大阪大学とTIS、量子プログラムの変換・最適化ソフトウェア「Tranqu」を共同開発
PR TIMES / 2025年2月4日 16時45分
~新たなフレームワークでベンダーロックインを解消~
国立大学法人大阪大学 大学院基礎工学研究科(所在地:大阪府吹田市、総長:西尾 章治郎、以下:大阪大学)とTISインテックグループのTIS株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役社長:岡本 安史)は、量子プログラムを量子チップで実行できるように変換・最適化する処理(トランスパイラ)をユーザーが選択できるソフトウェア「Tranqu」(トランク)を開発したことを発表します。
これにより、ユーザーが特定の企業や研究機関(以下:ベンダー)に縛られずにトランスパイラを選択でき、より精度の高い実行結果を得られるようになります。(図1)
図1 ベンダーに縛られずにトランスパイラを選択できる
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/11650/1699/11650-1699-41e24044ba0236468835199c52a53135-603x337.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
本ソフトウェアは、大阪大学が中心となって開発している量子システム・ソフトウェア群「OQTOPUS」(オクトパス)のひとつであり、オープンソースとして公開しました。(https://github.com/oqtopus-team/tranqu)
■背景
量子コンピュータで計算を実行するには、人間が書いた量子プログラムを量子チップ用に翻訳する必要があります。この翻訳作業を行うソフトウェアをトランスパイラと呼び、次の2つの重要な役割を担っています。
1. 量子チップが理解できる基本命令や、量子チップ自体の形状に合わせた量子プログラムの変換
2. 量子プログラムの最適化(ノイズの影響を減らすため、プログラムをできるだけ小さくする)
現在、量子コンピュータのクラウドサービスを提供するベンダーは、専用のトランスパイラを提供しています。この場合、一度あるベンダーのサービスを選ぶと、実質的にそのベンダーが提供するトランスパイラしか使えなくなってしまいます。これは、次の理由によります。
1. 各ベンダーが独自の量子プログラム形式と量子チップの情報形式を使用している
2. 特に量子チップの情報について、異なるベンダー間での形式変換が難しい
結果として、ユーザーは1つのベンダーのサービスに縛られてしまいます。これをベンダー・ロックインと呼びます。(図2)
図2 トランスパイラのベンダー・ロックイン
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/11650/1699/11650-1699-c2e5845be43ffe900f88d1e9d07a2e24-604x286.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
このベンダー・ロックインには重大な問題があります。なぜなら、量子プログラムの性能は量子プログラム自体とトランスパイラの組み合わせによって大きく変わるため、常に1つのトランスパイラが最適とは限らないからです。実際、実行結果が理想値と大きく乖離していたため調査を行ったところ、トランスパイラによって精度の低い量子ビットが利用されるよう変換されていたケースが確認されました。このケースでは別のトランスパイラを試した結果、精度の高い量子ビットを利用できることが判明しましたが、そのトランスパイラは簡単には量子クラウドで利用できないものでした。このことから、ユーザーが目的に応じて最適なトランスパイラを自由に選べることが理想的です。
そこで本研究開発では、Python言語を利用し、このベンダー・ロックインの問題を解決する新しいフレームワーク「Tranqu」を開発しました。大阪大学はベンダーから独立した研究機関であるため、特定のベンダーに依存せず、柔軟で中立的なフレームワークを実現できました。
■研究開発内容
「Tranqu」は、複数の量子プログラミング環境に対応し、効率的なトランスパイル※1処理を実現する統合的なフレームワークとして機能します。入力された量子プログラムを目的の形式に変換し、適切なトランスパイラで処理する一連の流れを自動化します。(図3)
図3 「Tranqu」がトランスパイラを実行する流れ
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/11650/1699/11650-1699-39f31c99492660a3149a9c22ad13d9e9-604x296.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
※1 「トランスパイラ」の動詞活用
1. 入力フェーズ(ユーザー): ユーザーは普段使い慣れた量子プログラミング環境で量子プログラムと量子チップ情報を記述
2. 形式変換フェーズ(Tranqu): ユーザーが選択したトランスパイラが受け入れ可能な形式に量子プログラムと量子チップ情報の両方を自動変換
3. トランスパイル実行フェーズ(Tranqu): 変換された量子プログラムと量子チップ情報を元に、トランスパイラを実行し量子プログラムを変換・最適化
4. 出力フェーズ(Tranqu): トランスパイルされた量子プログラムとともに、トランスパイル前後の回路の大きさの変化といった重要な指標をユーザーに提供
