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脳に作用する画期的な過敏性腸症候群(IBS)治療薬開発に光 ~オピオイドδ受容体作動薬が脳の特定部位を介して過敏性腸症候群の症状を緩和~

PR TIMES / 2025年2月5日 10時0分



【研究の要旨とポイント】

抗ストレス作用をもつ新薬として期待されているオピオイドδ受容体作動薬が、過敏性腸症候群の治療薬としても有効である可能性が示されました。

オピオイドδ受容体作動薬は、内臓機能を調節している島皮質という脳の部位を介して、過敏性腸症候群の症状を緩和することが示唆されました。

この成果は過敏性腸症候群の治療薬開発のみならず、中枢神経系と腸の動きとの関連についても理解を深めることが期待されます。

【研究の概要】
東京理科大学 薬学部 薬学科の斎藤 顕宜教授、同大学大学院 薬学研究科 薬学専攻の吉岡 寿倫氏(博士課程3年)らの研究グループは、過敏性腸症候群(IBS)に対し、画期的なメカニズムで作用する新薬の可能性を明らかにしました。

過敏性腸症候群とは、腸の器質的な異常はないにもかかわらず、下痢や便秘、腹痛などの消化器症状を繰り返し呈する疾患です。世界の10人に1人が罹患していると推計されており、QOLにも深く関わることから、その対策は急務です。しかし、既存の過敏性腸症候群の治療薬は、下痢や便秘などの症状を抑える対症療法的な治療薬に限られるため、治療満足度が低く、根本的な治療薬が求められています。過敏性腸症候群の原因はまだ明確ではないものの、心理的ストレスが深く関わっていると考えられます。そのため、斎藤教授らは、抗ストレス作用をはじめとする情動調節作用を有する薬剤が有効ではないかと考えました。

本研究グループは、オピオイドδ受容体に作用する化合物が新たな向精神薬となる可能性とそのメカニズムを長く研究してきました(※1~3)。現在は新規の抗うつ薬としての臨床試験をおこなっています。この新薬候補化合物の画期的な特徴は、既存の薬に比べ即効性があり、副作用も少ない可能性があることです。

今回、本研究グループは、このオピオイドδ受容体が内臓機能を調節する脳の島皮質(*1)という部位に豊富に存在することに着目し、オピオイドδ受容体作動薬(*2)がIBSの治療薬として有効かを検討しました。

以前に本研究グループがおこなった実験により、情動的ストレスをうけたマウスが、特徴的な過敏性腸症候群の症状を示すことわかっているため(※4)、今回も同じモデルマウスを用いて実験をおこないました。その結果、オピオイドδ受容体作動薬の投与により、腸の状態が改善されました。

今回の研究では、根本的な治療が難しい過敏性腸症候群に、その原因である脳に直接はたらく薬を開発するという新しいアプローチでの治療の可能性を見いだしました。さらに、症状改善の背景にあるメカニズムを検討した結果、腸の異常の原因と脳の働きとの関係(脳腸相関)も示唆されました。

本研究成果は、2024年12月25日に国際学術誌「British Journal of Pharmacology」にオンライン先行公開されました。
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/102047/144/102047-144-fbab50b1a941ee685ba72a79546e0048-1386x788.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図. 本研究の概要。過敏性腸症候群(IBS)モデルマウスを用いた実験から、オピオイドδ受容体作動薬(DOP作動薬)が脳の島皮質における過剰なグルタミン酸神経伝達を制御することで、IBS様症状を改善することが示唆された。

【研究の背景】
過敏性腸症候群は、全世界の有病率が10%程度と非常に高く、ストレス関連疾患の代表的なものです。腸に器質的な異常がないにもかかわらず、下痢、便秘、腹痛、またはそれらが複合しておこることが特徴で、患者のQOLに深く影響しています。しかし、その原因やメカニズムは明らかになっておらず、治療薬は下痢止めや便秘薬、鎮痛薬など、対症療法に限られています。そのため、治療の満足度は低くなっており、対症療法ではない治療薬が求められています。

過敏性腸症候群は心理的なストレスにより腸の異常な動きが起こると考えられています。実際に過敏性腸症候群患者は、うつ病など、なんらかの精神疾患を併発していることが多いことがわかっています。

本研究グループは、既存薬とは異なるメカニズムを持つ向精神薬としてオピオイドδ受容体作動薬に着目し、研究を進めてきました。オピオイドδ受容体作動薬の特徴としては抗ストレス作用をもち、副作用が少ないことがあげられます。

また、オピオイドδ受容体作動薬が脳のどの部分に、どのように作用するのかの解明も進めています。以前にも分子メカニズムを明らかにし、既存薬では治療困難なうつ病患者にも一定の効果が期待できるという研究結果を発表しています。

今回、研究グループはオピオイドδ受容体が、脳の中枢神経系にある「島皮質」と呼ばれる部位に豊富にあることに着目しました。この部位は、脳の中でも内臓機能を調節する高次な中枢神経系であり、ここにオピオイドδ受容体作動薬が作用することで、対症療法ではない過敏性腸症候群の治療薬になるのではないかと考え、研究を行いました。

