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やっぱり日本製鉄に買収してほしい…USスチール従業員たちが「ライバル会社の横取り案」に"ドン引き"のワケ

プレジデントオンライン / 2025年1月17日 16時15分

USスチール買収中止命令に対する提訴について記者会見する日本製鉄の橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)=2025年1月7日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

米鉄鋼大手クリフス社の経営トップが、日本製鉄による米USスチール買収計画の“横取り”に意欲を示している。ローレンソ・ゴンサルベスCEOは「日本は中国より邪悪である」などと日本批判を展開したが、アメリカ国民は冷たい視線を送っている――。

■「日本は気をつけろ」米大手鉄鋼CEOが放った仰天発言

アメリカのバイデン大統領は、日本製鉄による米USスチールの買収に「待った」を掛けた。これを受け、自社による買収を目論む米大手鉄鋼メーカー、クリーブランド・クリフス社のローレンソ・ゴンサルベス最高経営責任者(CEO)が、米世論を“反日”に誘導すべく動いている。

CNBCの報道によると、ゴンサルベス氏は1月13日、同社のペンシルベニア州バトラー工場で開かれた記者会見において、日本を「邪悪」と表現。さらに「日本は中国に多くのことを教えた」と述べ、鉄鋼産業における不公正取引の手法を中国に伝授したとして非難した。

90分以上に及んだ記者会見の中で、ゴンサルベス氏は「日本は中国にダンピングの方法、過剰生産能力の高め方、過剰生産の仕方を教えた」と具体的な非難を展開。製品を不当に安い価格で販売する「ダンピング」や過剰生産の手法について、日本が中国の手本となったと主張した。

クリーブランド・クリフス社の記者会見
クリーブランド・クリフス社の記者会見(クリーブランド・クリフス社 公式YouTubeより)

■石破首相にも向けられたCEOの矛先

さらに同氏は、「日本は気をつけろ。お前たちは自分が何者か分かっていない。1945年以来何も学んでいない。私たちがいかに優れているか、寛大か、度量が大きいか、許す心があるかを学んでいない」と、第二次世界大戦に言及しながら激しい言葉で攻撃を続けた。

日本製鉄によるUSスチール買収を巡っては、買収阻止の方針を示したバイデン氏に対し、日本の石破首相が懸念を表明している。ゴンサルベス氏は石破氏の姿勢も槍玉に挙げ、「石破氏は、次期トランプ大統領が就任した際にも、同じ主張をホワイトハウスに持ち込んでみるとよいだろう」と挑発的な言葉を放った。

ゴンサルベス氏が目論むのは、自社によるUSスチールの買収だ。氏は記者会見で、「(USスチールを)買いたい」と明言している。

「私には計画がある。アメリカですべて完結できる解決策を用意している。その解決策は人々、労働者を中心に据えたものだ」と述べ、USスチール買収への強い意欲を示している。だが、同社による買収は市場の独占につながるとして、米国内に反発も強い。

ゴンサルベス氏による一連の発言に対し、USスチールは声明を発表。「重要な同盟国である日本の人々に対するゴンサルベス氏の言葉による攻撃に非常に失望している」と強く批判している。

この記者会見は当初、クリーブランド・クリフス社による鉄鋼大手AKスチール買収5周年を記念する場として設けられていた。本筋から大きく脱線し、日本批判に時間を割いた形だ。

■「まるでヒトラー」地元市長は差別発言を強く批判

ゴンサルベス氏の記者会見での発言に対し、米製鉄業の中心地でありUSスチール本社が位置するペンシルベニア州ピッツバーグ周辺からは、厳しい批判が飛び出している。

ローレンソ・ゴンサルベスCEO
ローレンソ・ゴンサルベスCEO(クリーブランド・クリフス社 公式サイトより)

米NBC系列のピッツバーグ局「WPXI」によると、ピッツバーグ近郊・クレアトン市のリチャード・ラッタンジ市長は、ゴンサルベス氏の発言について「まるでヒトラーを見ているかのように感じた」と強く批判した。

