サッカー日本女子代表 佐々木則夫監督:「ノリさん」と呼ばれる世界No.1監督の「ジョーク力」
プレジデントオンライン / 2013年4月4日 10時45分
「(コーチのときと同じく)選手たちは、僕のことを監督になってからも『ノリさん』と呼んでくれる。さすがにヘッドロックを掛けられることはもうないが、ときには悪ふざけで『ノリオ』と呼び捨てにされることぐらいなら、いまだによくある」
著書『なでしこ力』でそう述べているように、なでしこジャパン監督の佐々木則夫は、選手と対等な関係を築いている。試合本番でも、笑いの力で選手の力を最大限に引き出そうと試みる。
「なでしこジャパンは、いつだってよく笑う。特に平常心を失いがちな場合こそ、笑うことで頭をクールダウンさせることができると僕は考えている。(略)ある試合ではハーフタイムに冗談を言って選手を笑わせたことがある」(『なでしこ力』)
FIFA女子ワールドカップ決勝戦でのPKのときもそうだ。優勝記念の会見ではそのときのことを次のように語った。「我々からしたら、天からの恵みたいなものですから、もう、笑いが止まらないくらいの空気だったんですね。そういう意味でギャグも一発やろうかなと思ったんですけど、そこまでちょっと頭が回らなかったので。(PKの)順番を決めなきゃいけないですからね」。
なでしこジャパンにとってのライバルは、W杯で戦ったアメリカやドイツ、さらにロンドン五輪アジア最終予選で熱戦を繰り広げたオーストラリア、中国など世界の強豪チームだ。
ただし、彼女たちはあくまでライバルでしかない。なでしこたちには、本当の敵がいる。それは、国内での女子サッカーに対する関心の低さだった。
W杯ドイツ大会での優勝により、一気に人気が出ただけである。仮に、メダルを逸していたなら、大会前と事態は変わらなかっただろう。
監督である佐々木は、チームを活性化させるためだけではなく、女子サッカーの人気を上げるためにも、ユーモアを求められたのだ。
もともと、学生時代に「ヨシカワ君!」と森田健作(現・千葉県知事)のモノマネをやるなど、ひょうきんな面はあった。会見でも、「僕なんか女子寮に閉じ込められているような状況なんですけど」と言って笑わせた。
とはいえ、一流の女子選手を相手にするのは至難だ。「東洋の魔女」を率いた大松博文とは時代が違う。
「そもそも僕のような年齢の男性と若い女性たちとの話なんて、かみ合わなくて当たり前だ。場を和ませるつもりで言ったジョークが、『古い』『ダサい』と冷たくあしらわれることならいくらでもある」(『なでしこ力』)
そんな仕打ちにもめげず、チームの勝利のため、さらには日本の女子サッカーの存在感を上げるため、いまも佐々木はジョークを考えている。
■優勝後の会見は爆笑の連発
【記者】キャプテンとしてまとめるにあたって心がけたことは?
【澤】中堅の選手が、下の選手を引っ張ってくれたおかげです。
【監督】あと大きいのはね、僕の練習量のコントロール、これが大きいんです。(会場笑)
【澤】そうですね、ありがとうございます。(中略)監督と信頼関係を築き上げられているので、そこは今回の大会を通してよかった点の1つでもあります。
【監督】マルだ。(会場笑)
【記者】澤キャプテンと各ポジションを代表して海堀さん、熊谷さん、宮間さん、大野さんに聞きたいんですが、この大会を通して、佐々木監督の改めてすごいなと思った部分、あるいは学んだことなどを教えてください。
【監督】エントリーした人材がよくないよ。
【大野】学んだこと? 特に……。(会場笑)おやじギャクを言っていたことぐらいしか……。
【宮間】試合に近づくにつれてリラックスしていくというか、大舞台に立っているにもかかわらず、選手をしょってどっしり構えてくれていたことが、私たちにとっては心強かったと思います。
【監督】マル。(会場笑)
【記者】海堀選手。
【監督】たまにはバツつけようかな。
【海堀】PKの前とか、緊張するときにリラックスさせてくれたことはとても心強かったと思います。
【監督】海堀は僕から学んだこと、1個もないですよ。あの2人(山郷と福元)から学んだことがすごく多いと思います。はっきり言えよそれ、ちゃんと(会場笑)。そうだろう?
【海堀】はい。(会場笑)
(文中敬称略)
■茂木健一郎さんチェック
コミュニケーションがうまくいく秘訣は相手と対等であること。選手と監督は非対称になりがちですが、佐々木さんはユーモアを使ってフラットな関係を築くことに成功しています。
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茂木健一郎
1957年、佐賀県生まれ。カリフォルニア州立大学バークレー校卒。アメリカで資金を貯め、81年、日本ソフトバンク(現ソフトバンク)を設立。
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(経済ジャーナリスト 永井 隆 上飯坂 真=撮影)
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