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「ご寛恕ください」より格式が高く、響きもソフト…申し訳ない気持ちがジワジワ伝わる超一流の謝罪フレーズ

プレジデントオンライン / 2025年2月4日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

一流の人はメールや手紙でどのような書き言葉を使っているのか。人気の国語講師・吉田裕子さんは「顔の見えない相手のことを思いやり、慎重に、心をこめて書くという、手紙の精神をメールにも取り入れることで、他の人とは一味違う、上品な文章に仕上げることができる」という――。

※本稿は、吉田裕子『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

■話し言葉と書き言葉は語彙の水準が違う

面と向かって「厳寒の候、○○さまにおかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます」と言われたら、驚きますね。しかしこうした表現は、文書や手紙の書き出しには当たり前に使われます。話し言葉と書き言葉は、語彙の水準が違うのです。

本記事では、とくに書き言葉でよく用いる表現をいくつか紹介します。ぜひ参考になさってください。

「ご自愛(じあい)ください」

自身の健康を気づかうこと
例文 時節柄(じせつがら)くれぐれもご自愛ください。

拝啓なら敬具、前略なら草々をセットで使うというように、手紙を書くにあたっては、さまざまなしきたりがあります。時候の挨拶ではじめ、相手の体調を案じる言葉でしめくくるというのも、一つのしきたりです。

そうしたしきたりを守って手紙を書くのは、なかなか骨の折れること。ただ、「顔の見えない相手のことを思いやり、慎重に、心をこめて書く」という、手紙の精神を日常的なメールにも取り入れることで、他の人とは一味違う、上品な文章に仕上げることができます。

たとえば、ビジネスメールであれば、「いつもお世話になっております」ではじめ、「今後ともよろしくお願いいたします」と終わるのが一般的です。そこに、一工夫加えてみてはいかがでしょうか。幾度かやり取りをした、そのしめくくりとなるメールの末尾に、「どうぞご自愛ください」などとひと言添えるだけでも、印象は変わります。ビジネスライクになりがちなメールに、あたたかみが生まれるのです。

「ご自愛ください」というのは、自分自身の体を大切にすることを呼びかける表現です。

手紙でよく使用され、「何とぞご自愛専一(せんいつ)になさってください」のような言い方もできます。「専一」は、「他のことを顧(かえり)みず、そのことを最優先に」という意味の言葉です。

「お体に気をつけて」と伝えるなら、古風で奥ゆかしい言いまわしとして「おいといください」もあります。この「厭(いと)う」は、厭(いや)な状態を避けられるように、いたわり、気をつけるという動詞です。

寒い時季には、「お風邪など召されませんように」というフレーズもぴったりです。

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〈関連〉「御身(おんみ)お大切に」という、気づかいの言葉もあります。

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■目上の人への感謝の気持ちを伝える

「厚情(こうじょう)」

親切な気持ち、あたたかい思いやり
例文 ご厚情を賜り、感謝の念にたえません。

目上の人から優しく、手厚く支えてもらったことに感謝する言葉です。「(ご)厚意」「(ご)温情」「(ご)高配」「(ご)厚誼(こうぎ)」ともいいます。

異動や退職、閉店の挨拶文、あるいは、葬式における遺族の挨拶のような、それまでの長年の感謝を伝える、あらたまった場面で用いられることが多い表現です。「長年の(生前の)ご厚情に感謝申し上げます」のように使います。

日常的な会話の中でお礼を言う際は「あたたかいお言葉、痛み入ります」「いつも支えていただき、御礼申し上げます」のような言い方がなじみます。

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〈関連〉目下の人から親切にされた場合は、「気がきくね」「助かるよ」などの具体的なねぎらいの言葉を。

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手紙を書いている女性
写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

「平素(へいそ)」

普段、いつも
例文 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

「普段」という言葉を、丁寧にした表現が「平素」です。

電話や日常的なメールであれば、「いつもお世話になっております」で十分ですが、あらたまった書面や謝罪の手紙などでは、右の例文のように、かたい表現を用いたほうがふさわしいでしょう。なお、例文にある「ご高配」は、相手の気づかいや心配りを敬った表現です。

「平素は」「平素より」と助詞をつけて使用することもあれば、「平素利用している製品」のように、そのまま副詞的に用いることもあります。

同じ意味の語に「平生(へいぜい)(読み方に注意)があります。

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〈関連〉口頭では「いつも」「常日ごろ」「毎度」などを使います。

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■強めの要求も優しい印象に

「万障(ばんしょう)お繰り合わせのうえ」

参加できるよう、都合をつけること
例文 ご多忙とは存じますが、万障お繰り合わせのうえ、お運びください。

トイレに「汚すな!」という貼り紙をすると、わざと汚そうとする厄介な人たちがいるそうです。高圧的・直接的に注意するよりも、「きれいにお使いいただき、ありがとうございます」といった貼り紙をしたほうが、効果的なのだといいます。

