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プレバイオティクスであるイソマルトオリゴ糖を分解する細菌酵素の立体構造を解明

PR TIMES / 2024年5月10日 12時45分

静岡大学グリーン科学技術研究所 生物分子機能研究コア/農学部の宮崎剛亜准教授の研究グループは、プレバイオティクス(*1)として知られるイソマルトオリゴ糖(*2)を分解する細菌由来酵素の分子構造を解析し、イソマルトオリゴ糖のα-1,6結合を特異的に認識してグルコースに分解する仕組みを原子レベルで明らかにしました。

【研究のポイント】
・土壌細菌Flavobacterium johnsoniaeから見出されたイソマルトオリゴ糖をグルコースに分解する酵素(FjGH97A)の分子構造をX線結晶構造解析によって明らかにしました。
・FjGH97Aの基質結合部位のアミノ酸残基を1つだけ変えることで、マルトオリゴ糖のα-1,4結合を分解する酵素に変化することが分かりました。
・本研究成果は細菌の糖質資化性の予測やその機構解明に寄与することが期待されます。



当研究グループは以前、乳酸菌が菌体外多糖(EPS)として産生する多分岐デキストラン(*3)を対象とした土壌細菌Flavobacterium johnsoniae (*4)の多糖資化(*5)機構を解明しました。その中から見出されたイソマルトオリゴ糖分解酵素(FjGH97A)は、腸内細菌Bacteroides thetaiotaomicron (*6)が有する澱粉資化機構に関わるマルトオリゴ糖(*7)分解酵素(SusB)とアミノ酸配列相同性が約70%と高いにもかかわらず、SusBが好むマルトオリゴ糖のα-1,4結合に対する活性は低く、イソマルトオリゴ糖のα-1,6結合に高い活性を有していました。本研究では、FjGH97Aの立体構造と基質特異性の相関を解明することを目的として研究を行い、X線結晶構造解析(*8)によって基質の認識機構を明らかにすることに成功しました。その結果、FjGH97AとSusBでは基質結合部位を構成するアミノ酸残基が2つだけ異なっていることがわかりました。さらに、そのうち1つをSusB型に置換することで、基質特異性がスイッチして、SusBのようにα-1,4結合に対する活性の方が高くなることが分かりました。
膨大なゲノム情報から見出された機能未知タンパク質・酵素の機能は、機能が明らかになっているタンパク質・酵素とのアミノ酸配列相同性の高さに基づいて予測されます。本研究によって、糖質分解酵素のアミノ酸配列の相同性だけでなく、基質結合部位のアミノ酸残基に着目した基質特異性予測や酵素が関わる細菌の糖質資化機構の予測・解明に貢献できると考えられます。
なお、本研究成果は、2024年4月25日に、欧州生化学会連合の発行する国際雑誌「FEBS Journal」にオンライン掲載されました。

【研究者コメント】
静岡大学グリーン科学技術研究所 准教授・宮崎 剛亜(みやざき たかつぐ)
本研究は、自然科学系教育部バイオサイエンス専攻博士課程修了生である中村駿太郎博士が中心となって遂行した乳酸菌EPS資化機構の研究から派生してアイディアが構築され、本学大学院総合科学技術研究科農学専攻修士課程修了生である倉田陸矢氏と一緒に重要な実験データを積み重ねたものになります。

【研究背景】
ヒトが消化酵素によって食物に含まれる澱粉を分解してグルコース(ブドウ糖)にして吸収するように、細菌も澱粉などの糖質を分解してエネルギー源を得ています。当研究グループは以前、プレバイオティクスと報告されている乳酸菌EPSの一つである多分岐デキストランを資化するための遺伝子座(図1)を土壌細菌Flavobacterium johnsoniaeから見出し、その遺伝子座にコードされる糖結合タンパク質や糖質加水分解酵素の機能や立体構造を明らかにしました(Nakamura et al., J. Biol. Chem. 299, 104885, 2023)。その中で機能する糖質加水分解酵素の一つであるFjGH97Aは、多分岐デキストランを構成しているイソマルトオリゴ糖のα-1,6結合を最もよく加水分解しグルコースを生成する酵素(グルコデキストラナーゼ)として同定されました。FjGH97Aは、マルトオリゴ糖のα-1,4結合に最もよく作用する腸内細菌Bacteroides thetaiotaomicron由来酵素SusB(グルコアミラーゼ)とアミノ酸配列相同性が約70%と比較的高いにもかかわらず、基質特異性が異なる要因が明らかにされていませんでした。本研究では、FjGH97Aの基質特異性に重要な構造的要因を明らかにするために、立体構造解析と変異体解析を行いました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/96787/36/resize/d96787-36-b8a218369f58f685602a-0.png ]

図 1. 本研究の概略
(上側)本研究で明らかにしたイソマルトオリゴ糖分解酵素(FjGH97A)の立体構造とFjGH97Aがコードされる多分岐デキストラン資化遺伝子座。(下側)既に明らかになっているマルトオリゴ糖分解酵素SusBの立体構造とSusBがコードされる澱粉資化遺伝子座。



