中国人のファッション・物欲をどう刺激するか
プレジデントオンライン / 2013年5月28日 14時15分
今や日本の輸出相手国シェアの約2割を占める中国。政治的には緊張関係が続くが、この国での成功が利益に直結するのも事実だ。
■3高マーケティング:月収の5分の1の高額商品が売れる理由
直接口には入れないものの安全性が鋭く問われる商品に、化粧品がある。肌に直接塗るものだけに、中国製の化粧品はなるべく使いたくないと考えている中国人女性は、実はとても多いのだ。
そんな中国人女性に大人気なのが、資生堂だ。資生堂が中国に進出したのは、日本企業としては極めて早い81年のこと。資生堂は、進出当初から「3高マーケティング」と「100元マーケティング」というふたつのポリシーを貫いてきた。3高マーケティングとは、
・高形象→High Image
・高品質→High Quality
・高服務→High Service
つまり、イメージ、品質、サービスの3つを高めることによってモノを売るということ。一方の100元マーケティングとは、中国との合弁生産品である「オプレ」を100元で売ることを指す。
オプレは94年の発売だが、この当時の都市部の1人当たり平均所得が月額500元である。100元の化粧品は月給の5分の1に相当する高額商品だった。資生堂は、アサヒビールの「唯品」同様、値段を高く設定することによって、高級感と品質の高さを強くアピールする戦略をぶれさせなかったのである。
また、小売店舗1店1店を対象とした地道な市場開拓、中国研究開発センターにおける、中国人の好みに合わせた、現地発の化粧品開発、研修センターでの社員に対する徹底的なサービス精神の教育等の施策により、現地化努力を行っている。
中国では伝統的に、メーカーよりも小売店の力が強く、売掛金の回収ができないケースが非常に多いのだが、資生堂は完全に定着したブランド力を背景として、売掛金の回収率99%という驚異的な数字を達成しているのである。
中国人は日本の技術力を高く評価しており日本製品は憧れの的だが、ただ日本製であるというだけで売れるほど中国市場は甘くない。商習慣も文化も異なる中国でモノを売るには、資生堂のように腰を据えた粘り強い営業活動が不可欠なのである。
■日本品質の中国製:中国製のユニクロが中国で売れるのか
上海市の目抜き通り、南京西路にユニクロとしては世界最大の売り場面積(3300平方メートル)を誇るグローバル旗艦店「上海 南京西路店」がオープンしたのは、10年5月のことである。
12年2月の段階で、香港を除く中国本土に展開するユニクロは113店舗。ファーストリテイリングの柳井正会長は中国で1000店舗、売り上げ1兆円を目指すと宣言しており、ユニクロのグローバル展開において中国を主要なマーケットであると位置づけている。
しかし……。ご存じのようにユニクロ製品はほとんどが中国製だ。中国製を好まない中国人にアピールするのだろうか。
ユニクロが中国に進出したのは10年ほど前だが、そのときも「中国製のユニクロが果たして中国で流行するのか」という議論が盛んに戦わされたものだが、結論を先に言ってしまえば、ユニクロは中国で大当たりしている。高級ブランドとまではいかないけれど、「やや高級な普段着」として20代、30代のビジネスマンの間で大流行している。
ポイントはやはり、品質だ。同じ中国製でもやはり日本の品質管理によって作られたものは違うというのが、大方の中国人の見方。裏返して言えば、中国人が中国的に作った低価格帯の衣料品の品質があまりにも粗悪であるということでもある。
筆者も経験があるが、安物の中国製衣料品は2、3回洗濯しただけで縮んでしまったり、破れてしまったりするものが多い。それに比べれば、ユニクロの品質は素晴らしい。あくまでも、「日本品質の中国製」なのである。
■小金持ち:本当の富裕層は欧米ブランドを買う
ご多分に漏れず中国人もブランド好きであり、いまや上海の目抜き通りには世界中のブランドショップが軒を連ねている。ヨーロッパのブランドに並んで、日本のブランドショップも頑張っているのだが、本物の富裕層が買うのはやはりヨーロッパのブランドである。時計ならば、オメガやロレックス。
では、日本製の時計で何が一番人気かと言えばセイコー……ではなくシチズンであるところが、日本国内とはちょっと違うところ。
シチズン時計は、実に58年という大昔に中国での販売を開始している。その時代から地道に店舗網を拡大し続け、いまや中国全土に約700店舗を構える。
中国におけるシチズンの位置づけは、小金持ちの若いビジネスマンがちょっと背伸びをして買う時計、といったところだ。もちろんセイコーも知られているが、シチズンに比べるとやや高め。シチズンの「手頃な値段の日本品質」が受けているのだ。
中国では高級ブランドの一角を占めるシチズンだが、日本国内での高級感はいまひとつ。日本に買い物ツアーにやってきた中国人に「あれれっ?」と思われないためにも、日本国内でのイメージアップが急務ではないだろうか。
■あのご飯をもう一度:大陸米は日本米に勝てない
旅行で日本にやってきた中国人が必ず買い求めるもののひとつが、炊飯器である。理由はよくわからないが、ともかく日本製の炊飯器は大人気だ。しかも、日本国内で主流の2万円前後の製品ではなく、4万~5万円の高級品に人気が集中しているという。
なぜ、炊飯器なのか。弊社の中国人スタッフに理由を聞いてみてもその答えは様々で、本当の理由はよくわからない。
筆者の見るところ、炊飯器ブームの理由は、日本のご飯のおいしさにある。中国の米は、基本的に大陸米(長粒米)であり、ポロポロパサパサしている。チャーハンにすればおいしいが、ご飯単独で食べた場合、しっとりした日本のご飯のおいしさには到底かなわない。
中国人にきちんと炊いた日本の米を食べさせると、あまりのおいしさに一様に驚嘆する。あのご飯をもう一度! と思うのも無理からぬことである。
ところが、日本米を中国で手に入れるのは至難の業なのである。値段もさることながら、そもそもほとんど流通していない。また、中国では美的や格力電器といった家電メーカーが急成長を遂げているが、正直言って値段が安いから売れているだけで品質はまだまだである。日本米が手に入らないならば、せめて炊飯器だけでも日本製を使いたいというのが中国人の本音ではないだろうか。
日本製の炊飯器で大陸米を炊いておいしいかどうかはわからないが、その程度の贅沢ができる中国人が増えてきたことのひとつの証しであろう。
(Mizuno Consultancy Holdings社長 水野 真澄 構成=山田清機 撮影=Cui Ming)
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