ゴンサルベス氏が日本を中国より「悪い」と評し、「日本は1945年以降何も学んでいない」と発言したことについて、ラッタンジ氏は「教養ある人物が、1945年に起きたことを持ち出すとは予想もしていなかった」とあきれ顔だ。

ラッタンジ氏はさらに踏み込み、クリーブランド・クリフス社による買収の真意についても疑問を投げかけている。「クリーブランド・クリフスは独占企業になりたいのか。自社を強化するために工場を買収して閉鎖するつもりなのか」と同社の目論見を指摘。USスチールが位置するモンバレー地域にとっては、日本製鉄による買収が望ましいとの見解を示している。

USスチールもゴンサルベス氏の発言を受け、「クリーブランド・クリフスが業績低迷に直面する中で、彼が関与してきた違法で独占的な共謀から注意をそらすための試みに過ぎない」と反論している。

■提案規模で及ばぬ会社の遠吠え…日本製鉄は余裕の反論コメント

さらにUSスチールは、「ペンシルベニア州の優れた地域リーダーシップ、日本製鉄との統合を支持してきた多くのUSW(米鉄鋼労働組合)メンバー、そして重要なアメリカの同盟国である日本の人々に対する言葉による攻撃に、われわれは非常に失望している」と強い非難を表明した。

加えて同社は、「日本製鉄とのパートナーシップのみが、株主に1株55ドルをもたらし、将来の世代のためにUSスチールを強固なものとするために必要な、重要な設備投資と技術共有を保証できる」と強調。日本製鉄との提携がもたらす具体的な価値を示しながら、ゴンサルベス氏の主張への反論を展開した。

ロイター通信によると日本製鉄側も、声明を通じて即座に反論。ゴンサルベス氏の主張を「偏った固定観念に基づくもの」と断じた上で、「彼の言葉では、(クリーブランド・クリフス社が)われわれの計画の規模と範囲に匹敵できないことを隠し切れていない」と切り返した。

■「日本は中国より悪い」CEOの歪んだ認識

ゴンサルベス氏は過去にも、日本を標的とした攻撃的な発言を繰り返している。1月7日には米フォックス・ニュースのインタビューで、日本に対する激しいバッシングを繰り広げた。

ゴンサルベス氏は「日本は問題を抱えている。それは彼らの問題であって、私たちの問題ではない。彼らには過剰生産能力があり、人口は減少している。彼らにとって悪いことだ」と述べ、日本には鉄鋼を輸出したい強い動機があると主張している。

インタビュアーが「関税は答え(有効な一手)となるのか」と尋ねると、これに対しゴンサルベス氏は、「彼ら(日本)は過剰生産能力を減らす必要がある。過剰生産する理由はない」との私見を述べ、アメリカへの輸出を牽制している。

さらにゴンサルベス氏は、世界の鉄鋼産業における過剰生産の根源は日本にあるとの見方を示す。「過剰生産能力は、日本が生み出した。中国はそれをステロイド(増強)したにすぎない。中国は日本が80年代からやってきたことを真似ているだけだ」

インタビューを通じて氏は、「日本は、我が国の鉄鋼に関する全ての問題の起源だ」と断定し、米鉄鋼業界の落日は日本がもたらしたとの言説を展開している。

根拠としてゴンサルベス氏は、生産と消費の不均衡を挙げた。具体的な数字として、「日本は国内消費が50(百万トン)未満の国だが、80百万トンの鉄鋼を生産している」としている。

そのうえでゴンサルベス氏は「日本を過剰生産能力の加害者として世界に暴露できて嬉しい。われわれの市場で歓迎されない存在だ」と結論づけた。

ゴンサルベス氏は、アメリカの次期政権についても言及。「(現役のトニー・)ブリンケン(国務長官)は今、日本で寿司を食べている。だが、彼の役職にはもうすぐ、(マルコ・)ルビオが就く。これは日本にとって悪いニュースだ」と述べ、日本により厳しい政策が採られる可能性を示唆した。

ローレンソ・ゴンサルベスCEO
ローレンソ・ゴンサルベスCEO(クリーブランド・クリフス社 公式サイトより)

