厚さ1.6ナノメートルの炭化チタン膜がCO2光還元を促進 光由来の電子を高速でCO2に輸送
PR TIMES / 2024年2月20日 16時15分
千葉大学理学部4年の阿部一響氏、大学院融合理工学府博士前期課程1年の大弓知輝氏、博士前期課程2年(当時)の石井蓮音氏、博士後期課程3年の原慶輔氏、大学院理学研究院の泉康雄教授は、成都バイオガス科学研究所(中国)の張宏偉准教授と共同で、MXene(マキシン)と呼ばれて近年盛んに研究されている新たな2D材料「炭化チタン超薄層化合物Ti3C2Xy (X = O, OH, F, or Cl) (注1)」 を用いたCO2を光燃料化する光触媒(注2)について研究しました。その結果、Ti3C2Xyは電気を通す効果があり、複合した酸化ジルコニウム(ZrO2)に紫外可視光を照射することで生じた電子を高速に伝達し、CO2をCOに還元することが分かりました。
この結果により、Ti3C2Xy を初めとする新規金属炭化/窒化超薄層化合物を用いることで、効率が問題になっている光触媒の電荷分離(注3)効果を高め、持続可能なCO2光燃料化の実現につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年2月16日に、アメリカ化学会刊行のLangmuir誌にウェブ公開されました。
研究の背景
光エネルギーなどの持続可能なエネルギー源を基にして、CO2を燃料や有用な化学原料に変換できれば、新たなカーボン・ニュートラル・サイクルを形成することができ、CO2削減の有力なオプションとなります。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/809/resize/d15177-809-7b84c59b39443f653f11-0.png ]
光触媒を用いてCO2を燃料や有用な化学原料(CO, メタノール、酢酸等)に変換する研究が広く進められていますが、光由来で光触媒(半導体)内部に生じた電子とホール(電荷分離)を効率よくそれぞれCO2および還元剤(H2O, H2, アルコール等)にまで導く効率が問題になっています。この効率が悪ければ、持続可能エネルギーである光エネルギーによって生じた光触媒内の電子とホールが再結合して、消えてしまいます(電荷再結合)。
研究チームは、CO2光燃料化の研究を継続しており、これまでの成果でZrO2に有効性を見出してきました。(注4) 本研究では電荷再結合の問題を解決するために、電気を通しやすいことが示唆されているMXene Ti3C2Xyを、CO2光燃料化に有効性があると期待されているZrO2と組み合わせたときの光触媒反応について検討しました。
研究の成果
まず、合成したMXene Ti3C2Xyの構造を確かめました。すると、図1のようにTi層が3層、間に2層のC層がサンドイッチされた配位構造が示され、両側に主にFあるいはO原子が結合することで、超薄層を形成していることが分かりました。この1単位の層が3層重なり、厚みが1.6ナノメートル(注5) の層を成していました。一方、超薄膜は数100ナノメートルに広がっていました。
半導体であるZrO2はこのMXene Ti3C2Xy層上に5~10ナノメートルの大きさで粒子状に散りばめられていることが分かりました。このMXene Ti3C2Xy-ZrO2複合体に紫外可視光を照射するとCO2からCOが定常的に得られました。さらに光反応経路を確かめるために、炭素の同位体注6) である13Cを含む13CO2を反応させると、13COが得られました(図2(A))。
[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/809/resize/d15177-809-dc0d72c8b7891146ebcd-1.png ]
しかし、これはH2ガスを13CO2と一緒に光触媒に導入した場合で、H2O
ガス(水蒸気)を13CO2と一緒に光触
媒に導入した場合には、13Cが含まれる
還元生成物はほとんど得られず、12CH4
(メタン), H212CO(ホルムアルデヒ
ド), 12COが得られました(図2(B))。
すなわち、MXene Ti3C2XyがH2Oと光に
より部分的に分解したことを示しました。
今後の展望
以上のように、本研究により還元剤をH2とする、あるいは最初にH2Oを光で電気によりH2に分解してからという条件付きではありますが、ZrO2の電荷再結合の問題をMXene Ti3C2Xyの電気伝導性が解決することが示されました。半導体およびMXeneはZrO2およびTi3C2Xyに限定されないため、さらに高効率のCO2光燃料化/資源化触媒の開発につながることが期待されます。
用語解説
(注1)Ti3C2Xy:チタン3層、炭素2層、XはO, OH, F, もしくはClから成る層状化合物。
(注2) 光触媒:光を照射することにより触媒作用を示す物質。光触媒を基板上に塗布し、電極化したものを光触媒電極と言い、光電極とも呼ばれる。本研究では、CO2を還元する反応に光触媒を用いている。
(注3)電荷分離:光由来で光触媒(半導体)内部に生じた電子とホール(電荷)が空間的に分離された状態。
(注4) 詳細は以下を参照。
1.二酸化炭素(CO2)を光の力で燃料に再生!「CO2光燃料化」反応経路を初めて解明(2021年2月5日)
https://www.chiba-u.ac.jp/about/files/pdf/20210205co2.pdf
2.光触媒で CO2を燃料化する仕組みの謎を解明!~表面酸素欠陥とニッケルとの役割連携が鍵~(2023年1月27日)
https://www.chiba-u.ac.jp/about/files/pdf/20230127_1.pdf
(注5)1.6ナノメートル:0.000 000 0016メートルのこと。言い換えると、6億分の1メートル。
(注6)同位体:原子核に含まれる陽子の数で元素の種類が決まるが、陽子の数が同じで中性子の数が異なる原子同⼠のこと。
研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究B「合金ナノ粒子-超薄層半導体複合表面でのCO2光多電子還元と同位体標識種時分割追跡」(20H02834)の支援を受けて行われました。
論文情報
タイトル:Photocatalytic CO2 Reduction Using Ti3C2Xy (X = Oxo, OH, F, or Cl) MXene-ZrO2: Structure, Electron Transmission, and the Stability
著者:Hongwei Zhang, Ikki Abe, Tomoki Oyumi, Rento Ishii, Keisuke Hara, and Yasuo Izumi
雑誌名:Langmuir
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.3c03883
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