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グリズリーズの戦いを見届けよ〜グリズリーズファンから見たプレイイン・ゲームズ〜【大柴壮平コラム vol.46】

NBA Rakuten / 2020年8月15日 11時15分

8月8日に八村のウィザーズとザイオンのペリカンズが対戦。2チームの特徴と試合の見どころをピックアップ


熾烈を極めたウェストのプレイイン・ゲームズ出場争いが終わった。8位通過で1勝分のアドバンテージを手に入れたのは、ポートランド・トレイルブレイザーズ。対するはブレイザーズに3.5ゲーム差をひっくり返されたものの、なんとか粘って9位に滑り込んだメンフィス・グリズリーズだ。贔屓のグリズリーズがプレイイン・ゲームズに出場できるのは嬉しいが、絶好調のデイミアン・リラードを擁するブレイザーズから2連勝をもぎとるのは容易ではない。そこで今週の当コラムは、グリズリーズが勝利する条件について思案してみることにした。


リーグ屈指のオフェンスを誇るブレイザーズの弱点とは


ブレイザーズは100ポゼッション当たりの得点を示すオフェンシブ・レーティングが113.2でリーグ3位だが、100ポゼッション当たりの失点を示すディフェンシブ・レーティングは114.3でリーグ27位というオフェンス偏向型のチームだ。一方、グリズリーズのオフェンシブ・レーティングは108.7でリーグ21位、ディフェンシブ・レーティングは109.7でリーグ15位とディフェンスは並だが、オフェンスは平均以下のチームであることがわかる。

おそらくブレイザーズが誇るリーグ屈指のオフェンスを止めるのは至難の業だが、リーグ最弱クラスのディフェンスにはつけ込む隙があるはずだ。そこで、ブレイザーズのディフェンスの弱点を細かく見てみよう。まず目立つのは、3ポイントラインの守備に難があるという点だ。ブレイザーズが対戦相手に許している3ポイントは、リーグ26位の平均35.4本、しかもリーグ29位の平均38.9%という高確率で決められている。

また、ガベージタイムの数字を除いたスタッツを提供するサイト『Cleaning The Glass』によれば、ブレイザーズはトランジション・ディフェンスも苦手としている。ブレイザーズがスティールされたあとに相手のトランジション・オフェンスを許す確率は71.0%で、リーグワーストだ。また、相手がディフェンシブリバウンドを取ってからトランジションオフェンスを展開した場合、100ポゼッションで123.1失点する計算で、こちらはリーグ28位である。



個人にフォーカスすると、コートにいる時間帯にディフェンシブ・レーティングを悪化させているのがユスフ・ヌルキッチ(+10.2)、マリオ・へゾニャ(+3.3)、ギャリー・トレントJr.(+2.9)、ザック・コリンズ(+2.4)、デイミアン・リラード(+1.1)の5人。意外なのはリラードで、小柄な上にオフェンスで大きな負担を背負っている割にはレーティングがそこまで悪くない。グリズリーズとしてはディフェンスでもリラードに負荷をかけたいところだが、得点に結びつかないようなら固執するのは危険かも知れない。


プレイイン・ゲームズにおけるポイント


3ポイントラインが守れない、トランジションオフェンスに弱い、インサイドのスターター2枚のレーティングが悪いという点を繋げば、ビッグマンがいわゆる「ペース&スペース」型のオフェンスを相手に苦戦している様が浮かんでくる。ヌルキッチとコリンズの走力が問題なのか判断力が問題なのかはわからないが、トランジションでもハーフコートでも彼らをより走らせる、より外に引っ張り出すようにプレイすることがグリズリーズのミッションとなるだろう。

リーグ6位の早いペースで試合をするグリズリーズにとって重視すべきは、トランジションでの得点を増やすことだ。『Cleaning The Glass』によれば、グリズリーズがトランジションオフェンスを展開する率は16.9%でリーグ3位。走ることには慣れている。そこで鍵となるのはトランジションオフェンスの始まりになるスティールとディフェンシブリバウンドを増やすことだが、スティールは狙って増やせるものではない。普段よりどれだけきっちりディフェンシブリバウンドを取れるか。そして素早くアウトレットパスを出し、走ることができるか。フロントコート頼みではなく全員で頑張る意識を持つことで、1点でも多くトランジションから得点してほしい。

