4年前から日経平均4万円超えを予測していた経済アナリストが「日経平均は誰でも予測できる」と断言するワケ
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 13時16分
※本稿は、馬渕磨理子『一歩踏み出せない人のための株式原論』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■日経平均の予測は誰でもできる
日経平均株価は、株価が決まる仕組みを知れば誰でも予測することができます。
株価は、EPS(Earnings Per Share/1株当たりの利益)とPER(Price Earnings Ratio/株価の収益率、期待値)の掛け算で決まります。EPSは企業の利益を意味し、決算などで発表されるものなので嘘をつけません。
仮に、日経225企業(日本を代表する225の東証プライム上場企業)の1株当たり利益を、2200円とします。期待値であるPERはアベノミクス以降11~16倍で推移していますので、2200円に11倍を掛ければ下値が、16倍を掛ければ上値が予測できます。アナリストは、日経平均チャートに公開された数字を見て日経平均を予測しています。このように、実は誰でも日経平均株価を予測できるのです。
EPSは2023年に2300円台まで上がりました。翌24年の予測は2600円で、期待値(PER)の17倍を掛け算するとしたら4万4200円です。過去の日経平均のマックスが16倍でしたので、17倍は少し行き過ぎにも感じますが、16倍の4万1600円までは回復する可能性があります。下値でも12倍まで、2600円を掛けて3万1200円までは想定の範囲でしょう。
最近、日経平均が10万円や30万円まで上がる説を語る専門家が増えました。これは、5年から10年の長期で考えた場合の話です。2100円になり、2500円になり、次は3000円、3500円と平均利益が拡大していけば、5年後、10年後にこのぐらいの利益になる話は現実的です。期待値を掛けてみれば、あり得る数字です。日経平均はこのように簡単に予測が立てられます。もっとも個別の企業については、それぞれに合った読み解き方が別に必要なのですが。
■日経平均4万円超えを予想して大顰蹙を買う
2020年春、コロナ禍が猛威をふるい始めた頃、一度、世界の株価は急落し、リーマンショック以来の危機に陥りました。その後、各国がすみやかに大規模な財政出動をしたことや、ワクチンの開発などにより、約1年で市場は回復し、コロナ前よりさらに上昇していきました。
その頃、私は「日経平均株価は、いずれ4万円を超える」と予測していました。これには、「そんなわけがないだろう。いい加減なことを言うな」と、SNSなどでバッシングを受けることもありました。
それからすぐ21年に、日経平均株価は34年ぶりに3万円を回復しました。そして、その後もどんどん上がり続けました。私は、この後も、企業業績を確認しながら、「日経平均は4万円を超えるかも」とニュース番組で発言しています。周囲の反応は半信半疑でしたが、その後、病気休養中の24年3月初頭、日経平均は4万円を超えました。
一見、大胆とか強気やはったりと思われがちなこれらの予測ですが、実は、極めて堅実でいつも通りの指標をもとに、導き出した予測なのです。具体的に、どんな数値や指標を参考にしているかは、本章の後半で詳しく説明していきます。が、現状をきちんと測る物差しと、基本的な指標、数値を押さえて冷静に分析すれば、私がいま述べたような予測は、誰でもできると言いたいのです。
■バブル時代と現在との「3万円超え」の違いとは
投資家の期待値(PER)は、バブル経済の時期には70倍までふくれ上がりました。コップに注いだビールにたとえると、1がビールで70が泡(期待値)、ほとんどが泡という状態でした。液体(実際の価値)は、2024年はバブル期の高値を更新して4万1000円を付けましたが、バブル時代の浮かれた泡とはわけが違い、期待値は約17倍と実態が伴う結果です。
アベノミクスが立ち上がった13年は、利益が1株当たり約700円でした。そこから試行錯誤をし、金融緩和を実施して好業績になったり、コロナ禍で株高になったりするなど、自分で稼ぐ力が高まった結果だと思います。
米国も同じです。例えば、S&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500。米国の株価指数)の1株当たり利益と、投資家の期待値を掛け算しますが、S&P500はPERが20倍を超える高い値であることが日本と異なります。が、EPS×PERで米国株も予測ができます。
