「フジテレビの疑惑」は氷山の一角である…女子アナがいまだに「大物芸能人の接待」に利用される本当の理由
プレジデントオンライン / 2025年1月17日 20時45分
タレント・中居正広氏の女性トラブルをめぐり、フジテレビが揺れている。なぜ女性アナウンサーの会食接待に関するトラブルはなくならないのか。元テレビ朝日プロデューサー鎮目博道さんは「テレビ業界は依然として男社会だ。それに加えて日本特有の『女子アナ』という局員のあり方がこの問題の背景にある」という――。
■生配信、生中継すら認めない"異例の社長会見"
タレントの中居正広氏の女性トラブルに、フジテレビの社員が関与したのではないかと『週刊文春』が報じた問題を受け、17日午後にフジテレビの港浩一社長が会見した。
記者クラブに加盟する新聞社やテレビ・ラジオ局のみに参加を認め、生中継や生配信も認めない、かなり制限のかかった記者会見だった。港社長は第三者の弁護士などを中心とする調査委員会の設置を表明し、その調査の結果を待ちたいとして、社員の関与など事案の詳細については突っ込んだ言及はなかったようだ。
16日発売の『週刊文春』では、中居氏の女性トラブルに関連し、フジテレビの女性アナウンサーが、幹部局員が設定した中居氏との会食に参加させられたことがあると告発する記事を掲載。毎日新聞によると、こうした点について記者から問われた港社長は「私はなかったと信じたいと思うが、それも含めて(今後、第三者の弁護士を中心として設置する)調査委員会の調査に委ねたい」などと答えたという。今回の社長会見では問題の真相は結局はっきりしなかったということだ。調査委員会による解明が待たれる。
しかし、一般論として言うと、実は女性アナウンサーが同席して、有名タレントを接待することはテレビ局にとって決して珍しいことではない。むしろ、テレビ局にとってみればそれは「常套手段」と言って差し支えないほどよくある話である。
その理由は簡単にいうと、非常に効率的でしかも負担が少なくて済むからだ。しかも通常「関係者の誰も損をしない」接待の方法なのだ。
■テレビ業界に残る悪しき慣行
テレビ業界や芸能界には現在でも昭和的な古い慣習がいまだに多く残っている。番組プロデューサーや制作部門の責任者たちは、言ってみればメインの仕事がいまだに「大物タレントや事務所関係を接待して、その関係を良好に保つこと」と言って良いような状況だ。ということで、大物タレントが出演する番組では、常に「現場との懇親を深める食事会などの場を設ける」というのが常識のようになっている。
いまだに男性社会のテレビ業界において、テレビ局が接待するべき相手となる大物タレントのほとんどは男性、しかも比較的年齢層高めの男性なわけだから、接待の席には「女性がいないと」ということになりがちだ。となると、自然とプロデューサーたちは担当番組の女性出演者や女性スタッフを中心にメンツを集めて、食事会をセッティングすることになる。
そしてそれだけではない。接待されるタレントの側からも「〇〇アナウンサーを呼ぶことはできないのか」と、番組とは関係ないが日頃からお気に入りだったり、気になっている女性アナウンサーの名前を挙げてリクエストされることはしばしばあるのだ。
■なぜ女性アナウンサーによる"接待"がなくならないのか
そうすると局のプロデューサーにしてみれば、名前の挙がった女性アナウンサーをどうしても呼ばざるを得ない状況になってしまう。
これが女性タレントであれば「先方の事情」などを口実に断ることもできるだろうが、女性アナウンサーは局の社員だし、大概はそのプロデューサーの後輩に当たるわけだから、「後輩ぐらいなんで呼べないのか」と大物に言われてしまうと反論しにくい。そうなれば「なんとかお願いできないか」と、多少無理を言ってでもそのアナウンサーに声をかけざるを得なくなるわけだ。
そして、じつは女性アナウンサー側にとっても、こうした「大物タレント接待の席」に参加することは、それほど損な話ではない。背景には女性アナウンサーが置かれた「複雑な立場」がある。
女子アナは「会社員であって会社員ではない」とでもいうべき複雑な立場に置かれている。彼女たちは放送局の局員であるという意味では会社員に間違いはない。
しかし、同僚であるプロデューサーなどの制作系の局員からお声がかからないと基本的に仕事を得ることができない。その意味では多分にタレント的で、局内で営業活動的なものを行わざるを得ない側面からすれば「会社員であって会社員ではない」ような感じでもある。
あたかも個人事業主であるタレントのように「自分の仕事は自分でゲットする」ことが求められている部分があるからだ。
■背後にある日本特有の「女子アナ」問題
そうした意味では、自分に仕事をくれる可能性がある「局内の有力者」の申し出は断りにくい。局内有力者とは友好な関係を維持しなければ「発注」が来ないのだ。
そして、当然大物タレントとの関係も良好に保たなければ、いつ自分の仕事に差し障りがあるか分からない。そもそも新番組のキャスティングを決める際にも「誰々さんのお気に入りは〇〇アナウンサーだから、彼女を起用しよう」というような理由で物事が決まることが多いわけだし、もしメインの出演者に「彼女はちょっと……」と難色を示されれば、すぐにでも交代させられる危険もある。
