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J1でも首位堅守、躍進続ける町田。『ラスボス』が講じた黒田ゼルビアの倒し方とは?

REAL SPORTS / 2024年4月12日 2時1分

FC町田ゼルビア/FC Machida Zelvia team group (Zelvia), FEBRUARY 24, 2024 - Football / Soccer : 2024 J1 League match between FC Machida Zelvia 1-1 Gamba Osaka at Machida Gion Stadium, Tokyo, Japan. (Photo by Naoki Nishimura/AFLO SPORT)

戦前の大方の予想に反して、第7節を終えた時点でFC町田ゼルビアが首位に立つJ1リーグ。町田はここまで5勝1敗1分とJ1初昇格チームとは思えない堂々の戦いぶりを見せている。黒田剛監督が就任した昨季も今季同様の戦い方で、一度も連敗を許さずJ2優勝を成し遂げた町田。ではその町田に勝った、あるいは負けなかったチームはどのような戦い方で黒田ゼルビアを攻略したのだろう?

(文=鈴木康浩、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

黒田剛監督が率いる町田が勝てなかったJ2の地方クラブ

昨季、J1昇格目前だったFC町田ゼルビアのサポーターが『ラスボス』と恐れていたチームがある。あのチームに勝たずしてJ1に昇格するのは心残りだ、というニュアンスだ。

あのチームとは、J2の地方クラブの一つ、栃木SCを指す。意外に思うかもしれないが、昨季、黒田剛監督が率いる町田は栃木に1分1敗、勝てないままJ1に昇格することになった。

ちなみに、町田は栃木に対して通算成績で1勝6分8敗。純粋な市民クラブ同士だった頃から町田は栃木に勝てなかった。そして、現在J1で旋風を巻き起こす黒田ゼルビアも栃木に勝てなかった。

運や相性の良さもあっただろう。昨季のJ2で2度対戦したときの試合内容を注視すれば、栃木は町田のエリキやミッチェル・デュークといった圧倒的な質には大いに苦しめられている。エリキにはゴールを決められ、デュークには高さと強さで散々起点を作られた。『ラスボス』といった表現に相応しい強さが栃木にあったわけではないが、しかし、町田に勝たせなかった。 それを成し遂げられたのは、栃木が講じた町田対策、そして栃木のチームスタイルが関係しているように思う。

町田を倒すために効果的な2つ戦い方

現在、J1でも首位をひた走る町田を倒すためには以下の2つの戦い方が効果的だ。

・同じ土俵で戦う
・圧倒的な質で上回る

昨季、町田はJ2で7敗した。そのうち3敗は、町田とは資金力で大きな差がある地方クラブの栃木、ブラウブリッツ秋田、いわきFCに喫している。

この3チームの戦い方は共通していた。「同じ土俵」に乗って徹底して戦ったのだ。「同じ土俵」とは何か。町田の特徴であるロングボール攻勢、セカンドボール争いなど局面のバトルで負けない、その舞台に真っ向勝負で挑むことを意味する。

栃木も、秋田も、いわきも、日頃から町田と「同じ土俵」で戦えるだけの強度を大事にしてきたチームであり、そして「同じ土俵」で五分以上に渡り合った結果、勝ちをつかんだ。

町田の強みにつながる特徴を箇条書きすれば、

・ロングボール攻勢
・縦一本で背後を陥れる攻撃
・強度の高いプレッシングからのショートカウンター
・デザインされたコーナーキック
・ロングスロー攻勢
・相手のバックパスが大好物

といったことが挙げられる。

町田と「同じ土俵」に立ったとき、ロングボールやセカンドボールの局面バトルで後手を踏んでしまうと、そのまま押し込まれてロングスローやコーナーキックの攻勢に晒され、だいたいのチームはそこで押し切られる。

逆にいえば、局面バトルで後手を踏まなければ、町田の強みをある程度消すことができる。

この原稿をどう書こうか思案していたとき、J1で連勝中だった町田をサンフレッチェ広島がついに破った。試合を見たが、広島は「同じ土俵」で真っ向勝負し、町田の強みを消した。広島の得点シーンはバトルで上回った直後の速い攻撃からだった。広島も「同じ土俵」で戦えるだけの強度を日頃から大事にしているチームだが、その上で、ビルドアップの質でも町田のプレッシングを上回っていたのだから、さすがだ。

