの種類で分けて考えていくことができると、心に余裕が生まれると思います。
開き直るというのは決して悪いことばかりではありません。結果を恐れず、今を集中して頑張ることにより、見えてくる光もあるのではないかと思います。
この記事を最後までお読みいただけたということは、お子さんのために少しでもプラスのことがあれば……というお気持ちゆえだと思います。日ごろからその愛情を受けて育ったお子さんは、きっと受験を通してたくさんのことを学んでくれると思います。
ここまで受験勉強を頑張ってきたお子さんには、「最後まで迷いなくやり切ってもらう」ことが何よりも大事です。本番前で親も緊張しているかもしれませんが、実際に試験を受けるのはお子さんたちです。ぜひ、どこまでもお子さんを信じてあげてください。そして試験本番を迎えた朝は、いつも以上に元気よく、勢いよく試験会場に送り出してほしいと思います。お読みいただき、ありがとうございました。
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国語専門塾・中学受験PREX代表
教育コンサルタント・学習アドバイザー。神奈川大手学習塾で中学受験部門を立ち上げ、責任者として20年携わる。毎年、塾に通う生徒全員と直接面談を実施。保護者向けにも、ガイダンス、進路面談、カウンセリングを担当し、これまで関わった人数は2万人以上にのぼる。日々の思いを綴るブログ「中学受験熱血応援談」は年間100万件以上のアクセスを獲得している。2022年7月に中学受験PREXを立ち上げ、現在も継続して中学受験の最前線に立ち続ける。国内最大の受験人数を誇る首都圏模試センターの中学受験サポーターも歴任し、中学校と受験生の橋渡しとなる情報提供を日々行っている。一番大切にしていることは、ご縁があり指導することになった子どもたちとご家族のために、誠心誠意、ベストを尽くすこと。著書に『中学受験 合格できる子の習慣 できない子の習慣』(KADOKAWA)、『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)、『親の声掛けひとつで合否が決まる! 中学受験で合格に導く魔法のことば77』(KADOKAWA)がある。
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(国語専門塾・中学受験PREX代表 渋田 隆之)
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