ジャレン・ジャクソンJr.の故障による戦列離脱以降、グリズリーズはハーフコートでオフェンスを作ることに苦戦していた。ところが、シーティングゲーム最後のミルウォーキー・バックス戦ではシーズン再開後最多となる36のチームアシストを記録し、明るい兆しが見えた。変更点はオールドスクールなセンターのヨナス・バランチュナスを得意なローポストから3ポイントラインに移動させ、外でスクリーンやハンドオフをさせる機会を増やしたことだ。おそらくプレイメイカー不足を補うのための苦肉の策だったはずだが、結果的にこれが奏功した。この作戦はヌルキッチとコリンズを外に引きずり出すというミッションにも合致しているので、是非プレイイン・ゲームズでも続けてもらいたいと思っている。



こう書き連ねているとなんだか勝てそうな気がしてくるが、もちろん実際はそんなに簡単な話ではない。ブレイザーズの弱点であるディフェンスを攻略するというのは勝つために最低限必要なことだ。その上でブレイザーズのオフェンスをある程度抑えなければ勝利を手にすることはできない。しかし、残念なことにブレイザーズのオフェンスに大きな穴はないように見える。おそらくリラードのディフェンスを任されるであろうディロン・ブルックスがファウルをせず根気強く守り続けること、そしてチーム全体でディフェンシブリバウンドをきっちり取ること。この2つを根気強く徹底した上で勝利が転がり込んでくることを期待したい。


グリズリーズファンが望むこと


グリズリーズファンとしての私の願いは、チームが1試合でも多く試合をすることだ。そんなの当たり前だとお叱りを受けそうだが、私は真剣である。プレイイン・ゲームズで敗退するにしても、初戦に敗れるより2戦目で敗けた方がいい。2戦までもつれればプレイオフの擬似体験ができるからだ。

プレイオフで得られる経験は2つあると私は思う。1つはトップ選手の本気のディフェンスを相手に試合ができること。そしてもう1つは、同じチームと連戦することにより、アジャストメントが発生することである。例えばシーディングゲームの最終戦、バランチュナスがいつもより外でプレイすることでオフェンスがよく回り、グリズリーズはバックスに勝利した。これがプレイオフなら次の試合でバックスはなんらかの対策を打ってくるだろう。それに対し、グリズリーズはさらなるアジャストをしなければならない。通常のプレイオフよりは短いが、プレイイン・ゲームズを2戦まで戦い抜くことには価値があると私は思う。

ここから数年間、グリズリーズはモラントとジャレンを軸にチームを構築していく。プレイイン・ゲームズにジャレンがいないのは残念だが、その分までモラントにはしっかり経験を積んでほしい。そして、この機会を十分に活用してもらいたい人物がもう1人いる。ヘッドコーチのテイラー・ジェンキンズだ。ジェンキンズHCは、今シーズンはリビルドと言われていたグリズリーズをプレイイン・ゲームズまで連れていった。最終候補にこそ残らなかったが、新米監督ながら最優秀コーチ賞に推す声も聞こえたほどの素晴らしい仕事ぶりだった。しかし、シーズンとプレイオフが別物なのは、選手だけではなくコーチも同じ。期待しているだけに、彼にもできるだけ長くバブルに残って、その経験を今後に繋げてほしいと願っている。



日本時間8月16日、グリズリーズにとっては敗ければ終わりのプレイイン・ゲームズが始まる。グリズリーズファンの私としては見逃すことはできないが、初戦の時間はなんと早朝3時半。ただでさえ朝が弱い私は、果たしてそんな時間に起きられるのだろうか。戦いは、試合前から始まっている。


大柴壮平:ロングインタビュー中心のバスケ本シリーズ『ダブドリ』の編集長。『ダブドリ』にアリーナ周りのディープスポットを探すコラム『ダブドリ探検隊』を連載する他、『スポーツナビ』や『FLY MAGAZINE』でも執筆している。YouTube『Basketball Diner』、ポッドキャスト『Mark Tonight NTR』に出演中。




(C)2020 NBA Entertainment/Getty Images. All Rights Reserved.

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