町田と同じ土俵で強度高く戦い、さらに、圧倒的な質でも上回ることができたからこそ、雨が降りしきる悪条件のなかで広島は今季無敗の町田に初黒星をつけたのだ。

センターバック勢がヘディングで弾き返すエリアまで細かく設定

昨季、栃木は町田と対戦したときに相手のロングボールに対してセンターバック勢がヘディングで弾き返すエリアまで細かく設定していた。

町田はボランチや両サイドハーフがセカンドボールに目を光らせ、そこで拾って前向きに押し込んでくるため、栃木は町田に前向きな勢いを出させないために相手ロングボールを弾き返すときの位置を意識的にずらしていたのだ。

一方、昨季の栃木は通常は1トップで戦っていたが、町田戦では矢野貴章や宮崎鴻といった空中戦にすこぶる強い選手たちを2トップ気味に配置し、自分たちが入れるロングボールに対して相手センターバック勢が容易に弾き返せないようにしていた。

そのときに生じるセカンドボールに対して栃木のボランチ勢は前向きに勢いを出し、対する町田のボランチ勢は自分たちの背後に落ちるセカンドボール奪取のために労力を割かねばならず、「ボランチがなかなか前に出ていけなかった。そうなると自分たちの2トップも前線で孤立してしまった」(町田・黒田剛監督)という状況を作り出した。町田のボランチ勢の後ろ髪を引っ張り、前向きな勢いを出させないように仕向けたのだ。

また、前述した町田の強みの一つである「強度の高いプレッシングからのショートカウンター」を出させないためにも、栃木が「同じ土俵」に乗って、同じようにロングボール攻勢を徹底することも有効だった。栃木が後ろでつながずにボールを上空に行き交わせている以上、町田はプレッシングから栃木ボールを絡め取りようがないので、ショートカウンターを放てない。

もっとも、栃木は広島のように後ろからつないでビルドアップしていけるほどクオリティを備えておらず、それを選択する道はなかった。これは秋田も同様だった。

そして、これは町田も同様の事情を抱えていた。黒田監督が自ら各方面で発信されているが、町田はボールを保持することを優先せず、自陣でボールを失うような過大なリスクを負おうとしていない。

であれば、町田にボールを持たせることも有効なはずだ。ただし、意図的に相手にボールを持たせることには当然デメリットも付随する。

昨季、栃木が1対0で勝利した2回目の対戦で、栃木は町田にボールを持たせるように仕向けるべく、プレッシングの位置を下げて戦っている。以下は当時の時崎悠監督(現FC東京コーチ)の振り返りだ。

「できればもっと前からプレッシャーを掛けたかったのですが、町田さんがボールを持って勝利しているデータがそれほどないので、相手にボールを持たせておくことも一つの策でした。ただ、選手たちに『持たせていいよ』と伝えてしまうと後ろに重たくなってしまうので、そこは強調せず、ベンチワークとしてコントロールすることをスタッフ間で共有していました。ただ、そうはいってもピンチは作られたし、町田さんは質の高いボールを入れてくる選手が多いですから、結果的に無失点に終わったと思いますが、押し返すというところでいえば、もっと激しくプレッシャーにいく必要はあったと思います」

“町田キラー”宮崎鴻の存在

ここまで書いてきたことを実行することで、栃木は町田の強みをある程度消すことに成功した。

ただし、自分たちでゴールを奪わなければ勝利をつかみ取ることはできない。栃木は町田と同じようにロングスロー、リスタート、クロスボールからゴールを狙うことを基本線としながら、昨季の2度の対戦で1点ずつを奪った。いずれもサイドからのクロスボールが起点だった。

栃木は2トップに高さと強さがある選手を起用し、かつ、町田の4-4-2のコンパクトな守備陣形に対して3バックのウイングバックを持つため町田に対して幅を取りやすいという優位性があり、それらを徹底的に生かした。

昨季の2回目の対戦でクロスボールからアシストをした右センターバックの福島隼斗はこう振り返っている。

「うちには前線に高くて強い選手がいるので、どんどんクロスを上げていこうという共有はありましたが、前半は3バックから直接フィードを入れるようなボールばかりで、相手も対応しやすかったと思います。もっと相手が嫌がるボールを徹底しようとなり、相手がボールと自分のマークを首を振って見ないといけない状況になるように、クロスボールを入れるときに角度をつけていこう、とハーフタイムに修正しました」

角度がつけられたクロスボールに対して、町田のゴール前で強さを発揮したのが、“町田キラー”として恐れられた宮崎鴻だった。

宮崎は町田の当時のセンターバック勢が「ボールウォッチャーになりやすい」と見ていた。1回目の対戦ではクロスボールに頭を合わせて町田のゴールネットを揺らしている。相手のセンターバック2枚の間に立ち位置を取り、右からのクロスボールに対して手前のセンターバックがボールに対して被るようにFWとしてのテクニックを駆使し、センターバック2枚の間で競り勝ち、頭を合わせて決め切った。