主張の内容自体はもっともであったとしても、言い方次第では反発を招きます。たとえば、重要な会議で、全員に集まってもらわなくてはならない場合でも、「絶対に来るように!」という言い方では、角が立ちかねません。しかし一方で、来てもらわなければ困るという趣旨も伝えなくてはなりません。

そんなときに使えるのが今回のフレーズです。

「万障」とは、万(よろず)の障(さわ)り。「障り」は、差し障り、障害のことですから、「万障」で「参加するにあたって差し障りとなるあらゆる事情」という意味です。それを「お繰り合わせ」するというのは、調整して都合をつけるということです。したがって、内容としては「どんなことがあっても、必ず都合をつけて参加せよ」ということで、かなり強めに要求していることになります。

ただ、「万障お繰り合わせのうえ」という言葉が、あまり日常的でない、格式ばった言葉である分、感情的な反発を招きにくいのです。

口頭では「お忙しいかと存じますが、ご調整を賜りますよう、どうかよろしくお願いいたします」のように案内したほうが伝わりやすいでしょう。

なお、誘われた側が「ぜひ行きます」「必ず参加します」ということを伝えるときによく使われるのが、「万難(ばんなん)を排してまいります」という言い方です。どんな困難も取り除いて必ず、という強い決意を表しています。

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〈関連〉どうしても来てほしいことを伝えるときに添える語として、他に「是が非でも」「何とぞ」「雨が降ろうが槍(やり)が降ろうが」があります。

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■大人の謝罪では「ごめんなさい」を使わない

「寛恕(かんじょ)」

心が広く、過ちを許すこと
例文 不行き届きな点もあるかと存じますが、どうかご寛恕くださいませ。

謝るとき、小さな子どもは「ごめんなさい」と言います。

この言葉を漢字変換してみると、「御免なさい」です。「御免」+「なさい(~しなさって)」ですから、実は赦免(しゃめん)(=許すこと)を相手に要求している言葉なのです。「許してよ~」と言っているわけですから、あまり反省している感じがしません。そのため、大人の謝罪にはあまり使われないのです。

この「ごめんなさい」というフレーズをかたい言葉にあらためているのが、この「ご寛恕ください」です。寛大な相手の人柄を見込んで、寛容に、恕(ゆる)してくれるよう頼んでいるのです。なお、「恕」は『論語』のキーワードの一つで、「思いやり」や「相手に同情する姿勢」を意味しています。

『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)。12万部のベストセラー『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』を時代に合わせてアップデートし、より読みやすくなるよう再編集
『[新版]大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)。12万部のベストセラー『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』を時代に合わせてアップデートし、より読みやすくなるよう再編集

したがって、相手の寛容さや思いやりに甘えようとしており、言っていることは結局、「ごめんなさい」と同じようなものなのですが、格式ばった表現である分、真摯に反省して詫びる態度をにじませることが可能です。会話でよく聞く「ご容赦ください」も同じ発想ですが、「ご寛恕ください」は、これを一段階あらたまった表現にした、書き言葉向きのフレーズであるといえるでしょう。

さらに一段階あらたまった表現で、口頭ではほぼ通じそうにないのが「ご海容(かいよう)ください」です。「海のように広い心でお許しください」と頼んでいるわけですね。相手の優しさを立ててから謝ることで、どうにか許してもらおうとしているのです。

また、和語の表現としては、見逃してもらうよう頼む「お目こぼしください」があります。

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〈関連〉「許してほしい」という要素のない純粋な謝罪の言葉としては、「心よりお詫びいたします」「お詫びのしようもございません」などがあります。

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このように丁寧な書き言葉は特にビジネスシーンなどで役立ちます。上手に使いこなすことができれば、語彙力のある知的な大人の印象を与えることができるでしょう。

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吉田 裕子(よしだ・ゆうこ)
国語講師
東京大学教養学部・慶應義塾大学文学部卒業、放送大学大学院・京都芸術大学大学院修了。大学在学中から学習塾の教壇に立ち、卒業後も難関大学受験塾や私立高校で教える。現在は東進ハイスクールで大学受験指導を行うほか、企業の敬語・文章術・読解力の研修を行う。また、毎日文化センター・NHK学園などのカルチャースクール・公民館などで大人向けの古典入門講座やエッセイ教室などを担当し、10代から90代まで幅広い支持を得ている。NHK Eテレ「知恵泉」や日本テレビ系「月曜から夜ふかし」などのテレビ出演、音声配信Voicy「仕事と人生に効く!毎朝古典サプリ」の配信など、各種メディアでも国語について積極的に発信している。著書は『大人の言葉えらびが使える順でかんたんに身につく本』(かんき出版)のほか、『池上 彰 責任編集 明日の自信になる教養4 思いが伝わる語彙学』(KADOKAWA)など多数。

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(国語講師 吉田 裕子)

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