まして欧米などと違い、日本の女子アナは「30歳を過ぎると極端に仕事が減る」と当事者たちが語るように、いまだに実力本位というよりも「若くてキレイな女性」としての役回りを求められている面がある。
本来そこが非常に問題なのだが、局内有力者や大物タレント関係の「会席へのお呼び」に積極的に応じないと、たとえ人気絶大な女子アナであっても若い後輩女性アナウンサーたちにいつその座を取って代わられるかもしれない危険性が常にあるわけだ。
さらにそれだけではない。彼女たちには「フリーになるかもしれない」という状況もある。そうなると「局内有力者からお声がかかった大物タレントその他の接待先との飲み会」に参加するメリットはさらに大きいのだ。そうした席に積極的に参加し、お知り合いになり特別な人脈を作ることは、言ってみればフリーになった後も女子アナたちを一層強化し、その実力を高めることに直結する。
■男社会で過酷なサバイバルを求められている
「若さも人気も無くなったら、残るのは『トーク力』と『ど根性』と『人脈』よ」
これはある先輩女性アナウンサーから聞いた言葉だ。局に残るにしても人脈は大切だが、ましてやフリーになれば女子アナにとって大切なものはまさに人脈なのだ。
フリーになっても画面に出演し続け、人気者であり続けられる女子アナはほんの一握りしかいない。年齢を重ねるほど、その競争は激しくなる。「私はこんな有力者と面識がある」というステータスは、過酷なサバイバルを求められているフリーアナウンサーたちには、とても頼りになる柱のような存在になり得る。
ということで、女性アナウンサーは大物タレントとの飲食の席を断ることは非常にしづらい状況に置かれているし、チャンスと捉えて積極的に参加する側面もある。
そして、番組プロデューサーや制作幹部は、こうした「女性アナウンサーも同席する宴席の場をいかに巧みに設定するか」ということが出世に直結している。いかに「飲み会の席を盛り上げ、大物や事務所を満足させること」イコール「出演者との強力なパイプを持っていること」に直結する。
海外に比べても、タレントのネームバリューに重きを置きがちと言われている日本のテレビ業界において、こうしたパイプを持つことは即ち局内に置けるプレゼンスを高めることなのだ。面白い演出ができることや、企画力などはむしろ二の次だと言っても言い過ぎではない。
■「社員を守れないテレビ局」の存在意味
こうした背景があるので、いくら世間からは非常識に見えようと、時代錯誤と感じられようと、なかなかこうした「女性アナウンサーを接待役とした大物タレント接待の場」はなかなかテレビ業界から無くならないのだ。
ただし、こうした接待の場をセッティングする上で、筆者が考える、プロデューサーならば絶対に守らなければならないと思うことがひとつある。それは、飲み会の場に参加してくれたスタッフたち、中でも女性スタッフたちに決して嫌な思いをさせてはいけないということだ。
特に女性アナウンサーたちは非常に忙しい。多くの番組の仕事を掛け持ちする中で、そして顔を出さなければならない会合も多い中で、わざわざ自分たちの「人間関係構築の場」に顔を出してくれたのである。
番組プロデューサーであれば、そうした宴席の場を「支障なく滞りなく盛り上げて終わらせる」ことも仕事のうちだ。スタッフ、特に女性スタッフを守ることも「支障なく宴席の場を終わらせる」上で非常に大切なことだ。
となれば、女性アナウンサーをはじめとする女性スタッフには「顔を出してくれたことに最大限感謝しつつ、早めに退席してもらう」のが当然だ。あとは自分たち「立場が上のオッサンたち」が引き受けて、とことんまで大物タレントの酒に付き合えばいい。
「社員を守る」とはそういうことではないだろうか。もっと言えば、こうした時代錯誤の接待の形式はそろそろ止めにしたほうがいい。もっとビジネスライクでドライな、誰の人権も侵害されることのない「新しい芸能界での接待のあり方」を構築することが、テレビ局の上層部に求められている大きな責任であるということは、疑いもないだろう。
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テレビプロデューサー・ライター
92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島取材やアメリカ同時多発テロなどを始め海外取材を多く手がける。また、ABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」、「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、放送番組のみならず、さまざまなメディアで活動。上智大学文学部新聞学科非常勤講師を経て、江戸川大学非常勤講師、MXテレビ映像学院講師。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究、記事を執筆している。 Officialwebsite:https://shizume.themedia.jp/ Twitter:@shizumehiro
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(テレビプロデューサー・ライター 鎮目 博道)
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