米国の値動きを見る場合は、FRB(米連邦準備制度理事会)の方向性や決定事項にブレがないか、こまめにチェックしておくことのほうが重要です。ただし、FRBの雇用統計や物価の見通しなどを日々チェックするのは大変で、そこから値動きを予測するのは難しいのが現実です。ここから先の深い予測は、プロの分析を参考にするのがいいでしょう。ただ、見た目の株価の上下に心を惑わせるのではなく、株価の変動の根拠となる部分を知っておくことで、冷静な目で動きを見ることができるのです。
さらに、ワンランク上の株価の読み解き方として、CPI(消費者物価指数/Consumer Price Index)を見る方法もあります。FRBが考える米国の潜在成長率をどれぐらいに想定しているか。さらに、現在の金利をどこまで落としたいのか。この数字がどうなるか、ブレがないかなどを確認することが、株の値動きを読む判断材料になります。
実際、FRBは、23年に2.5%だった政策金利目標を2.6%に引き上げました。なぜじわじわと、政策金利目標を引き上げ続けているのか。それだけ米国の物価上昇圧力が強く、中立値を上げざるを得なかったのだろうと推測します。
■金利を上げても「緩和的措置」なのはなぜか
一方、日本はこれまで潜在成長率や政策金利目標を公には掲げてきませんでした。公表していたのは、13年に定めたインフレ率目標の2%のみ。おそらく、ゼロ金利やマイナス金利の中、国民に現実の数字を突き付けることがプラスだとは考えにくかったのでしょう。
24年になってようやく、日銀(日本銀行)は政策金利をマイナス0.1%から0〜0.1%程度に引き上げました。現在は0.25%です。マイナスをプラスに転じさせることはとても難しい判断だったはずですが、一度プラスになってしまえば、そこから数字を引き上げることはさほど難しくありません。それでも、日本の現状を見ると、まだまだ金利を米国のようにどんどん引き上げるのは国内経済の混乱を招くもとでしかないというのが、多くのエコノミストの見解です。
日銀の植田和男総裁は、政策金利を0.25%に上げた状態でも、締めつけているわけではないというニュアンスで話しています。「緩和的措置だ」と言っていました。なぜ、金利を上げたのに緩和的なのでしょうか。日本の潜在成長率(景気に左右されない部分の経済成長率)は0.7〜1.0%、おおよそ0.7%という数字です。これよりも金利が低ければ引き締めてはおらず、むしろ緩和的であるという考えかたです。確かに、経済成長率が0.7%だとすれば、0.25%はそれより低いので、緩和的という解釈は納得できます。
潜在成長率にインフレの期待値(インフレ率目標)2%を足したものを、中立金利と定義できるので、仮に潜在成長率を0.5%にして、これにインフレ期待値の2%を足すと2.5%が中立金利ということになります。長らくゼロ~マイナス金利の中で生活してきた日本人には、動揺を隠せないレベルの金利です。いくら米国のコミュニケーションスタイルに理解がある植田日銀総裁でも、さすがに現段階でこの数字を国民に突き付けるのは積極的ではないと考えているのか、政策金利目標には「まだ言及できない」と発言しています。いまの日本はまだ、中立金利の議論をするほど足腰が強くないので、潜在成長率よりも低い水準での金利の引き上げは0.5%までが現実的でしょう。
このような成長率や金利の動きを理解しておくと、株式市場がどれぐらい下落するのか、企業へのダメージはどの程度か、為替がどれぐらい円高に進むかなどを理解して、成長企業を見つけられるようになります。
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日本金融経済研究所 代表理事、大阪公立大学 客員准教授
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。イー・ギャランティ社外取締役。楽待 社外取締役。国会 衆議院 財務金融委員会で参考人として意見陳述し、事業性融資の法案可決に寄与。フジテレビ「LiveNewsα」、読売テレビ「ウェークアップ」レギュラー出演中。
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(日本金融経済研究所 代表理事、大阪公立大学 客員准教授 馬渕 磨理子 構成=力武亜矢)
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