中居くん、心配だよ…末尾を「さようなら…。」と結んだ稚拙な引退報告からにじみ出る「SMAP公開謝罪」と同じ本音
プレジデントオンライン / 2025年1月24日 17時15分
■芸能活動は「支障なく続けられる」としていたが…
中居正広氏は、「はだかの王様」だった。SMAPが1996年に出した曲「はだかの王様 シブトクつよく」の歌詞を地で行く彼には、誰も何も言えないのではないか。誰か、彼のそばにいて、助けてあげてほしい。そう感じさせるのは、歌詞の冒頭に次のようなフレーズがあるからである。
「反省なんか 一応してみせるけど 心の中じゃ 真っ赤な舌を出してさ」
中居氏は、心の底から反省しているわけではないのではないか。そう思わせる引退だった。
「トラブル」を起こしたことが、まずもって大きな間違いだった。そして、たとえ「守秘義務」があったとはいえ、1年半もの間、活動を続けてきたのも、誤りだった。
何より、1月9日付で自身の事務所「のんびりなかい」のウェブサイトに掲出した「お詫び」と題する文書が、決定打だった。「トラブルがあったことは事実です」としながらも、「示談が成立し、解決していることも事実です」とし、「相手さまのご提案に対して真摯に向き合い、対応してきたつもりです」と述べている。
「はだかの王様」ぶりを印象づけたのが、次の文章だろう。
「トラブル」から現在までの「芸能活動」についての弁明ともとれるものの、しかし、これからも続けていく、そんな意思表示と受け取るほうが素直である。
「トラブル」の内容は明らかにされていないし、これからもされないとみられる。きわめて重大な事案と報じられており、その点で中居氏が非難されている。ただ、それとともに、中居氏が、自分に対する世間からの視線をつかめていなかったために、引退まで追い込まれたのではないか。
■2週間前の「お詫び」は何だったのか
1月23日付で出された文書は「ご報告」である。2週間前には、「支障なく続けられることになりました」と述べていた「芸能活動」を「引退」するという。
この2週間に、何があったのか。
フジテレビの記者会見があったり、CMが次々に「AC」に差し替えられたり、といった、さまざまな動きがあった。おりしも、23日は、フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスが臨時取締役会と社員向け説明会を開いている。
「これだけたくさんの方々にご迷惑をおかけし、損失を被らせてしまったことに申し訳ない思いでなりません」というのが、引退の大きな理由といえよう。
それなら、1月9日付の「お詫び」について、とりわけ、芸能活動にかんする方針を180度変えた経緯について、ひとことでも説明しても良かったのではないか。
「はだかの王様」ぶりが、つまり、もう、誰も、中居氏に対して、何も言ってくれていない様子が想像される。
けれども、ここで、中居氏を糾弾したいわけでは、まったくない。かといって、中居氏を庇いたいわけでもない。メディアスクラムはいけません、といった、おためごかしのお説教を流しても、無意味だからである。
それよりも、中居氏には、せめて最後に、本当に思っていることをできる範囲で、ぜんぶ伝えてほしかった、そう思っているだけである。
■「さようなら…。」の後味の悪さ
23日付の「ご報告」は、「さようなら…。」と結ばれている。
「ご報告」という事務文書として書かれているはずなのに、なんとも締まりが悪い。報告するための文章を「…。」で終えたら、少なくとも、公的機関では、添削されるに違いない。
私は、この「…。」に文句をつけたいのではなく、誤解を恐れずに言えば、心配している。本人の強い意志なのかもしれないが、それでも、引退の「ご報告」の末尾にしては、あまりにも稚拙ではないか。中居氏本人以外の第三者が、少しでも目を通せば、変わっていたのではないか。それほどまでに、中居氏は「はだかの王様」になっているのではないか。
歌詞にあるように、大目に見てもらえる、というか、孤立している様子が想像される。
中居氏の「…。」に込められた意味を、あれこれと詮索するよりも、彼の「お詫び」の前史を思い出そう。「公開処刑」と言われた、あの映像である。
いまから9年前、2016年1月18日に関西テレビ・フジテレビ系列で生放送された「スマスマ」(「SMAP×SMAP」)の「謝罪」である。
■9年前の「スマスマ」との共通点
真っ黒なスーツに白いシャツ、ネクタイの色こそバラバラなものの、木村拓哉氏(シルバー)以外の4人は、みなダークカラーだった。黒い緞帳と、白い床の上で、5人が横一列になり、両手を臍の下で組み、直立不動でしゃべり始める。
内容は、その5日前に出された「SMAP解散」の一報を受けて、騒動を謝り、活動継続を表明するものだった。
木村氏の長いあいさつを受けて、稲垣吾郎氏、香取慎吾氏と続き、中居氏は、次のように発言している。
時間にして20秒程度だった。冒頭からの50秒と、しめくくりの20秒のあわせて1分10秒ほど発言した木村氏の3分の1に満たない、きわめて短いものだった。
注目すべきなのは、文字起こしでは「えー……。」とした、深いため息である。いかにも不服そうに、いやいやながら「謝罪」させられている、そうした空気を色濃く滲ませた態度と言えよう。