町田の黒田監督が「(栃木に与えたチャンスの)1本中の1本」と悔やんだ1本。宮崎は「イン巻きのクロスボールでしたが、あれは自分の得意な形。普段の練習どおりの形が出せたと思います」と胸を張った。

宮崎は、2回目の対戦では右からのクロスボールを町田のゴール前で収め、背中から来るセンターバックをブロックし、入れ替わるようにペナルティエリア内に侵入してクロス、この一連の流れから相手センターバックのオウンゴールを誘った。宮崎が振り返る。

「町田のプレスはボールを奪いに行くというより、まず人にタイトに行くという印象だったので、その1枚をやっつければどうにかできる、という感覚はずっとありました」

宮崎は相手センターバックが後ろから激しくアタックに来たところでバランスを崩さない強さがあるFWだ。町田戦ではタイトに来た相手センターバックを背中で弾き返し、中央で何度も起点を作り、栃木が前進するシーンを演出するキーマンになっていた。昨季の2回の対戦で2ゴールに絡んだことも含め、宮崎が“町田キラー”と呼ばれるゆえんだ。

なお、町田のロングスローによる得点は…

こう書いていくと昨季は2戦とも栃木が町田に快勝したような流れに見えるが、そんなことはなく、ビハインドを負った町田の猛攻をしっかりと受けつつ、1戦目は1-1、2戦目は1-0でなんとかしのいでいる。

1回目の対戦では1-0でリードした状態から猛攻を受けて、試合終盤にエリキの個の突破にやられてしまったが、そういう流れにしてしまったきっかけがある。

一つは、オーストラリア代表として遠征から戻ったばかりでベンチに温存されていた186センチの大型FWミッチェル・デュークが後半に登場し、ロングボール攻勢から力づくで起点を作られてラインを下げられたこと。

もう一つは、町田の強みの一つである「相手のバックパスが大好物」なのに対して、不注意にもバックパスをしてしまい、流れを与えてしまったことだ。1回目の対戦のあとに時崎監督(当時)が振り返っている。

「72分に攻撃できるシーンがあったにかかわらず、バックパスをしてしまい、GKまで戻したボールをエリキ選手に引っ掛けられたシーンがあり、そこから流れが変わったと思います。前半はあのようなシーンでどんどん背後へ走って、すかさずサポートして、ボールを回収して、相手を揺さぶって、ということができていました。ただ、あのシーンは意図のないバックパスから町田さんに押し返されて、GKが蹴るボールも相手に当ててしまった。ああいう後ろ向きのプレーによって流れが大きく傾くんです」

町田は相手のバックパスを合図にプレッシングのスイッチを発動することを徹底しているチームだ。昨季はエリキが負傷離脱するまで、彼が得点を量産するのみならず、相手のビルドアップ時のバックパスに対してスプリントで相手を二度追い、三度追いしてプレッシャーをかけ、相手を後ろ向きにさせるきっかけを作り出せていた。町田の狙いを忠実に体現できる、献身的なFWだった。

町田は、相手の“後ろ向きのプレー”に付け込んで陣地を回復し、押し込みながらロングスローやコーナーキックを獲得し、それらのリスタート攻勢にもしっかり時間をかけながら“自分たちの時間だ”と言わんばかりの演出をしてくるので、その時間や空間に焦れてもいけない。

なお、町田のロングスローによる得点は一つ目の到達点よりも二つ目、二次攻撃からのゴールが圧倒的に多いので、ここにも注意を払う必要がある。栃木はチームとして「一つ目のボールに競る相手を前後から挟み込むことと、ボールを弾いたあとの相手の二次攻撃でもマークをしっかりと離さずに見続けること」(栃木の選手談)を徹底していた。

町田に勝つため、少なくとも負けないためには…

昨季の栃木は前述したようなことを攻守に徹底することで町田に勝つ可能性を高めることができた。

町田に勝つため、少なくとも負けないためには、前向きに、強い気持ちで、気持ちを切らさず90分間戦い続ける必要がある。

それぞれのチームは自分たちのスタイルや哲学で町田に応戦しようとするが、栃木にとっては自分たちのスタイルや哲学が町田と相性が良かったということは言えるかもしれない。

その意味でいえば、J1では広島やヴィッセル神戸、アビスパ福岡あたりが、町田としては組み難い相手なのではないかと想像する。町田の快進撃を楽しませてもらいつつ、どのチームが町田を倒すのかにも注目したい。

<了>

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