「Tranqu」はフレームワークとして設計しており、次のような拡張も可能です。このアーキテクチャにより、ユーザーは単一のインタフェースを通じて、複数のトランスパイラを効率的に活用できます。
l 研究者による独自トランスパイラの組み込み
l 新しい量子プログラム形式への対応
l 異なる量子チップアーキテクチャへの適応
■研究開発成果と今後について
本研究開発により、ユーザーが特定のベンダーに縛られずにトランスパイラを選択できるようになり、より精度の高い実行結果を得られるようになります。また、「Tranqu」はフレームワークとして開発しているため、研究者が独自に開発したトランスパイラを「Tranqu」から呼び出せます。これらにより、量子コンピュータ・クラウドサービスを利用した研究の加速が期待されます。
今後は、利用可能なトランスパイラ、変換可能な量子プログラムと量子チップ情報の形式のサポート対象を拡大していく予定です。また、大阪大学が運用している量子クラウド※2でも、「Tranqu」を利用できるようにする予定です。これにより、複数のベンダーからトランスパイラを選択できる量子クラウドになります。
※2 大阪大学に設置された超伝導量子コンピュータ国産3号機のクラウドサービス(2023年12月23日運用開始)
研究者が遠隔地から量子アルゴリズムを実行したり、ソフトウェアの改良・動作確認をしたり、ユースケースを探索したりすることが可能になった。
https://qiqb.osaka-u.ac.jp/20231220pr/
■大阪大学 束野特任研究員(常勤)のコメント
現在の量子コンピュータはノイズが多く、量子プログラムや量子チップに最適なトランスパイラ(およびそのパラメータ)を選ぶことが重要です。大阪大学で運用している量子クラウドには自動トランスパイル機能がありますが、利用できるトランスパイラは1種類のみです。そこで、複数のトランスパイラを活用できるようにするため、「Tranqu」を開発しました。
「Tranqu」は大阪大学の量子クラウドに導入予定です。ユーザーが自由にトランスパイラを選択し、量子コンピュータのポテンシャルを最大限に引き出せるようにします。
■TIS株式会社 テクニカルエキスパート 高宮安仁のコメント
量子コンピューティングの実用化に向けて、ハードウェアの進化と同様にソフトウェア基盤の整備が重要な課題となっています。「Tranqu」は、量子プログラムの変換における柔軟性を高め、研究者や開発者がより自由に量子アルゴリズムを探求できる環境を提供します。本フレームワークを通じて、量子コンピューティングの実用化に向けた技術革新を加速できると期待しています。
■特記事項
本研究開発は、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点(研究代表者:北川勝浩)Grant No.JPMJPF2014」、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「先進的量子技術基盤の社会課題への応用促進」(研究推進法人:量子科学技術研究開発機構)の研究チームの一つ「国産量子コンピュータによるテストベッドの利用環境整備と運用(研究開発責任者:萬伸一)」によって実施されました。
<共同研究グループ>
国立大学法人大阪大学
大学院基礎工学研究科 (量子情報・量子生命研究センター 兼任)
教授 藤井 啓祐
国立大学法人大阪大学
量子情報・量子生命研究センター
特任研究員(常勤) 桝本尚之
特任研究員(常勤) 宮地孝輔
特任研究員(常勤) 宮永祟史
特任研究員(常勤) 森 俊夫
特任研究員(常勤) 束野仁政
TIS株式会社
テクノロジー&イノベーション本部 戦略技術センター
テクニカルエキスパート 高宮 安仁
テクニカルエキスパート 笹田 啓太
TIS株式会社について(https://www.tis.co.jp/)
TISインテックグループのTISは、金融、産業、公共、流通サービス分野など多様な業種3,000社以上のビジネスパートナーとして、お客さまのあらゆる経営課題に向き合い、「成長戦略を支えるためのIT」を提供しています。50年以上にわたり培ってきた業界知識やIT構築力で、日本・ASEAN地域の社会・お客さまと共創するITサービスを提供し、豊かな社会の実現を目指しています。
TISインテックグループについて
TISインテックグループは、国内外グループ2万人を超える社員が『ITで、社会の願い叶えよう。』を合言葉に、「金融包摂」「都市集中・地方衰退」「低・脱炭素化」「健康問題」を中心としたさまざまな社会課題の解決に向けてITサービスを提供しています。デジタル技術を駆使したムーバーとして新たな価値を創造し、人々の幸せと持続可能な豊かな社会の実現に貢献します。
※ 記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。
※ 記載されている情報は、発表日現在のものです。最新の情報とは異なる場合がありますのでご了承ください。
◆本件に関するお問い合わせ先
大阪大学量子情報・量子生命研究センター
特任研究員(常勤) 束野 仁政(つかの さとゆき)
Tel: 06-6850-8452
E-mail: tsukano.satoyuki.qiqb@osaka-u.ac.jp
https://qiqb.osaka-u.ac.jp/
TIS株式会社 テクノロジー&イノベーション本部
開発基盤センター 高宮 安仁
E-mail: qni@ml.tis.co.jp
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