今回の「ご報告」を「…。」で終わらせたのは、中居氏にとって、あの9年前の「謝罪」と同じか、それ以上に、不本意というか、言いたいことを言い切れなかった、という消化不良の賜物だったのではないか。
■「くん」付けで呼ばれてきた代償
あくまでも民事の、私人のあいだでの「トラブル」である以上、中居氏に対して、「説明責任」を求めるのは、酷だろう。2011年の芸能界引退に際して記者会見を開いた島田紳助氏と、中居氏を比べるのも、事案の性質に鑑みると、無理があろう。
仮に中居氏が記者会見を開いたら、袋叩きや吊し上げの場になりかねず、今度もまた「公開処刑」になるのは、火を見るより明らかである。
いま私が書いているこの文章では、「中居氏」と書いているものの、これまで「中居くん」と呼ばれ、親しまれてきた。「中居くん」という、フラットで気楽な存在として、老若男女に愛されてきた証ととらえられる。
社会学者の太田省一氏が『中居正広という生き方』(青弓社、2015年)で指摘するように、テレビ番組の「MCをしているときの一瞬の素のしぐさや表情、それもまた中居正広のMCの代えがたい魅力」(同書53ページ)だった。
「中居くん」の「素のしぐさや表情」は、お茶の間を和やかにするのみではない。太田氏によれば、中居氏のMCとしての特徴は「自分が相手を支配するような関係に持ち込まない」(同書56ページ)ところにある。
身近で、誰からも愛され、「素」を見せ、主従関係をつくらない。中居氏が売りにしてきた要素は、今回の「トラブル」で、オセロを裏返すように、すべて反転してしまった。「くん」付けで呼ばれてきた代償を、すべて一度に払わねばならなくなったのである。
だからこそ、記者会見か否かにかかわらず、自分のことばで、本音を残してほしかった。
■「謝罪」の意味はどこに?
評論家の中森明夫氏は、中居氏に向けて「今回の被害者の女性に対しても文書によるコメントではなく、顔を出してあなたの肉声で謝罪するべきだと思います」と呼びかけている(「SMAPの夢は終わった 中居正広はテレビで謝罪すべきだ」『サンデー毎日』2025年2月2日号)。
私は、そうは考えない。
どれほど中居氏がテレビカメラの前で謝罪しようとも、そこに本心がなければ、何の意味もないからである。
実際、芸能人による「謝罪」は、とても難しい。
企業や行政といった組織であれば、法令違反があったり、不正があったりしたときに、謝るポイントは明確になる。責任の取り方もまた、トップがやめるのか、あるいは、当事者が責を負うのか、多くのケースで、見えやすい。
対して、芸能人が、何らかの「トラブル」を受けて「謝罪」するときは、事情が異なる。なぜ、何を、誰に、どのように、いつ、どこで謝るのか。見極めが困難になる。その意味が問われるからである。
■「たくさんの方々」にとっての「ご迷惑」とは
たとえば、不倫を「謝罪」するときは、どうだろうか。
俳優の広末涼子氏は、2023年6月14日、「この度は、私、広末涼子の軽率な行動により、たくさんの方々にご迷惑とご心配をおかけしてしまったことを、深くお詫び申し上げます」と直筆のメッセージで「謝罪」している。
「たくさんの方々」にとっての「ご迷惑」と「ご心配」とは、いったい、何を指していたのか。
「たくさんの方々」には、テレビ局やCMスポンサーといった、仕事相手をはじめ、ファンも含まれるし、「ご迷惑」とは、制作中止や延期といったイレギュラーな事態を招いたとの意味だろう。
中居氏も今回、「これだけたくさんの方々にご迷惑をおかけし」と書いている。なるほど、テレビ番組をはじめとして、多くの人が携わる以上、その「ご迷惑」の範囲は広く、影響は大きい。
それなら、ウェブサイト等の不特定多数が読むところではなく、直接、伝えるのではいけないのか。「ご迷惑」の度合いは、一律ではないし、怒りを覚えている人から、同情する人、連絡を絶つ人まで、いろいろなリアクションがあるに違いない。
そうした「ご迷惑」の多様性を無視し、一緒くたに謝るのは、かえって、不誠実ではないのか。
いや、不誠実だと、芸能人を問い詰めたいのではない。芸能人の「謝罪」は、「関係者各位」が幅広く、人数が多いために、一筋縄ではいかない、そう考えているのである。
■「心の叫び」を隠しているのではないか
今回の中居正広氏の引退では、納得できない人が多いと思われる。
中居氏の「謝罪」が足りないとか、記者会見を開かないから、というよりも、中居氏による「ご報告」が醸し出す違和感を拭いきれないからである。思ってもないことを言わされているのではないか。心の叫びを隠しているのではないか。疑わせるに十分すぎるからである。
とすると、着地点は、どこにあるのだろうか。
中居氏が引退した以上、もう記者会見も、あらたな意思表示もされない可能性が高い。優等生ぶって、安全地帯から中居氏を守るのでもなく、逆に、中居氏をリンチするのでもなく、私たちの抱いた隔靴掻痒(かっかそうよう)は、どうすれば解消できるのか。
そんな行き場のない感情が、漂っている。
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神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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