【研究結果の詳細】
慢性的な代理社会的敗北ストレス(cVSDS, *3)のモデルマウスを実験のために準備しました。他のマウスへの攻撃を目撃させるストレスを与えたマウスはうつ病のモデルとなります。

このマウスに墨液を経口投与し、その腸管の移動距離から腸のぜん動運動の程度を評価しました。また、少量のカプサイシンを直腸内に投与したときのマウスの反応から、腸管の痛覚過敏性を評価しました。腸管の痛覚過敏性は、過敏性腸症候群の症状である慢性的な腹痛の指標になります。さらに、脳の島皮質での細胞外のグルタミン酸も測定できるように準備しました。

下痢型の過敏性腸症候群となったマウスに、オピオイドδ受容体作動薬の薬剤を投与しました。投与は全身投与(皮下注射)、脳内への投与(脳室内投与)、島皮質への直接投与の3種類がおこなわれました。

オピオイドδ受容体作動薬の全身投与により、腸のぜん動運動の活発化は調整され、カプサイシン投与での腸管痛覚過敏に関連した行動も減少したことが確認されました。オピオイドδ受容体作動薬の脳内への投与や島皮質への直接投与でも、これと同じような結果が得られました。

過敏性腸症候群となったマウスの島皮質でのグルタミン酸濃度を測定したところ、ストレスが高くなると島皮質におけるグルタミン酸の伝達反応性は高まり、下痢の症状を引き起こし、オピオイドδ受容体作動薬を投与するとグルタミン酸の伝達は抑制され、下痢の症状はおさまりました。これらは、オピオイドδ受容体作動薬が島皮質での作用を通じて症状が緩和したことを示唆しています。

これにより脳の島皮質と腸のぜん動運動との関係(脳腸相関)に対するオピオイドδ受容体の関与も示唆されました。さらなる研究を通じて脳が内臓機能をどのように調節しているのか、詳細なメカニズムの解明にも期待が持たれます。

【今後の展望】
現在の過敏性腸症候群の治療は対症療法に限られることから患者の満足度が低いため、本研究の結果は将来の過敏性腸症候群の治療戦略にとって重要な意義を持っています。

今回の研究では、オピオイドδ受容体作動薬が、マウスにおけるストレス誘発性の過敏性腸症候群(下痢型)の症状を改善することを示しました。これらの結果から、オピオイドδ受容体は、過敏性腸症候群の新しい治療法の有望なターゲットであると考えられます。

また、心理的なストレス、身体的や社会的な痛み、内臓の機能制御、自律神経系などと関わりがある島皮質は、現在研究が進んでいますがまだ明らかでないことも多い部位です。今回の研究結果は、その詳細なメカニズムの解明にも寄与すると考えられます。

※ 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED-CREST) 革新的先端研究開発支援事業 (JP24gm1510008)の助成を受けて実施したものです。

【用語】
*1  島皮質
大脳皮質の部位。側頭葉と、前頭葉、頭頂葉に覆われ、外側葉と呼ばれる溝の奥にある。喜怒哀楽などの感情とそれに伴う身体の働きに深く関与している。

*2 作動薬
作動薬(または作用薬とも)。受容体(レセプター)に対して結合することで受容体を活性化させる。それにより、特定の生理作用をおこすことができる分子化合物のこと。

*3  代理社会的敗北ストレス
「社会的敗北ストレス」とは、他のマウスから攻撃を受け、負けたマウスが受けるストレスのこと。「代理社会的敗北ストレス」は、他のマウスが身体的攻撃を受けているさまを見せることで、与える心理的なストレスのこと。

【過去のプレスリリース】
※1 オピオイドδ受容体作動薬の即効性抗うつ作用の機序解明 ~臨床応用の実現に向け大きく前進~
※2 光遺伝学的手法によりオピオイドδ受容体を介した抗不安作用の作用機序を解明 ~新たな作用機序で既存薬抵抗性症例への効果も期待~
※3 オピオイドδ受容体作動薬KNT-127の作用機序を解明 ~抗うつ様作用に加え、抗ストレス作用を示す新たなうつ病治療薬の実現へ~
※4 マウスも精神的ストレスで過敏性腸症候群様の症状を示す ~過敏性腸症候群のモデル動物としての役割に期待~

【論文情報】
雑誌名:British Journal of Pharmacology
論文タイトル:Agonists of the opioid δ-receptor improve irritable bowel syndrome-like symptoms via the central nervous system
著者:Toshinori Yoshioka, Sayaka Kimiki, Mayuna Yamazaki, Takumi Hamano, Mizuki Ou, Yumi Ode, Rui Ehara, Keita Kajino, Satoka Kasai, Kazumi Yoshizawa, Tsuyoshi Saitoh, Daisuke Yamada, Hiroshi Nagase, Akiyoshi Saitoh
DOI:10.1111/bph.17428
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