【研究の成果】
X線結晶構造解析の結果、FjGH97Aの生成物であるグルコース、または基質であるオリゴ糖との複合体構造を解明することに成功しました。全体構造は、SusBをはじめとする糖質加水分解酵素ファミリー97(GH97)に属する酵素と類似していることが分かりました(図1)。しかし、FjGH97AとSusBの活性部位を構成しているアミノ酸残基が2つのみ異なっていました。そこで、FjGH97Aの195番目のアラニンと378番目のイソロイシンをそれぞれ、SusB型のセリンとフェニルアラニンに置換した変異体を構築して活性を調べたところ、195番目のアラニンをセリンに置換した変異体は、α-1,6結合のイソマルトトリオースに対する活性が低下し、α-1,4結合のマルトトリオースに対する活性の方が高くなることが分かりました(図2)。
Flavobacterium johnsoniaeの多分岐デキストランを対象とする多糖資化遺伝子座(PUL)(*9)やBacteroides thetaiotaomicronの澱粉を対象とするPULに構造が類似したPULは他の腸内細菌を含む多くの細菌にも見つかっており、その中にはGH97に属する酵素遺伝子が含まれています。そこで、各PULに含まれるGH97酵素の中で、FjGH97Aの195番目のアラニンに相当するアミノ酸残基の種類を網羅的に調べたところ、多分岐デキストラン型のPULに含まれるGH97酵素は、アラニンが高く保存されており、澱粉型のPULに含まれるGH97酵素はセリンが高く保存されていることが分かりました(図3)。このように、基質特異性を決定づけるアミノ酸残基と推定されるPULの機能(対象とする多糖)に相関があることが分かりました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/96787/36/resize/d96787-36-69870affb4a0c77fdef7-1.png ]

図 2. FjGH97Aの野生型と変異体の活性
各酵素のイソマルトトリオースに対する活性を100%とした相対値で示している。


[画像3: https://prtimes.jp/i/96787/36/resize/d96787-36-95b9020ff345982664a8-2.png ]

図 3. 細菌のGH97酵素を含む多糖資化遺伝子座
(A) GH97酵素の分子系統樹。細菌種名の右側に、GH97酵素遺伝子がコードされる多糖資化遺伝子座の構造を模式的に表している。(B) FjGH97Aの195番目のアラニンを含む領域を構成するアミノ酸残基の保存性。アミノ酸の一文字表記のアルファベットの高さが保存性の高さを表している。


【今後の展望と波及効果】
現在、膨大な細菌ゲノムの塩基配列情報が蓄積されており、その中から見出された多くの遺伝子の機能はコードされているタンパク質のアミノ酸配列相同性に基づいて予測されます。糖質の代謝に広く関わっている糖質加水分解酵素も例外ではなく、既知酵素との配列相同性が高いものは機能(基質特異性)が同等であると予測されます。近年では細菌のPULを構成している酵素遺伝子の組み合わせにより、対象となる糖基質を予測するプログラムなどが開発されており、腸内細菌や環境中にいる細菌の糖質資化性について予測する試みがなされています。糖質加水分解酵素は、全体のアミノ酸配列相同性が概ね40~50%以上であれば、基質特異性が同じであることが多いですが、本研究ではGH97酵素においてアミノ酸配列相同性が約70%と高いにも関わらず、活性部位のたった1か所のアミノ酸残基の違いにより基質特異性が異なることを示しました。このことは、酵素の全体の配列相同性のみに基づく機能予測に加えて、特定のアミノ酸残基に着目した機能予測の重要性を示しており、機能予測プログラムの精度を向上させることに寄与すると考えられます。


【論文情報】
掲載誌名: FEBS Journal


論文タイトル: Structural insights into α-(1→6)-linkage preference of GH97 glucodextranase from Flavobacterium johnsoniae


著者: Shuntaro Nakamura, Rikuya Kurata, Takatsugu Miyazaki


DOI: 10.1111/febs.17139


【研究助成】
宮崎剛亜
日本学術振興会 科学研究助成事業 若手研究 (19K15748)
日本学術振興会 科学研究助成事業 基盤研究(C) (23K05039)

【用語説明】
1. プレバイオティクス
大腸内の特定の細菌の増殖を選択的に促進し、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分である。


2. イソマルトオリゴ糖
グルコースがα-1,6結合で結ばれてできたオリゴ糖。ビフィズス菌増殖効果があり、食品に利用されている。二糖はイソマルトース、三糖はイソマルトトリオースと呼ばれる。


3. 多分岐デキストラン
Leuconostoc属やStreptococcus属などの一部の乳酸菌は、グルコースがα-1,6結合で連なってできる多糖であるデキストランをバイオフィルムとして菌体外に作る。種によっては、α-1,2、α-1,3、α-1,4結合の枝分かれ構造を持つ多糖を作り、特に枝分かれの多いデキストランを多分岐デキストランと呼ぶ。Leuconostoc属の多分岐デキストランはプレバイオティクス効果が報告されている。


4. Flavobacterium johnsoniae(フラボバクテリウム・ジョンソニエ)
多糖の一つであるキチンを分解するグラム陰性細菌として土壌から見つかった。ゲノム解析が完了しており、さまざまな多糖を分解する能力や滑走運動する能力に注目した研究がされている。


5. 資化
微生物がある化合物を栄養源として利用すること。


6. Bacteroides thetaiotaomicron(バクテロイデス・テタイオタオミクロン)
グラム陰性腸内細菌であり、ゲノム解析が完了している。300に近い数の推定糖質分解酵素遺伝子を有しているため、糖質分解酵素研究のモデルとして用いられる。グラム陰性細菌の多糖資化遺伝子座(*9)の研究は本菌の澱粉資化機構に関する研究が始まりである。


7. マルトオリゴ糖
グルコースがα-1,4結合で結ばれてできたオリゴ糖。二糖はマルトース(麦芽糖)、三糖はマルトトリオースと呼ばれる。


8. X線結晶構造解析
タンパク質などの高分子の立体構造を決定するための手法の一つである。結晶にX線を照射して取得する回折パターンから電子密度情報が得られ、タンパク質の立体構造を原子レベルで解明することができる。


9. 多糖資化遺伝子座
多糖の捕捉、分解、取り込みに関与するタンパク質や転写制御因子をコードする遺伝子がクラスターを形成している構造を指し、オペロンとして発現が制御されている。

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