■過去にも差別発言「日本人が裏口からアメリカに入り国を破壊する」

ゴンサルベス氏は過去にも、日本と中国からの鉄鋼輸入、および両国の過剰生産能力について、強い警戒感を示している。経済専門放送局の米CNBCのインタビューで昨年11月、厳しい言葉で批判した。

まず、日本の過剰生産能力の問題について、ゴンサルベス氏は歴史的観点から持論を展開。「少なくとも過去45年から50年にわたり、日本は意図的に過剰な生産能力を付け、人為的にもたらされた余剰生産品を他国に供給することで、(他国の)雇用を破壊し、経済が適切に機能する能力を損なってきた」と激しく攻撃している。

中国についても、「1980年代の日本の行為を規模としてこれを何倍にも拡大し、2005年や2008年頃から、さらに大規模に行うようになった」と非難した。

ゴンサルベス氏は、こうした過剰生産による輸入品がアメリカへ流入しており、米国内経済に深刻な打撃を与えていると強調する。

■「今や日本も、われわれの友人ではない」

ゴンサルベス氏は同インタビューで、「1社や2社、あるいはせいぜい10社程度の企業がわずか1期分の好決算を計上するために、輸入品によって経済を破壊してしまう。これがこの国(アメリカ)にとってどれほど悪いことか、われわれは十分に理解していない」と述べ、日中両国からの鉄鋼輸入に対してアメリカ国民は警戒心を持つべきだと訴えている。

さらにゴンサルベス氏は、人種差別的とも取れる発言を展開。「中国人や日本人、ドイツ人、フランス人といった人々が、特にメキシコという裏口を通じてこの国に入ってくることで、われわれが持っているものを破壊することは、許してはならない」との自説を唱えた。

特に槍玉に挙げているのが、中国と日本の存在だ。「昨年(2023年)の最大の成果は、中国がわれわれの友人ではないことを示したことだ。そして今や、日本もわれわれの友人ではないことは誰にでも明白である」と、明確に日本を名指しして攻撃した。

「中国がわれわれの友人ではない」とは、中国の産業・貿易政策がアメリカの製造業基盤を意図的に弱体化させているという認識を、2023年中に明確に示すことができた――との趣旨とみられる。いまや日本もアメリカの産業界の敵である、との認識をゴンサルベスは示している。

工場で働く男性
写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EyeEm Mobile GmbH

■買収を有利に運ぼうとし、アメリカ国民からも反感を買った

アメリカの国家としての団結と利益を強調するゴンサルベス氏の思惑として、日本を米経済を破壊する敵国として描くことで、自社が目論むUSスチールの買収を有利に運びたいねらいがある。

しかし、偏見や人種差別的発言に満ちたインタビューを目にしたアメリカの視聴者からは、「日本は敵国ではない。同盟国である」「アメリカの技術にも雇用にもプラスになる」など、日本や日本製鉄による買収を擁護する声が上がっている。

舌鋒鋭く日本批判を展開するゴンサルベス氏だが、歴史上のタブー中のタブーであるヒトラーになぞらえられるなど、言葉を重ねるほどにアメリカ国民の心情は悪化の一途をたどる。

日本をよそ者として演出したいゴンサルベス氏の意向に反し、矛先は同社の経営層へと向かっているようだ。視聴者らは、外国批判を続けるゴンサルベス氏自身がブラジル出身であり、インタビューの英語がとても流暢には聞こえないことを指摘。

さらには息子であり同社のCFO(最高財務責任者)を務めるセルソ・ゴンサルベス氏と共に、米企業であるクリーブランド・クリフス社が乗っ取られているように感じられるとの批判も飛び出した。差別的意見に差別で反論する行為は必ずしも好ましくないが、少なくともゴンサルベス氏による人種批判はお門違い、と捉えた視聴者は多かったようだ。

人種意識を煽動しビジネスを有利に運ぼうとするゴンサルベス氏だが、アメリカ国民は自らの良識に照らし、底の浅い戦略を容易に見透かしているようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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